ハクスラ異世界に転生したから、ひたすらレベル上げをしながらマジックアイテムを掘りまくって、飽きたら拾ったマジックアイテムで色々と遊んでみる物語。(タイトルに一部偽り有り)

ヒィッツカラルド

第23話【旅の宿屋】

あの村を旅立って一日が過ぎた。

村を出てから気付いたのだが、あの村の名前を訊くのを忘れていた。

今さらの話なので、気が付かなかったことにしよう。

もう、『あの村』と呼ぶことにした。

てか、もう、訪れることも無いかもしれないし、いいかと思う。

兎に角、次の町を目指そう。

まだまだ先は長いし、まだまだ相当な距離を歩かなければならない。

いま目指している町の名前は聞いている。

村人が『ソドムタウン』とか言っていた。

ソドムって聞いたこと有る名前だよね。有名だ。

意味は分からん……。

スマホが有れば、グーグル先生で直ぐに検索するんだけどな。

だって、暇だし──。

ずっと大自然の中を歩いているだけだしさ。

車があれば、直ぐに到着できる距離だよな。本当は──。

まあ、俺は高校生だったから、免許を持ってなかったけどね。

でも、チャリぐらい欲しいよな。

この異世界だと一般的な乗り物は、馬が主流だと思うんだ。

だから旅を続けるなら馬に乗る練習もしなくっちゃならないのかな?

俺は馬に乗れるかな?

そもそも馬なんて、競馬中継でしか観たことないぞ。

生で馬すら見たことないのに、馬に乗らなければならないのか……。

面倒臭い……。

チャリでも開発して、それに乗って旅とかするの、良くね?

ほら、学生の夏休みで日本一周の旅とかするヤツが居たじゃんか、あれみたいにさ。

てか、日本って……なに?

ついつい思い浮かんだ単語だったが、意味が分かんない……。

たぶん、俺が住んでいたところだろう。

その内に、おいおい思い出すさ。

この異世界に来てから記憶が曖昧だが、少しずつ思い出していると思うからな。

まあ、いいか。

それよりチャリの開発とか出来るかな?

やっぱ無理かな?

無理だよね。

チャリを開発するより真面目に、馬に乗る練習をしたほうが早そうだわ。

まあ、その内の話しだ。

今は馬も居ないんだから、歩いてソドムタウンを目指そう。

あと、この辺に旅の宿屋が在るって村人が言ってたよな。

今晩は、そこに泊まってゆっくりとしたいんだが──。

村人に宿屋の場所を教えて貰うために、簡単な地図を描いてもらってるんだが、この地図が下手くそすぎてよく分からん。

廃鉱内のマップは完璧な地図だったのに、なんでこの地図は下手くそなんだよ?

使えねーな、あの村人は……。

だからキャラ名も貰えないモブなんだよ。

ちっ、愚痴ってもしゃあないか。

えーと、この山があの山だと思うから、この山の間を進んで、あの森を抜ければ、旅の宿屋が在るはずだ。

多分……。

しばらくは感だけを頼りに森の中の道を進んで行くと、やっとのことで森を抜けた。

すると少し離れた丘の上に目的の宿屋を発見する。

草原の真ん中に拓けた道が続き、その先の低い丘の上に二階建ての質素な建物が在る。

粗末な作りの木の柵で囲まれた庭の入り口に、『ウエルカム、旅の宿屋』と書かれた木の看板が出ていた。

間違いないだろう。ここが村人が言っていた宿屋のはずだ。

建物の入口前には、空と思われる酒樽が並んでいた。

庭には二羽鶏が居る。

放し飼いのようだ。

煙突からは、うっすらと煙が出ていた。

何か肉料理を作っているのか、いい匂いがする。

今晩の夕食が、とても楽しみになった。

村人は中年夫婦が二人っきりで営んでいると言っていた。

店主は気さくで、奥さんも明るい人だとも言っていたから、人見知りの激しい人でも直ぐに馴染めるとも言っていた。

だから俺は軽い気持ちで宿屋の扉を開いた。

ノックという文化に馴染みがないから、なんの前置きも無しに扉を開いたのだ。

そして、宿屋の中を見ると一人の女性が、俺に背を向けながら暖炉の火に掛けた鍋物を、木のお玉で掻き回していた。

後ろ姿は細身の女性でスカートを履いている。

髪型はポニーテールだった。

彼女は扉が開いた音に気付いたようだ。

お客が来たのかと思って「いらっしゃいませ」と明るく言いながら振り返る。

「あっ」

「ゲッ!」

彼女が振り返ると俺の顔を見て「あっ」と声を漏らす。

俺のほうは、彼女の顔を見て「ゲッ!」と声を上げた。

「あなた、生きてたんだ~」

「魔女ょょぉぉおおおだぁぁあああ!!!」

そう、女性は、あの村で俺を悪魔の生け贄に捧げた後に食べようとしていた魔女っ子ガールだった。

冷静さを直ぐに取り戻した俺は、扉を静かに閉めた。

そして、直ぐ横に並んでいた空の樽を動かして扉を塞いだ。

それから走り出す。

もうダッシュで逃走した。

来た路を全力で逆走する。

「ちょっと~。まだ何もしてないのに、なんで逃げるのよ~?」

速いぞ!

全力で走る俺の背後からポニーテール魔女の声が聞こえた。

それすなわち、追って来て居る。

振り向かずとも分かった。

あのサイコパス女が追って来ている!!

振り返るな俺!

今は全力で走れ!

振り返る暇が有ったら全力を尽くせ!!

今は逃げるんだ!!

「まってよ~、何もしないからさ~」

信じられるか、ボケ!

だってお前は変態じゃあないか!!

「おっぱい、見せてあげるからさ~」

え、マジ……?

俺の走る速度が僅かに落ちた。

「ちょっとだけなら、触ってもいいからさ~」

なに!?

どうしよう!?

変態サイコパス魔女でもポニーテール美少女だったしな!!

そんなサイデレが、おっぱいを触ってもいいだとっ!!

あたたたっ!!

胸が痛くなってきたぞ!!

不味い!!

騙されるな俺!!

止まったら殺されるぞ、間違いなく!!

「じゃあ、大サービスよ。も、もんでもいいから~」

なにィ!!

もんでもいいだと!!

しかも、少し吃りながら言ったぞ、アイツ!!

ここぞと言うタイミングで吃音を使うなんて、可愛くてずるいぞ魔女!!

お前の魔法に掛かっちゃうじゃんか!!

胸の痛みを堪えながら走る俺は、ちょっとだけ振り返った。

そこで見たものは、既に黒山羊の頭部を被って鉈のような包丁を振りかぶりながら追っ掛けてくる彼女の姿だった。

だーめーだー!!

うーそーだー!!

あーりーえーねー!!

胸の痛みが瞬時に消えた。

絶対にラブイチャちゅっちゅちゅうルートに進まないパターンだわ!!

絶対にバットエンドルートだよ、これは!!

絶対に殺されるわ!!

絶対に止まれないわ!!

俺は、このあとしばらく走り続けた。

止まることも、振り返ることもなく────。


【つづく】

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