魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

59 遺跡?あー、あれね!

 ロイドが初の魔物狩りーー食料調達を終えてからまた更に時が経ち。

 日課となっている午前の手合わせも、以前は数時間ぶっ通しで行われる事に辟易としていたロイドだったが今では当たり前となっていた。

 相変わらず右足だけで対応されているが、その事もあってかロイドは熱心にーー半分ヤケのように、手合わせに取り組んでいた。

「その右足斬り飛ばしてやる!」
「もう何回聞いたか。聞き飽きたしさっさとやって欲しいくらいだ。ほれ」
「うるせえじじい!」

 熱心に(?)短剣に風を纏わせて切れ味や威力を増して打ち込むロイドだが、レオンは「右足で」その攻撃を打ち返していた。

 ーー身体魔術『身体硬化』。体を魔力でコーティングして防御力を向上させる魔術を施しており、それによりロイドの攻撃を受け切っているのだ。

「こら、あまり前のめりになりすぎるな」

 さらに以前はなかった反撃もするようになり、右足だけとは言え難易度が増していた。
 剣撃の合間を縫うようにして放たれた蹴りに、ロイドは攻めに徹しすぎて回避出来ずに、それでもどうにか咄嗟に挟んだ左腕ごと吹き飛ばされる。

「ぐぁっ!……ってぇなおらぁ!」

 蹴り飛ばされたロイドは空中で体勢を整え、着地と同時に風の刃を放つ。
 レオンはそれを蹴りで掻き消していくが、その隙をついてロイドが背後にまわり、風を纏った斬撃は放つ。

「油断大敵ぃぐべっ!」

 だが、やはりと言うべきかロイドは返り討ち。
 カウンターの要領で顔面を蹴り飛ばされたロイドは体勢を整える間もなく吹き飛んで地面を転げていく。

「ふむ、今のは良い動きだったぞ」
「っつぅ〜、だったら大人しく斬られとけよ」

 憎まれ口を叩きながら体を起こすロイド。左腕と顔面が真っ赤になっている。
 とは言え、普通なら盛大に腫れるか、悪ければ骨折という攻撃をその程度で済ませているのは新たに習得した『身体硬化』の恩恵である。

 まだまだレオンのような強度はなく、手加減された蹴りでさえこの様子だ。
 先程のレオンのように斬撃を受けるなどは到底不可能ではあるが、ある程度の打撃を受けても大丈夫な強度には至っていた。

「まぁ明日からは両足で相手してやる」
「はぁ?なんでいきなり」
「ほれ」

 訝しむロイドにレオンは足元の何かを拾って見せてくる。
 それを目を細めて見てみると、一本の銀糸が。

「髪の毛くらいは切れるようになったな」
「…………」

 先程の一撃がレオンの長年山籠りしているとは思えない綺麗な銀髪に届いていたらしい。
 ロイドはそれに気付くと、なんとも言えない微妙な表情を浮かべた。

「なんだそのツラは」
「いや、喜んでいいのか悩んでた」
 もう数えるのも面倒な程の日数をかけてやっとこれか、とか両足相手になるのか、とかそれでもやっと攻撃が届いたし、とか考えていた表情らしい。
 そんなロイドにレオンは呆れたように嘆息する。

(並の戦士程度では髪はおろか指だけで片付くんだが……まぁ教える必要はない、か)
「まぁ好きにしろ。それより荷物はまとめとけ。昼飯食ったら出るぞ」
「あ?調達だろ?なんで荷物をまとめるんだ?」
「前に言ったろ。ある程度慣れたら遺跡に行くって」

 ロイドは数秒固まる。
 そしてそう言えばそんな事言われたような、と曖昧な記憶を引っ張り出したが、忘れていたとなればまたバカにされそうだと表情はそのままに口を開く。

「あーそーだったな。また急だな」
「むしろやっとかって感じだがな。ここまでやってやっと下手な散髪が出来た程度とは」

 誤魔化そうとした言葉に呆れた口調で返されロイドは青筋を浮かべた。
 忘れていた事はバレなくともバカにされてしまった。

「うるせぇよ、これからハゲるまで散髪してやろーか?じじいにはぴったりの髪型にしてやるよ」
「やれるもんならやって欲しい所だが、遺跡の事を忘れてたボケたガキに出来るか心配だな」
 前言撤回、バレていたようだ。
 返す言葉に詰まって思わず魔力を高めてしまったロイドに、レオンは呆れたように言葉を続ける。

「ったく、図星を突かれたからといちいち怒るなガキが。と言いたい所だが、さっさと飯食って行くぞ。野営は好きじゃない、移動期間は短くしたいんでな」
「言い切ってんじゃねぇかこら!…って、移動はどんくらいかかるん?」
「お前の走る速度なら3日ってとこか。午前の手合わせを無くしたらもうちょい早いだろうが、折角散髪してくれるなら毎朝やらんとな」
「ふーん。え、走るって言った?」

 つまり、午前は手合わせは変わらずに午後は移動――しかも走ってーーそして野営、の繰り返しになるようだ。

「調理器具や調味料は俺が持つから、毛布はロイドが持て。あとは好きに荷物をまとめとけ」
「…あいよ。まぁ荷物らしい荷物もないけどな」
 何それしんどい。そう思うも言えばまたガキ扱いされそうだと飲み込む。
 ロイドは溜息混じりに返事をしつつ荷物のリストを頭に浮かべていくロイド。
 
 着替えもこちらに来て数日後になぜか手渡された数枚の衣類しかなく、あとは短剣さえあればどうにかなる。

 それから荷物をまとめて、簡単な昼食を済ませた2人は食休みもなく拠点を出発するのであった。

「言い忘れてたが、道中の魔物は基本お前担当な。手に負えないなら俺が守ってやるから必死に助けを乞え」
「乞うか!意地でも1人でやったるわ!」
「そうか、まぁ1人でやりきれば褒美に技をひとつくれてやる」

 結果から言うと、移動にかかった日数が予定より2日長引いた上に遺跡に着く頃にはボロボロになったロイド。
 それでも一応1人でやりきったロイドはレオンより技を教えてもらう事は出来た。

 だが、道中この売り言葉に買い言葉で言ってしまった言葉を何度も後悔したという。

「『崩月』?…ってそんな技使いこなせるワケあるか!」
「いいから覚えとけ。いつか使える。多分」
「多分?!」

 しかも、その技は今のロイドには高度すぎて使えなかったのであった。

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