魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

57 初めての魔物狩り

「無理」

 顔から血の気が引いているロイドの言葉に、レオンは片眉を上げる。
 
 そんな不機嫌な表情も銀髪の麗人であるこの男がすると映える。
 それを普段であれば腹立たしい気持ちが湧くが、今はそんな余裕さえない。

「何故だ?早く帰りたいなら、調達で得られる経験は持ってこいだぞ」
「だっていつもいつも化け物みたいなでけぇのばっか狩ってきてんじゃねーか!あんなもん勝てる訳あるか!」

 いっそ清々しいまでの弱音だが、恥も外聞もないとロイドはドストレートにぶちまける。
 それを聞いたレオンが溜息を混じりに言う。

「あのな、俺が大きい個体を調達してるのは見つけやすいからってだけだ。もっと弱い魔物もたくさんいる」
「本当だろうな…?」
「本当だ。分かったらさっさと行け。幼子みたいに駄々こねるな」
「うっせー!今は幼子なんだよ」

 やれやれといった感じのレオンを睨みつけ、唾でも吐き捨てそうな雰囲気で扉を勢いよく開けて出て行くロイド。
 今のやりとりで怒りが不安や恐怖を上回ったようだ。
 ずんずんと地面に八つ当たりをするかのように踏みつけながら歩いていく。

 その背中を見送っていたレオンは、扉が閉まる前にと微かに口角を上げて声を張り上げる。

「今日は腹が減ったな!早めに頼むぞ!」
「こんにゃろーめ……包丁研いで待ってやがれ!」

 そう吐き捨てながら思い切り扉を閉めた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「ったく、あのじじいめ…」

 家を出たロイドは、苛立ちをそのまま言葉に込めるかのように吐き捨てながら森へと足を進めていた。

 ここに来てから約3ヶ月。
 最初は仏頂面で言葉も最低限かつ淡々と話す、まるで機械かそれこそ死神のように人ではないような印象だった。
 
 だがどうやら手合わせの内にやつは俺をからかう楽しさに目覚めたらしい。
 事あるごとにバカにしたり、揚げ足をとったりしてくる。

「覚えてろよ、ソッコーで調達してきてやる」

 ロイドはここに来て最初からタメ口、と言うよりいつもの口調だったとは言え、やはり虚勢を張るといった意味合いがなかったといえば嘘になる。
 だが最近では完全に素だ。

「さて、そーと決まりゃ早速行くかね」

 あの小憎たらしいじじいの顔色変えてやる!と意気込み、最近やっと日常生活でなら常時発動出来るようになってきた身体強化に意識を向ける。

 身体魔術の魔法陣を通った魔力。
 それと普通の魔力との違いがやっと分かってきたロイドは、身体魔術の魔力をさらに操作出来ないかと試していた。

 通常の身体強化なら魔法陣を通るように全ての魔力を循環させてさえいれば発動は出来る。
 
 だがその魔力を区別して、身体強化の魔力のみを操作。
 そしてそれを集めた箇所の能力が更に上昇する事に気付いたのだ。

 目を閉じて数秒。数十秒。そして数分。ゆっくりと魔力を動かしていき、耳へと集める。

 すると、聴力が格段に向上していく。

 まだまだ時間がかかる上に他の動作が出来ない程の集中を要する為、実戦には程遠い。
 だが、身体魔術の常時発動さえ最初は発動さえ数分かかっていたのだ。

 いつか実戦まで取り込んでやる、とロイドは訓練していた。

(……よし、出来た!さて、魔物はどこだ…?)

 ちなみに、この拠点近くには普段レオンの存在感や威圧により魔物は近寄らない。
 だがそれは本人の意思でコントロール出来るらしく、狩りに行く際はオフにしているようだ。

 そして今も存在感を隠しており、そうなれば元々魔物ばかりのフェブル山脈。
 賢い魔物は気配が消えても警戒するが、大体の魔物は安心して活動するとの事。

 その動き始めた魔物を探し出そうと、耳に集めた魔力が散らないように慎重に意識を周囲の音へ向けていく。

 すると、

「ふしゅぅ〜」
「は?」

 思わず集中すら解いて目を開けるロイド。
 その目の前には、豚の魔物。

「うぉおおおおっ?!」

 思わず身体強化を限界まで引き上げ、短剣の魔術を発動して風を纏わせた一撃を脳天にぶち込む。

「ブオオオオオッ!!」

 思わぬ攻撃に雄叫びをあげて後退る豚の魔物。
 ロイドも思わぬ会心の一撃と豚の魔物の出現による動揺で一瞬固まる。
 
 だが、幸いロイドの方が早く気を取り直した。
 身体強化を施したまま短剣で追撃を仕掛ける。

「おらぁっ!」

 気合いを込めた声と共に額に突き、さらに左前脚の膝関節に左右から一撃ずつ。
 それにより向かって右に崩れる体勢を迎え撃つように、バットを振るかのような動きで短剣を思い切り叩き込む。
 
 風を纏わせたその一撃でついに豚の魔物は沈んだ。

「はぁ、はぁ、はぁ……び、びびった…!」

 いまだにバクバクと脈打つ心臓を押さえて思わず呟くロイド。
 身体魔術と風の魔術具の併用も何気に初である。

「あれか?火事場の馬鹿力ってやつか…ま、まぁとりあえず獲物は調達出来たな。ってこれが初魔物討伐になんのか?なんかヤだな…」

 少しずつ落ち着いてきたのか、思考が回りだす。
 確かに早く調達したかった。だが、なんか違う。  

 もっとこう魔物を追って、初めての戦いに緊張やらしたり、それを乗り越えたりするもんだと思っていた。
 だが、実際は驚きの勢いと火事場の馬鹿力でどさくさな感じで終わってしまった。

「……まぁいいか!ともあれ、これをじじいに見せて驚かせてやる!」

 しかしロイドはさくっと切り替え、悪戯を思い付いた悪ガキのような笑みを浮かべて豚の魔物を持ち帰ろうと掴み、そして振り返る。

「…………」
「…………」

 振り返った先、その前方には扉に体重を預けて佇むレオン。
 まるで笑うのを堪えるように、または笑っているのを隠すように口元に手を当てている。

 無言で見つめ合うような形の2人だが、表情は全く違うもの。
 かたや意地の悪い笑みを分かりやすく隠し、かたや何を言われるか警戒しつつも恥ずかしさに顔を赤くさせた表情。

「…いやはや、華麗で迅速な調達、さすがです」
「………う、うるっせえーー!!!」

 ロイドは全力で叫ぶことしか出来なかった。

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