魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる
108 「再会」
1人の男が立ち上がる。
しかしその男は、英雄ではなく飯屋の店主。
喧嘩が絶えない飯屋の店主として腕に覚えはあれど
皇族には敵うはずもなく。
男は捕まり見せしめとして処刑台に立たされる。
しかし飯の礼だと処刑を食い止めし銀の髪の男現る。
店主を救ったその男を処刑しろと皇族が叫ぶ。
その銀の男、迫る兵士ごと天を衝く光をもって城を斬る。
男は国斬りと称えられ、その国斬りに諭されし皇族は民衆に寄り添う事となる。
語り部の伝承「国斬り」より
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ロイドは白金の光を『崩月』に全て込めたのか、その技を放った後体から溢れていた白金の光は消えていた。
金の瞳も碧へと戻り、そして今その瞳には倒れるクレアが映されている。
ロイドは軋む体でクレアへと歩み寄る。
一歩踏み出す毎に全身に走る刺すような痛み。まるで全身に龍がしがみついているかのように重たい体。魔力枯渇により途切れそうな意識。
今すぐ意識を手放して体を地面に放り出したい、と体が叫ぶが、ロイドはその悲鳴を聞く気にもなれず一歩一歩足を進める。
そして何分もの時間をかけてやっとクレアの近くまで辿り着いた。
そこで限界を超えている体がいい加減にしろと警告を上げるかのように膝から崩れ落ちる。
そのまま抵抗さえ出来ずにしゃがみ込むロイド。
それでもロイドはクレアから、如月から目線を外す事はなかった。
その視線の先で、死んだように眠る彼女を見る。それはまるでいつか見た連勤72日目に職場で2人で寝こけてしまった時のようだ。
「…………ん?」
いや待て、彼女は死んだのだ。自分の不甲斐なさにより、力及ばず彼女を目の前で失ってしまった。
都合の良い幻視でもしてるのか、と己を恥じるロイド。
だからよく見たら腹部が上下しているとか、血に混じって涎が口元から垂れているなんてあり得ない。錯覚に決まっている。
「……ん、んん〜、むにゅ…」
気の抜ける寝息も気のせいだ。
あぁ、ついに幻聴まで聞こえるなんて、俺の体ももうダメかも知れなって嘘だろマジか!とロイドは痛みも忘れてクレアの体を譲る。
「おい如月っ!起きろ!起きてくれ!」
「んぅ?あ〜先輩ぃ、おはよぅございますぅ…」
クレアはほとんど開いてない眼でロイドを見ながらへらりと笑う。
「って遅刻ですか?!すみません、すぐに準備を…って……」
だがすぐにバッと機敏に体を起こしたクレア。
寝惚けているのは間違いないが、すぐにそれに気付いたのか今度は慌ててロイドへと目を向ける。
「そうだ、先輩!大丈夫ですか?!生きてまーー」
ロイドを心配するクレア、その言葉を遮るようにロイドはクレアを抱き締めた。
一瞬何が起きたが分からないといった感じに固まるクレア。
だがすぐに理解したのかその紅い瞳に負けないくらい顔を赤くさせる。
「え?!せ、せせ先輩っ?」
「良かった…」
慌てながらも距離をとろうとロイドの肩に手を置こうとしたクレアだが、耳元に聞こえる声にその手を空中で止める。
「良かった、生きてたんだな…」
「あ……」
聞いた事のない弱々しい彼の声。
今にも泣きそうな、それでいて安心しきったかのような声に、クレアは感情が鼓動するのを感じた。
洗脳されていた不安や恐怖はとても大きかった。だが、その混濁しながらも見えたロイドの姿。
すぐに黒川涼だと分かった。そして、その彼が強力なスキルを駆使するジルバに立ち向かう姿にーークレアはかつてないほど恐怖した。
彼が死んだらどうしよう。
だが、彼は生きていた。生きててくれた。
「…ぅ……」
クレアは気付けば一筋の涙を溢していた。
「如月、情けない先輩で悪かった…」
「…な、んでですか、おかげで生きてますよ?」
震える声のロイドに、クレアは鼻声で応える。
一度流れてからは堪えようもなく溢れる涙は頬を濡らしていく。
鼻を啜る音を縫うように、ロイドはゆっくりと言葉を続ける。
「…怪我させちまって悪かった…」
「…だ、いじょうぶ、です、よ…?」
「……俺が、もっと強ければ、しっかり助けてやれたのにな…」
「…ぅ、ぐすっ…しっ、かりと助けて、もらっ、てます、よ?」
「お前が生きててくれて、本当に良かった…」
「ぅ、うぅ…せ、先輩も、生きててよか、たですぅ…」
ロイドの震える声と、自分の首を伝う彼の涙。
それを感じたクレアは空中で固まっていた両腕を彼の背中へと回した。
堰を切ったように溢れ出す涙を隠すように。ロイドをーー黒川涼を強く抱きしめた。
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