魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

40 本の冒涜者

「さすが姉さんだな」
「当然よっ!」

 エミリーとロイドはハイタッチをしつつ言葉を交わす。
 わいわいと年相応に喜びを表して話す2人。

 だがその直後、そんな事をしている場合ではない!とばかりに空気を割くかのような轟音が2人の耳を叩く。
 ビクっとして振り返ると、アジトの方面の上空がパリパリと放電現象を起こしていた。

「うわびっくりした。何あれ、雷?」
「あー、ベルさんだわ。必要ないと思うけど、一応早く追いかけましょ」
「え?ベルさん?本屋の?え?」
「そう、本屋のベルさん。凄腕の魔法師」
「え、マジ?びっくり」
「おまけにラルフ先生は”剣神”だって」
「え、あの剣の最高峰の1つとかゆーやつ?」
「みたいね。あんた、すごいとこで剣の稽古してたみたいよ」
「マジか…」

 驚愕についに言葉を失うロイドだが、聞かなければならない事があると気をとり直す。
 駆け出したエミリーに追随しつつ、ロイドは質問を重ねていく。

「ラルフ先生達はアジトを攻めてんの?」
「そうよ。その隙にあんたの救出に私が来たの」
「なるほど……よく場所分かったな」

 ゴミ捨て場として利用されている場所だ。
 盗賊達も目に入る場所にゴミがあるのは嫌だったのか、少し茂みの奥に位置している。
 さらに言えば戦闘の音なども全員倒れていたのでしていない。

「あんたの魔力を見つけたの。魔力感知って言うの」

 道中でベルに頼んだ魔力感知の指導。
 それを短い時間でエミリーは習得していた。ベルもあまりの習得速度につい苦笑いを浮かべていたりする。

「まぁベルさんみたいに遠くから察知したりは出来ないけどね」

 曰く、その有効範囲に入るようアジト周りのスペースを走っている所をアトスに見つかり追われていたとの事だ。

「便利そうな技だな…俺にも今度教えて」
「いいわよ。帰ったら教えてあげるから、さっさとここ潰して帰りましょ」
「あ、潰すんだ」

 今後の憂いを絶つ為にもこの盗賊団は壊滅させる、とはラルフの言葉だ。
 それを聞いたロイドは呆れ混じりに笑う。

「蜂の巣でも潰すみたいに言うなぁ」
「私も似たような感じで突っ込んだわね。そしたら大差ないって返されたわ」
「マジかよ。ベルさんもそうだし、うちの領地どうなってんの?」
「私は話に聞いた事はあったけど…ここまでとは思わなかったわ」

 2人ではぁ〜と大きく溜息をつき、意識を切り替える。
 耳には怒声や戦闘音が届き始め、視界には大きく損壊したアジトが飛び込んできた。

「とりあえず、私達は邪魔にならないよう後方支援。人質とかにされないよう距離はしっかりとる。いいわね?」
「もちろん。あとは魔力量次第で撤退な」

 2人で頷き合い、戦場へと踏み入れた。

「おぉ!無事だったか!」
「良かった!ほんと良かった!」
「どうなる事かと…これで一安心だな!」

「……え、どゆこと?」

 その戦場でロイド達を迎えたのは無事を祝う言葉だった。――盗賊達からの。
 顔面を腫らした盗賊達が口々に嬉しそうな、安心したような雰囲気でロイド達の無事を祝う。
 さすがに意味不明すぎて首を傾げる2人。
 
 ベルは木陰で寝ているのか、座って目を閉じている。ドラグとラピスは見当たらなかった。

「ロイド、エミリー。怪我はないか?」

 そこにラルフが片手をあげながら近付いてきた。

「ラルフ先生…ご迷惑をお掛けしました。……いや大した怪我はないんすけど、魔力はあんまりないですね。てかそれより何ですかこの状況」
「そうですよ。なんか逆に怖いわ」

 ラルフは安心したように息をつきながら、ポケットから液体の入った瓶を取り出し、2人に渡す。

「ほい、ドラグの魔力回復薬。とりあえず飲んどけ」

 渡された薬を2人は飲む。うん、グレープフルーツみたいな味だ。

「で、こいつらな……簡単に言えばベルに脅された、って感じだな」
「え……」

 いや簡単すぎて分からん。と言葉に詰まるロイド達。
 
 曰く、ゲインを探してる途中にこの盗賊達が集まってきたらしい。
 恐らくエリオットあたりが魔力感知でラルフ達の襲撃を察知して、戦力を集めて迎え撃つつもりだったのだろう。

 そこにベルが雷魔法でばりばりっと第一陣を一掃。
 威力を調整して戦闘が出来ないまでも意識はある、といった余裕まで見せている。

 そして「丁寧にお話」をした結果、アジトの地下にゲインはいるという情報を入手。ついでにエリオットも一緒にいるようだ。
 
 また、その際に筆頭剣士のアトスがエミリーを襲撃しているという情報を入手。
 追いかけようにも湧いて出てくる盗賊達に足止めされる形で追えない。
 エミリーを気に入っていたベルはここで堪忍袋の緒が切れた。
 
 代名詞とも言える『万雷』を使い、大幅に盗賊達の人数を削る。
 ちなみにこれには手加減などされておらず、炭のように黒焦げになったり、中には体の大半が消滅した者までいた。

 しかし残りの魔力量の都合で数人の盗賊が残った。
 とは言っても完全に戦意は喪失しており、今にも逃げ出しそうな状態だったが。

 それらをベルは持っていた本を振りかぶり、思い切り叩きつけた。
 魔法で攻撃してこない事に魔力切れかと思った盗賊達は反撃を試みる。

 が、迫る武器を本で受け流しては本を叩きつけ、魔法を躱しては本を叩きつけ、おまけにと本を叩きつけ。と、ついに顔面をぼこぼこに腫らした盗賊達は降参してしまった。

 そしてちょっとスッキリしたベルは、追加で飲み干した魔力回復薬の効果が出るまでの待つという事も含めて、ロイド達が来るのを待つ事にした。
 
 その際、もし大怪我などをしていようものなら命はないぞとヤクザさながらに言われたベルの言葉に、盗賊達は震えながらロイド達の無事を祈っていたとの事。
 そして無事現れたロイド達を見て、あの熱烈な歓迎となったようだ。

「色々ツッコミたいんだけどとりあえず…」
「本屋店主で”本の化身”が本の扱いそれでいいの?!」
「ん?あいつは昔からあんなだけど……いやいやそうだよな。慣れてしまった自分が怖い」

 それを聞いた盗賊達が、え、あれで本屋の店主?嘘だろ、本に恨みでもあるのかと思った、てか本の用途じゃないにも程があるだろ、ホンヤノテンシュ?なにそれ知らない、などとひそひそ話し合う。

 盗賊とロイド達の間で、本屋の店主は本の冒涜者と呼ばれる事になった。

「魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く