魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

113 休憩と迫るお別れ

 革命軍とブロズの対談の後、ブロズは東奔西走していた。

 帝城が崩れ、ニューマンにより皇帝の死は確認していた。勿論革命軍も調査をしており、それは確認していた。
 死体は激しく損傷しているが、衣服から見るに間違いないだろうと判断されたのだ。

 しかし兵士達、その中でも強者とされる者達は生きている者もいた。
 その兵士達が離宮の無事に気付くや否やブロズに殺到したのである。

 ブロズを討って帝国を乗っ取ろうとしたり、反対に次期皇帝に担ごうとしたりと様々な思惑を持った兵士達だったが、その悉くがニューマンや革命軍により追い返される。
 その中に騎士団長のフェレスの姿が無かった事が気掛かりだが、さしあたり勝手な動きをされる前にとブロズは迅速に動き出した。

 演説である。

 それは長い演説ではないものの、帝国民の心を惹きつけるには十分すぎるものであった。
 内容の旨は勿論革命軍と約束した、民に寄り添う統治である。
 
 ちなみに、この演説でロイドやレオンも立ち会わされ、そこで一騒動あったりしたのだがこれはまた別の話に。

 ともあれ、あとは統治の実務に取り組むだけとなった。
 とは言え、それを行う施設や人員も無くなった状態の為、今は仮施設として離宮を使っている。が、やはり帝城の再建が目下の課題である。

 これには革命軍やブロズに共感して改めて部下となった帝国兵士達が主に力を見せる事となったとか。

 そんな慌ただしい日々を過ごすブロズだったが、息抜きとなる時間があった。

「おーい、こーてーサマー。おやつをお持ちしましたー」
「これうまいんだぜ!クレアが作ったくっきーってお菓子だ!」
「えへへ。良かったらどうぞ」

 執務室として使っている客間だった部屋。
 そこで書類と睨めっこしているブロズにロイドとグラン、クレアが訪れる。するとニューマンがいつの間にか用意していた席に案内された。

「ちょっと待ってくーーあれ?」

 そしてブロズの書類もさりげなくニューマンに抜き取られる。
 ニューマンなりに休めという合図だ。
 ブロズは仕方なさげに溜息をついてロイド達のもとへ向かう。

「こーてーサマ、焼きたてが美味しいんですよ?早くお座りください」
「そうだぜ!早くしないと全部食っちまうぞ」
「ふぅ、まったく忙しないね。というよりロイド、何だいその呼び方は」

 席につくなり嘆息してクッキーに手を伸ばすブロズは、ロイドに向かって目線を向ける。

「別に敬称はいらないと言ったろう?もちろん公式の場では困るけども」
「いや、仕事頑張ってるなーと思ったから尊敬の気持ちを込めてみた」
「……その割に雑な発音というか、むしろ小馬鹿にされたような気がするんだが…」

 ブロズはクッキーを口にする。
 程よい甘さに抑えられたそれは、書類仕事に疲れた脳に染み渡るようだ。

「美味しい…さすがクレアさん。未知の料理も既知の料理も美味しいものばかりだ」
「えへへ、ありがとうございます」
「いやーお前料理出来たんだな。いまだにびっくりするわ」
「先輩!それ失礼ですよ!」

 時折こうしてクレアの作った料理をこの4人で囲んで食べたりしていた。
 年齢も近い事もあり、あっという間に打ち解けた4人はプライベートでなら敬語も使わずに話す間柄となっていた。

「そういやブロズ、そろそろ帝城が出来るんだって?」
「ん?あぁそうだよ。と言っても机やら中身の搬入はまだ全然だけどね」
「えっ!もう出来んのか?あれで?」
「えっそうなの?でも、なんかこう……ちっさくないですか?」

 現状の帝城再建は凄まじい速度で進んでいるものの、以前の帝城の半分ちょっとのサイズしかない。
 と言っても面積は以前と変わらないのだが、高さが3階しかないのが現状だ。

「あまり無駄に広げる必要もないからね。それだけあれば運営機関としての機能は十分確保出来ると思うよ」
「ふーん。まあ足りなけりゃ付け足しゃいいしな」
「まぁそういう事だね」

 クッキーを口に放るロイドに、今度はブロズから問いかける。

「ところでロイド。君の事はいつ公表したらいいんだい?」
「いや永遠に伏せとけ」
「えー!なんでだよ!いいじゃねぇかロイド!」
「ダメですっ!内緒でいいんですーっ!」

 拒否するロイドと何故かクレアに、ブーイングのグラン。ブロズも残念そうに溜息をつく。
 
 公表、とはブロズが次期皇帝として演説した際の事だ。
 そこに立ち会わされたロイドとレオンが立役者として紹介されたのだが、本人達の希望により名前は伏せていたのだ。

 しかし、前皇帝の統治に不満があった民からすれば英雄と呼んでも過言ではない彼ら。
 しかも皇帝の直々の紹介であり、その彼が演説にて褒め称えるのだ。
 
 そりゃもう勿論貴族達からも注目される。噂が回る。そうなれば2人は一躍時の人である。
 
 レオンは『国斬り』として男から畏怖の念を、未婚の女性からは黄色い声が飛ぶ事となる。

 そして、ロイドはと言うと。

「いいじゃねぇか、かっけぇじゃん!『国崩し』!」
「恥ずいから辞めてそれ……」
「なんでだよ!俺も二つ名欲しいのに!城壁抜けたし、『壁抜け』とかどーよ?」
「はっは、なんそれウケる。泥棒かなんかか?」
「それより君をぜひ紹介してくれと娘を差し出す貴族が多くて仕方ないんだけど」
「いやマジで勘弁してくれ…」

 こうなったのである。

 帝国に昔からある『国斬り』の伝説、そこに記された”天を衝く光”。
 それをもって城を崩したとされるロイドの異名がいつの間にか出来ており、さらには広まっていた。

 実際の所城を崩したのはクレアの補助付きで、おまけに制御しきれなかったダウンバーストによるおまけの被害なのだが、噂は所詮噂である。

 しかし、ロイドがそれを成した事には変わりない。なので否定もしにくく、このような話が定着していったのである。

「てか俺はウィンディアだぞ?言える訳ないだろーよ」
「関係ないさ。それにそこが心配ならこちらの令嬢に嫁げばいい。それで晴れてディンバーの民だ」
「ダメったらダメなんですっ!先輩は自分のおうちに帰るんですーっ!」

 ロイドよりも早く反応するクレア。
 ロイドはなんでお前が言うんだと思いつつも、内容はその通りの為特にツッコミはしない。

「ふふっ、残念。まぁ気が変わったらいつでも言ってよ」
「はいはい、そん時は頼んますよ」

 投げやりに返すロイドに、ブロズは肩をすくめる。
 それからはクッキーが無くなるまで他愛のない話をしていた。

「そーいやレオンさんの稽古は順調なのかい?」
「いやー全然。いまだに1発もクリーンヒットなしだわ」
「いやいや基準がおかしいよ…まずもって当たる気すらしないんだが」
「いやクレアは1発当てたぞ」
「えぇ?!すげぇな姫さん!」
「いやあの、一番最初の時に油断してたとこにちょっと当たっただけで…」
「それでも十分すぎるよ。さすがだね」
「ぷくく、ロイド負けてやがんの!」
「うるせぇ!」

 こうして4人で話す事も当たり前のようになってきた。
 
 しかし、それも後少しの時間である。

「…さてと、俺もそろそろ荷物まとめていかんとな」
「…そうだね。そろそろか」
「ええー!もっといればいいじゃねぇかよー!」

 帝城の完成を見届けたら、ウィンディアに戻ると話していたのだ。
 
 そして、別れを惜しむ時間もないほど、有能な人員達により帝城はあっという間に完成の時を迎えたのである。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品