魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

51 不死

「警戒するな…って言うのは無理があるか。用は、そこの男児をしばし借り受けたいというものだ」

 ロイドが俺?と思わず言おうとした時、視界の端で何かがブレたと思った時には、レオンの首はまるで最初から別々のものだったかのようにあっさりと切断されていた。

「お…っ?!」
「きゃぁあ!」

 言いかけていた俺?の頭文字だけ飛び出したロイドに続き、ラピスが悲鳴をあげる。
 ベル、ドラグ、エミリーは黙ってレオンを見ていた。
 
 剣を振り抜いた体勢のままドラグは驚愕に目を剥いて固まっている。

 あっさり殺せた事に、ではない。

(魔力が練られている?!)

 そう、死体となったはずのレオンの体はその膨大な魔力を練り始めていたのだ。
 
 そしてそれはすぐに異様な光景として発現した。

――ぱしっ

「痛い…」

 重力に従い落下する頭部をキャッチするレオンの肉体。
 掴まれた頭部は無表情にぼやいている間に、頭部は持ち上げられて切断面を合わせるかのように元ある場所へと戻す。

「………っバカな……!」
「………!!」

 驚愕から固まったままの周りの眼前で、斬れた事がまるで幻だったかのようにあっさりと首がくっついた。
 レオンは調子を確認するかのように軽く頭を振り、そっと手を前方に伸ばす。

「っ!」

 何をする気だ?!と剣を構え直すラルフの前で、レオンの手は焚火に伸び、すっと竜肉の刺さった枝を掴む。

「これ、食べ頃だぞ」

 そのままラルフに肉を突き出すレオン。
 ラルフは肉を受け取る事も出来ず苦虫を噛み潰したような顔をしていたが、大きな溜息をついて剣を納め、肉を受け取った。
 
 竜肉を手渡したレオンは、目を瞠る一同に口を開く。

「目的と要望を話す順番が変わるが……まぁいいか。見ての通り、俺は不死身だ」
「不死だと…そんな事が……」
「そんな生物聞いた事ないわよ…?」

 話を聞いて慄くラルフとベルの独白に答えるかのように、レオンは言葉を続ける。

「身体”魔術”と時魔術の組み合わせが、事故のような形で合わさって出来てしまった偶然がこれだ。そして……」

 僅かに言葉を切って竜肉の食べ頃の枝を再び手に取り、それをロイドに突き付けて言葉を続ける。

「この不死をどうにか出来る可能性があるのは、魔術適正のあるこの男児だけ、という訳だ」
「ロ、ロイドが…?」
「理由は分かったわ」

 驚く一同の中、エミリーだけが鋭い声音で返した。
 さらにその声に負けない鋭い目つきでレオンを見据える。

「それで、借り受けるってどれくらい?どこかに行くの?詳しく言いなさい」

 いつも通りの強い口調で『死神』に問い詰めるエミリーに、レオンは少し微笑みながら口を開く。

「確かエミリーだったか?大きく、強くなったな。あぁ、借り受けるって言ってもとりあえず1年くらいだ」
「1年…」

 まるでエミリーのことを知っているような口振りに疑問を抱くも、それより今はロイドの事だと置いておく。

「あぁ。時魔術は手元にないんでな…身体魔術と魔術の基本を手解きするまでで多分それくらい預かる。その後はそっちに返して、あとは随時こっちから顔を出すつもりだ」
「そっか、助かるわ。んじゃよろしく」

 レオンの説明に、さらっと承諾したのは本人であるロイド。

「は…?」
「え…?」

 あまりに自然に返した為に脳が追いつかず固まる一同。
 レオンでさえ少し目を瞠っている。

 いや、エミリーだけは頭痛を堪えるように頭を押さえながら溜息をついていた。

「ロイド、あんたね。簡単に決めすぎなのよ」
「とはいえこのまま手掛かりもなく魔術について調べるよりは手っ取り早そーだろ?まだ公務も学校もないし、早いにこしたことはないし」
「お父さんやお母さんに相談くらいしたらどうなのよ」
「そこは姉さんに任せた」
「全くあんたは…どうなっても知らないからね」

 他の皆を置き去りにテンポよく話す姉弟。
 そこに我に帰ったラルフが割って入る。

「ロイド!この男がどれだけ危険か分かっているのか!」
「分かってますよ先生。黒竜を一撃で倒せる上に不死身なんすよね。そんな人が俺に手解きしてくれるってなら、ある意味これ以上ないくらい安全地帯にいるって事じゃないすか?」
「む……し、しかし!」
「おまけにこんな夜にフェブル山脈でバーベキューが出来るくらいのビビられよう。下手な遠出より安全なんじゃないすかね」

 核心だった。それ故にラルフは言葉に詰まる。
 ダメ押しとばかりに、ロイドの飄々とした口調とは裏腹にその眼は決心したような力強さがある。

「嫌だよっ!」

 説得どころか言いくるめられたラルフが黙っていると、今まで黙っていたラピスが俯いたまま叫んだ。

「…ラピス?」

 予想外の人物の反対にロイドは目を丸くした。

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