魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

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「先輩!同じ授業受けましょ!」
「そーだな。てかそれよりまずは寮見に行こーで」

 試験から半月程が経ち、無事入学したロイド達。
今は入学式や説明等を終えて自由時間となっていた。

「あー確かにですねー」
「だろ?あとで姉さんとラピスも一緒に決めた方が話も早いだろーし」

 ロイドとクレアは説明された寮に向かって歩いていた。
 エミリーとラピスとも一緒に行くつもりだったのだが、人の多さと流れに押し負けて合流出来なかったので、別行動をとる事にしたのだ。

「そうですね。それにしてもすごい人集りでしたねー」
「ほんとな。あの呼び名が王都にまで広まってたとはね」

 その人の多さの理由のひとつは、まさに当人達――エミリーとラピスにあった。

 『風の妖精』エミリー。
 風魔法適正100という、スキル「風魔法適正」による桁外れの適正を誇り、それをただ漫然と使うでもなく洗練された魔法運用技術はもはや美しさすらある。
 という評判から着いた二つ名で、ロイドがウィンディアから1年間程離れる前にはウィンディア内でのちょっとした呼び名だった。

 が、何があったかは知らないが王都にまで広まっていたようだ。
 自由時間になるやエミリーは人集りに埋もれてしまい、根掘り葉掘り聞かれているのが遠目にかろうじて見えたのである。

「ラピスさんの二つ名はちょっと意外でしたね」
「あー、あれはウィンディアの冒険者達が呼んでただけのはずだしなー。いつの間にか二つ名扱いされた感じなんだろーけど……まぁちょっとウケたな」

 ラピスの二つ名は『お嬢』。
 その容姿と指揮能力から屈強な男を従える容はまさにお嬢、と呼べるのかも知れない。
 冒険者本部である王都のそれと同等かそれ以上とまで言われるウィンディア冒険者ギルド、そのギルド長ディアモンドの一人娘にして破壊魔法をもって敵を圧倒する姿はその名に相応しい風格を示す。
 とか言われちゃってるラピスさん。

 本人は死ぬほど嫌がっており、なんなら最近に至ってはその名で呼ぶと彼女には珍しく怒りを込めた視線を突き刺してくる程だ。

 が、基本温厚な彼女ではあるが確かに攻撃的な攻撃手段と統率能力が備わっており、実際その二つ名に違和感はないとロイドは思っているのだが。

「まぁお前も他人事じゃねーけどな。時間の問題だろ」
「そんなワケないじゃないですかー」

 本当にそう思ってないかのか他人事のように笑うクレア。
 だが、すでにロイドは周囲からチラチラと目線を感じていた。

 集落が侵略された事で『元』が頭につくとはいえ、エルフの姫である彼女。
 その実力は魔法適正が高いエルフの中でも頭ひとつ飛び抜けた存在であり、並の魔法師では歯も立たない程だ。

 さらに容姿はエミリーやラピスと並んでもまるで遜色のない美しさ。
 陽光を月のように優しく受け止めて輝く銀の髪、芸術家の逸品にも劣らぬ整った顔、少し小柄ながらもスタイルの良い肉体と、男の目を惹くには十分すぎる魅力の持ち主である。

 それでいて人懐っこさすら感じさせる人当たりの良さもある。
 性格も明るくそれでいて思慮深さを垣間見せるそれは、話す相手に不快な思いをさせる事もない。とロイドは思っている。

「いや、賭けてもいいわ。絶対あーなる」
「え、そんなですか…?えー、嫌ですよー」

 そんな彼女はロイドの前世――黒川涼の後輩、如月愛の転生体である。
 
 その為かクレアはロイドの事を信頼している。
 しかし依存や思考停止したような崇拝とも違い、ロイドに反論や注意をする事もあるくらいだが、基本的には彼の言葉を疑うような事はほとんどない。

「ま、頑張れ」
「あー!先輩私の事見捨てる気でしょう!私が人集りに埋もれても良いと思ってるでしょ!」
「チヤホヤされるのも悪くないだろ?」
「そうやって誤魔化そうとしてますね!それに赤の他人からチヤホヤされても怖いだけですよ!」
「赤の他人って…これから級友になるやつらに酷い言い草だな」
「う、そう言われると…でも、だって…」

 年の功か性格によるものか、ロイドにいつも丸め込まれるクレアは言葉に詰まる。
 前世からよく丸め込まれていたクレアだが、しかし負けてたまるかと言い返そうとして、

「こんにちは。ねぇ君、王都では見ない顔だけどどこから来たの?」
「こんなに美しい子がいたら社交界でも目立つはずだもんね」

 『赤の他人』から声がかかった。もとい、ナンパされた。

「え?えっと、ウィンディアからです」
「えっ?!ウィンディア?!」

 律儀に答えるクレアに声をかけた少年は大袈裟に驚く。
 
「あのウィンディアかぁ……あ、だからこんなのと一緒に居るんだね。優しいなぁ」

 そして、かの領地の威光に慄きつつも、納得したように頷きながらチラリと横目でロイドを見やる。
 ロイドはその視線をまるで気付いていないかのように視線を合わせない。その様子に少年は腹が立ったのか舌打ちする。

「ちっ…ねぇ君、恥さらしなんかと一緒に居ないで一緒に学園見て回らない?知ってる先輩達も居るから色々詳しく見て回れるとおもーー」

 ロイドを無視すると決めたのかクレアにだけ話しかける少年。一緒にいる数人の少年達もクレアにのみ視線を向けている。
 当のクレアは僅かに顔を俯かせて黙り込んでいるが。

「じゃあなクレアー。先行くわ」

 ロイドは自分に用がないならと言わんばかりにさらっと歩き出す。一応はクレアに声を掛けて、本当な何もなかったかのようないつもの歩調で歩き出した。

「ふっ、邪魔者も消えた事だし…」
「待って下さいよ、私も行きますっ」
「え?ちょっ!」

 そのロイドをすぐさま追うクレアに少年達は慌てて声をかけるが、クレアは無視してロイドの横まで小走りで並ぶ。

「なんで置いてくんですか!ひどいです!」
「いや案内されるならラッキーかなーって。いいじゃねーか、どの道下見して回るなら案内があった方が効率も良いし」
「私だって下見する相手くらい選びたいですけど!」

 頬を膨らませるクレアにロイドはいつものどこか気怠げにさえ見える雰囲気で返す。何気にクレアが酷い事を言ってるが。

「つか俺もダメじゃね?」
「……先輩なら嬉しいですけど」
「ん?なんて?」
「いえ、なんでもないですっ!…てゆーか先輩こそいいんですか?」
「ん?あぁ、いいんだよ、お前も変な事するなよ?面倒だろー」

 内容を伏せた問いに、それがあの少年達の物言いのことだと理解したロイドは嘆息混じりに返す。

 あの時ロイドの事を蔑んでいた少年達に、クレアが微かに魔力を練ったのだ。
 
 それを止める為に機先を制するという意味も込めてロイドは歩き出したのだ。
 もちろんと言うべきか、単純に面倒から逃げる意味が大きいのは事実だが。

「待てよ恥さらしが!」
「調子こいてんじゃねえぞ!」

 そのまま行かせてくれれば良かったのだが、やはりそうはいかなかった。
 少年達は先回りするようにロイドとクレアの歩く方に先回りして立ち塞がる。
 ロイドはこっそりとーー実際もろばれなーー溜息をついてから、気怠げを通り越して嫌そうな表情で言う。

「いやもうとりあえず俺が悪かったから、そこ通してくんね?」
「先輩、それって全然悪いと思ってない人の態度です…」

 横のクレアが呆れたように呟く。お前どっちの味方よ?と視線をやると、それに気付いたクレアが誤魔化すように苦笑いを浮かべる。
 そのアイコンタクトで会話する2人がどう映ったのか、少年達の怒りのゲージが一気に溜まる。

「ふざけんなよ!いくらあのルーガス様の息子だからってな!お前みたいな恥さらしが調子乗ってんじゃねぇよ!」

 1人が完全に火がついたのか、魔力を練り上げながら吠える。
 ロイドは仕方ないか、と溜息をこぼしながら少年達を見やって魔力を練り上げようとして、

「君達、何をしている?」

 凛とした声音によって遮られた。

コメント

  • 330284【むつき・りんな】

    国崩を分からんか〜モブ共

    1
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