魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

14 試験開始

 ロイド達が慌てて四等級試験の申し込みをして2日後。
 講義の選択をあと3日と控えてのその日に、四等級試験は行われる。

 生徒達にとって、四等級試験を合格出来ないまでもこの試験を体験し、合格に必要と思う講義を選ぶ為の判断材料としても活用されていた。
 合格する気しかなかったフィンクにはそんな考えはなかったので、ロイド達は知る由もなかったのだが、そう考えて参加する生徒は多い。

 その為、試験の説明が行われる校庭には多くの生徒が集まっていた。
 
 学生が集まれば集まるだけ私語が増えるのは仕方ない事だろう。
 それ故にざわめきが騒がしいと言える程の校庭に、それを打ち破るかのような鐘の音が鳴り響いた。

「――時間だ。今居ない者は不参加とする。では試験の説明をするぞ」

 壇上に立っていた教師が鐘の音を持って静かになった校庭に声を響かせる。
 一気に緊張した面持ちとなる生徒達に、教師は説明をしていく。

「四等級試験は王都外れにある森、『スァース大森林』でゴブリンを狩ってきてもらう」

 その説明に、にわかに生徒達がざわめき立つ。
 ウィーン学園という最高峰の学園の進級試験としては簡単すぎると言っても良い内容に、生徒達は拍子抜けと安堵の表情を浮かべていった。
 教師はそれに構わず説明を続ける。
 
「これは冒険者ギルドからの依頼でもある。繁殖力の高いゴブリンは定期的に間引きしないといけない。それを毎年生徒達に任せてくれているのだ」

 つまり遊びじゃないって事か、とロイドは説明をする教師を眺めつつ内心で呟く。
 学園が冒険者ギルドと提携しているのは少し意外だったが、少なくともこれは授業ではなくちゃんとした”仕事”だと言う事だろう。
 そしてそれは、

「つまり、ゴブリンに負ければ死ぬ。これは念頭に置いておけ」

 何人かの生徒が息を飲むのが分かる。
 ロイドは王都に住む子供達がどういった暮らしをしているかは知らないが、命が脅かされる状況に立つ子供が多いとは思えない。

 であれば、この試験が初の『殺し合い』という生徒も多いと言う事になる。

「一応監督の教師もいるが、これはあくまで取りこぼしたゴブリンを始末する為だ。つまり君達の助けというより、仕事の達成の助けを目的とした同行になる」

 それを聞いてついに生徒達からざわめきが消えた。
 一様に壇上の教師に目を向け、言葉を忘れたかのようにただじっと教師を見ている。

「これは優しさで言うが……今回はあくまでゴブリンの討伐が目的だが、スァース大森林には他にも魔物がいる。そして当然だが、丁寧にゴブリンばかりが入り口付近に集まっている訳ではない」

 つまりゴブリンを討伐しに行って他の魔物と出会す可能性もあると言う事。
 それを察した生徒達に緊張が走る。

「さて、話が逸れたが、目的はゴブリンの討伐。1人2体以上は討伐するように。証拠は角を根本から持ち帰る事とする」

 これは余談だが、ゴブリンの角は頭蓋骨と繋がっており、それを根本から取れば頭蓋骨に穴が空くという事だ。つまり死ぬ。

「完了報告は明日の夜、帰宅の鐘が鳴るまでだ。職員室に角を2本以上持ってくるように。分かったか?」
「「「はいっ!」」」

 最終確認の言葉に生徒達が返事をする。
 予想以上に統一感のある返事に、返事をしそびれたロイドはビクッとしていたが。

「では向かいなさい!なお危険と判断して不参加とするなら、今から30分ほど私がこの校庭に残るので私まで言いにくるように!実力や覚悟が無い事を認めるのも勇気だからな」

 その教師の解散の言葉をもって生徒達はにわかに動き始めた。
 腕に自信があるのかまっすぐ森の方に向かう者、準備の為か森とは違う方に歩く者、その場で考えるかのように足を止める者など、様々な動きをする中で。

「よーし、それじゃ行くかー」
「そうね。野宿は嫌だからさっさと行って帰るわよ」

 ロイドとエミリーは真っ直ぐ森へ向かう流れの中に居た。
 すでに多くの生徒達が先に森へと走っていく中、のんびりと歩く2人。
 
 それをクレアとラピスが追い掛けて引き止める。

「ちょっと先輩、ご飯くらい買っていきましょうよ!」
「あれ?クレア朝飯まだなん?」
「いや食べましたけど、昼ごはんはいるんじゃないですか?」
「そうだよぉ。お腹すいちゃうよ?」

 完全にピクニックのノリで話すクレアとラピスである。

「いやそれまでには済まそっかなーと」
「そうね。なんなら私がご飯作って待っててあげるわよ?」
「んん?なんかそれ俺より早く終わらせるって感じに聞こえるんだけど?」
「あら?そう言ったのよ?」
「ははっ、なるほどなるほど?しゃーない、たまには偉大なお姉様にご飯を作って……ついでに風呂でも炊いてお待ちしときましょーかね」
「はぁ?」
「あぁ?」

 完全に競争のノリで睨み合うロイドとエミリーである。

「つーワケでクレアぁ、俺が飯作ってやるから買わんでいいぞ!」
「はぁ〜?!ラピスっ、あんたは私のご飯が食べたいでしょう?!お腹空かせて帰ってきなさいよ!」
「あ、ちょっ……」
「……行っちゃいましたね」

 ラピスが引き止める間もなく走り出す姉弟。
 差し出した手は行き場もなく空に留まっており、ほんのり哀愁を誘った。

「…まぁ、のんびり行きましょう」
「そ、そうだね、えっとご飯は…」
「買いましょう」

 苦笑いするラピスの確認に、クレアは食い気味に返した。
 完全にあの姉弟とは別行動する気満々の態度に、ラピスは苦笑いを深める。

「おーいクレア!…と、ラピス、だったよな」
「あれ、グラン」
「あ、うん、そうだよ。グランくんもすぐ行くの?」

 そんな彼女らに駆け寄るのはグランだ。
 話しかけながらも周囲を見回しているグランに、2人は彼の目的を理解する。

「グラン、先輩なら先に行っちゃいましたよ」
「おぉ?!早ぇな!え、何?あいつそんなやる気ある感じなんか?!」
「あー、ううん。エミリーさんと競争になっちゃって…」
「あーなるほどなぁ」

 グランは納得したように頷き、大きな溜息をひとつ。そして、がばっと顔を上げて、

「…負けてらんねぇ!!」

 まっすぐ森へと走って行った。

「やっぱりですか…」

 もうグランの行動が読めていたクレアは呆れたようにその後ろ姿を見つつ、食堂へと足を進めていった。
 
『これから四等級試験に向かう生徒達に連絡です』

 それからクレア達が食堂の職員に簡単な弁当をお願いして待っている間に、校舎内に鳴り響く声。
 魔法具によるものだろうが、完全に校内放送だなとクレアは内心驚いていると、次の言葉に今度は他の生徒達が驚きの声を上げる。

『試験所スァース大森林にてルースド・ドッガー伯爵令息を発見した場合、救助して連れ帰るようにお願いします』

 驚く生徒達の中、クレアだけはふと嫌な予感に胸が重くなるのを感じた。

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