禁聖なる復讐の果てに

初歩心

第四話 姉が仕組んだ毒(聖呪術)はとんでもないものでした

あれからどのくらいたったのだろう。
 
意識がだんだんと戻ってきた。

 自身の体は何やらふかふかとした物の上に仰向けになっているらしい。

 サラサラとした布地の感覚が手の平をとうして伝わる。

 おそらくここは医務室?のベッドの上だと思われる。

 しかし、この肌触りといいマットのちょうどよい硬さといいとても寝心地がいい。

 目を開こうと思ったがこれは抗い難い。

もうしばらくだけ横になっていることにしよう。 

しばらくするとドアが開く電子音がし、何やら三人組の足音が入ってきた。

 その3人は、歩をすすめると俺の真横までやってきて足を止めた。 

「······瞬、まだ寝てますね 
起きてくださいよ! 起きて!!
 ······ダメですね
契約女神だと言うのに反応なしとはなんか悲しいような」 

「じゃあ、私の番だね······瞬ちゃん······瞬ちゃん······起・き・な・さ・い」

 誰かの囁き声が聞こえ微かに耳をくすぐる。 

「······うん、起きないね瞬ちゃん」 

「起きませんね」 
 

「マスターここは、私に任せてください」 

意気揚々と自信ありげに誰かが声を上げた。 

靴を脱ぎ揃えるような音がする。

 続いて、ギシギシと響き、両足の外側に柔らかく温かい何かが当たる。

 これは、足か?

 おそらく誰かがベッドの上に乗っかり俺の足をまたぐ形で立っているのだろう。 

「ツクヨミちゃん何をするきなの?」 

ツクヨミだと?! 
だとしたら今のこの状況はかなり危険だ。  

うっすらと目を明け、その時が来るのを待つ。 
 
「こう······するんです」

 彼女は、制服をなびかせながら宙に飛び反転すると危険大な踵落としを放ってきた。 

もちろん予測していた俺は、起き上がりながら顔面を守備するように両腕をクロスさせ彼女を弾く。

  弾かれた彼女は天井すれすれに体制を立て直すと白い床にきれいに着地た。 

「ほら、起きました」 

そう言うと自らが座っていたであろう場所へと何事も無かったかのように戻る。 

「もっとましな起こしかたがあるんじゃないか」 
 
傷を追った足を確認しようと動かすと痛みはなく完全に治っていた。 
 
視界に入ってきたのは白一色のベットだ。 

向こうに3つ。こちらに2つ。 

俺が寝ていた右側。

 ベットと空きベットを挟んだ向こうには事務机と椅子があるが誰も座っていない。 

どうやらここは、学院の医務室らしい。 

俺が寝ているベットから見て左側、窓辺側近くのソファーに三人は腰掛ける。

 姉ちゃん、姉ちゃんの契約女神であるツクヨミ、イフの順番で座る。  

 面々が着ている制服は、上は紺色の長袖。  

段のないジャケットのような素材であり、チャックで止められるようになっている。

 それらは、閉じられていない為Yシャツが見えネクタイは学年により赤と緑でそれぞれ分かれいる。

 スカートは灰色を主体とした黒いチェック柄が入っている。 

「やっと起きたね、瞬ちゃん やっぱりお姉ちゃんの事が大好きなんでしょう? 」 

黒髪、紺色の瞳、黒いタイツをはいた抜群のスタイルを持った俺の姉は、ポニーテールを揺らしながら笑みを浮かべてくる。 

中にはこの美人な姉とのやり取りを微笑ましく見る者がいるかもしれないが、実際はとても微笑ましいものではない。

 俺に対する姉の愛は正直引くほど重いのだ。 

それはもう、 (あなたを殺してわたしもしにます♪)なみに、だ。 

ただここで(あぁ、そうさ) などと肯定してしまうとスイッチが入りますます歯止めが聞かない暴走者バーサーカーになりかねないので。

 「いや、それはない。絶対ない。というか何でそう言う結論に至るんだよ」

 否定する。 
とにかく否定、それに尽きる。 

「へぇ、そうなんだ じゃあ、やっぱりイフちゃんの事が······朝の現象はそういう事なの? 」 

もちろん自信以外の他人へ好意がると思わせるのもNGだ。 

無論、仲間としての信頼はあっても好意は誰にも抱いていないわけだが。 

そうしなければ、また違ったスイッチが入り、そいつを殺すまではいかないものの、 そいつを半殺しにするまでは暴走行為は止まらないだろうな。 

「聞けよ!! いいかよく聞け!! ······それもないけどな」 

「そう? ならいいんだけど と言うことで、イフちゃん ここは引き分けにしといてあげる! 」 

「はぁ……? なんだか分かりませんが 
なんとなく胸が痛むんですけど  
ちょっと、どういうことか説明してください」 

いいんだイフ。 そこは別に理解しなくて。 

本当にいいんだよ! !変な方向に行く前に話を逸らさなければ。

 ちょうど手頃なのが近くにいるではないか。 

「そ、それよりさっきの起こし方は本当にないわ〜うん、ない」 

問われた女神はこちらに小首をかしげる。 

「目覚めてよかったじゃありませんか?  先程の衝撃で目覚めなければ、
マスターの為、意識を呼びおこそうと氷漬けにしようかと思っていました」 

あーやばい。 こんな小さな身なりをしているのになんて酷いことを考えるんだろうか。 

「あぁ良かったよ
お前ならやりかねないからなツクヨミ 
それに意識を呼び起こすどころか永遠の眠りにつきかねないぞ ……それ」 

「······?」 

無垢は怖いね。 

俺の投げ掛けに再び首をかしげた小学生並みにちんまりとした青髪紺色の瞳を持つ美少女は疑問の顔を浮かべる。

 やっぱりこいつ常識ってもんを知らないだろ。

 そう思いつつ俺はおもわず顔をひきつらせた。 

「しかし、瞬 禁じられた聖剣の使い手である貴方が、意識を失うとはそれ程の敵だったんです?」  

ツクヨミは疑問を浮かべたままそう投げかけてきた。

「それはだな、要因はすべてこいつらにある」 

「はい、重々反省しています」 

「私も? 何か今日瞬ちゃんにしたかな? はてさて」

 素直に認めたイフに比べ、 姉はまるで今朝した事を覚えていないかのように疑問の顔を浮かべる。
 
無論本人は、覚えている。

 こう見えて姉は策士なのだ。 

「姉ちゃんがしらを切るだろうと思ってちゃんと策をこうじてある イフ、バックからあれを出してくれ」 

「あれですか? あれてなんです? 」 

「食べるな危険。と家から出るまいに包み紙に確かに書きほどこし、お前のカバンに入れておいたおにぎりだが ······お前まさか!! 食べたのか?! 」 

イフは問われると、ソファから反動で立ち上がる。 
顔がみるみる真っ青になっていった。 

「え?……はい、食べ······ました。 食べてしまいました!!  
リナさんを聖王様のところまで送った後。 お腹が空きすぎて、何かないかとカバンをあさると包み紙にくるんだおにぎりが入っていたので ······なにも見ずに衝動でつい 
一体何をいれたんですか!! 奏?」 

ワナワナしながら、イフが姉の顔を凝視するが そう問われた本人は、苦笑いを浮かべつつこちらに顔を向けてくる。 

どうやら相当やばいものを入れたらしいな。 

あの顔を見るに。 

「え! う、うーんとね……もう少しで効果が出ると思うよ まさか本当に食べるなんて······」 

姉が苦笑いを浮かべたままついに顔を窓の外へとそらした。  

 すると途端に、イフが光を放つ。 

体がみるみる小さくなっていき、光が消失すると背が縮み、体型も色々な部分も小さくになってしまっていた。 

制服がだぼだぼだだ。 

その姿は、もはや小学…… 

「な、何ですかこれ!! 瞬、私どうなってます?」 
「······ちまっとしてる ツクヨミと同じくらいちまっとしてる」 
「······グット」  

ツクヨミはなぜか嬉しそうにイフに向け親指をたてた。
 
そして、目を輝かせながら、アマテラスに駆け寄り両手を握る。

 「なぁ……姉ちゃん……ちゃんとこれ戻るんだよな」 

「······うん……多分大丈夫 三時間後には解けるはずだから……」 

たぶんかよ 

「だいたい、何でイフにこんなの仕組んだんだよ!? 」

 「だ、だって、アマテラスちゃん 私とプロポーションいい勝負だし、このままじゃ瞬ちゃんが······」  

顔を伏せ暗い声でそう呟いた。 

ブラコンもここまでの行動をするとなるとさすがにあきれてしまう。

 だが、異界化以来心に俺以上の深い傷をおってしまった姉だからこそしょうがないなという部分もある。

 姉に残された唯一の家族は俺だけなのだから。 

「今回は見逃すが二度とこんな真似しないでくれよ、本当に二度とごめんだ ……イフ、申し訳ないが今回は不問でいいか?」

 「まぁ、瞬がそう言うのなら不服ですが契約者として従います それにこちらにも落ち度はありますし」 

「二人とも本当にごめんね 特にイフちゃんには悪いことしちゃったね」 

「い、いいえ! ありますよね……そんな気持ちになる時って……ははは」 

完全なる愛想笑いならぬ愛想返答だ。 

その後も顔がひきつっている。 

きっとイフは何かを感じ取ったのだろう。 

その毒の効力がもっと深刻であるようなことを。 

「それに三時間くらい弱化しても問題ないですよ、たぶん······本当にとけますよねこれ? 災厄の場合は聖王様に」

 その時、急にコツとヒールの音が響き、音がした方向に振り向くと機嫌が悪そうなアテナが立っていた。

 美人としか言い様のない整った顔立ちとスラッとした立ち姿。

 腰の高さまである淡い金色の髪に少しつり上がった黄金色の瞳。

 王族の証である黄金色に輝く瞳はあまりに美しく神々しく、見た者全てを惹きつける。 

そう昨日の晩酌の時とはまるで別人だ。 聖王モード。
いや、学長モードに入られているのだろう。 

「その類いの聖術はかけた聖剣士が全聖力を消費しない限り解けませんよ、イフレスト。 私が解ける物ではないのです」 

「聖王様!! あ、いえ今は学長でしたね……て、それ本当ですか?! どうします瞬?! 」 

「悪い、俺に聞くな」 

そう聞かれても、聖王がお手上げじゃ、 こちらができる対処なんてほぼ皆無に等しいだろう。 

イフにとって残念で災難だが諦めろとしかし言いようがない。 

「全く仕方のない。 
その身だしなみでは女神としての品格に関わりますから、聖術をかけてあげましょう」 

そう言うと、聖王兼学長のアテナは、アマテラスに向けて手をかざし目を閉じ集中するとすぐに目を開けた。 

ほんの数秒だった。

だぼだぼだった制服から靴まで一式がちまっとしたアマテラスの身体にフィットしていた。   

「ありがとうございます聖王……いえ学長」 

「ついでに体格にあわせて伸縮するよう聖術を施しておきました。 
これで弱体化が解けても制服と下着が破損する事はないでしょう、私に感謝するのですよ。  
さて、皆さんお揃いですね 
それでは学長室へと移動します お説教の時間ですから。
 特に瞬くん? 貴方にはたっぷりと経緯を聞かせてもらいましょうね!!」 

問われただけなのにものすごく威圧感がある。 

それは思わず「yes,sir」と秒で返事を返してしまうほどに。

 睨みを効かされ萎縮したまま、学長が指を弾くと俺たち面々は学長室内へと転移した。 

----お説教か。 

この展開は、俺にとってもみんなにとっても迎えたくない試練であることに間違いなかった。

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