魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

96 悪魔

 その後も息をつく間もなく降り注ぐ黒い腕による破壊。
 どうにか躱し続けているも、魔力は減っていくばかりで、体力も有限である。

「ちっ、キース!お前のスキルはこいつには不向きだ!一回離れて援護に回れ」
「っですが!」
「いいから!こいつ硬いけど、どうにか隙見てどうにか一撃入れろ。いいな!」
「指示が雑ですが!?」

 ギランはキースが離れる隙を作る為に、腕を躱した際に地面に手を着いて魔法を発動する。

「おォッ?!」

 すると、キースを狙う拳を遮るように地面から鉄の壁が伸びる。
 その隙に危険地帯から撤退するキース。そのまま駆け出して他の革命軍達が下がっている方まで走り去っていく。

「土魔法じゃねェのか!なかなか硬ェな!」

 ギランの金属魔法にソレは牙をのぞかせて笑う。
 そして、防がれた右腕をまた大きく振りかぶった。

「けど、俺よりは脆いなァ!」
「なっ?!」

 そして振り下ろされた拳により砕かれた金属魔法による壁。
 ギランとしてもへこまされたり歪まされたりといった経験はあれど砕かれた事はない。さすがに驚きを隠せずに固まってしまう。

「ったくなんなんだよおめぇは!」

 だがそれを隙と呼ぶレベルにはさせずすぐに立て直す。
 悪態という形で驚愕を吐き出した。

「何ももクソもねェよ!悪魔召喚されて出てくんのは悪魔に決まってんだろォが!」
「はぁ?あ…悪魔…?!」

 悪魔。ギランも話に聞いた事があった。

 とは言え都市伝説程度の眉唾ものだったが、実際に見てしまったからには信憑性は一気に増した。

「ってことはあの魔法陣、帝国の秘宝とか言うやつなのか…?」

 大昔に封印された悪魔を封じた魔法陣があるとか、それが帝国の皇族が管理しているとか言う話である。

「なんだ知らねェのか?まァ長い間誰も呼ばなかったし忘れられてんじゃねェかとは思ってたけどよォ」

 独り言のように呟きつつも拳を振り上げるソレーー悪魔。
 ギランも必死に魔力を練り上げては属性変換して金属の壁を生み出すが、まるで粘土細工のように片っ端から壊されていく。

「しかも久々に出てみりゃ魔術師モドキみてェなのしかいやがらねぇ!つまらねェなオイ!」

 歯を食いしばって魔力を振り絞るギランだが、すでに限界に近い。
 息も切れ始め、金属の壁もだんだんと間に合わなくなっていく。
 
 いよいよやべぇなぁ、とギランが内心で呟いた時だった。

「ギランさん!」

 後ろから叫ぶのはキース。
 その手には巨大な戦斧。持ち手からもちろん刃にあたる場所までが一体化しており、金属で出来ている。

 それを引きずるようにして持ってくるキースは、身体魔術を使って渾身の力でギランへと投げる。

「なんだァ?こいつの武器か?」
「おおっ?!そいつぁ……!キース、よく見つけたな!」

 これどっかに忘れてそれっきりだったのによ!と続けながら振り返って走り出すギラン。
 そして力強く地面を蹴って跳躍し、空中で戦斧を掴む。

 一方、戦斧を投げて身軽になった事で加速したキースは真っ直ぐと悪魔に向かって駆け出していた。
 両手にはボールのような物をいくつか掴んでいる。

「おォ?次はお前かァ?」

 ギランを追う事すらしなかった悪魔は入れ替わるように出てきたキースを一瞥する。
 走ってくるタイミングに合わせるように腕を振り上げた。

「ちげぇよ」

 だがキースはタイミングを外すように減速。その速度を全て受け渡したかのように掴んでいたボールがいくつか投擲された。

 悪魔はそれに構わず拳を振り下ろす。もしかしたらそのボールを弾き返そうとしたのかも知れない。
 だが、ボールは弾かれずに破裂した。

――カッ!

 強烈な光を伴って。

「っ、くそがァ!」

 至近距離でそれを見た悪魔は目を灼かれた。激しく痛む目を両手で押さえる。

「今ですギランさん!」
「よくやったぁキース!でもよく見えねぇからしっかり離れてろぉ!」
「いやなにちょっと食らってるんですか!」

 目を赤くしてちょっと涙目になってるギランに文句を言いつつギランから悪魔への射線からダッシュで離れるキース。
 それを痛む目でなんとなく確認したギランは少なくなった魔力を全て戦斧に注ぎ込む。

「いくぞぉおおお!!」

 流れ込む魔力に反応するように、捧げるように上へと掲げた戦斧は大きさを増していく。

――スガァアアァン!!

 そして目を押さえて無防備な悪魔に向かって、超重量兵器と化したそれを思い切り叩きつけた。


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