魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる
48 黒い竜の青い炎
「よっしゃ!真っ二つにしてやる!」
黒竜を空から地に引き摺り下ろす。
とは言えその巨大な体が落下するというそれだけである種の災害のような状況だが、ラルフは好機と見て迎え撃つ為に駆け出す。
黒竜は落ちる最中、縦に割れた瞳孔だけをラルフに向けるものの、未だ体が十分に動かせないのか迎撃する素振りは見せない。
「うぉらあっ!!」
ラルフはあっという間に黒竜に迫り、高めた魔力を剣に収束させて、黒竜の長い首に目掛けて思い切り振り抜く。
至近距離での”破剣”だ。
「ギャォオオオオオオッ!」
これにはさすがの黒竜も参ったのか悲鳴をあげる。
黒い硬質な鱗は派手に損傷し、その奥には大きく抉られた傷口からどばとばと血を流し、筋肉が覗く。
「ちっ、マジかよ、仕留めきれなかったか」
「グルゥ……グォオオオオオオオオッ!!」
普通の生物なら間違いなく首がとぶ威力。しかし強靭な黒竜の首は両断とまではいかなかった。
とは言えそれでも普通なら致命傷だろう。
だが、竜種は巨大な肉体に見合う生命力がある。
それを示すかのように、墜落した黒竜は痺れがとれたのか体を起こして咆哮を上げた。
「マジかよ…さすがに”破剣”もそろそろ弾数残ってねぇぞ…」
「ゴアアアアアァァッ!!」
ぼやくラルフに追い打ちをかけるように、黒竜は口から炎――ブレスを放つ。
それもラルフにだけではなく、ベルやドラグ達まで狙った連射である。
「ちっ、うっとうしい!」
「参ったねぇ…!」
ぼやくラルフとベルに迫るブレスは、威力は最初の炎に比べれば低い為、数こそ多いものの撃ち落とす事が出来た。
だが、その数があまりに多い為、その場に縫い付けられたようにブレスの対応に手一杯で動けずにいた。
また、ドラグ達にもラルフやベルほどではないものの、大量のブレスが襲い掛かっていた。
念の為にいつでも発動出来るよう構えていた魔法と魔術を使い、ロイドとエミリーは弾かれたようにブレスの射線から外れるように飛び出す。
ドラグはラピスを抱え、炎を縫うかのように最小限の動きでブレスを回避していた。
「はぁ、はぁ…」
だが、この量のブレスを躱し続けるのはドラグはともかくロイドには負担が大きい。
エミリーもロイド程ではないが息が乱れ始めている。
(やっば、しんど…このままじゃジリ貧だなこれ…)
延々と降り注ぐ炎の塊に、ロイドは疲労と面倒くささが混じったような表情を浮かべる。
正直、そう長くは躱せそうもない。
「グウゥゥ…グォォアアアアアッ!!」
誰一人仕留める事が出来ない状況に焦れたのか、それとも傷によるダメージで勝負を急いだのか。
黒竜は一瞬の溜めの後、巨大な炎の塊を体の前に作り出した。
「っ!マジか…」
ブレスに加え、火魔法を上乗せしているようで、魔法陣が黒竜の周りに浮き上がっている。
ブレスを凌いだラルフとベルは、その巨大な炎を見て思わず息を呑む。
「くっ…ドラグ!子供達!今すぐここから離れろ!」
「せ、先生達は…」
「いいから早く!相殺出来ても余波だけでここらへんが吹き飛ぶぞ!少しでも離れるんだ!」
「そうだねぇ、私達ならどうにか防げるけど、ロイドくん達は厳しいからねぇ。急いでね」
そう言う2人も今まで見た事がない程険しい表情をしている。
その表情に、ロイドは胸騒ぎを覚えた。
「っ先生!」
「もたもたすんな!…ちっ、ドラグ!」
「分かった」
その胸騒ぎに押されるようにラルフを呼ぶロイド。
しかしそれに痺れを切らしたラルフはドラグを呼ぶ。
「せ、先生ぇっ!」
それだけで行動に移るドラグ。叫ぶロイドを素早く抱え、強靭な脚力をもって即座にその場から離れた。
「……ったく、生徒のくせに余計な心配しやがって」
「良い子じゃないかい。……勘も良いしねぇ」
「ふん……確かにな。ほんと、ここまで成長した竜なんかそうそう居るもんじゃねえぞ。……正直このままじゃその内負けるぞ」
「分かってるよ。最初の内に押し切りたかったけどねぇ…」
2人は話しつつ魔力を練る。
対して黒竜の炎は大きさこそ分からないものの、魔力の密度が増していき、それに伴い熱量も上昇していく。
ついには赤から青い炎へと変わっていくのを睨むように眺めながら、ラルフとベルはそれに追いつかんと魔力を高めていく。
2人の高まる魔力に周りの木々がビリビリと震える。
だが、それでも足りないとばかりに焦燥感を抑えきれずにいた。
「さて…この攻撃を捌いて即座に特大の一発をブチ込む。そこで決めれなけりゃお終いだな」
「そうだねぇ…まぁそれで仕留めりゃいいんだよ。何だい、びびってんのかい?」
「アホか。こんなんでびびるようならとっくに死んでるっての。さくっと黒トカゲしばいて帰るぞ」
挑発し合うような、励まし合うような会話を終えた時、2人の魔力は最高潮に練り上げられていた。
それをそれぞれの得意技に魔力変換し、青い炎へと撃ち放つ。
「”破剣”っ!!」
「”万雷・束”!!」
「グゥゥァアアアアアッ!!」
 それを飲み込まんと練り上げた炎を放つ黒竜。
3つの莫大なエネルギーが込められた攻撃は、3者の中間地点でぶつかり合った。
ズォオアッ!!
「っくぅ…きついねぇ…!」
「気張れ!押し切るしかねぇん――……なん、だ?」
凶悪なプレッシャーを放つ青い炎。
それに押し負けんと喝を入れるラルフ。
だが、気付けばぶつかり合う己の攻撃でも、それとぶつかり合う青い炎でも、敵である黒竜でもなくーー攻撃がぶつかり合う地点の真下あたり、その地面に立つ「何か」に意識が向けられていた。
黒竜を空から地に引き摺り下ろす。
とは言えその巨大な体が落下するというそれだけである種の災害のような状況だが、ラルフは好機と見て迎え撃つ為に駆け出す。
黒竜は落ちる最中、縦に割れた瞳孔だけをラルフに向けるものの、未だ体が十分に動かせないのか迎撃する素振りは見せない。
「うぉらあっ!!」
ラルフはあっという間に黒竜に迫り、高めた魔力を剣に収束させて、黒竜の長い首に目掛けて思い切り振り抜く。
至近距離での”破剣”だ。
「ギャォオオオオオオッ!」
これにはさすがの黒竜も参ったのか悲鳴をあげる。
黒い硬質な鱗は派手に損傷し、その奥には大きく抉られた傷口からどばとばと血を流し、筋肉が覗く。
「ちっ、マジかよ、仕留めきれなかったか」
「グルゥ……グォオオオオオオオオッ!!」
普通の生物なら間違いなく首がとぶ威力。しかし強靭な黒竜の首は両断とまではいかなかった。
とは言えそれでも普通なら致命傷だろう。
だが、竜種は巨大な肉体に見合う生命力がある。
それを示すかのように、墜落した黒竜は痺れがとれたのか体を起こして咆哮を上げた。
「マジかよ…さすがに”破剣”もそろそろ弾数残ってねぇぞ…」
「ゴアアアアアァァッ!!」
ぼやくラルフに追い打ちをかけるように、黒竜は口から炎――ブレスを放つ。
それもラルフにだけではなく、ベルやドラグ達まで狙った連射である。
「ちっ、うっとうしい!」
「参ったねぇ…!」
ぼやくラルフとベルに迫るブレスは、威力は最初の炎に比べれば低い為、数こそ多いものの撃ち落とす事が出来た。
だが、その数があまりに多い為、その場に縫い付けられたようにブレスの対応に手一杯で動けずにいた。
また、ドラグ達にもラルフやベルほどではないものの、大量のブレスが襲い掛かっていた。
念の為にいつでも発動出来るよう構えていた魔法と魔術を使い、ロイドとエミリーは弾かれたようにブレスの射線から外れるように飛び出す。
ドラグはラピスを抱え、炎を縫うかのように最小限の動きでブレスを回避していた。
「はぁ、はぁ…」
だが、この量のブレスを躱し続けるのはドラグはともかくロイドには負担が大きい。
エミリーもロイド程ではないが息が乱れ始めている。
(やっば、しんど…このままじゃジリ貧だなこれ…)
延々と降り注ぐ炎の塊に、ロイドは疲労と面倒くささが混じったような表情を浮かべる。
正直、そう長くは躱せそうもない。
「グウゥゥ…グォォアアアアアッ!!」
誰一人仕留める事が出来ない状況に焦れたのか、それとも傷によるダメージで勝負を急いだのか。
黒竜は一瞬の溜めの後、巨大な炎の塊を体の前に作り出した。
「っ!マジか…」
ブレスに加え、火魔法を上乗せしているようで、魔法陣が黒竜の周りに浮き上がっている。
ブレスを凌いだラルフとベルは、その巨大な炎を見て思わず息を呑む。
「くっ…ドラグ!子供達!今すぐここから離れろ!」
「せ、先生達は…」
「いいから早く!相殺出来ても余波だけでここらへんが吹き飛ぶぞ!少しでも離れるんだ!」
「そうだねぇ、私達ならどうにか防げるけど、ロイドくん達は厳しいからねぇ。急いでね」
そう言う2人も今まで見た事がない程険しい表情をしている。
その表情に、ロイドは胸騒ぎを覚えた。
「っ先生!」
「もたもたすんな!…ちっ、ドラグ!」
「分かった」
その胸騒ぎに押されるようにラルフを呼ぶロイド。
しかしそれに痺れを切らしたラルフはドラグを呼ぶ。
「せ、先生ぇっ!」
それだけで行動に移るドラグ。叫ぶロイドを素早く抱え、強靭な脚力をもって即座にその場から離れた。
「……ったく、生徒のくせに余計な心配しやがって」
「良い子じゃないかい。……勘も良いしねぇ」
「ふん……確かにな。ほんと、ここまで成長した竜なんかそうそう居るもんじゃねえぞ。……正直このままじゃその内負けるぞ」
「分かってるよ。最初の内に押し切りたかったけどねぇ…」
2人は話しつつ魔力を練る。
対して黒竜の炎は大きさこそ分からないものの、魔力の密度が増していき、それに伴い熱量も上昇していく。
ついには赤から青い炎へと変わっていくのを睨むように眺めながら、ラルフとベルはそれに追いつかんと魔力を高めていく。
2人の高まる魔力に周りの木々がビリビリと震える。
だが、それでも足りないとばかりに焦燥感を抑えきれずにいた。
「さて…この攻撃を捌いて即座に特大の一発をブチ込む。そこで決めれなけりゃお終いだな」
「そうだねぇ…まぁそれで仕留めりゃいいんだよ。何だい、びびってんのかい?」
「アホか。こんなんでびびるようならとっくに死んでるっての。さくっと黒トカゲしばいて帰るぞ」
挑発し合うような、励まし合うような会話を終えた時、2人の魔力は最高潮に練り上げられていた。
それをそれぞれの得意技に魔力変換し、青い炎へと撃ち放つ。
「”破剣”っ!!」
「”万雷・束”!!」
「グゥゥァアアアアアッ!!」
 それを飲み込まんと練り上げた炎を放つ黒竜。
3つの莫大なエネルギーが込められた攻撃は、3者の中間地点でぶつかり合った。
ズォオアッ!!
「っくぅ…きついねぇ…!」
「気張れ!押し切るしかねぇん――……なん、だ?」
凶悪なプレッシャーを放つ青い炎。
それに押し負けんと喝を入れるラルフ。
だが、気付けばぶつかり合う己の攻撃でも、それとぶつかり合う青い炎でも、敵である黒竜でもなくーー攻撃がぶつかり合う地点の真下あたり、その地面に立つ「何か」に意識が向けられていた。
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