魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる
55 身体強化
流した部分の魔法陣が光を帯びていき、行き渡ると魔法陣がうっすらとおぼろげな光を放っている。
側から見れば目を惹かれる綺麗な光景だが、ロイドは集中しておりそれどころではない。
今度は放出した魔力を自分に戻すようイメージする。
だが、戻す感覚というのが不慣れで四苦八苦する。
ただ一方向に飛ばすのではなく、放った魔力を操作して方向を変える事がここまで難しいとは、と内心で呟く。
 
さらに言えば、魔法陣自体の力が魔力に混じっている事で操作しにくい。
そうして随分時間がかかっていると、レオンから声がかかる。
「いつまで遊んでるんだ男児。楽しいのか?」
「楽しくねぇわ!あと俺ロイドな!男児言うのやめえ!」
魔力に集中している為乱雑な返しになったが、その怒声で余計な力が抜けたのか、少し余裕が出来る。
いける!と魔力のイメージを改めて行いーーそしてついに体に魔力を戻す事が出来た。
「なんだ、出来るじゃないか。ロイド、体の魔力に違和感があるだろう?」
「………あぁ、あるな」
魔力の中に異物、という程ではないものの混じらずに確かに存在する何かがある。
魔力という水に漂う油といった感覚を覚えるそれは、体内の魔力に漂うように散り散りになりながらも確かにそこにあった。
「それらを一纏めにすると、魔法陣になる。あとはそこに魔力を通す事で身体魔術は発動する」
「あいよ」
言われるがままにその違和感を一箇所に集めるよう集中してみる。
一度体内に戻したからか、自分の魔力と同じようにある程度コントロール出来るようだ。
 
だが、散り散りになったそれを集めるのは先程以上に至難の業だった。
いくつかの魔法陣の魔力の欠片を留める事は出来た。
が、そこからさらに他の欠片を集めようとすると留めていた欠片が散り始めたり、となかなか上手くいかない。
体を循環している魔力の流れに押し流されてしまう。
「魔術は魔力コントロールの練度が直接精度や威力に変わりやすい。まずは身体魔術を発動させて、それ以降は常に発動状態にしておけ」
「……は?常に?魔力が持たんわ」
おもむろに話し出すレオンに耳だけ貸していたロイドだが、あまりの無謀な指示に思わず集中を解いて反論する。
だがレオンはその反論を予想していたかのような言葉を返す。
「身体魔術を発動する時、魔力はどこに流す?」
「ん?そりゃ対象は身体になるんだから、自分の身体だろ。……ってもしかして」
「気付いたか?魔力を自分に流すなら、その魔力を使ってまた発動すればいい」
曰く、身体魔術は魔術の中でも運用が特殊な部類であり、循環させるように魔法陣を通じて魔力を流し続ける事で理論上半永久的に発動し続ける事が可能だという。
「もちろん、対象が破壊されればそこに流した魔力が霧散する、という魔術の性質上怪我などで魔力は減少する。そもそも循環する魔力のコントロールが甘ければロスも出る。だが、それらさえクリア出来れば常に強化出来る」
「……マジかよ」
これは魔法師と比較して大きなアドバンテージである。
「分かったらまずは発動。常に発動が出来るようになれば俺が把握している魔術の魔法陣がある遺跡に行って会得。そしてその魔術と身体魔術を併用して使いこなせるようになったらとりあえず解放してやる」
「……先は長い…」
発動すら出来ない所からのスタート。1年という短くはない期間ではあるものの、内容を思うと間に合うか不安になる。
「心配するな。お前には魔術適正がある。恐らく体内の魔法陣構築にもなんらかの補正がかかるだろうから、習得もそこまで時間はかからないだろう」
本来ならひとつの魔術を使いこなすのに数年はかかるがな、と続けられた言葉でロイドは更に不安を覚える。
だが、とにかくやってみない事には始まらない。
「まぁやるしかねーか。したら頑張ってみるかね」
そう呟き、目を閉じて集中する。
魔法陣の欠片に意識を持っていき、一箇所に集めようとする。
が、やはり先程と同じく自分の魔力の流れに邪魔されて上手くいかない。
(むずいなこれ……こんなんどうにか発動出来ても維持しとくなんて出来んのか?自分の魔力の流れごとコントロールしねえといけないとか言うんじゃねぇだろーな……ん?)
なかなか上手くいかず内心で愚痴っているとその愚痴でふと気付く。
そもそも自分の魔力の流れはどう動いてるんだ?と。
魔法陣の欠片への集中は一旦解き、自分の魔力へと意識を傾ける。
しばしそのまま集中していると、その流れが一定の動きをしている事に気付いた。
(腹の下らへん……丹田とか言ったっけ?そこと、胸の中心、脳の三箇所を必ず通っている……気がする)
それならばと、丹田に魔法陣の欠片を集める。
意識して集められる限り集めたら、他の欠片を無理に集めようとせずそのまま維持に集中。
(あとはこのまま……!)
体内の魔力の流れに乗って集まる魔法陣の欠片を無理に集めるのではなく自然に丹田を通るのを待つ。
そして流れてきた欠片を丹田に留める。
それをじっくり時間をかけて行い、そしてついに、
――キィインッ
魔法陣の欠片が全て集まり、魔法陣が描かれる。
ロイドははやる気持ちを抑えて魔法陣を維持し、そこに魔力を流していく。
「出来たか。まぁ時間はかかったが、それは今後の課題だな」
レオンが身体魔術の発動に気付き声をかけるが、ロイドの耳には届いていなかった。
体に浸透するように、流れるように、身体魔術としての魔力が行き渡っていく。
(うわ…これ、なんつー感覚だ……!すげぇ!)
声にならない感動を噛み締める。
まだ体を動かしてもいないのに分かる、溢れるような力強さ。
知覚範囲が広がったような、まるで目が覚めるような感覚。
これが身体強化か、とずっと練習してきたにも関わらず至らなかった技術に喜びを噛み締めるロイド。
また、身体強化なしでそれを持つ相手に挑む事がいかに厳しいかを痛感した。
(確かにこんなに強化されるならナシだと相手になんねぇわな。……っ!?)
「よし、よく避けたな」
内心で納得していると、鋭敏になった感覚が前方からの攻撃を察知し、椅子から飛び退いて躱した。
それを淡々とした口調で褒めるレオンに、ロイドは口を開く。
「危ねーだろーが!」
「でないと意味がないだろう」
「……いや何が?」
あまりに淡々と返すので怒りのテンションが下がったロイドは理由を問う。
「身体強化の性能確認もそうだ。だがそれはそれとしてロイド、過去の英雄や偉人達の死因は何が多いと思う?」
「………戦死とかじゃねぇの?」
「違う。暗殺だ」
この世界では魔法や魔術といった要素により、個人の戦力が突出しやすい。
そしてそれらが死ぬ事は国や軍としても痛手であり、それ故捨て駒のように扱われる事はやはり少なく、護衛等も多くつけられる事が多かった。
その為、その個人戦力や護衛の固さから戦死する確率は低い。
だが、敵軍からすればその戦力さえ除外出来れば大幅に優位に立てる。
その結果、往々にして暗殺という手段がとられる事が多くあった。
戦場などで集中していない、気を抜いている日常生活であっさりと死んでいったのだ。
「だから普段から気を抜き切る事は許さん。今日は身体強化にとにかく慣れろ。明日からは一日中俺と手合わせだ」
「…忍者かなんかかよ」
「誰だそいつ。……まぁそうだな、俺の体に攻撃が届けば遺跡に向かうとしよう」
「……えぇー、10歳の子供にやりすぎじゃないですかね?」
あまりの内容に辟易として思わず子供ぶるロイドに、レオンは淡々と返す。
が、その内容にロイドは目を瞠る。
「何を言っている。前世を含めたらそこそこ生きてるだろう?」
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コメント
ノベルバユーザー370362
あれ?10歳だったんじゃ