魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

22 魔術の真価

「これは驚いた…」
「はぁ、はぁ…今日のための隠し球だったしな……どんなもんじゃい」

 ルーガスが珍しく瞠目していた。
 息も絶え絶えながらも悪戯が成功したように人の悪い笑顔で誇る息子を。

 風を纏い衝撃を起こす剣撃も最近考えた技であった。
 ロイドは身体強化が使えない為、どうしても威力が足りない。
 
 これはそれを補う為のものだ。
 剣撃に合わせて圧縮した風を指向性を持たせて解放する事で威力を上げる技である。

 やっと息を整えたロイドが、口元を緩めたまま話す。

「今日で丁度一ヶ月だからね。ちょっと驚かせてやろーかなって色々考えてみたんだよ。まぁ父さんも手加減してる上に隠し球として見せなかった技だからこその結果なのは分かってるけどさ」
「いや、大したものだ。正直見くびっていた。たった一ヶ月でここまで魔術を使いこなしたこともそうだが、技の考案にその組み立てもな」

 ルーガスは本心からの賛辞を送る。
 魔術の使いこなし方は魔術適性がある以上、この成長も理解出来なくはない。
 
 だが、それを用いて欠点を補う技の考案、戦闘の組み立てはとてもこの年齢で考えたとは思えないものだったのだ。

「ロイドはたまに年不相応な一面を見せるな」

  思わずギクっとするロイドだが、ルーガスは気付かずに言葉を重ねる。

「だが、ないとは思うが慢心するな。攻撃力や攻撃の幅は間違いなく上がったが、基本の身体能力は低い」
「うん。それも補う技を練習中なんだよね。今日の実戦には間に合わなかったけど、あとちょっとで形になりそーなんだ」

 そういうと、ロイドは風を体に纏い始めた。

「せっかくだし見てくれない?改善点とかあれば言って欲しい」

 体を覆う風はそのままに駆け出したロイド。
 その足の下に風を圧縮し、解放する。
  
 すると、爆発的な速度で移動した。
 さらに、風の刃を複数放ち、それをブーメランのように自分に向けて誘導させる。
 
 その風の刃をロイドは身体強化なしとは思えない速度で短剣を振って叩き落とした。
 腕に纏った風で腕を動かす方向に風を動かす事で剣を振るう速度を底上げしているのである。
 
 さらに最後の風の刃をあえて体で受ける姿勢を見せるロイド。
 だが、体を覆う風がそれを受け流すように体から逸らす。 

 そうして再び足の下で風を圧縮、解放してバックステップの要領でルーガスの近くに戻ってきた。
 風の爆発や受け流し、腕の動きのフォローといった細かい調整を要する技を拙い技術で行った結果か、腕や足には大小の細かい傷がついていた。

「つぅっ……くそ、やっぱ難しいなこれ。まぁとりあえずこんな感じなんだけど」
「ふむ。なるほど、風による移動速度と体捌きの速度向上に、防御性能の向上か。考えたな」
「これらとさっきの風を纏う技で身体強化に対抗出来ないかと思って」
「ふむ、悪くはない。だが、防御については威力の弱い攻撃にしか効果は薄そうだな」
「うーん、やっぱりそうだよね……攻撃に使ってた風を圧縮して放つやつを防御に使って攻撃を打ち返そうとも思ったんだけど、あれ集中力いるし攻撃箇所にピンポイントで合わせるのが難しくて。今はは保留にしてる」
「そこは今後の魔力操作や魔術に慣れていく事で改善出来るかもな。答えに急がず色々じっくりやってみろ」
「そーだね、そうする」

 淡々とアドバイスをしながらも、ルーガスは内心驚愕でいっぱいだった。
 今はまだ荒く拙い為、技も戦闘の中で使える程のものではないとは言え、方向性としては面白い。

 もしこれが完成すれば身体強化と同等かそれ以上の性能を見せる事だろう。

 しかし、何よりも恐ろしいのは魔術という技術の脅威だ。
 ルーガスはこれまで、魔術とは魔法を組み合わせた技術のように思っていた。
 
 ルーガスはこれまでの魔術を思い浮かべる。
 
 風の刃は魔法の”風刃”に似ていた。
 また、先程見せた風を圧縮して放つ技は魔法の”風砲”に、風の鎧は魔法の”風鎧”に似ている。

 だが、風で動きを補強する技も足下で風を弾けさせて加速する技も魔法にはない。

(……もしかしたら、魔法とは魔術を部分的に模倣した技術なのかも知れないな)

 風の魔法使いとして最高峰の男はそう思った。
 それほど魔術の汎用性は高い。

 自分の意思をそのまま風に伝え、手足のように動かす事が出来る。
 このアドバンテージは大きい。

 魔法であれば、詠唱の時点で、あるいは遅くても発動してしまえばどんな魔法が来るか予測出来る。
 上位者ともなれば発動に条件を上書きする事で威力の向上や予想外の動きをさせる事も可能だが、技の性質や特徴そのものを大きく逸脱する事は出来ない。

 それに対し、魔術は発動してしまえば意思ひとつで性質も特徴も異なる動きに変化出来るのだ。
 これでは予測など出来るはずもなく、防御や回避も困難になるし、予測に合わせて追撃を入れるといったカウンターなどが成立しにくくなる。
 そして何より、魔法では網羅出来ない動きや性質を再現出来る。

 そんなことを考えていると、ふとロイドが思い出したように言う。

「あ、それと慢心するなだっけ?あり得ないから安心してくれ。父さんや母さん、兄さんも姉さんも強すぎて、慢心する度胸なんて俺にはないね」
「……そうか、それなら良い」

(町では恥さらしなどと呼ばれているらしいが、この調子ならそう遠くないない未来には払拭されるだろうな……)

 今はまだ身体魔法をした上で魔法を行使する一般的な魔法使いにも勝てないだろうが、魔術が成熟すればそれらとは一線を画す戦闘能力を見せることになるだろう。
 
 そうすればそのような汚名も自然と消えるに違いない。
 そう考えるルーガスの頬は、本人も気付いていなかったが優しく緩んでいたのであった。

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