魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる
75 鬼ごっこ(鬼大量)
初の対人での集団戦。
恐怖や緊張が溢れんばかりのロイドだったが、結果としてはなんとも拍子抜けに終わった。
「弱っ……あ、もしかして民間兵か?まぁ子供相手だし騎士さんも兵士は寄越さんわな」
ロイドは倒した兵士を横目にひとりごちる。
そうでもしないとあまりの拍子抜けさに混乱してしまいそうだったからだ。
もっとも、この予想は外れていた。
確かに熟練兵とまではいかないものの、彼らはちゃんとした兵士である。
ロイドはいきなりのスパルタに混乱して忘れていたようだが、ディンバー帝国は武芸の国である。
そして、それは即ち兵士の訓練も武に偏るという事だ。
彼らは魔法の訓練よりも圧倒的に武芸の訓練に時間を割く。
そのため、魔法の攻撃力は乏しいと言えるし、魔法を回避するのに必要な魔力感知能力も低い。
ロイドは単に攻撃手段として持っている魔術の風を使用しただけだったのだが、目視し難い風は彼らには実に効果的だったのである。
そして、びびって遠距離で戦ったのも結果として最善の選択と言えた。
もし身体強化を信じて接近戦に持ち込んでいればその武を存分に発揮され、少なくない確率で負けていただろう。
しかし何よりロイドの一番の勘違いは、ウィンディアに住む人間の異常さを理解しておらず、それを基準に考えている事である。
王国はおろか大陸でも最強クラスと言える父ルーガスと、その男に挑まんとする最高峰の戦力が集まる地ウィンディア。
強国エイルリアの王都、それよりも個々の戦力は高いとさえ言われる彼らを基準に考えては兵士達もいっそ可哀想である。
しかしロイドはそんな事には気付きもせずラッキーと呟きながらカイセンへと足を進める。
さすがに10歳児に遅れをとるとは思いもしなかったようで、すでに誰一人として防壁の外側にはおらず、門は半開きにされていた。
防壁の上にある高見台にも誰もいない。
本当に全戦力をレオンに向けているのだろう。
あとはどうやって中に居るレオンの所まで辿り着くかだ。
「堂々としてりゃ逆にバレないんじゃね?」
ロイドはそう考え、半開きの門から何事もなかったかのような表情を浮かべて足を踏み入れる。
「こいつ、『国斬り』といたガキだ!」
「向かった奴らはどうした!?」
「しかもこいつ、どこかで見た事あるぞ!」
「う、ウィンディアのガキだ!間違いねえ!次男のロイド・ウィンディアだ!」
一瞬でバレた。しかも身バレした。
「兵士長!どうします?」
「堂々と姿を見せるとは舐めた真似を!捕まえろ!最悪殺しても構わん!」
「こんなガキに舐められて黙ってられるか!者共、かかれぇ!」
おまけに殺意も上がった。
そんなつもりはなかったロイドは半泣きだ。
「ちくしょお!」
「待てぇえ!」
「逃すかこらぁあ!」
ロイドは全力の身体強化、風魔術の高速移動で裏路地へと駆け抜ける。
それを追う血眼で兵士達。
ウィンディアという大敵の血族という事もあり、明らかに殺る気満々である。
「しかも速えなこいつら!」
風魔術で補助しているロイドに兵士達はごく僅かに離されつつも、ほとんと変わらない速度で追いかけてきていた。
やはり身体強化の練度はかなりのものである。
「居たぞ!こっちだ!」
「うわマジかよ!」
更には前方からも兵士達が現れた。
挟み撃ちに合う前にロイドはさらな裏路地へと身を翻し投じる。
とは言えこのままではいずれ捕まる、とロイドは焦る気持ちを抑えながら打つ手を考える。
迎撃するか?いや、まず間違いなくやられる。
逃げながらの攻撃もこの数を前にしては無意味だろうし、魔力の無駄だろう。
ならばどうする?やばい思い付かない。
「こうなったらいちかばちか、玉砕覚悟で暴れるしかないか?」
自分に問い掛けるように口に出してみる。
どうせ逃げられないならやるしかないか。
と、思ったその時であった。
「こっちだ!!」
聞き覚えのない声。
反射的に目線をやると、そこには茶髪の少年が手招きしていた。
「…誰?」
と呑気に言ってる場合ではないので、ロイドは罠の可能性も考えたがどちらにせよ詰むなら賭けてみよう、とそちらに方向転換した。
それを確認した少年は先導するように走り出す。
「急げ、撒くぞ!着いてきなっ!」
「……!」
そう言って加速する少年。
その速度は明らかに追ってきた兵士よりも速く、さらに言えばロイドのそれより速い。
これはマジで置いてかれる!とロイドは慌てて風魔術の出力を上げる。
が、すでに限界近く速度は出しており、そう大きく加速は出来ない。
「おいおい!ウィンディア!急げよー!」
「うるっせえ!すぐ行くっつの!」
思わずムキになる10歳少年ロイド。
しかし中身は前世込み30歳超。
こうなったら、とロイドは不意打ち等に備えて全身に回していた身体強化を部分強化に切り替える。
魔力をより脚部に集める事で速度を上げる事に成功させた。
これで罠なら防御力ゼロに等しいロイドは一巻の終りである。
だがムキになったロイドはそれも止む無しと駆け抜け、ついに少年に追いつく。
もちろん止む無しな訳がないが。
「おっ!さすがだな!やれば出来るじゃねーか!」
「当たり前だこらなめんな!」
「よし!このまま行くぞ!」
そう言って走る少年にロイドは必死に着いていく。
裏路地を縫うように駆け、時に廃墟を通り、地下水路を潜り抜け、そして辿り着いた場所が、
「ふぅっ、着いた!もう安心だぞ!」
「ぜぇ、ぜぇ…ど、どこ、だ、ここは……?」
息を乱してはいる少年の横で、息も絶え絶えなロイド。今にも倒れ込みたい気持ちを抑え込んで問うと、少年は誇らしげな表情で返す。
「ここは革命軍のアジトだ!」
「…かくめいぐん…?」
あまりに予想外の言葉にロイドはオウム返しのように呟くのであった。
恐怖や緊張が溢れんばかりのロイドだったが、結果としてはなんとも拍子抜けに終わった。
「弱っ……あ、もしかして民間兵か?まぁ子供相手だし騎士さんも兵士は寄越さんわな」
ロイドは倒した兵士を横目にひとりごちる。
そうでもしないとあまりの拍子抜けさに混乱してしまいそうだったからだ。
もっとも、この予想は外れていた。
確かに熟練兵とまではいかないものの、彼らはちゃんとした兵士である。
ロイドはいきなりのスパルタに混乱して忘れていたようだが、ディンバー帝国は武芸の国である。
そして、それは即ち兵士の訓練も武に偏るという事だ。
彼らは魔法の訓練よりも圧倒的に武芸の訓練に時間を割く。
そのため、魔法の攻撃力は乏しいと言えるし、魔法を回避するのに必要な魔力感知能力も低い。
ロイドは単に攻撃手段として持っている魔術の風を使用しただけだったのだが、目視し難い風は彼らには実に効果的だったのである。
そして、びびって遠距離で戦ったのも結果として最善の選択と言えた。
もし身体強化を信じて接近戦に持ち込んでいればその武を存分に発揮され、少なくない確率で負けていただろう。
しかし何よりロイドの一番の勘違いは、ウィンディアに住む人間の異常さを理解しておらず、それを基準に考えている事である。
王国はおろか大陸でも最強クラスと言える父ルーガスと、その男に挑まんとする最高峰の戦力が集まる地ウィンディア。
強国エイルリアの王都、それよりも個々の戦力は高いとさえ言われる彼らを基準に考えては兵士達もいっそ可哀想である。
しかしロイドはそんな事には気付きもせずラッキーと呟きながらカイセンへと足を進める。
さすがに10歳児に遅れをとるとは思いもしなかったようで、すでに誰一人として防壁の外側にはおらず、門は半開きにされていた。
防壁の上にある高見台にも誰もいない。
本当に全戦力をレオンに向けているのだろう。
あとはどうやって中に居るレオンの所まで辿り着くかだ。
「堂々としてりゃ逆にバレないんじゃね?」
ロイドはそう考え、半開きの門から何事もなかったかのような表情を浮かべて足を踏み入れる。
「こいつ、『国斬り』といたガキだ!」
「向かった奴らはどうした!?」
「しかもこいつ、どこかで見た事あるぞ!」
「う、ウィンディアのガキだ!間違いねえ!次男のロイド・ウィンディアだ!」
一瞬でバレた。しかも身バレした。
「兵士長!どうします?」
「堂々と姿を見せるとは舐めた真似を!捕まえろ!最悪殺しても構わん!」
「こんなガキに舐められて黙ってられるか!者共、かかれぇ!」
おまけに殺意も上がった。
そんなつもりはなかったロイドは半泣きだ。
「ちくしょお!」
「待てぇえ!」
「逃すかこらぁあ!」
ロイドは全力の身体強化、風魔術の高速移動で裏路地へと駆け抜ける。
それを追う血眼で兵士達。
ウィンディアという大敵の血族という事もあり、明らかに殺る気満々である。
「しかも速えなこいつら!」
風魔術で補助しているロイドに兵士達はごく僅かに離されつつも、ほとんと変わらない速度で追いかけてきていた。
やはり身体強化の練度はかなりのものである。
「居たぞ!こっちだ!」
「うわマジかよ!」
更には前方からも兵士達が現れた。
挟み撃ちに合う前にロイドはさらな裏路地へと身を翻し投じる。
とは言えこのままではいずれ捕まる、とロイドは焦る気持ちを抑えながら打つ手を考える。
迎撃するか?いや、まず間違いなくやられる。
逃げながらの攻撃もこの数を前にしては無意味だろうし、魔力の無駄だろう。
ならばどうする?やばい思い付かない。
「こうなったらいちかばちか、玉砕覚悟で暴れるしかないか?」
自分に問い掛けるように口に出してみる。
どうせ逃げられないならやるしかないか。
と、思ったその時であった。
「こっちだ!!」
聞き覚えのない声。
反射的に目線をやると、そこには茶髪の少年が手招きしていた。
「…誰?」
と呑気に言ってる場合ではないので、ロイドは罠の可能性も考えたがどちらにせよ詰むなら賭けてみよう、とそちらに方向転換した。
それを確認した少年は先導するように走り出す。
「急げ、撒くぞ!着いてきなっ!」
「……!」
そう言って加速する少年。
その速度は明らかに追ってきた兵士よりも速く、さらに言えばロイドのそれより速い。
これはマジで置いてかれる!とロイドは慌てて風魔術の出力を上げる。
が、すでに限界近く速度は出しており、そう大きく加速は出来ない。
「おいおい!ウィンディア!急げよー!」
「うるっせえ!すぐ行くっつの!」
思わずムキになる10歳少年ロイド。
しかし中身は前世込み30歳超。
こうなったら、とロイドは不意打ち等に備えて全身に回していた身体強化を部分強化に切り替える。
魔力をより脚部に集める事で速度を上げる事に成功させた。
これで罠なら防御力ゼロに等しいロイドは一巻の終りである。
だがムキになったロイドはそれも止む無しと駆け抜け、ついに少年に追いつく。
もちろん止む無しな訳がないが。
「おっ!さすがだな!やれば出来るじゃねーか!」
「当たり前だこらなめんな!」
「よし!このまま行くぞ!」
そう言って走る少年にロイドは必死に着いていく。
裏路地を縫うように駆け、時に廃墟を通り、地下水路を潜り抜け、そして辿り着いた場所が、
「ふぅっ、着いた!もう安心だぞ!」
「ぜぇ、ぜぇ…ど、どこ、だ、ここは……?」
息を乱してはいる少年の横で、息も絶え絶えなロイド。今にも倒れ込みたい気持ちを抑え込んで問うと、少年は誇らしげな表情で返す。
「ここは革命軍のアジトだ!」
「…かくめいぐん…?」
あまりに予想外の言葉にロイドはオウム返しのように呟くのであった。
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