魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

4 ラピスのスタイル

 受験生9人は、ステージ中央付近に立つ教師に向かって全方位から襲い掛かった。
 
 ある者は武器を振り上げて、ある者は魔法を発動させながら、逃げ場のない攻撃が教師に向かう。

「なっ!?」
「はや…!」

 だが、教師はそれを全て躱し尽くす。
 振り下ろされる剣をいなし、迫る炎を躱し、飛来する岩や矢を弾き落とす。

 一撃は入るだろうとたかをくくっていた受験生達はあまりの光景に思わず硬直してしまう。
 それを見逃す教師ではなく、即座に反撃に出ようとして、

「っ!」

 死角から振り下ろされた杖をギリギリのところで回避した。

「やっぱり当たらないかぁ」
「………」

 ばっと振り返った教師の目に、美しい金髪が飛び込んできた。
 その金糸のような髪からのぞく顔は、言葉に反して悔しさといった感情は見られず、ただ事実を確認したといった無機質な印象さえ受ける。

 教師は無言で金髪の少女――ラピスへと拳を放つ。が、その拳もラピスに届く前にぴたりと止まった。

「……やっぱり引っかからないかぁ」

 先程と似たような口調で言い放つラピスは、しかし先程より困ったような表情に見える。
 教師が止めた拳の先、あと少しで触れるというところに小さな黒い球が浮かんでいた。

 拳を戻してラピスを見やり、教師は今まで頑なに閉じていた口を開く。

「……破壊魔法、か」
「そうなんです、結構珍しいと思ったのに…すぐバレちゃいましたね」
「ウィーン学園を甘く見るな。珍しくはあるが、居ない訳ではない」
「そうなんです、ね!」

 笑顔を浮かべるラピスは、返事をしながらサイドステップする。
 すると先程までラピスが立っていた場所を通過するように岩が通り過ぎる。
 
「次、矢をっ!」

 その岩を教師が躱すより早く、ラピスは視線を弓矢を持つ受験生に向けつつ言う。
 その声に慌てて矢を放つ受験生だが、教師はあっさりと避ける。

「そこの…ぽっちゃりよりは膨よかなキミ!そっち側に!」
「いやもう素直にデブと言えば?!」
「うん!分かったよデブ!」
「やっぱやめて!」

 これまた教師が矢を避けるより早くラピスは剣を持つぽっちゃりより膨よかな受験生へと視線を向ける。
 そして即座に視線を教師へと戻して拳大の黒い球――『無帰』を放つ。

(っ、この受験生…!)

 教師が無帰を躱すと、すぐにぽっちゃーーデブの剣が迫りくる。それを器用に剣の腹を手でいなしながら体勢を整えつつ、教師は内心で唸る。

(他の受験生に指示を出しながら戦闘とは、この歳にしてなんという視野…)

 教師は攻撃を捌きつつもラピスを視界から外さないようにしていた。
 ラピスは自ら攻撃しつつも的確に他の受験生に指示を出していく。

(さらには同士討ちにならないよう配慮された破壊魔法の軌道や発動のタイミング…攻撃や行動の選択が上手い)

 さらに言えば受験生もいつの間にかラピスの指示に従い動いているのが当然のように振る舞い始めていた。
 指示の切れ目ではあまり邪魔にならないようサポートに徹するなど、自分勝手な行動をしなくなっている。

「炎を!」
「よっしゃ任せろ!」

 絶え間なく続く攻撃に、基本的に反撃はしないと事前に決めれていた教師はとにかく回避を続ける。
 が、ここでついに炎の一端が教師の腕を浅く焼いた。

「っし!」
「油断しないで!次いくよ!」

 思わずガッツポーズをとる火魔法師の受験生に、ラピスは指摘しつつ無帰を放つ。
 が、その無帰は教師の拳によって掻き消された。

「っ?!」

 破壊魔法はそれに込められた以上の魔力で相殺出来る。
 その為掻き消された事自体に問題はないのだが、ラピスはその行動に違和感を覚えた。

「やるな。ではいくぞ」

 ラピスのその違和感を証明するように、教師は手近にいた剣を扱う受験生の足を払った。
 さらに体勢を崩した受験生が受け身をとるより早く首筋に手刀を落として意識を刈り取る。

「なっ!?」

 突然の反撃に受験生達が困惑の声を上げた。

 教師は反撃しない。が、それは攻撃を入れられるまでは、というのが条件なのだ。
 先の攻撃で教師に一撃を入れた為、教師も反撃に出る事となったのである。

 それからは教師の一方的な制圧となってゆく。
 
 もとより反撃のない相手に一撃を入れる事さえ苦労していたのだ。
 それが反撃という選択肢が加わり、受験生側の人員が減らされていけばそうなるのも仕方ない。

「…さすが、強いですね」
「教師だからな」

 呆気ないほどあっという間に、ラピスだけが残る事となった。

 倒された9人はすぐさま別の教師によってステージから下されており、ステージには教師とラピスの2人が対峙する形になっている。

「しかし素晴らしい戦いだった。また途中だが、すでに文句なしに合格…高得点をあげたいと思う」
「ありがとうございます」

 教師の評価にラピスは素直に礼を述べる。
 が、その瞳は言葉とは裏腹に敵を前にした警戒や集中がありありと浮かんでいた。

「……ふむ、大したものだ。満点でも良いかも知れん、なっ」

 その油断の無さに教師は満足そうに微笑み、拳を突き出す。
 それを分かっていたかのように危なげなく回避して、ラピスはカウンターのように杖を教師に叩き込む。

 それを反対の手で受け止めた教師は、その予想外の重さに思わず瞠目した。

(…!なんだこの重さは…?まるでハンマーで殴られたような衝撃だ。…ただの杖ではないな)

 教師は痺れる手を強く握る事で誤魔化しつつ警戒を強めた。

 この教師の言葉は的を得ていた。

 と言うのも、ラピスの杖には本来の杖の目的である魔力の安定や増幅といった機能に加え、ひたすら頑丈さと重さを付け加えた鈍器としての側面もあるのだ。

 身体魔法に適正の高いラピスは、近距離での戦闘において破壊魔法より武器による攻撃の方が安定感があると判断し、このような武器を作ってもらったのである。

「ある意味、下手な仕込み武器より意外だったよ」
「そうですか?」

 そう言って距離をとる教師にラピスは返事に乗せて破壊魔法を発動。
 無数の無帰を一斉に放った。

(大した数だ……近距離は鈍器のような杖、中・遠距離は破壊魔法か。先程までの指揮官としての一面とは反対に、随分攻撃的だな)

 ハンマーのごとき強力な打撃と、こと破壊力において上位の魔法である破壊魔法。これらを両軸に戦うラピスは、確かに攻撃的な戦闘スタイルと言えるだろう。

 教師の反撃を与える隙もあげない、とばかりに苛烈に攻めるラピスに、教師は内心で感嘆の声を上げた。

 そして程なくして、お互いに有効打を決める事なく、試験の終了の合図が教壇に立つ教師によって告げられるのであった。

「魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く