魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

81 レオン式ショートカット

 口を開けて笑うレオンとそれに怒るロイド。
 それらを驚きやら混乱やらで固まったまま見ている革命軍の面々。

 なんとも妙な空間になっているが、レオンがおもむろに話し出す。

「まぁ…甘えておけ。お前はまだ弱い。だが力を借りることが出来るというのもひとつの力の形だ。今はそれに甘えろ」

 普段はぶっきらぼうに教えたり、もしくはまずは実践たと放り出すレオン。
 だが何故かは知らないが機嫌が良いのだろう、諭すように丁寧に話していた。
 
 ロイドもこれまた珍しく悪態などつかずに数拍置いてから頷く。

「そうだぞロイド。坊主お前結構無茶なとこあんだな…」
「そうですね……斬新な自殺ですよそれ」
「ロイドお前バカなんだな!」
「言い過ぎだろ!」

 次いで硬直から復活したギランが会話に混じる。
 それを皮切りにシエルやグランもロイドに話し掛けていく。

 ギランが笑い、シエルは呆れ、グランはロイドの背中をバシバシと叩き、ロイドがそれを怒りながら振り払う。
 ぎゃーぎゃーと騒ぐ彼らに幹部達の気まずさも和らいだのか、最後には素直に反省の言葉を述べたのだった。



 その後、タンタはじめ幹部達は持ち場に戻り、シエルを中心に帝都での動きを話し合っていく。
 シエルが話し、ギランが付け足し、グランが質問し、ロイドが聞く。
 レオンはその様子をただただ眺めていた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 それから話し合いは夜まで続き、計画は明日からという事になった。
 革命軍所属の者達はそれぞれの持ち場や家に帰り、ロイドとレオンはアジトを貸してもらい泊まることになった。

 小屋があったとは言えずっと山――しかも魔境と言われるフェブル山脈で過ごしていたロイドは、久しぶりの人里の民家にそれはもうくつろいでいた。
 
 思わぬ協力を得られ、どうにか如月救出に見通しが立った事もあるだろう。
 ソファに体を預けてだらけているロイドは、子供ながらに一仕事終えたサラリーマンのような姿である。

「あとは少しでも早く王都に向かうだけだなー」
「それなら心配するな。考えがある」

 独り言のつもりで呟いた言葉に返事があった。
 ロイドは体勢はそのままに声の方に目をやると、そこにはレオンがすでにベッドに転がっていた。
 
 彼もこの民宿状態を満喫しているのか、その体の脇には『サンディオ』からもらってきた酒が置かれている。

 ロイドは自分に用意されたベッドへと移動しながらそっか、と生返事をする。
 
 普段なら嫌な予感のひとつでもするであろうレオンの言い回し。
 しかし気が緩んでいるせいか眠気にも襲われており、深く聞く気持ちになれなかったのだ。

「あぁ、だからガキはもう寝とけ」

 そんな返事にもレオンは素っ気なくも相槌を打つ。
 昼から機嫌が良いのか酒のせいか、どこか対応が柔らかいように思えたが、しかしそれも深く追求する事なくロイドはベッドに辿り着き、そのまま寝転がった。

 そのまま眠気に身を任せて意識を沈めるロイドをしばし眺め、レオンは器用に転んだままグラスを傾けていた。



 そして翌日、目を覚ましたロイドはすでにソファに座るレオンと共に簡単な食事を摂っていた。
 そして食事を終えようとする頃、先に集まっていたのかシエル、ギラン、グランが揃って姿を見せた。

「よぉ、よく寝れたかぁ?」
「おかげさまで。すんません、ちょっと待ってください、すぐ食べます」
 
 挨拶も程々にロイドは残る朝食を一気にかっこみ、頬を膨らませたまま面々に向き直る。
 ちなみにレオンも同じように机に食事が残っていたが、振り返る時にはすでに机の上も口の中も空である。

「…?…!?」

 思わず小さく二度見するロイドにシエルが声を掛ける。

「レオンさんロイドさん、おはようございます。準備が出来たら出発しましょうか」
「いつでも出れる」
「おうぇもっ!」

 平然と答えるレオンと口いっぱいに頬張ったまま答えるロイド。
 シエルは苦笑いを浮かべつつ分かりましたと頷いてアジトの小部屋にある地下通路へと足を進める。

 ロイド達もそれに追随する。
 
 シエルの先導で1人で引き返してくれと言われたら確実に迷うであろう入り組んだ道を進む。
 そして厳戒態勢の兵士達を嘲笑うかのようにあっさりと要塞都市カイセンの外、その近くにある木の”うろ”から出てきた。

「おぉ、こんなあっさり出れるんだな…」
「おう!革命軍をなめてもらっちゃ困るぜ!他にも脱出ルートくらい用意してるさ!」

 思わずと言った言葉にグランが揚々と答える。

 それほど多くのルートを確保しつつ、しかもロイドも通って痛感したように、地下ルートは複雑な作りとなっている。
 それなら敵――帝国軍が紛れこんだとしてもアジト強襲といった逆手にとったような悪用は容易ではないだろう。

 ロイドは革命軍のその用意の良さに感嘆の声を上げた。

 ちなみに話題には上がらなかったがこの地下通路を作ったのは先々代の革命軍リーダーであった。
 とは言えルートも少なく、どちらかと言えば緊急避難場所のような扱いであった。

 それを大幅に拡大、複雑化させてこのように地下通路として昇華させたのが先代革命軍リーダーであるギランなのだ。

 そして昨日の会議に上がったが、帝都にも地下通路はある。
 今回もそれを使う予定だが、カイセンほどの大きさはない。
 外から帝都に入る為の通路はなく、さらに帝城内に続くルートは帝城の地下牢に繋がるもののみだ。

 余談としてなぜカイセンがこれほど大きな地下通路を築いているのか。
 それは引退したギランがちょくちょくカイセンのルートを拡大しているからに他ならない。
 さらに言えば、帝都にはお抱えの魔法師もいるので探知される恐れがあり、あまり派手には出来なかったという点もある。

「それでは急ぎましょう。昨日も言いましたが顔がわれているメンツばかりなので、極力見つからないよう進みます。ですが、もし会敵した場合は即寝かしつけてやるようにお願いしますね」

 シエルがさらっと物騒な事を言いつつ確認するかのように面々に目を向けた。
 それを受け止めたギランやグランも真剣な表情で頷く。

 だがロイドは顔を横に向けていた。シエルが首を傾げつつロイドの視線を追う。
 その視線の先ーーレオンはロイドとシエルの視線を受け止めつつ地面に手を伸ばしている。

「え?あの、えっと、聞いてますかレオンさん…?」

 余談だが昨日の会議からレオンは『国斬り』と呼ぶなと言って名前呼びになっていた。
 それを特にシエルは喜んでおり、事あるごとにレオンを呼んでいたりしたのだがーー今回はそんな浮かれた気持ちの一切ない、困惑一色の呼びかけである。

 ついでに何故だかすごく嫌な予感がした。
 同じくそれを感じたのかギランもどこか引きつった様子でレオンを見ている。
 
 グランは不思議そうな表情で、ロイドは諦念すら感じさせるどこか澄んだ表情を浮かべている。

 そんな彼らに構わず、レオンは地面に手をサクッと突き刺す。まるで水に手を入れるかのようにさらっと突き刺さった手はあっという間に腕まで突き刺さっていた。
 そして一言。

「着地には気をつけろ」

 ちょ!とか、まさかっ!とか動揺する声に、はーい!とまるで5歳児のようなロイドの返事が聞こえる中、ぼごおっと重々しい音。
 面々は足元か揺れたと思うと、次の瞬間に景色がブレていた。

 地面の塊をサイドスローのような動きで放り投げたのだ。
 岩塊のような固さのそれを、ひょいっと。

 しかしその速度に思わず身体強化をした面々を持ってしても立っていられない程の圧力がかかる。
 放り投げるーーと言うより射出の際に、ロイドとグランが潰れたカエルのように負荷に負けて岩塊に押し付けられたりしていた。

 そしてレオンもそれを追って駆け出す。走りながら内心で上手く加減して投げれたことに得意げになりながら。


 
 結果だけ言えば、シエルが考えていた予定より丸一日早く目的の帝都へと辿り着いた。
 しかも帝都の兵士達が爆発音を聞きつけて集まっていた為、地下通路へと侵入も簡単に出来たという嬉しい誤算付きだ。

 ちなみに爆発音が起こった場所には砕け散った様子の大小無数の石と、鼻を突くような異臭を放つ水溜りーー恐らく人が戻した吐瀉物であろう痕跡があった。
 あまりに凄まじい轟音と破壊跡、そしてその痕跡から集まった兵士達は色んな意味で顔を引きつらせる。

「何者かが近くにいる!周囲をくまなく探せ!あと敵は臭うはずだ!臭いに注意して探すんだ!」
「「はっ!」」

 とりあえず良い返事はしつつも、周囲を捜索する兵士達は心底会敵しない事を祈ったという。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品