魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる
121 再決闘
ロイドがレオンとフェブル山脈にて会うにあたり、ゲイン盗賊団に誘拐された直前に決闘した少年である。
絵に描いたようなガキ大将といった存在のゼームズは、『恥さらし』と馬鹿にする子供達の中でも特に強くロイドに当たっていた。
だが、『国崩し』と呼ばれ帝国にて活躍したという話がウィンディアにも届きーーというより情報を掴まれ、それを聞いた大半の子供達はロイドを”恥さらし”と呼ばなくなっていった。
そんな中でも帝国の一件を認めず、彼を恥さらしと呼ぶ少年がこのゼームズである。
昨日ロイドが帰ってきた事を知り、ゼームズは朝早くから子供達にロイドを連れてくるように命令した。
するとその騒ぎを聞いたゼームズの先生でもあるラルフが言う。
「ロイドなら今日道場に来るはずだぞ」
それならばとゼームズは道場で待ち構えて決闘を申し込むといきりたつ。
それをたまたま通りがかった冒険者がギルドにその話を持ち帰って話していると、懐かしい、面白い、と盛り上がった冒険者達が野次馬となって道場に集まった、という訳だ。
そして今、ゼームズとロイドは1年前と同じように冒険者やゼームズの取り巻きの子供達に囲まれて対峙していた。
「先輩…」
そして1年前を知らないクレアは、その人集りまで下げられ、ロイドを心配そうに見つめていた。
それに気付いた冒険者の1人――ジークが話しかける。
「嬢ちゃん、坊主が心配か?」
「大丈夫よ、ここの道場の奥さん、治癒魔法使えるから」
それにメグリアが続け、ゴンズが頷く。
クレアはいきなり話しかけれて驚いたような表情だったが、人の良さそうな3人にすぐに笑顔を浮かべる。
「いえ、大丈夫ですよ、ありがとうございます」
「お?坊主のやつ信頼されてんだな。でもよ、ゼームズのやつもかなり強くなってるんだぜ?」
「ちょっと、なんで不安を煽ってるのよ!」
悪気のない笑顔で言うジークをメグリアが叩く。
それが可笑しかったのかクレアはつい笑ってしまう。
「大丈夫です、先輩の心配はしてませんよ」
「あれ?実は嫌いなパターン?」
「違いますよ!」
首を傾げるジークに否定の言葉を返した時だ。
――どぉおおおん!
クレアの言葉や周りのがやがやと騒ぐ声を飲み込むような爆音。
ゼームズの火魔法だ。
「相変わらず逃げるのは上手いなぁ!恥さらし!」
「おかげさまで」
話してる間も休みなく放たれる『火球』。以前は詠唱して発動しようとしていたそれを、ゼームズは無詠唱で連射していた。
「いつまでもつかな?!”火よ、駆けて貫け!『炎砲』”!」
中級魔法『炎砲』。ゼームズのかざした右手から炎が真っ直ぐに伸びる。
それを横に避けて走るロイド。
だが、それを読んでいたかのようにゼームズはロイドを追うように右手を動かした。
「おらおら!避けれるなら避けてみろ!」
ロイドを追う極太の炎。『火球』のように点ではなく線上に伸びる『炎砲』。
それを避けられる事を前提に継続して放ち続け、発動したまま追い詰めていこうと判断したのだ。
本来ならば指定されたポイントから一定の方向にのみ進む『炎砲』。
それを発射ポイントの移動を魔法陣に組み込んでいた。
中級魔法の書き換えは一般的に見ればかなりの高等技術である。
ゼームズの力が向上したというのは間違いない。
炎がロイドへと迫る。
周りからは声が上がる。ゼームズの取り巻き達だ。行けぇ!と応援の声が飛ぶ。
「んー、なんか意外だ」
そんな中ロイドの小さく呟かれた言葉。その声ごと炎に呑み込まれそうになる瞬間。
「っ!?」
「消えた?!」
ゼームズの視界からロイドが消えた。
周りの子供達も同じようにロイドを見失い叫ぶ。
「マジか。やるな」
「驚いたわね」
だが、冒険者達は一様に同じ方向に目線を向けていた。
その視線はゼームズへと向けられている。
「結構命懸けの国外旅行だったんで。今度ゼームズも行ってきたら?」
「っ!?」
正確には、ゼームズの後ろに立つロイドを見ていた。
「いつの間にべっ!」
慌てて振り返るゼームズに、ロイドは拳を叩き込む。
吹き飛び背中から地面に叩きつけられたゼームズに、ロイドは距離をすぐに詰める。
「っくそ、」
「ここまでしとく?」
「っ、てめぇ…!」
急いで起き上がろうとするゼームズにロイドは右手を向けて問う。
歯を食いしばって絞り出すように呻くゼームズ。
「まだに決まってんだろぉが!」
しかしゼームズは諦めない。無詠唱での『炎柱』をロイドの真下から放つ。
中級魔法の無詠唱はまだ使いこなせていないらしく、威力は本来のそれより劣るものの、それでも『火球』とは比べ物にならない威力。
「はっはぁ!直撃だ!油断してるからそうなるんだよ!」
「おいおい、大丈夫かよあれ?」
「完全に直撃したぞ!」
「やったぁ!さすがゼームズだ!」
さすがに心配の声を上げる冒険者達と盛り上がる取り巻き達。
が、次の瞬間に誰もが言葉を失う。
「だな。同感、油断すんなよゼームズ」
「なっ!なんでーー」
散っていく炎から無傷のロイドが現れたのだ。
ゼームズは動揺の言葉さえ遮られ、ロイドの放った風の砲弾に直撃した。
「っーー……」
「うわぁっ!」
「いてぇっ!」
意識もないのか、叫び声すら上げず地面に垂直に吹き飛んでいくゼームズは、取り巻き達にぶつかる事で止まった。
「うわ、すまん。ちょっと飛ばしすぎた…大丈夫?」
ロイドはいつものように笑いながら取り巻き達に謝罪する。
ゼームズにぶつかって倒れた取り巻き達が顔を起こしてロイドを見ると、その笑顔がどう目に映ったのか、顔を引きつらせた。
「怪我は……なさそーね。良かった、ほいじゃゼームズを頼んだ」
「……は、はい」
絞り出したような返事にロイドは苦笑いを浮かべる。
こんなにビビられるとなぁ、と聞こえないくらいの小声で呟く。
だが、そんな小声を掻き消す歓声が冒険者から沸いた。
「やるじゃねーかロイド!」
「『国崩し』は伊達じゃねーな!」
「何でこんなとこにいるのロイドくん!」
「「「ん?」」」
その歓声に混じる可憐な声音に、ロイドも冒険者も疑問符を頭に浮かべて声の方を見やる。
そこには、いかにも怒ってます!といった表情のラピスが居た。
「「「……んじゃ、お疲れ様でしたー」」」
一斉に退散する冒険者達。
「僕も今日のところはこのへんで…」
それに紛れて撤退を図るロイド。
「ロイドくん、久しぶり。元気そうで何よりだよ」
そんなロイドを掴んでにっこり笑うラピス。
「……ロイド、ルーガスの子になったなぁ」
なんとも言えない表情で生徒だった少年を見るラルフの声が、妙にその空間に響いた。
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