魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

85 地下通路の戦い

 じめじめとした暗いその空間に、ぼんやりとした光がいくつか浮かんでいた。

 帝都地下に伸びる地下空間は、そう沢山の場所に繋がるような広大さはない。
 だが戦闘を考慮して作られたそれは、人が横に5人並んでも歩ける程の広さはあった。

 そして万が一見つかってもすぐに悪用されないようフェイクの通路がいくつかあり、道を知らない者では何度かは行き止まりの道を進んでしまい、すぐには目的地に辿り着けないようにもしていた。

 そんな地下通路を列を作って歩く集団。

 その先頭には革命軍リーダーのキースと、同元リーダーのギランだ。その後ろには革命軍本部の面々が完全武装で追随している。

「まさかギランさんが再び手を貸してくれるとは…ありがとうございます」
「気にすんなってぇの。むしろわしが抜けた後をしっかりやってくれとるようだしな」

 当たり前と言えばそうだが、2人は元々仲が良く、久しぶりの2人の会話をこんな状況ながら楽しんでいた。

「いや、まだまだです。なんの進展もないですし…」
「だがお前がリーダーになって戦死や孤児なんかの死亡者は減ったと聞いとるぞ。俺のような戦闘しか出来んバカには出来なかった事だ」
「とんでもない。その戦闘能力のおかげで今こうしてアジトやらを確保出来てるんですから」

 2人は頬を緩めたまま言葉を交わし合う。
 敵地に向かっているとは言え、こうして話せるのも久しい2人はこの時間を確かに楽しんでいた。
 
「まぁ積もる話もあるが、そろそろ頃合いのようだ」
「ええ、ちょっと怪しくなってきましたね」

 とは言え気を抜いている訳ではない。
 周囲に気を配り、2人はほぼ同時に会話を切り上げる。

 キースは手を上げてくるくると手首を回すような仕草をして、後方にいる仲間達に注意を促す。ハンドシグナルだ。

「こりゃぁ……見られとるなぁ」
「ですね。恐らく伏兵もいるでしょうし」
「だなぁ。撤退、突撃、迎撃…どうしようか?」

 キースは手を上げたままハンドシグナルを止めている。
 革命軍からは緊張した空気が伝わってくるが、その空気に紛れるように敵兵の気配を感じていた。

「どうします?」
「リーダーはキースだろぉ。キースが決めりゃええ」
「そうですか。では、一気に突っ切ります」

 突撃を選ぶキースに、ギランは獰猛な笑みを浮かべて言う。
 ここで手間取る訳にはいかない。さらに言えば、もし手間取っても囮になるという役目は果たせると考えた。

「好みの選択だぜ」

 その言葉を合図にしたかのようにキースが勢いよく上げていた手を振り下ろす。
 すると一斉に革命軍達が走り出した。

「迎撃せよっ!」
「どけぇ小童ぁ!」

 駆け出した革命軍を遮るように飛び出してきた伏兵――帝国軍兵士が立ち塞がる。

 やはり居たか、という考えと、地下通路がバレた事やなぜここに来た事がバレた?のいう疑問を浮かべるキース。
 
 ギランは同じ事を考えたがすぐに考える事を放棄。
 腕を振るうようにして魔法を発動する。
 
 すると地面がその腕に倣うかのように隆起して兵士達を押し流した。

「さすが……皆!道は作る!遅れずついて来い!!」
「「おおっ!」」

 無詠唱の土魔法『土流』。
 それにより出来た道をキースはすかさずメンバー達に示す。

 兵士をものともしない光景に革命軍メンバーは気持ちを昂らせて追随した。

「雑魚ばっかり置いとるのかぁ?!引っ込んでろぉ!」
「……っ!ギランさん、前です!」
「あぁ?」

 そうして進む一行の前に、膨れ上がる魔力。
 それを察したキースは素早くギランに声をかける。
 
 ギランも即座に前方に土魔法により石飛礫を射出するが、一拍間に合わない。

「『水流瀑布』!」

 どうやらすでに詠唱をしていたようだ。本来詠唱に時間のかかる水の上級魔法が発動される。
 巨大な水量が指定の方向に向かって流れるというだけの魔法で、使用する魔力量を考えなければ難しい魔法ではない。

 だが、その威力はバカにならない。
 巨大な水はそれだけで凶悪な破壊力を有している。
 それがこの限られたスペースしかない空間で発動されてはたまったものではない。

 ギランの土魔法はあっさりと水流に呑まれてしまった。
 それでも収まることのない勢いで見上げるほどの水が迫る。

「くそっ、魔法師団か!」
「だろうなぁ!だが甘え!」

 吐き捨てるように叫ぶキースにギランは頷きつつ地面に手を当てる。

 しかし、魔法を放った魔法師団は勝利を確信していた。

(甘いのはそっちだ!のこのこと集団で出向いて……)

 この狭い空間に待ち伏せし、逃げ場のない高威力の魔法を放つ。
 
 それだけでほぼ勝利は決まると言える。

 しかし相手には長年に渡り帝国軍を苦しめてきたギランが居る事は分かっていた。

 接近戦のみならず魔法でも類稀なる実力を持つ元革命国リーダーギラン。
 その仇敵を前にしては並の魔法では返り討ちに遭うのが関の山だ。

 だが、

(だが、俺の本気の一撃なら押し勝てる!)

 彼は魔法師団副長サファイ。
 彼は水魔法を得意としており、水魔法であれば魔法師団長をも凌ぐ実力者である。

 土魔法は基本的に水魔法に弱いのである。
 ギランは土魔法を得意としているが、それ以外の魔法についてはあまり使わないとされていた。
 であれば水魔法を高威力で放てば良い。

――ドパァァアン!!

 耳を叩く轟音が地下空間に響く。
 岩を、土を砕き押し流す水流が叩きつけられた音。
 魔法師団副長である彼は思わず頬を歪める。

 その災害と見紛う威力を前にしては何一つ残ることはない。

「なかなかやるようになったじゃねえか。昔はお飾りの部隊だったてのによぉ」
「――な…?!」

 ――はずだった。

「おかげで隠し球まで使っちまったぜ」
「なんだそれは…!」

 そこには、巨大な鈍く光る壁があった。あのバカげた質量を誇る水流を受け止めきったそれは、土魔法の『鋼壁塊』に見える。
 あれは地面にある金属を土魔法で周りの土ごと掘り起こし、固める際に金属を表面に並べて硬度を上げる上級魔法である。

 しかし、いくら表面をコーティングしようと莫大な水量で押し込まれてはひとたまりもなく、すぐにコーティングを貫いて中の土を押し流され、その防壁を崩されてしまう。

 ではこれは何だというのか。それほどまでに厚く金属を集められたというのか?

「まぁ引退してまで隠し通す必要もねえ。しっかり見せてやるから、目に焼き付けとくんだな!」

 狼狽するサファイに、ギランは豪快に言い放った。

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