ハクスラ異世界に転生したから、ひたすらレベル上げをしながらマジックアイテムを掘りまくって、飽きたら拾ったマジックアイテムで色々と遊んでみる物語。(タイトルに一部偽り有り)

ヒィッツカラルド

第501話【つまらない決着】

斬り戻し──。

分かってしまえば単純明快な戦法だわな。

セーブしてから戦って、負けそうになったらロードだ。

なのに戦闘経験値は獲得ですか~。

確かに常に成長し続けるよね~。

ずっこいと言いますか、せこいと言いますか~。

真面目少年クラウド君にしては正攻法じゃあないよね~。

再びクラウドが頬をバスタードソードで傷付けた。

スイッチの準備OKですかい。

「僕はこうして無限に実戦の中でトレーニングを積んで行く。それなのに体力も減らず、集中力も磨り減らさない。コストの軽減は存在しない。だが、キミはどうだい?」

「ちっ……」

俺はつまらなそうに舌打ちを溢してから言った。

「そんなもんで、いつか俺を越えられると思うたか?」

クラウドが力強く返す。

「思う!!」

「無理だね」

「僕はキミを越えるどころか、この場で殺すつもりだ!!」

「あ~、さっきもそんなことをほざいていたな~」

クラウドの瞳が殺伐と曇る。

その暗さから本気度が悟れた。

「マジで殺れるのか?」

「殺れる!!」

「今まで人を殺した経験は有るのか?」

「無い……。それどころか人を切った試しすら無い……」

「そんなんで、俺が切れるのか?」

「切るっ!!」

「なんの為にだ?」

「アマデウスさんが築く冒険者ギルドでナンバー2の地位を得るためだ!!」

「地位のためか?」

「そうだ。すべては地位のため。引いては金のためだ!」

「金?」

おいおい、いきなり俗物な話になったな……。

この坊やは金に困ってるのか?

「なあ、俺を切るなら冥土の土産に訊かせてくれないか?」

「何をだい?」

「何故に金が欲しい?」

クラウドがバスタードソードを握る手を緩めて語り出す。

こいつ、本当に真面目だよな。

訊かれたらちゃんと答えちゃうんだもの……。

「僕の家は地方の小さな領土を預かる男爵家なんだ……」

へぇ~、やっぱりボンボンなんだね。

「でも、辺鄙な土地で穀物も育ちにくい。だから住んでいる者も少ない貧しい土地だ」

それがトラウマかな?

「三年前だ。我が領土で疫病が発生して多くの村人が死んだ。残った村人は土地を捨てて逃げ出す者も居たぐらいだ……」

あ~、なんかもう話が見えてきたぞ。

「今は父が一人で遣り繰りして領土を管理しているが、いずれお金が尽きて破綻する。僕はそれまでに大金を作って持って帰らなければならない。じゃないと我が家は……」

「そんなことのためにお前は俺を殺そうとしているのか?」

「金額が多額過ぎて、一攫千金を狙わなければ、到底稼げる金額じゃあない。だから冒険者になったけれど、そんな美味しい冒険は、そうそう転がっていないんだ。それはキミも分かるだろ……」

「それで、ギルド内での出世を狙ったわけかい」

「ああ、そうだ……」

「つまんね~」

ピーーンっと空気が張り詰めた。

クラウドの眼光が鋭く怒りに燃える。

「つまらんだと……」

「そうだ、つまらない。そんなつまらない理由で俺は命を狙われたとなると、退屈すぎて情けなくなるぜ」

「どこまでも、僕を愚弄するつもりか!!」

クラウドが怒りに我を忘れた瞬間に俺はダッシュした。

一瞬で間合いを詰めると飛び膝蹴りを顔面に打ち込んでやる。

「ジャンピングニーパット!!」

「げふっ!!!」

俺の膝蹴りで鼻を潰されたクラウドが後方に飛んだ。

そして着地と共に「斬り戻し!」と叫ぶ。

再びクラウドの傷が瞬時に治る。

「不意打ちとは、卑怯なり!!」

文句を垂れながらクラウドがバスタードソードで頬を斬ろうとした。

だが、間合いを詰めていた俺が黄金剣でバスタードソードを持つ手首を叩いて止める。

「ぬっ!!」

「させるかよ!!」

スイッチとなる頬の傷を刻ませない。

そこからのローキックだ。

俺の下段回し蹴りがクラウドの脹ら脛を蹴り飛ばす。

ガキンっとメタルブーツが激しく鳴った。

「くはっ!!」

クラウドはよろめきながらも頬をバスタードソードで傷を付ける。

「おらっ!!」

俺はそれでもクラウドへの追撃を止めない。

黄金剣を振るってクラウドの首を切る。

「かはっ!!」

首を切断とまでは行かないが、頸動脈が切れたのだろう。

クラウドの首から派手に鮮血が舞う。

「き、斬り、戻し……」

そして時間が巻き戻る。

宙に舞った鮮血がクラウドの首に戻ると傷口も消えた。

だが、次の瞬間である。

クラウドが苦痛の表情でよろめいたのだ。

「うぬぬっ!?」

よし、やはりだ。

俺に蹴られた片足が痛いのだろう。

俺はクラウドが痛みによろめいた隙に殴り掛かった。

「そらっ!!」

俺の繰り出したパンチがクラウドの左目に炸裂する。

俺が拳を振り切るとクラウドの左面に青短がスタンプされていた。

「ぐはっ!!」

片目を押さえながら後退するクラウドがバスタードソードで頬を切る。

そこに俺が黄金剣で打ち込んだ。

下段斬り、上段唐竹割り、逆水平斬りと三連打。

クラウドはなんとか上下の剣打をガートするが逆水平斬りを胸に食らう。

「ぬぬぬっ!!!」

俺の間食ではプレートを切り裂き、刀身は肋骨おも切り裂いた間食だった。

だが、即死の深さではないだろう。

そもそも即死は狙っていない。

そして、クラウドが血を吐きながら「斬り戻し!」っと叫んだ。

再び散った鮮血が傷口に戻り、裂けたプレートメイルの装甲が塞がった。

だが、クラウドが顔を押さえながらよろめいている。

「こ、これは……」

クラウドが手を退けて見せると、右目の上にはパンダのような青短が刻まれていた。

更にクラウドは片足を痛めたように引き摺っている。

「まさか……」

俺はドヤ顔で言ってやる。

「そうだよ、そのまさかさ」

「ぬぬぬ……」

「斬り戻しの最大の弱点だ。頬を斬って傷を刻む前に受けたダメージまでは回復できないんだろ~」

俺はケッケッケッと笑ってやった。

おそらく正解なんだろうさ。

その証拠にクラウドが悔しそうに表情を歪めている。

まだ今は、ローキックとパンチ一発分のダメージだが、これからどんどんと積み重ねてやるぞ。

頬を切る前にさ♡

あっ、やべ……。

ついつい語尾をハートマークに飾ってしまった……。

これでは糞女神と一緒じゃあねえか…。

ヤバイヤバイ、気を付けよう……。

癖になったら大問題だ。

「おのれ……」

言いながらクラウドがバスタードソードを頬に近づけた。

そこに俺は魔法を撃ち込む。

「ライトニングボルト!!」

「ぐはっ!!!」

声を上げながらもクラウドが頬を刻む。

タイミング的に今のだと斬り戻しをやった瞬間にライトニングボルトのダメージまで再現されるんじゃあないのかな?

まあ、兎に角、切りかかろうっと──。

続いて俺は、離れた位置からスキルを放つ。

「ソニックウェーブ!!」

俺が振るった剣筋から光の斬激が飛翔した。

その斬激がクラウドの額を切り裂いた。

クラウドの眉間から、幾度目かの鮮血が舞う。

「くはっ!!」

「ダッシュクラッシャー!!」

更に俺の3メートルダッシュからの突きがクラウドの腹を刺して貫通させる。

狙った場所が優しいな。

急所からは遠い位置だ。

これなら貫通してても死にはしない。

「ぬぐぐぐっ!!」

このぐらいやっても平気だろうさ。

即死しなければ斬り戻しちゃうんだものね~。

「き、斬り戻し……」

おおっと!!

俺まで3メートル後方に巻き戻ってるぞ。

ちょっとビックリだわ~。

刹那。

「ぎぃぁあああ!!!」

おお、やっぱりだ。

クラウドの奴がライトニングボルトのダメージに身体を捩ってますわん。

ざま~ね~な~。

さて、この隙に~。

「ダッシュクラッシャー!」

「ぐぐっ!!」

スキルで突進してきた俺の攻撃をクラウドがバスタードソードで防御する。

しかし、逸れた俺の攻撃がクラウドの太股を僅かに切り付けた。

浅いが確実なダメージとして残る傷だぜ。

「いやっ!!」

クラウドが闇雲に剣を振るって俺を遠ざけた。

それから自分の頬を切る。

しかし、その瞳には拾うが映っていた。

少しずつだが、追い込まれているのが自分でも悟れているのだろう。

そんなクラウドの様子を見て、俺は剣を下げた。

「クラウド。言っておくが手加減はここまでだ」

「て、手加減……」

「そう、手加減だ。俺が少し本気を出したら、お前なんて瞬殺できるんだぜ」

「ぬ、抜かせ……。どうせ、脅しだろ……」

俺は異次元宝物庫からシルバークラウンを取り出すと頭に被る。

そして、積まれた丸太の方を見ながら魔法砲を放った。

「マジックイレイザー!!」

「っっ!!!!!!」

俺の口から放たれる魔法の波動光線が丸太を抉りながら焼き払った。

積まれた丸太の山に丸いトンネルを切り開くと炎上させる。

「ウ、ウソでしょ……」

「本当だよ。これが俺の本気だぜ」

みるみるうちにクラウドから戦意が失せて行くのが分かった。

やっと実力差が理解できたようだな。

「お前の成長が俺に追い付く前に、俺はお前を何時でも消し炭にできるんだ」

「う、うん……。分かった……」

「じゃあ、降参してくれるか。それとも消し炭になるか?」

「こ、降参します……」

決着。

アスランvsクラウド。

ギブアップにより、勝者アスランに決定。

「まあ、こんなもんだろ」

俺がシルバークラウンを異次元宝物庫に片付けて黄金剣を鞘に戻すと、木材置き場の陰から明るい声が飛んで来た。

「アスラン君、つよーーい。かっこいい~~♡」

あれ、ミーちゃんだ。

「なんだよ、ミーちゃん、居たのかよ」

良かったぜ。

マジックイレイザーで巻き込まなくってさ。

ミーちゃんがはしゃぎながら言う。

「アスラン君が怖~い人たちに連れて行かれるのを見たから、骨だけでも拾って上げようかと思って後をつけて来てたんですよ~」

俺は眉間を摘まみながらミーちゃんに背を向けて愚痴った。

「なんだよ、骨だけ拾って、助けは呼んでくれないのね……」

「うん、てへぺろ♡」

ザクリ……。

「へっ……?」

痛い……。

何でだ……?

「隙ありよ♡」

俺が振り返るとミーちゃんが手に持ったダガーで俺の脇腹を後ろから刺していた。

やべぇ……。

かなり深く刺された……。

刺された俺を見てクラウドが叫んだ。

「て、天秤さん!?」

天秤……?

どういう……こと……。


【つづく】

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