魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる
138 昔話〜道標は空に隠れ〜
「やったのか…?」
「あ、レオン!それ言っちゃダメなやつ!」
思わず呟いた俺にコウキが嫌そうな表情を浮かべる。意味が分からない。
が、それを裏付けるようにアリアが否定した。
「残念だけど生きてるわ。でもま、とりあえずは安心していいわ。空間を完全に切り取って押し潰してるとこよ」
「えげつない技だな」
「あんたのバケモノパンチに言われたくないわよ。よく魔王の魔力なんて重たいものを吹き飛ばせたものね」
崩月の事か、と頷く。剣がないときの為にと考えた技だったが、思った以上の効果だったと自分でも驚いていた。
「でもまぁ、コウキのこれが一番やばいわな」
「ええそうね」
「はは…俺もまさかこんな事になるとは…」
神力によって強化された為だろう。規格外の威力を誇っていた。
なんせ、山どころか天変地異と言える規模の魔術を行使しやがったんだから。
見渡す限りに続くような山。
フェブル大森林を巻き込んで生まれた大山が連なり、もはや山脈と呼べるものになっている。
「おかげでもう何も残ってないけどね…」
「そうよね。……それより、不味い知らせがあるわ」
白金の光も消えて蹲るコウキに対してまだ光を纏うアリアが冷や汗を流して言う。
「魔王は封じたわ。けど、最後に放った魔術かしらね、すんごい力が私の魔術を超えて溢れてこようとしてんのよ」
「…は?」
「しかも物体とかじゃないから押し潰すことも出来ないし…やばいわね。こんな規模の威力が出てきたらこの山が消えるどころじゃ済まないかも」
衝撃の言葉に固まる俺とコウキ。
魔王のしぶとさに苛立ちつつも、焦燥感が勝る。
もう魔力も残ってない。コウキもそうだし、アリアももう限界に近いだろう。
「くそ、ここまで来て…」
思わず呟く俺に、アリアはしばし考えるように黙っていたが、不意に顔を上げる。
「……はぁ。よし、仕方ないわね。あんた達、お願いがあるわ」
「……なんだよ今になって…」
「…何?」
暗い顔をするコウキと、多分同じような顔をしているだろう俺が聞き返すと、アリアは毅然した態度で言い放つ。
「ちょっと空間隔離を重ね掛けしようと思うんだけど、隔離した空間は操作出来ないのよね。…だから、私自身ごと隔離して、その空間で魔王の魔術を抑え込む事にするわ」
魔術は対象に魔力を流す必要がある。
その対象自体が隔離されていては魔力を流す事など出来る訳がない。
だから魔力を流せる場所に居ながらもこの世界から隔離する為に、自分自身を隔離空間に置くという事だろう。
「だけどそんな事したらお前…」
「そうね、魔王の魔術に負けて死ぬかもし知れないし、神力あっての完全隔離だから…どの道出てくるのは厳しいかも。だからそこでお願いがあるのよ」
残る時間が厳しいのか早口で話すアリア。俺とコウキはそれを察して黙って聞く。
「まずはどっちかがリーダーとしてエイルリアのことを見てあげて。兵士もほとんど死んだし、きっとこれから大変だから」
「あぁ、わかった」
「次に、時の魔術を使える人を探して。時の魔術をぶつけ合えば魔王の魔術も打ち消せるはずだわ」
「そんなやつ…」
「居ないかもしれない。けど、居るかも知れない」
アリアもそれがいかに少ない可能性かは理解しているだろう。
なんせ魔王以外が使った話なんて聞いた事すらない。
「最後に、これはレオンに。ソフィアの想いをちゃんと聞いてあげてね」
「……」
生きて欲しい、そう言われたソフィアの言葉。
しかしーー正直、魔王を殺したい気持ちはあれど、生きる気力は湧かない。
それを見越したのだろうか、アリアは念を押すかのように告げた。
「それじゃ頼んだわよ、早めに助けに来なさいよ」
そう言うや否やアリアは空間魔術を発動した。
ちょっと買い物に、くらいの軽さでアリアはすっと消えるように姿を気配や魔力ごと消し去る。
空間魔術を発動し、魔王もろとも自らを隔離したのだ。
魔王の魔力や白金の光、それらがまるで無かった事だったかのような静けさが周囲な満ちる。
「あいつ、あっさり言いやがって…」
「アリアらしいよ。……レオン、これから大変だよ」
「……あぁ…」
こうして多大な犠牲を払い、魔王との戦いにひとまずの終止符が打たれた。
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