魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる
88 圧勝
完全に不意打ちだったはずだ。
あのタイミングで放った攻撃を躱すなんてこちらの攻撃に気付いていたなんて事がない限り不可能のはず。
そう頭の中で考えつつルビィは目の前に立つキースへと目を向ける。
「座ったまま相手にしてくれるのか?」
キースは混乱からか立ち上がれずにいたルビィが動くのを待つ事なく駆け出す。
その助走のままにサッカーボールでも蹴るかのように脚を薙ぐように振るう。
「くっ!」
それを転がるようにしてギリギリで躱したルビィは、服を砂で汚しつつ立ち上がる。
彼女からすれば顔を殴られた事も服を汚した事もプライドを大きく傷つけられていた。
こみ上げる怒りをそのままに急速に魔力を高めていく。
「くそが!『豪炎』!」
「くそはてめーだろぉ?」
大地を放射状に走る炎を放ち、キースを飲み込まんとする。
範囲攻撃なら躱す事も出来ないと考えた攻撃だったが、それはギランの金属魔法によって防がれた。
「ちぃっ!ギラン貴様ぁ!」
「気安くギランさんを呼ぶなヒス女」
そのギランに右手をかざして火魔法を叩きつけんとするルビィに今度はキースが迫る。
まるで感覚の隙間をすり抜けられたように、全く気付かない内に間合いに入られていた。
「なっ…?!」
慌てて振り返るもキースの繰り出した拳に再び頬を貫かれる。
身体強化で底上げしている耐久力だったが、2発目でついにそれを上回ったのか口からは血が流れていた。
「くそぉ!なんなんだお前は!」
「革命軍リーダーだ」
まるで受け答えする気のない返事をするキース。
彼にはスキルがあった。"感覚強化"というスキルで、五感や魔力に対する感覚を自在に強化出来るというものだ。
それにより視力を強化してルビィの視線を見切って掻い潜ったり、魔力の動きを察知して魔法に対して先回りした行動が取れたのである。
勿論敵に丁寧に説明する気などないキースに、なんとも言えない戦い辛さに叫ぶルビィ。
しかしキースばかりに気をとられている訳にもいかない。
「俺を無視とは余裕だなぁ」
はっとして慌てて振り返ると目の前には視界を覆い尽くすかのような鈍い硬質の光を放つ塊達。
「っ!!」
ルビィは恥も外聞もなく地面に転がり込むようにして回避を試みる。が、完全には躱し切れず肩を撃ち抜かれた。
「ぐぁあっ!」
「隙だらけだな」
地面に転がされるように吹き飛ばされるルビィにキースが追撃で蹴りを放つ。
今度はしっかりと捉え、ルビィの腹を撃ち抜いた。
「ごふっ!が…かっ…!」
のたうち回るルビィを見下しつつ、おもむろにギランは口を開いた。
「弱いなぁお前。さてはろくに戦った経験ないだろ?」
「な…んだって…?」
呼吸を乱しつつも睨み付けてくるルビィにギランは言葉を続ける。
「まださっきの水の男の方がマシだってんだよ」
「ふざけるな…私は魔法師団団長だぞ…!」
帝国軍の魔法師の中で最強の称号を意味する肩書き。それを持つ自分が他の魔法師よりも弱い?
ルビィは怒りを込めて聞き返すが、ギランは当然のように頷く。
「あぁ、だとしてもだ。どうせあれだろ?帝国のバカどもの事だから威力が高い魔法を使えりゃ強いみたいな考えなんじゃねぇのか?」
「……だからなんだと言うのだ」
間違ってない。
確かに大量に殲滅出来る威力や堅固な肉体を持つ魔物を駆逐出来るかなどは帝国において大きな基準ではある。
「お前は高い魔力にものを言わせた高火力な攻撃のゴリ押ししか出来ねえんだろ。だから絡め手や自分と張る攻撃力の相手とかに対応するのが下手なんだよ」
そう、彼女は常に敵を圧倒してきた。
戦術も戦略もなく、魔力を込めて火魔法を放てばそれで良かったのだ。
だからサファイのように作戦も練らない。いや、練れない。
キースのような絡め手を使うスキルの持ち主にも良いようにあしらわれる。
「まぁ魔法に力を入れだしたって言っても結局は帝国軍って事だな。相変わらず脳筋なやつらだ」
「ふざけるな…」
屈辱。その感情が頭を埋め尽くしていた。
私は帝国軍最強の魔法師だ。この男を倒す事など容易のはずだった。なのにこれはなんだ?
「まぁ2対1で卑怯とか言わなかったあたりはさすがだな。まぁ自分で言ってたくらいだしな……戦いに卑怯なんて通用しないってよ」
そう言いつつ足を踏み出すギラン。キースも合わせるように足を進めていく。
トドメだ。
言外にそう言われているかのような2つの足音に、しかしルビィは固まったままだ。
もう立ち上がる力もないか?と警戒はしつつもそう判断するギラン。
「ふざけるな……こんな事あるものか……」
ぶつぶつと俯いて呟くルビィ。呆気なかったな、とギランが思ったその時だった。
「ギランさん!離れて!」
何かを察知したキースから飛ぶ言葉。キースの感覚に全幅の信頼を置いているギランは、考えるよりも早く後ろに飛び退いて距離をとった。
「ふざけるなぁぁあああ!!」
距離をとった瞬間、ルビィから溢れ出す黒い光。
暗い地下通路においてもなお暗いそれにギランは目を瞠る。
「なんだこれは?」
「分かりません。ですが、よろしくないものなのは確かですね」
キースも回り込むように距離をとり、ギランの横に並ぶようにして移動していた。目線を黒い光に向けたまま話す2人。
その目の前で、黒い光はだんだんとルビィに収束していく。
いや、よく見るとルビィではなく彼女が持つ紙のような物に収束していた。
その紙のような物はルビィの手の中に折り畳まれていたが、弾かれたように開いて空中へと浮かぶ。
「あれが原因か?」
「そのようですが…」
ならば今の内に破壊する。
そう考えたギランは即座に金属魔法を発動した。
素早く発射された金属塊がその紙に迫りーー黒い光に弾かれて地に落ちた。
「うお?!なんだこれ?!」
予想外の結果に驚くギランの前で、黒い光はついに紙へと収束しきっていく。
そして光が収まりきった事で2人とも気付いた。
その紙には複雑な魔法陣が書かれていた事に。
――ドクン
そして、その魔法陣から鼓動がこだました。
あのタイミングで放った攻撃を躱すなんてこちらの攻撃に気付いていたなんて事がない限り不可能のはず。
そう頭の中で考えつつルビィは目の前に立つキースへと目を向ける。
「座ったまま相手にしてくれるのか?」
キースは混乱からか立ち上がれずにいたルビィが動くのを待つ事なく駆け出す。
その助走のままにサッカーボールでも蹴るかのように脚を薙ぐように振るう。
「くっ!」
それを転がるようにしてギリギリで躱したルビィは、服を砂で汚しつつ立ち上がる。
彼女からすれば顔を殴られた事も服を汚した事もプライドを大きく傷つけられていた。
こみ上げる怒りをそのままに急速に魔力を高めていく。
「くそが!『豪炎』!」
「くそはてめーだろぉ?」
大地を放射状に走る炎を放ち、キースを飲み込まんとする。
範囲攻撃なら躱す事も出来ないと考えた攻撃だったが、それはギランの金属魔法によって防がれた。
「ちぃっ!ギラン貴様ぁ!」
「気安くギランさんを呼ぶなヒス女」
そのギランに右手をかざして火魔法を叩きつけんとするルビィに今度はキースが迫る。
まるで感覚の隙間をすり抜けられたように、全く気付かない内に間合いに入られていた。
「なっ…?!」
慌てて振り返るもキースの繰り出した拳に再び頬を貫かれる。
身体強化で底上げしている耐久力だったが、2発目でついにそれを上回ったのか口からは血が流れていた。
「くそぉ!なんなんだお前は!」
「革命軍リーダーだ」
まるで受け答えする気のない返事をするキース。
彼にはスキルがあった。"感覚強化"というスキルで、五感や魔力に対する感覚を自在に強化出来るというものだ。
それにより視力を強化してルビィの視線を見切って掻い潜ったり、魔力の動きを察知して魔法に対して先回りした行動が取れたのである。
勿論敵に丁寧に説明する気などないキースに、なんとも言えない戦い辛さに叫ぶルビィ。
しかしキースばかりに気をとられている訳にもいかない。
「俺を無視とは余裕だなぁ」
はっとして慌てて振り返ると目の前には視界を覆い尽くすかのような鈍い硬質の光を放つ塊達。
「っ!!」
ルビィは恥も外聞もなく地面に転がり込むようにして回避を試みる。が、完全には躱し切れず肩を撃ち抜かれた。
「ぐぁあっ!」
「隙だらけだな」
地面に転がされるように吹き飛ばされるルビィにキースが追撃で蹴りを放つ。
今度はしっかりと捉え、ルビィの腹を撃ち抜いた。
「ごふっ!が…かっ…!」
のたうち回るルビィを見下しつつ、おもむろにギランは口を開いた。
「弱いなぁお前。さてはろくに戦った経験ないだろ?」
「な…んだって…?」
呼吸を乱しつつも睨み付けてくるルビィにギランは言葉を続ける。
「まださっきの水の男の方がマシだってんだよ」
「ふざけるな…私は魔法師団団長だぞ…!」
帝国軍の魔法師の中で最強の称号を意味する肩書き。それを持つ自分が他の魔法師よりも弱い?
ルビィは怒りを込めて聞き返すが、ギランは当然のように頷く。
「あぁ、だとしてもだ。どうせあれだろ?帝国のバカどもの事だから威力が高い魔法を使えりゃ強いみたいな考えなんじゃねぇのか?」
「……だからなんだと言うのだ」
間違ってない。
確かに大量に殲滅出来る威力や堅固な肉体を持つ魔物を駆逐出来るかなどは帝国において大きな基準ではある。
「お前は高い魔力にものを言わせた高火力な攻撃のゴリ押ししか出来ねえんだろ。だから絡め手や自分と張る攻撃力の相手とかに対応するのが下手なんだよ」
そう、彼女は常に敵を圧倒してきた。
戦術も戦略もなく、魔力を込めて火魔法を放てばそれで良かったのだ。
だからサファイのように作戦も練らない。いや、練れない。
キースのような絡め手を使うスキルの持ち主にも良いようにあしらわれる。
「まぁ魔法に力を入れだしたって言っても結局は帝国軍って事だな。相変わらず脳筋なやつらだ」
「ふざけるな…」
屈辱。その感情が頭を埋め尽くしていた。
私は帝国軍最強の魔法師だ。この男を倒す事など容易のはずだった。なのにこれはなんだ?
「まぁ2対1で卑怯とか言わなかったあたりはさすがだな。まぁ自分で言ってたくらいだしな……戦いに卑怯なんて通用しないってよ」
そう言いつつ足を踏み出すギラン。キースも合わせるように足を進めていく。
トドメだ。
言外にそう言われているかのような2つの足音に、しかしルビィは固まったままだ。
もう立ち上がる力もないか?と警戒はしつつもそう判断するギラン。
「ふざけるな……こんな事あるものか……」
ぶつぶつと俯いて呟くルビィ。呆気なかったな、とギランが思ったその時だった。
「ギランさん!離れて!」
何かを察知したキースから飛ぶ言葉。キースの感覚に全幅の信頼を置いているギランは、考えるよりも早く後ろに飛び退いて距離をとった。
「ふざけるなぁぁあああ!!」
距離をとった瞬間、ルビィから溢れ出す黒い光。
暗い地下通路においてもなお暗いそれにギランは目を瞠る。
「なんだこれは?」
「分かりません。ですが、よろしくないものなのは確かですね」
キースも回り込むように距離をとり、ギランの横に並ぶようにして移動していた。目線を黒い光に向けたまま話す2人。
その目の前で、黒い光はだんだんとルビィに収束していく。
いや、よく見るとルビィではなく彼女が持つ紙のような物に収束していた。
その紙のような物はルビィの手の中に折り畳まれていたが、弾かれたように開いて空中へと浮かぶ。
「あれが原因か?」
「そのようですが…」
ならば今の内に破壊する。
そう考えたギランは即座に金属魔法を発動した。
素早く発射された金属塊がその紙に迫りーー黒い光に弾かれて地に落ちた。
「うお?!なんだこれ?!」
予想外の結果に驚くギランの前で、黒い光はついに紙へと収束しきっていく。
そして光が収まりきった事で2人とも気付いた。
その紙には複雑な魔法陣が書かれていた事に。
――ドクン
そして、その魔法陣から鼓動がこだました。
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