魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる
140 昔話〜死神〜
コウキが死んだ。
年老いて、国民に看取られ、そしてついに、寿命を全うした。
葬儀は粛々と、されど大規模に行われ、俺もそれに参加してコウキを見送った。
そしてその葬儀の後だ。
ーー国民が一斉に俺を弾圧した。
『魔王の呪い』
コウキが抑えてくれていた噂が、コウキが去った事で噴き出したように表面化したのだろう。
それらは暴言や暴力となって俺に襲い掛かった。
「違う!聞いてくれ!」
このままではアリアとの約束を守れない。
その気持ちだけで俺は弁明した。
しかし、どれだけ叫ぼうと、その声が国民達に届く事はなくーー俺は気付けば身体中から血を流してフェブル大森林で倒れていた。
それからはどれだけその場に居ただろうか。
その時に俺は餓死も出来ないという事に気付いたが、しかしそんな事はどうでも良かった。
――死にたい
俺はふと浮かんだ言葉にハッとした。
『レオン、私の分も生きて』
ダメだ。こんな所で転がっている場合じゃない。
ソフィアの最後の言葉を、俺が破る訳にはいかない。
死にたいと思う気持ちを抑えつけ、動きたくないという体を叱咤して無理矢理力を入れる。
随分と久しぶりに立ち上がった。
木々が伸びて体を覆い尽くすに至るほどの時間を動かずに居たというのに、体はぎこちなさや関節が固まるといった事すらなく、何の不調もなく動く。
時の魔術の影響か、肉体的には変わる事はないのかも知れない。
だが、魔力の総量が減った感覚はある。
恐らく魔力は影響外なのだろう。そう頭の端で考えつつ、俺はエイルリアへと向かった。
そこで、信じられない光景を見た。
争っていたのだ。
人と、人が。
硬直した俺に、しかし音は否応なく飛び込んできた。
「ディンバー帝国を返り討ちにしろぉ!」
「エイルリア王国を討ち滅ぼせっ!」
「ディンバーなんてエイルリアから勝手に独立した国なんぞに負ける事など許さんぞ!いけぇ!」
いつの間にか人族の国が増えていたのだろう。
その国同士で争っているのだ。
魔族との戦いは、考え方やその在り方からの違いでどうしようもなくぶつかり合い、そして争いになったと聞いている。
しかし、何故あの戦いをともに生き抜いた仲間同士でこんな事に?
血を流し、倒れていく国民達。
武器を握り、魔術を放ち、昔の仲間だったはずの人族を殺していく人族。
そのあまりの光景に俺は叫んでいた。
「やめろぉおおおっっ!!!お前らぁ!ふざけるな!何をしているんだぁ!!」
その声は自分でも驚く程の声量だったが、しかし争いは止まらない。
「あいつらがっ!!コウキが!アリアが!…ソフィアが!!こんな事をして欲しくて戦ってきたと思うのかっ!?」
それでも俺に気付く者もいた。
「おい!あれは…!ま、魔王の呪いだ!」
「まだ生きていたのか!」
「ちっ!ディンバーもろとも殺してしまえ!」
だが、彼らの反応は無情だった。
エイルリア国民に弾圧された時を思い出す。
恐怖や畏怖、得体の知れないものを恐れる気持ちが顔にありありと出ていた。
その表情に俺は反抗する事すら出来ずにただされるがままだった。
だが、今この時。襲い掛かるエイルリアの兵士の表情は、戦いを楽しんでいるかのような、それに高揚しているかのような、愉悦の表情を浮かべていた。
――何度も戦ってきた、魔族と同じ表情だった。
「―――………」
その瞬間、俺の奥底にあった何かがはじけた。
「ぐあっ?!」
「ごほっ!」
俺は随分と久しぶりに身体強化を己に施す。
そして、その腕を振るっていた。
「おい、何をやっている!早く殺せ!」
いつしか兵士が俺に殺到していた。
『……あぁ、殺す必要はないだろ』
振るう腕がエイルリアもディンバーも関係なく兵士を貫く。手加減のない一撃は、その命をーーあっさりと散らした。
――やめろ、殺すな!
「お前らぁ…!もういい………そっちがその気なら…殺してやる」
まるで俺の声ではないような感覚。しかし、口から出るのは確かに俺の声。
頬を伝う暖かいものは、返り血か、それとも涙か。
『こうしてみんなが笑って、誰も死なずに生きられる世界になればいいね』
「ぐぁあ!や、やめろ!やめてくーー」
命乞いを言い終える事もなく、断末魔の叫びもなく、苦痛に歪んだ表情で死んでいく兵士――国民達。
――違う!やめろ、こんな事をしたい訳じゃない!
『あらレオンちゃん、最近来ないから心配したのよぉ?剣神だから大丈夫とは思うけど、やっぱり優しいから心配しちゃうわ』
『おっ!剣神様じゃねぇか!安くしとくぜ!』
「し、死神だ!魔王の呪いは死神を産んだ!」
「逃げろ!逃げろぉ!撤退だぁ!」
いつか見た笑顔はもう思い出せない。ただ恐怖に歪んだ顔で去り行く兵士達をただ見送る。
――なんで、なんでこうなった…
『エイルリアのことを見てあげて』
「やめろ、来るな!来ないでくれぇ!俺達に関わるな!」
視線を下ろせば返り血に真っ赤に染まった体。守るべきだった民の、血。
空の胃から吐き気がこみ上げる。
「うっ、おぇえっ…」
――……アリア、すまない…
『時の魔術を使える人を探して』
「……時の魔術…俺の止まった時も動かせる…?」 
――…ごめんな、ソフィア
『最後に、これはレオンに。ソフィアの想いをちゃんと聞いてあげてね』
『レオン、いつもありがとねーー』
――……あぁ、誰でもいい。どこかにいる時の魔術師よ…
『あ…う、そんなの…私だって…』
『っ!ちょ、見ないでよレオン!』
『…私の方が好きだもん』
『昔からいつも助けてくれた。支えてくれた。これからたくさん、お返ししていきたかった』
『ーーレオン、私の分も生きて。大好き。元気でね』
――どうか俺を、殺してくれ
年老いて、国民に看取られ、そしてついに、寿命を全うした。
葬儀は粛々と、されど大規模に行われ、俺もそれに参加してコウキを見送った。
そしてその葬儀の後だ。
ーー国民が一斉に俺を弾圧した。
『魔王の呪い』
コウキが抑えてくれていた噂が、コウキが去った事で噴き出したように表面化したのだろう。
それらは暴言や暴力となって俺に襲い掛かった。
「違う!聞いてくれ!」
このままではアリアとの約束を守れない。
その気持ちだけで俺は弁明した。
しかし、どれだけ叫ぼうと、その声が国民達に届く事はなくーー俺は気付けば身体中から血を流してフェブル大森林で倒れていた。
それからはどれだけその場に居ただろうか。
その時に俺は餓死も出来ないという事に気付いたが、しかしそんな事はどうでも良かった。
――死にたい
俺はふと浮かんだ言葉にハッとした。
『レオン、私の分も生きて』
ダメだ。こんな所で転がっている場合じゃない。
ソフィアの最後の言葉を、俺が破る訳にはいかない。
死にたいと思う気持ちを抑えつけ、動きたくないという体を叱咤して無理矢理力を入れる。
随分と久しぶりに立ち上がった。
木々が伸びて体を覆い尽くすに至るほどの時間を動かずに居たというのに、体はぎこちなさや関節が固まるといった事すらなく、何の不調もなく動く。
時の魔術の影響か、肉体的には変わる事はないのかも知れない。
だが、魔力の総量が減った感覚はある。
恐らく魔力は影響外なのだろう。そう頭の端で考えつつ、俺はエイルリアへと向かった。
そこで、信じられない光景を見た。
争っていたのだ。
人と、人が。
硬直した俺に、しかし音は否応なく飛び込んできた。
「ディンバー帝国を返り討ちにしろぉ!」
「エイルリア王国を討ち滅ぼせっ!」
「ディンバーなんてエイルリアから勝手に独立した国なんぞに負ける事など許さんぞ!いけぇ!」
いつの間にか人族の国が増えていたのだろう。
その国同士で争っているのだ。
魔族との戦いは、考え方やその在り方からの違いでどうしようもなくぶつかり合い、そして争いになったと聞いている。
しかし、何故あの戦いをともに生き抜いた仲間同士でこんな事に?
血を流し、倒れていく国民達。
武器を握り、魔術を放ち、昔の仲間だったはずの人族を殺していく人族。
そのあまりの光景に俺は叫んでいた。
「やめろぉおおおっっ!!!お前らぁ!ふざけるな!何をしているんだぁ!!」
その声は自分でも驚く程の声量だったが、しかし争いは止まらない。
「あいつらがっ!!コウキが!アリアが!…ソフィアが!!こんな事をして欲しくて戦ってきたと思うのかっ!?」
それでも俺に気付く者もいた。
「おい!あれは…!ま、魔王の呪いだ!」
「まだ生きていたのか!」
「ちっ!ディンバーもろとも殺してしまえ!」
だが、彼らの反応は無情だった。
エイルリア国民に弾圧された時を思い出す。
恐怖や畏怖、得体の知れないものを恐れる気持ちが顔にありありと出ていた。
その表情に俺は反抗する事すら出来ずにただされるがままだった。
だが、今この時。襲い掛かるエイルリアの兵士の表情は、戦いを楽しんでいるかのような、それに高揚しているかのような、愉悦の表情を浮かべていた。
――何度も戦ってきた、魔族と同じ表情だった。
「―――………」
その瞬間、俺の奥底にあった何かがはじけた。
「ぐあっ?!」
「ごほっ!」
俺は随分と久しぶりに身体強化を己に施す。
そして、その腕を振るっていた。
「おい、何をやっている!早く殺せ!」
いつしか兵士が俺に殺到していた。
『……あぁ、殺す必要はないだろ』
振るう腕がエイルリアもディンバーも関係なく兵士を貫く。手加減のない一撃は、その命をーーあっさりと散らした。
――やめろ、殺すな!
「お前らぁ…!もういい………そっちがその気なら…殺してやる」
まるで俺の声ではないような感覚。しかし、口から出るのは確かに俺の声。
頬を伝う暖かいものは、返り血か、それとも涙か。
『こうしてみんなが笑って、誰も死なずに生きられる世界になればいいね』
「ぐぁあ!や、やめろ!やめてくーー」
命乞いを言い終える事もなく、断末魔の叫びもなく、苦痛に歪んだ表情で死んでいく兵士――国民達。
――違う!やめろ、こんな事をしたい訳じゃない!
『あらレオンちゃん、最近来ないから心配したのよぉ?剣神だから大丈夫とは思うけど、やっぱり優しいから心配しちゃうわ』
『おっ!剣神様じゃねぇか!安くしとくぜ!』
「し、死神だ!魔王の呪いは死神を産んだ!」
「逃げろ!逃げろぉ!撤退だぁ!」
いつか見た笑顔はもう思い出せない。ただ恐怖に歪んだ顔で去り行く兵士達をただ見送る。
――なんで、なんでこうなった…
『エイルリアのことを見てあげて』
「やめろ、来るな!来ないでくれぇ!俺達に関わるな!」
視線を下ろせば返り血に真っ赤に染まった体。守るべきだった民の、血。
空の胃から吐き気がこみ上げる。
「うっ、おぇえっ…」
――……アリア、すまない…
『時の魔術を使える人を探して』
「……時の魔術…俺の止まった時も動かせる…?」 
――…ごめんな、ソフィア
『最後に、これはレオンに。ソフィアの想いをちゃんと聞いてあげてね』
『レオン、いつもありがとねーー』
――……あぁ、誰でもいい。どこかにいる時の魔術師よ…
『あ…う、そんなの…私だって…』
『っ!ちょ、見ないでよレオン!』
『…私の方が好きだもん』
『昔からいつも助けてくれた。支えてくれた。これからたくさん、お返ししていきたかった』
『ーーレオン、私の分も生きて。大好き。元気でね』
――どうか俺を、殺してくれ
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