魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

95 未知の脅威

 地上の城にまで鳴り響く昏い鼓動。

 黒い光の収束した魔法陣。

 その光を浴びた故か、それとも魔法陣を発動した代償か。
 まるで生気が無くなったかのような魔法師団団長ルビィ。

 警戒して距離をとるギランとキース。
 そしてキースの指示により撤退に近い距離まで後方へと下がった革命軍メンバー。


「カ、カカカカカカッ!!」


 そんな中、鼓動の音源から笑い声が響き渡った。

「な、何が起きてるんだ…?!」

 革命軍の1人が呟く。その言葉はここにいる誰もが等しく思った事だろう。

 その直後。

――バンッ

 弾けるように魔法陣から飛び出した黒い腕。そこからは早かった。
 こう言ってはなんだが、熱湯に落ちた芸人の伝統的リアクションのような速度で飛び出すそれ。

 あっという間に全身を魔法陣から飛び出して立つそれに、帝国軍も革命軍もただ見ていた。

 黒い体は巨大きく、4メートルはあろうか。広大な地下通路の天井に頭がつきそうな程の身長。
 その四肢は長い年月を経た大木のように太く、そして硬質ながらも凹凸のある岩肌のような皮膚に覆われている。

 普通の人間のフォルムよりは腕が長めなのも特徴だろう。
 指も長く、他の部位よりもさらに硬質な質感に見えた。
 
 そして瞳は血を煮詰めたかのようなどろりとした赤色。
 牙は鋭く、頭部はボサボサに逆立った黒い髪が揺れていた。

「なんだなんだァ?美味そうなやつらばっかじゃねェか!」

 唐突に叫ぶそれ。
 空気が震え、体から溢れる魔力も加わり、周りの人達は体が硬直してしまう。

「んン?なんだァ?まさかこの程度の威圧でビビってんのかァ?!」

 口を開き、声を発する。
 それだけの事でこの戦場にて生き残った面々の精神力は大きく削られていった。
 
 決して弱い訳ではない彼ら。しかし、分かってしまうのだ。


 この化け物には勝てないと。


「な、なんってうるせぇ声してんだこいつ!?」
「そこじゃないでしょうに……と言いたいですが本当に煩いですね」

 そんな中、最も近い距離に居た2人が耳を押さえて文句を言う。
 誰もが硬直した世界で、まるでそこだけ時間が流れているかのようにも見える。

「おォッ?マシなヤツもいるじゃねェか!ちょっと遊ぼうぜェ?!」

 それに興味を持つのはある種当然か。
 黒いソレは2人へと目線を向けて一段と声量を上げて言い放つ。

 体を叩く声とそれに乗った魔力。ビリビリと体が震える2人は、

「だぁあああうるせえええぇええ!!」
「うわうるさっ!どっちもうるさいですよギランさん!」

 怒っていた。

「おま、うるさいってなんだキース!」
「いや今のは不可抗力ですよ。左右それぞれの鼓膜やられるかと思いましたよ」

 さらには内輪揉めまで始める始末。
 だが、黒いソレはそれに構う事はない。

「威勢がいいなァ!おらいくぜェ!」
「うおっ!」
「なっ!?」

 突如――ではないが2人にとってはーー振るわれた長い豪腕。
 それをそれぞれ躱そうとするも、予想を遥かに超えた速度に完全に躱せずに受け流しにかかる。

 しかしそれでも受け流しきれず、体勢を崩される2人。
 即座に転がりながら距離をとって体勢を立て直すも、その表情は厳しい。

「おいおい、マジかぁ。キース、あれどうすりゃいいと思うよ?」
「困りましたね…思い付きませんよ」

 明らかに様子見程度の一撃だったにも関わらずこれだ。
 戦い慣れている2人はそれだけで目の前のソレの戦闘能力が隔絶されたものだと理解してしまったのだ。

「次行くぞォ!」

 引きつる表情の2人に、返す腕で再び凶悪な豪腕が振るわれた。

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