魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

1 第二章プロローグ

 寒さも和らぐ季節。
 訪れる陽気と共に若い男女が緊張した面持ちで賑やかな街道を歩いて行く。

 毎年恒例ともいえるこの光景に、大人達は微笑ましそうな表情を浮かべて道行く少年少女を見送っていた。
 その子供達の中に混じって歩く2人の少女達は、緊張よりも物珍しいそうに周囲を見ながら歩いていた。

「すごいね、人がいっぱいいるよ!」
「そうですね。こんなに多い人は初めて見ます」

 この世界ではですが、と内心で続けながら歩く少女クレアと、楽しそうにキョロキョロと首を動かしている少女ラピス。
 
 同世代の子供が多く居る中でもこの2人は特に目を惹いていた。
 
 クレアは太陽の光を優しく受け止め淡く輝くような透き通った銀髪を風に遊ばせ、その隙間から覗く紅い瞳はその髪の色によく映える。
 耳が気持ち程度に尖っているのは彼女がエルフという種族である事を表しており、その種族に多く見られる美形という特徴を代表するかのような整った顔立ちをしていた。

 その横を歩くラピスは太陽の光にも負けない美しい金髪。
 優しさを感じさせるこれまた美しい大きい青い瞳は、しかし笑顔や仕草から美しさより可愛らしさが際立っている。

 そんな美少女2人が仲睦まじく話す様子に、強張った表情を浮かべていた周囲の子供達も緊張を忘れて見惚れてしまう程だ。

「でも緊張しますね。試験なんて久しぶりですよ」
「そうなんだ。私初めてなの!クレアは試験とかした事あったんだね!」
「あ、あー、そうですね、故郷でちょっと」

 いや前世の就職試験です。とは言えずに言葉を濁すクレア。

 そう、子供が多く集まる今日この日こそ、エイルリア王国の王都フレアにある学園において最も難関とされる魔法学園――ウィーク学園の試験日である。

「それより、先輩達はまだ来てないんですかね」
「んー、あの2人ならもう着いちゃってるかも知れないね」

 話題を変えようとするクレア。
 だが気になっている話題である事は確かであり、それはラピスも同じであった。

「レオンさん、ロイドくんには厳しいもんね」
「そうですね。それだけ期待もあるんでしょうけど…あ、あれじゃないですか?」
「あ、ホントだ!やっと着いたね」

 話していると見えてきた学園に2人は笑顔をこぼす。

 ちょっとした城壁くらいはあるのではないかという高い壁に囲まれ、その壁越しにもしっかり見える程の巨大な建造物。
 その校門であろうこれまた大きな門が全開になっており、そこから見える広い校庭にたくさんの子供達が集まっているのが見える。

「あと15分だったよぉ。結構ギリギリになっちゃった」
「ですね。せっかくなんで先輩達を探しますか」
「そうしよっ。皆で試験を受けたいもんね」

 2人は校庭へと足を踏み入れながら周囲を見渡す。
 だが、いくら人が多いとは言え、この世界では珍しい為目立つ黒髪の姿が見当たらない。

 2人の脳裏に嫌な予感が過ぎる。
 その予感に突き動かされるように、同時に魔力探知を行うクレアとラピス。

「「いない…」」

 しかしその嫌な予感は的中した。
 同郷の仲間――ロイドとエミリーがまだ来ていないのだ。

「ちょっと先輩、何やってるんですか?!あと10分しかないですよ!」
「あわわ…!エミリーさんがいるから安心してたのにぃ」

 怒られたり遠回しに安心出来ないと言われるロイドだが、それも仕方ないだろう。
 慌てて校門の入口まで戻り周囲の道を見渡すが、目的の2人はおろか締切時間も近い事もあり他の受験生すらいなかった。

「おい、早く中に入りなさい。そろそろ締め切るぞ」
「え?!ま、まだ来てない人がいるんです!」
「そうなのか?残念だが時間に間に合わないなら不合格だな。遅刻の場合は向こう1年は入学出来なくなるぞ」
「あわわわ……早く来て下さいぃ」
「少しだけでも待ってもらったりは出来ないですかね…?」

 校門の扉に手をかけて閉めようとする教師は、頭をかきながら困ったように言う。
 なんとか時間延長をお願いしようとするクレアに、教師は首を振る。

「そうしてやりたいのは山々なんだけどな。こっちも融通をきかせる余裕がないんだよ……なんつったって今年の受験生にはあのウィンディアが居るんだ」

 教師は校庭に集まる受験生のような緊張した表情で言う。

「お前達もウィンディアくらい知っているだろ?何が起きるか分からんから、こっちも色々忙しいんだ。しかも現当主は陛下も懇意にされてるから、きちんとした試験体制をしておかないと……」

 余程嫌なのか、これから試験という受験生に愚痴まで溢す教師。
 だがクレアとラピスはその愚痴に冷や汗を流して閉口する。

「という訳ですまないがその子達は諦めなさい。そろそろ時間だ、ほら、早く入って」
「あーもう何してるのロイドくん〜!」

 思わず叫ぶラピスに構わず門を閉めようとする教師。
 するとクレアがバッと顔を上げる。

「来ました!」
「えっ!?」

 クレアの言葉につられるようにラピスもクレアの視線を追う。
 すると、道の向こうに見える人影が2つ。

「おっ、来たのか。でもこの距離じゃ間に合わないな。残念だが今年は特に厳正な試験になっているから、時間を過ぎたらアウトだぞ」

 それに申し訳なさそうな表情を浮かべつつも門を少しずつ閉めていく教師。
 だが、クレアとラピスは安心したように笑顔を浮かべて校庭へと入っていく。

「も〜、これはお説教だね!」
「ホントですよ。全く相変わらず呑気なんですから」

 そんな事を言いつつ笑顔の2人に、教師は困惑したような表情を浮かべる。

「おいおい、試験に落ちるってのに薄情だな……ってめちゃくちゃ速いな!」

 教師はクレア達からこちらに走る2人へと目線をやると、その走る速さに目を瞠った。
 そして距離が近付いた事でその姿が見えるようになり、さらに教師は目を丸くする。

「ってもしかしてあの2人……ウィンディアか?!」

 黒い髪を風になびかせて走る2人。
 その2人の顔は事前に聞いていたウィンディア家の2人、その特徴通りだった。

「おっ、間に合いそうだなー」
「何呑気な事言ってんのよ!ギリッギリじゃない!それより勝負は私の勝ちかしらね!」
「はぁ?いや俺の勝ちだろーよ」

 弟を導くように先を走るウィンディア家長女エミリーと、その少し後ろを走るウィンディア家次男ロイド。
 だがそんな微笑ましい姉弟愛などはなく、聞こえてくるのは状況分かってんのかと言いたくなるような言い争いの声。

「いやっ、ち、遅刻は遅刻だ。もう時間になる、閉めるぞ!」

 驚愕に数秒固まっていた教師だが、まるで自分に言い聞かせるように、または誰かに言い訳するかのように急いで門を閉めようとする。
 しかし閉まろうとする門に2人は慌てるどころか見向きもせずに、ぎゃーぎゃーと言い合いながらもここに来て更に速度を上げていく。

「ちょっ、あんた神力まで使うなんてせこいわよ!」
「姉さんだって蒼炎まで使ってんだろ!?」

 ついには白金の光と蒼い炎を撒き散らしながら走る2人。
 そしてついに、

「「はい俺(私)の勝ちぃ!!」」

 閉まろうとする門がまさにあと人2人分、というところでそのスペースに割り込むように駆け抜けるロイドとクレア。
 そこは嘘でも遅くなってすいませんくらい言えよとクレアは呆れる。

「……あぁ、今年のウィンディアもやはりウィンディアなのか…」

 閉まる校門の脇で何故か沈痛な表情の教師。
 遅刻ギリギリに入ってきてどっちが勝ったと言い争う姉弟と呆れたようにその2人をなだめる美少女2人。

 これが目立たない訳もなく、校庭に集まる受験生は目を丸くしてそちらを見ていた。

「あー……試験、始めまーす」

 校庭に用意された壇上で、教師はなんとも言えない感じに告げるのであった。

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