魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

103 墜ちる風と崩れる城

 竜巻によって上昇した地上の空気は上空で冷えて重くなり再び落ちてくる。

 転生してすぐの頃、風を扱う一族として産まれたロイドは前世の記憶を頼りに風をより上手く扱う知識を必死に思い出していた。
 その中の一つ、ダウンバーストである。

 風の魔術を習得して風を操るようになってからも魔力量が足りずに行使には至らなかったのだが、クレアのスキルを聞いて今なら使えると判断したものだ。

 もっとも、ただ使うだけなら威力はともかく不可能ではない。
 だが、ダウンバーストは落ちてきた風が周囲にもたらす被害が大きい現象である。
 それを魔術の操作可能の距離で行えば自分へのダメージも大きい。

 だが、この風はただの気象現象ではなく、魔術によるものだ。つまり、操作が出来る。
 この破壊的な風を操作出来る程の魔力が不足していたのだ。

 これをクレアにより一時的に可能なレベルにまで引き上げられたロイドは、風の拡散を抑えて集中させ、それでも抑えきれない風を一定方向に逃す事で自分達へ被害が及ばないように操作。

その結果。

「ぐ…ぐあぁぁああっ!!」

 天災と評してもいい暴力的な風にジルバの御光は砕かれ、その身を地面に押しつけられた。
 体は限界を超える負荷に耐えきれず悲鳴をあげ、口からは彼のキザったらしさの欠片もない獣のような声が漏れ出す。

「ぐ、ぐぎぎ…!」

 一方ロイドも今にもコントロールから外れて暴れ出しそうな風を必死に操作する。一歩間違えば己に牙を剥く風を渾身の魔力と魔力操作で抑え込んでいた。

 だが、魔力量は上がっても魔力操作の技術まで上がる訳ではない。
 ロイドとしては風をとにかく一点に集中させて威力の向上を考えていたのだが、どうやらそれは難しいようだ。

 そう判断したロイドは下手に収束してコントロールを超えてしまうよりコントロール出来る分だけしてあとはどこかに逃してしまおうと判断。

 操作するのも限界が来ていたロイドは咄嗟に目についた方向へと風を逃す事にした。

 余裕もなく慌てていたロイドが咄嗟に見た物ーーそれは城である。

「だぁあああ!!もー無理ぃ!」

 潔くロイドは収束を諦めて風を城に向けて逃す。
 超高度から吹き荒れる破壊的な風――それも魔術により意識的に加速させたもの。
 
 それが地面へとぶつかり拡散する。
 拡散したものでさえ木々をなぎ出し災害と呼べる破壊を撒き散らす暴風。

 それを一点に集めた被害はロイドの想像を遥かに超えたものだった。

――ビキビキビキビキッ

 不吉な音を立てて城に亀裂が入っていく。

 それに気付く余裕もないロイドは残り少なくなってきた風を一気に加速。
 トドメだとばかりにジルバへと目掛けてぶつける。

「ぅおらぁああ!!」

 そしてジルバにぶつけたそれを最後の力を振り絞って操作。拡散しようとする風を逃す。
 もちろん城に。


 そのロイドの後ろでそろそろ魔力増幅の効果が切れそうになり洗脳の効果と戦っているクレア。
 その抵抗も限界に近く、意識が混濁していく中で視界に映った光景。

 力尽きたのか蹲るロイド。
 オーバーキルではないかと思われたが何気に五体満足で、しかし地面に伏せたまま動かないジルバ。

 そして豪快ながらも不思議と虚しさを感じさせる音を立てて崩れていく立派なーー立派だった帝城だった。


「はぁっ、はぁっ…」

 一方ロイドも魔力増幅の効果が切れ、さらには脳が焼き切れそうな程の魔力操作により疲弊しきっていた。
 立っている事すら億劫でその場で蹲り、呼吸を整えることすら思い至らずにただ息を荒げている。

 あれ?帝城壊れてない?
 そんな事を頭の端に考えつつも、それを深く考えるだけの余裕すらない。決して向き合いたくなくて疲弊に逃げている訳ではない。

 帝城に人居たら死んでる?
 いや、疲弊した頭ではそんな事は考えられない。そう、今はとにかくクレアとジルバがどうなったかだけを考えなければ。

 そう考えつつロイドは顔を上げてクレアへと目を向ける。勿論頬を伝うのは疲労による汗であって冷や汗ではない。

 クレアは帝城最上階で見たような生気を感じない眼をしている。やはり制限時間を超えてしまったようだ。
 心配だが、治し方など今は分からない以上、まずはその元凶の確認をしなくてはならないと考えてジルバの方へと目線を向ける。
 
 そこにはこう言ってはなんだか、よくあれで原型が残ったなと言いたくなる惨状があった。
 地面は抉れて所々砕けた地面が捲れ上がっている。城へと逃した風の通り道は抉れており、綺麗に整備されていた草木は吹き飛ばされ地面が露出していた。

 その爆心地で全身から血を流すジルバ。御光に全魔力をまわしたのだろう、それでも欠損どころか骨折さえしてないように見える。

 クレアがまだ洗脳から解けてないのはジルバの意識があるからか、それとも死をもってしか解放されないのかはロイドには分からない。

 しかし抵抗する力は残ってないだろう、そう思って鉛のように重たい体に鞭打って立ち上がると、ジルバへと足を進める。
 抉れた地面のふちに立ち、ジルバを見下ろすロイド。

 その視線の先で、
 


――ドクン

 

 不気味な音とともに、ジルバの体が揺れた。

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