魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

128 エミリーの困惑

 兄弟による手合わせ。
 それを静かに見ていた面々は決着がついた事で口を開く。

「ふむ、ロイドはやはり相当強くなったな」
「そうね、正直驚いてるわ」

 ウィンディア夫妻はロイドの成長に驚いていた。
 いくらルーガスの古い師匠であるレオンに預けたとは言え、一年という時間でここまでの成長を遂げるとは思っても見なかった。

「まだまだだがな。とは言え戦闘の基礎はもともと出来ていた。それはお前達の教育によるものだろう」

 それにレオンはどこか不服そうに返す。
 それは戦闘の基礎から教えられなかった、という可愛らしい理由ではなく、フィンクに勝てなかったロイドに対する不服である。

「そうは言いますが師匠。私達ウィンディアの血族には風魔法適正があり、フィンクに至っては氷魔法まで扱います。それがどれだけのアドバンテージかはご存知でしょう」
「そうだな。この魔法時代においては、な。…だがあいつは魔術適正がある。魔法師などに負けるようではなまだまだだ」

 ルーガスのフォローにもレオンは不満そうな表情を変えない。
 が、ここでより不満そうな表情を浮かべた人物が会話に割り込む。

「何言ってるのよ!まだあんな子供なのにここまでやれてるのよ!褒めてやりなさいよ!」

 レオンに対しても強気な発言。もちろんエミリーだ。

「褒めるべきはフィンクだろう。魔法を組み合わせる発想、それを操る技術。しかも魔術を参考にしたのか魔法のレベルに収まらない多彩な動き。魔法師の枠を超えつつある」

 淡々と述べるレオン。
 それはエミリーが欲しい言葉ではないものの、身内を褒められて悪い気はせずどこか嬉しそうだ。

「そんなフィンク兄さんにあそこまで対抗出来たロイドもすごいわよ。……悔しいけど、もう私でも勝てないかも知れないわね…」

 エミリーは後半は小声になる。
 実際ロイドがここまで強くなった事は素直に嬉しい。が、自分を上回るかも知れない実力に悔しさを覚えてしまうのは堪えきれなかった。

「まぁお前達と血が繋がらないあいつが風魔術を使うようになったのは妙な縁を感じたがな」
「そうですね、私としては嬉しい話ですが」

 俯くエミリーに会話が終わりと判断したのか、レオンはルーガスへと話し掛け、ルーガスが頷く。
 だが、この何気ない会話に2人の人物が驚愕の表情を浮かべた。

「えっ、それ、どういうこと…?」
「……?」

 目を丸くするエミリーとラピスだ。
 それに逆に驚いたような表情を浮かべるのはルーガスとシルビア。

「あら?エミリー、知らなかったのかしら?」
「む…しまったな。フィンクが知っていたからエミリーも知ってるものかと…」

 エミリーと同じように目を丸くするシルビアと、渋面混じりなルーガス。
 
 だが、その反応がむしろ決定的な裏付けになっていた。
 エミリーは顔を俯かせる。

「……エミリー、ロイドには血縁はいない。血の繋がり、という意味ではこの世界にはどこにもいない」
「……」

 エミリーは知らなかったが、ロイドをウィンディアに預けた立場であるレオン。
 説明の義務があると思い明確にエミリーに説明した。
 俯いたまま返事もないエミリー。そんな彼女に両親も口を開く。

「でもねエミリー?あの子は間違いなく私達の家族だわ」
「その通りだ。エミリー、ロイドは血が繋がってなかろうとお前の弟だ。違うか?」
「……違わないわ」

 優しく諭すように話す2人。
 ルーガスの問いかけにエミリーは俯いたまま返す。

「……エミリーさん…」

 ルーガス達がロイドを家族だと告げた事で安心したのか、驚愕から立ち直ったラピス。
 今度はエミリーを心配そうに見つめる。
 
 あれだけ仲良くしていた相手が実は血の繋がりがないといきなり判明したのだ。
 ショックもあるだろうとかける言葉を見つけれずにいた。

 しかしルーガス達はエミリーの言葉に微笑んでいた。
 それはエミリーの困惑や葛藤を笑っているのではなく、

「……うそ、ロイドが弟じゃないなんて…どうしよ、私ったら…」

 弟だと思って接してきたからこその今までの行いが血が繋がらないと分かった途端に恥ずかしくなっただけだと気付いたからである。

 エミリーはフィンクという隔絶された実力を持つ兄によくロイドとともに挑んだりもしていた。
 その為かロイドと接する場面が多く、ブラコンとは言わないまでも相当距離が近い察し方をしていた。

 それを今更に恥ずかしがっているのだ。

 そんな顔を俯かせて赤面しているエミリーに、微笑みからニヤニヤといった笑みに変わっていったシルビアがそっと耳打ちする。

「だからねエミリー、結婚とかも出来るわよ」
「〜〜っ!!」

 悪戯っ子のような笑みを浮かべるシルビアの言葉に、エミリーは耳まで赤くする。
 そして耐えきれなくなったのか顔を俯かせたまま家へと走り出した。

 そのままドタバタと自室の方まで駆け抜けていくエミリーをシルビアは楽しそうに見届ける。
 そんなエミリーを勘違いしたままのラピスは心配そうに見つめ、そしてルーガスとレオンはなんとも言えない視線をシルビアへと向けていた。

「……シルビア」
「……なんて親だ」

 溜息混じりのルーガスと、どこか戦慄したようなレオンの言葉に、シルビアは悪びれもなく楽しそうな笑顔を向けちゃったりする。

「ふふっ、我が娘ながら可愛いわね」

 あ、ダメだこれ、止めれないやつだ。と、ルーガスとレオンは嘆息した。


 



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