ハクスラ異世界に転生したから、ひたすらレベル上げをしながらマジックアイテムを掘りまくって、飽きたら拾ったマジックアイテムで色々と遊んでみる物語。(タイトルに一部偽り有り)
第327話【姫様の帰還】
星空に向かって光のオーブが複数登っては消えて行く。
俺が森からイルミナルの町に帰ったころには光のオーブはすべて消えていた。
しかし、町中は夜なのに騒ぎとなっている。
そりゃあそうだよね。
いきなり町中の大地から、複数の光のオーブが沸き上がり、天に向かって昇天して行くんだもの。
そんな神秘的な光景を、なかなか見れないだろう。
俺は騒がしい町の中を通って宿屋に到着した。
しかし、店のマスターが酒場の扉を閉めて、クローズと書かれた看板を下げているところだった。
「マスター、どうしたん?」
「ああ、あんたか」
俺が訊くと店のマスターは、少し戸惑った表情で述べた。
「君主のハン様が城の前で、何か重大な発表をするらしいんだ。さっき城の従者が知らせを叫んで走ってたから俺も行くところなんだよ。何せ、こんなことは、この十年ほど無かったからな」
「へぇ~、そりゃあ大変だ。俺も聞きにいこうかな」
君主のハンって確か、レイラ姫様の父親だよな。
確か病気で床に伏せていたとか。
更に店のマスターが言う。
「それと従者は姫様の呪いがとけたとか言ってたらしいんだ」
「マジで!?」
「あの光のオーブといい、姫様の呪いが解けたといい、今宵は大きく何かが変わると思うんだ。だから店を閉めてまで俺も城に向かうところなんだよ!」
「うし、俺も一緒に行くぜ!」
「じゃあ、早く行くぞ。いい場所を取らないと話がちゃんと聞けないからな!」
「おおっ!!」
俺と店のマスターは人々が進む波に乗って城を目指した。
これは凄い人数だ。
町中の人が集まって来ているな。
「町の全員が集まってるんじゃあないのか……」
俺が古城の前の壁に到着すると町の人々が様々な表情で壁を見上げていた。
不安がる者、期待する者、好奇な者、恐怖する者、笑っている者、様々だ。
兎に角ガヤガヤしている。
そして暫くすると10メートルほどの高さがある壁の上に従者に支えられながら老紳士が姿を表した。
おそらくあれが君主のハンだろう。
その証拠に周囲の住人から小声でハン様ハン様と聞こえて来る。
白髪に長い髭、しかし上品なスーツを着ている。
片手に着いたステッキだけでは病気の体を支えられないのか従者が献身的に寄り添っていた。
俺が呟く。
「ありゃあ、いつ死んでも可笑しくないな……」
俺が呟くと誰かに頭を叩かれた。
「そう言うことは言わないの!」
知らないおばちゃんだった。
俺は黙り込む。
すると町の人々に対して従者が大声を張る。
「イルミナル市民の皆様、静粛に!!」
そろそろ始まるのかと集まった人々がざわめきを高めた。
「皆様、これから君主ハン様から直々に発言がありますが、ハン様は病弱のためお声が小さいです。なので静粛にお願い致します!!」
従者の話を聞いた町の人々が静まり返った。
話すどころか声すら上げない。
黙ったまま壁の上の君主を見上げていた。
そして、ヨボヨボの君主ハンが一歩前に出た。
ゆっくりと城壁の上から住人たちを見回した。
それから小さな声でゆっくりと語り出す。
「イルミナルの市民たちよ、私が悪魔に娘の魂を売ったのは存じておろう……」
酷い親である。
自分の一人娘を悪魔なんかに売っちまうんだもの。
「だが、先程のことである。娘が十数年ぶりに帰ってきたのだ……」
えっ、マジで?
ただダンジョンから帰って来たとかじゃあないよね。
「しかし、この地に施された恵みの祝福は消えた。あとは私たちだけで土地を保たなければならない……。それを覚悟せねばならないのだ……」
これで町を捨てる人間も出て来るのかな?
まあ、俺には関係無い話だけれどさ。
「それで私は君主を引退して、娘のレイラにその座を譲ろうと思う……」
ええっ?
あの「がるる」しか言えないレイラ姫様に君主なんて勤まるのか?
町の人々も少しどよめいているよ。
「では、紹介しよう、我が娘の新生レイラを……」
新生ってなんだよ!?
するとハン君主の背後から一人の娘が前に出て来た。
蜂蜜色の金髪に、可憐なドレスを身に纏ったプリンセスは、蛮族のような黒山羊頭を被ってはいなかった。
優しく柔らかい笑みで微笑んでいる。
威嚇的に「がるる」なんて言いそうに無いぐらい気品に溢れている。
その新生プリンセスを見た町の人々から歓声が上がった。
町の人々も、先日まで恐れていた黒山羊頭のお姫様とは別人が出て来て驚いているようだ。
新生レイラ姫様は優雅に手を振りながら前に出て来た。
そして、壁の上から民衆を見下ろしながら言った。
「皆さん……」
透き通るような美声だった。
皆が息を飲む。
皆がレイラ姫様の次の言葉を待った。
暫しの沈黙。
その沈黙は長く感じた。
やがて沈黙を打ち破るようにレイラ姫様が両腕を広げながら満面の笑みで言った。
「皆、ただいまーー!!!」
その明るい言葉に市民たちが沸き上がる。
「「「おおおおおおおおおおーー!!!!」」」 
大地が揺れて夜空の星が落ちて来そうなぐらいの大歓声だった。
「えっ……、なに、この盛り上がり?」
更に続くレイラ姫様のお言葉。
「皆、本当に待たせたわね。私は帰って来たよ。だって約束だったもんね! 」
「「「おおおおおおおおおおーー!!!!」」」 
スゲー歓声だな……。
てか、なに、このテンション!?
約束とかしてたのか?
「皆もこの日を待ってたんだよね! 分かるよ! 私には分かってるんだからね!」
「「「おおおおおおおおおおーー!!!!」」」 
「私は忘れてなかったよ! 帰って来る日を! 皆が待っててくれることも!!」
「「「おおおおおおおおおおーー!!!!」」」 
「だから私は帰ってきたの。だから帰ってこれたの!!」
「「「おおおおおおおおおおーー!!!!」」」 
「これからは皆と一緒なんだからね! 辛いことも有るかも知れない。悲しいことも有るかもしれない。でも、皆で歩めば乗り越えられるわ!!」
「「「おおおおおおおおおおーー!!!!」」」 
「皆で盛り上げて行きましょう! 皆で乗り越えて行きましょう! 皆でこのイルミナルの町を築いて行きましょう!!」
「「「おおおおおおおおおおーー!!!!」」」 
なに、この盛り上がりは?
なんか覚えがあるな?
なんだったっけな?
あー、思い出したわ。
そうだよ、そうだ。
コンサートだ。
これ、アイドルのコンサートと同じテンションだわ……。
こうして、この夜からイルミナルの日常が新たな道を歩み出した。
正気を取り戻したレイラ姫様と住人たちによってだ。
そして、記念日も出来た。
このレイラ姫様の帰還日を記念日に指定して、年に一度、町の住人の手によって上げられるのだ。
和紙で作られた小さなバルーンを作り、蝋燭の光と熱で、夜空に数百個ほど舞い上げるのである。
光の灯籠を──。
それは、レイラ姫様が正気を取り戻した晩に皆が見た光のオーブを模倣したものである。
【つづく】
俺が森からイルミナルの町に帰ったころには光のオーブはすべて消えていた。
しかし、町中は夜なのに騒ぎとなっている。
そりゃあそうだよね。
いきなり町中の大地から、複数の光のオーブが沸き上がり、天に向かって昇天して行くんだもの。
そんな神秘的な光景を、なかなか見れないだろう。
俺は騒がしい町の中を通って宿屋に到着した。
しかし、店のマスターが酒場の扉を閉めて、クローズと書かれた看板を下げているところだった。
「マスター、どうしたん?」
「ああ、あんたか」
俺が訊くと店のマスターは、少し戸惑った表情で述べた。
「君主のハン様が城の前で、何か重大な発表をするらしいんだ。さっき城の従者が知らせを叫んで走ってたから俺も行くところなんだよ。何せ、こんなことは、この十年ほど無かったからな」
「へぇ~、そりゃあ大変だ。俺も聞きにいこうかな」
君主のハンって確か、レイラ姫様の父親だよな。
確か病気で床に伏せていたとか。
更に店のマスターが言う。
「それと従者は姫様の呪いがとけたとか言ってたらしいんだ」
「マジで!?」
「あの光のオーブといい、姫様の呪いが解けたといい、今宵は大きく何かが変わると思うんだ。だから店を閉めてまで俺も城に向かうところなんだよ!」
「うし、俺も一緒に行くぜ!」
「じゃあ、早く行くぞ。いい場所を取らないと話がちゃんと聞けないからな!」
「おおっ!!」
俺と店のマスターは人々が進む波に乗って城を目指した。
これは凄い人数だ。
町中の人が集まって来ているな。
「町の全員が集まってるんじゃあないのか……」
俺が古城の前の壁に到着すると町の人々が様々な表情で壁を見上げていた。
不安がる者、期待する者、好奇な者、恐怖する者、笑っている者、様々だ。
兎に角ガヤガヤしている。
そして暫くすると10メートルほどの高さがある壁の上に従者に支えられながら老紳士が姿を表した。
おそらくあれが君主のハンだろう。
その証拠に周囲の住人から小声でハン様ハン様と聞こえて来る。
白髪に長い髭、しかし上品なスーツを着ている。
片手に着いたステッキだけでは病気の体を支えられないのか従者が献身的に寄り添っていた。
俺が呟く。
「ありゃあ、いつ死んでも可笑しくないな……」
俺が呟くと誰かに頭を叩かれた。
「そう言うことは言わないの!」
知らないおばちゃんだった。
俺は黙り込む。
すると町の人々に対して従者が大声を張る。
「イルミナル市民の皆様、静粛に!!」
そろそろ始まるのかと集まった人々がざわめきを高めた。
「皆様、これから君主ハン様から直々に発言がありますが、ハン様は病弱のためお声が小さいです。なので静粛にお願い致します!!」
従者の話を聞いた町の人々が静まり返った。
話すどころか声すら上げない。
黙ったまま壁の上の君主を見上げていた。
そして、ヨボヨボの君主ハンが一歩前に出た。
ゆっくりと城壁の上から住人たちを見回した。
それから小さな声でゆっくりと語り出す。
「イルミナルの市民たちよ、私が悪魔に娘の魂を売ったのは存じておろう……」
酷い親である。
自分の一人娘を悪魔なんかに売っちまうんだもの。
「だが、先程のことである。娘が十数年ぶりに帰ってきたのだ……」
えっ、マジで?
ただダンジョンから帰って来たとかじゃあないよね。
「しかし、この地に施された恵みの祝福は消えた。あとは私たちだけで土地を保たなければならない……。それを覚悟せねばならないのだ……」
これで町を捨てる人間も出て来るのかな?
まあ、俺には関係無い話だけれどさ。
「それで私は君主を引退して、娘のレイラにその座を譲ろうと思う……」
ええっ?
あの「がるる」しか言えないレイラ姫様に君主なんて勤まるのか?
町の人々も少しどよめいているよ。
「では、紹介しよう、我が娘の新生レイラを……」
新生ってなんだよ!?
するとハン君主の背後から一人の娘が前に出て来た。
蜂蜜色の金髪に、可憐なドレスを身に纏ったプリンセスは、蛮族のような黒山羊頭を被ってはいなかった。
優しく柔らかい笑みで微笑んでいる。
威嚇的に「がるる」なんて言いそうに無いぐらい気品に溢れている。
その新生プリンセスを見た町の人々から歓声が上がった。
町の人々も、先日まで恐れていた黒山羊頭のお姫様とは別人が出て来て驚いているようだ。
新生レイラ姫様は優雅に手を振りながら前に出て来た。
そして、壁の上から民衆を見下ろしながら言った。
「皆さん……」
透き通るような美声だった。
皆が息を飲む。
皆がレイラ姫様の次の言葉を待った。
暫しの沈黙。
その沈黙は長く感じた。
やがて沈黙を打ち破るようにレイラ姫様が両腕を広げながら満面の笑みで言った。
「皆、ただいまーー!!!」
その明るい言葉に市民たちが沸き上がる。
「「「おおおおおおおおおおーー!!!!」」」 
大地が揺れて夜空の星が落ちて来そうなぐらいの大歓声だった。
「えっ……、なに、この盛り上がり?」
更に続くレイラ姫様のお言葉。
「皆、本当に待たせたわね。私は帰って来たよ。だって約束だったもんね! 」
「「「おおおおおおおおおおーー!!!!」」」 
スゲー歓声だな……。
てか、なに、このテンション!?
約束とかしてたのか?
「皆もこの日を待ってたんだよね! 分かるよ! 私には分かってるんだからね!」
「「「おおおおおおおおおおーー!!!!」」」 
「私は忘れてなかったよ! 帰って来る日を! 皆が待っててくれることも!!」
「「「おおおおおおおおおおーー!!!!」」」 
「だから私は帰ってきたの。だから帰ってこれたの!!」
「「「おおおおおおおおおおーー!!!!」」」 
「これからは皆と一緒なんだからね! 辛いことも有るかも知れない。悲しいことも有るかもしれない。でも、皆で歩めば乗り越えられるわ!!」
「「「おおおおおおおおおおーー!!!!」」」 
「皆で盛り上げて行きましょう! 皆で乗り越えて行きましょう! 皆でこのイルミナルの町を築いて行きましょう!!」
「「「おおおおおおおおおおーー!!!!」」」 
なに、この盛り上がりは?
なんか覚えがあるな?
なんだったっけな?
あー、思い出したわ。
そうだよ、そうだ。
コンサートだ。
これ、アイドルのコンサートと同じテンションだわ……。
こうして、この夜からイルミナルの日常が新たな道を歩み出した。
正気を取り戻したレイラ姫様と住人たちによってだ。
そして、記念日も出来た。
このレイラ姫様の帰還日を記念日に指定して、年に一度、町の住人の手によって上げられるのだ。
和紙で作られた小さなバルーンを作り、蝋燭の光と熱で、夜空に数百個ほど舞い上げるのである。
光の灯籠を──。
それは、レイラ姫様が正気を取り戻した晩に皆が見た光のオーブを模倣したものである。
【つづく】
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