神に気に入られて異世界転生した俺は、救世と終焉の神殺しとなる

あざらし

84話 初の本気交渉



 ゲートを潜り、ランシェス王城前に出る


いきなり現れた事に驚く門番だが、直ぐに俺だと気付く






「クロノアス侯爵様。どうされたのですか?今は確かフェリック皇国におられるはずでは?」






「陛下に奏上したい事がある。至急、陛下に取り次いで頂きたい。事は重大なので、可及的速やかに対談したいと伝えてくれ」






「承知いたしました!」






普段とは違う印象と物言いに、門番は慌てて王城内へと伝えに行く


ちょっと前までは、こういった言い方が出来なかったが、少しは成長したのかな?と自問自答する


・・・答えは、当然出なかった






数分後、門番が戻ってきて、城へと通す


王城前には、とある貴族が待っていた






「言葉を交わすのは初めてだな。ランシェス財務卿のザイーブ・フィン・ガマヴィヂだ」






「お初にお目にかかります。グラフィエル・フィン・クロノアスです。それで、財務卿が何用でこちらへ?」






相手の用がわからないので、下手に出て伺う


貴族とはお互いの腹の内を悟らせない様に話すのだが、この財務卿は違っていた






「単刀直入に言おう。貴殿は今の王国の財政を知っているか?貴殿が陛下への奏上となると、ろくでもない気がするのでな」






伊達に国家のお財布を管理しているわけではない様だ


名前が財布とかがま口とかに似てるのは伊達ではないか


しかし、言われっぱなしでは癪に障るので反論する






「決めるのは陛下です。それに今回は、国にとって利益になると自分は考えております」






「・・だと良いが。しかし、その言葉が真実ならば、私が同席すのを認めてもらえるのだろうね?」






ぐ・・流石に財務卿をしているだけはあるか


逆撃をされ、言葉に詰まる


この交渉は、国家間に関わる問題になる可能性がある


故に、秘密を知る者は少ないに越した事はない


どうするか思案していると






「ザイーブ・・そう若い者を虐めてやるな。初めましてだな、クロノアス卿。俺は軍務卿のバラガス・フィン・ファスクラ


だ。中々派手にやってるようだな」






「巻き込まれてってのが多いんですけどね」






「大抵の奴は、巻き込まれた中で成果なんざ出せねぇよ。それも含めてお前さんの実力なんだろうぜ。運もまた実力なのさ」






「そういうものですかね?」






「そういうもんさ」






ファスクラ軍務卿は口はあれだが、気安い人だな


だが、軍務卿で貴族・・それも、最低でも伯爵以上


腐っても貴族なので、油断は禁物だけど


そんな中に更にもう一人加わる






「皆さん。入り口前で立ち話してると、他の方に迷惑ですよ」






「ヴィンタージ殿か・・陛下のご指示か?」






「ええ。3人を呼びに来ました。陛下は既にお待ちです」






「マジか・・これはお説教されるかもな。はっはっは」






「えーと・・こちらの方は?」






「ヴィンタージ・フィン・ダグレストです。娘がクロノアス卿と級友だよ」






「ヴィオレッタの御父上でしたか。初めまして。グラフィエル・フィン・クロノアスです」






「よろしく。さぁ、陛下がお待ちです。お早く」






こうして俺達3人は、ヴィンタージさんに急かされて、応接室へと向かう






応接室ではすでに陛下が待っており、ヴィンタージさんに案内された3人は、陛下の不機嫌オーラにさらされていた






「余を待たせるとは・・3人とも偉くなったものだな」






陛下の口撃が飛んでくる


ガマヴィチ財務卿はハンカチで汗を拭い、ファスクラ軍務卿はどこ吹く風だ


俺?俺は平常運転です


何かあれば、リアフェル王妃に告げ口するので


卑怯だって?ただ自分の人脈を使うだけですよ






まぁそれはさておき、このままでは話が進まないので






「申し訳ありません陛下。そこの二人に捕まってしまって。・・そう言えば、財務卿殿は財政について熱弁されてましたね」






謝罪すると同時に財務卿を売る


『俺は悪くありませんよー』とアピールも忘れない


軍務卿、小さくサムズアップ!


財務卿は横目で睨む


そんなやり取りを見た陛下は






「はぁ・・・もう良い。して、今日は何の用件だ?急ぎと聞いたが?」






溜息を吐き、本題に入る陛下


しかし、この二人には聞かれたくないのだが


そんな考えをわかっているかのように






「この二人は口も堅い。お主も来年成人するのだ。この二人の力を借りることもあるだろう」






「力をですか?」






「うむ。お主は今まで、子供だからと見逃されてきた部分もある。しかし、これからはそうはいかん。余としては、なるべく聞いてやるつもりだが、この二人に恩を売っておけば、やりやすくもなるだろうて」






なるほど・・これは陛下なりの援護なわけだ


となると、隠し事は無理だな


一応念押ししておくけど、仕方ないか






「わかりました。今からする話は、この場にいる者だけの秘密でお願いします」






「・・良かろう。お主等も良いな?」






「陛下のお言葉のままに」






「私も承知しました。で、クロノアス卿は何を話すんだ?」






そんなに急かさないで欲しい


軍務卿は効率重視なのかね?


とはいえ、事は直轄地の話になるし、慎重に行かないと






「実は・・先の手紙の件での話に付随するのですが、フェリックの依頼は黒竜の群れの殲滅又は排除でした」






「ふむ。だが、それだけの話でここに来たわけではあるまい?」






「はい。本題はここからなのですが、理由を説明する前に、封印の聖域についてお聞きしたいことがあります」






「あの場所については、お主が知っておる通りだが?」






「今でも直轄地なのですね?でしたらそこに、守護竜として黒竜族が住むことは可能でしょうか?」






この言葉に、ピクリと眉を動かす陛下


軍務卿は平静を装っている


財務卿は・・「こいつは何を言ってる?」って顔をしていた


数秒の沈黙の後、陛下が問いかけてくる






「お主の事だ。何か理由があるのはわかっておる。しかし!あの地については看過できんぞ?」






「そう思ったので、先に用件を伝えました。そして、何故そのようなことを提案したのか?という理由もあります」






「・・・・申してみよ」






「陛下はスタンピードを覚えていらっしゃいますか?」






「無論だ。あれは国家滅亡の危機だったからな」






「実は、今回の提案はそこにも繋がっています」






「どういうことだ?」






俺は、黒竜の群れ長から得た情報を偽りなく伝える


それを聞いた、3人は「信じられん・・」と口を揃えて言うが、嘘と切って捨てるには、許容しがたいものでもあった


もし本当で、大量に押し寄せてくれば、対処できないのだから


しかし、証明する手立てはないのも事実


故に次のカードを切ることにする






「群れ長には『条件付きでだが、安住の地を用意できる』と伝えてあります。向こうもそれを承諾しました。だからこその・・」






「守護竜か・・・あの地は、小さいながらも魔物の領域があるしの。軍でたまに間引いておるが、その費用が浮くわけか」






「はい。それに守護竜ですから、ランシェスの危機には従軍義務を課します。但し、侵略戦争時はその義務を無しにします。更に、封印の聖域へ無断で侵入する者を排除することもできます。王家の紋章持ちのみ通すように教えれば問題ないかと」






「・・・財務卿としては、良い話ですな。遠征費も抑えられますし」






「しかし、兵達の訓練場にもなっていたんだぜ。練度が落ちないか不安は残るな」






財務卿は賛成を示し、軍務卿は鍛錬できないとやや反対


陛下はそのやり取りを黙って見ている


軍務卿の意見はもっともなので、次のカードを切る






「訓練場ですが、近場にも領域はありますよね?そちらで行えば良いのでは?」






「魔物の質が違う。あっちの方が強いんだよ」






「ならば、人数を絞れば良いのでは?」






「変わらんな。質が悪ければ同じだ」






「では、質が良ければよいのですね?」






「クロノアス卿・・何を考えている?」






嫌な予感がする!


そう感じた軍務卿は間違っていないだろう


俺が彼に出す提案とは・・






「黒竜達に2~3回相手をして貰えば良いのですよ。質は十分でしょ?手加減するようには言っておきますので。後、殺さない様にも」






この言葉に軍務卿は顔を引き攣らせる


俺はニヤリと笑い、反論を封じたと確信する


彼が何を言おうが、質に関してこれほど良い相手はいない


空の敵に対する訓練も同時に出来るのだから


軍務卿は反論を模索し「質が高すぎる!」とか「兵達の指揮が保てん!」など言うが






「質は最高級ですよ?そこから先は、軍務卿の腕の見せどころでは?」






この一言で撃沈した


貴族で軍務卿・・プライドの塊である


そして、負けん気が強いからこそ軍人が務まるわけで


結果、彼が出した答えは






「わーったよ!やれば良いんだろ!やれば!」






半ば投げやりに承諾した


これで軍務卿は片付いた


後は陛下と財務卿だが・・・






「・・・ふむ。提案は悪くない。だが、ちと弱いの」






「・・そうですか」






流石陛下・・一国の頂点である


なので、最後のカードを切る






「陛下。ご自身で言った言葉を覚えていますか?」






「・・・無論だ。お主もしつこいの。リリィの婚約者でなければ叱責しておるぞ」






「それは申し訳ございません。ですが陛下、思い出していただきたい。フェリック側の要望を」






「・・・・・なるほど。そういうことか。お主もえげつないの。貴族らしいと言えばらしいが」






「お褒めの言葉、有難く受け取らせていただきます」






「・・・褒めてはおらんがの」






陛下と俺、二人で納得し合った理由


それは、フェリック側に貸し一つ・・と言う事だ


フェリック側は『知る者は少ない方が良い。人の口に戸は立てられんが』と言っていた


明確に他言無用と言ってもいなければ、少人数なら話しても良いとも取れるわけだ






そして、もう一つ


噂は既に流れている


それがランシェスにまで流れていても不思議はない


結果、ランシェスが黒竜と交渉して住処を用意しても問題ないわけだ


内政干渉もしていない(グレーゾーンではあるが)


フェリック側の要望である『殲滅か排除』にも合致する


両方WINーWINで万々歳なわけだ






え?フェリック側に話を通せばよかったって?


俺はランシェスに籍を置く冒険者で貴族ですよ


自国の利益を一番に考えただけです


守秘義務?向こうが出したのは大多数に、特に自国民に言わない様にとのはずですが?


ご都合解釈?言葉の穴を突いたと言って欲しいな






冒険者ギルドも、国の干渉を嫌うが、切っても切れない繋がりがどうしてもある


故に守秘義務も絶対ではない


今回は、偶々たまたまそう言う事案だっただけの話さ






財務卿も異論なし


軍務卿はしてやられて悔しそう


陛下もご満悦だ


そして結論は当然






「クロノアス卿の提案を承認しよう。ただ、後でも良いので群れ長とやらと対話して見たくはあるな」






「そちらに関しては善処しますとしか・・」






「・・・出来ればで良い。して、この後はどうするのだ?」






「一度現地へ戻り、今の話をして全て呑ませます。問題は・・」






「反発か。それはないと思うがの」






「自分もないと思いますが、世の中に絶対はないので。絶対に呑ませる方法はありますが」






「聞かなかったことにする・・・上手くやる様に」






「承知しました」






そして会談は終わり、応接室には陛下を除く3人が残された


陛下の姿が見えなくなったところで






「良くもやってくれたな。さっきは助けてやったのに」






軍務卿が文句を言うので、妥協案を提示する






「まぁまぁ。一つ提案なのですが、うちのクランと提携しません?」






「あん?それはどういうことだ?」






「竜との訓練に達していない者もいるでしょう?うちも新人がいるので、合同訓練したらどうかと」






「新米に付き合えるほど暇じゃねぇぞ?」






「逆転の発想ですよ。人に教えるのが上手い人は、自身の弱点にも気付きやすいですし、基本の復習にもなります」






「・・ほう、それは悪くないな。基礎訓練をある程度進めると、どうしても我流な部分が増える奴がいる。それで強くなれば良いが、弱くなるやつもいる。極少数だが退役したり、巡回兵になる奴もいるからな。見つめ直すには丁度良いわけか」






「付け加えると、教え合うのは基礎だけです。余計な教え合いは害悪になるので」






「王国武術の基礎と魔物との相対方法を教え合うか。悪くねぇな。冒険者の方が対魔物戦は上だしな」






陛下が決めたことに文句を言うわけにもいかないので、軍務卿は前向きに考え、妥協点を見出したようだ


しかし次は財務卿が






「今度はこちらだ。わしらの方にはあまり利益がないようだが?」






「遠征費の削減と封印の聖域の防衛費削減はできたはずですよ?」






「・・・白々しいな。軍務卿との話し合いに金銭が絡んでおらんだろうが」






ちっ!バレたか


このまま事後承諾で行こうと思ったのに


一応策は考えてきたんだが、乗ってくれるかな?






「バレましたか。一応考えてはいますよ。但し、王国経済の活性化という点になりますが」






「詳しく聞こうか」






「まず、我がクランへ軍務卿が決めた人材を数日から十数日出向の形にします。出向中は休日無しですが後日まとめて代休をわたします」






「それで?」






「次に、出向中も仕事なわけですからお給料は出して頂きます。それとは別に、魔物の討伐素材を買い取り、討伐者数で割って渡します。まぁ、うちから出来高制給料を出す感じですね」






「こちらは何も得してないが?」






「ええ。ですが、出向者は収入が増えるのですから、それに合わせて税収や消費は増えますよね?」






「・・・長期的に見てか。しかしそれでは、お主が損するだけだろう?」






「だからギルドを巻き込みます。見返りは・・冒険者養成所での王国武術の基礎授業ですかね」






「そう言う事か。そしてそれも、出向中に行うわけか」






「ええ。養成所で現役冒険者が1日限定で教壇に立つこともありますから。軍務卿としても悪くないでしょうし、教えるという点では同じですしね。更に言えば、教壇に立てばギルド側からお給料も出ますし、兵達の指揮向上にも一役買うかと」






「・・・軍務卿としては、異存ねぇな。冒険者と現役兵士の交流が増えれば何かと都合も良いしな。ギルド側とも少しは風通しが良くなるか」






「財務卿としても悪くはないですな。あくまで、長期的に見て上手く行けばの話ですが」






「ギルドには俺が話を通しますよ。後、過度な干渉は厳禁です。したら・・陛下に告げ口します」






「おおこわっ!んじゃ、何名か選抜するか・・・日時が決まったら教えてくれ」






軍務卿は背を向けて片手を上げ、部屋を出ていく


そして、財務卿はと言うと






「・・上手くやったの。今回はクロノアス卿の方に軍配が上がったか。でだ、一つ相談なのだが・・」






「何でしょうか?」






大物貴族で財務卿で役人のお願い


無理難題を吹っ掛けられる可能性大だな


俺は身構えるが






「そう大したことじゃない。と言うか、卿にも利益はあるぞ」






「大物貴族で財務卿で役人の利益話程、胡散臭いものはないですね」






「言いよるな。何、財務関係も出向させてほしいだけだ。給料はいらん。代わりに市場流通をもう少し詳しく調べたい」






「うちのクランを利用するつもりで?」






少し威圧して問い返す


俺は貴族だが、クランはそれと全く関係ない


当然だが、冒険者ギルドもだ


だからこその過度な干渉を禁じた






殺気とも取れる威圧に、冷や汗を流しながらも何とか平静を装おう財務卿


一拍して、財務卿が切り出す






「干渉自体しないと約束しよう。こちらが望むのは魔物の素材がどの国にどれだけ輸出入の流通があるのか知りたいのだ。ある程度は把握してるが完璧ではない。それによって・・・」






「他国の経済状況と動きを調べる・・ですか」






「そうだ。聞けば、事務職が不足気味だと聞いている。給料はこちらが払おう。協力金を出すのも考えている」






言うだけ言って、財務卿はこちらの答えを待つ


金は正直いらないんだよな


ただ断ると、財務関係が敵視する事は確定


断ると言う選択肢は論外だな


そうなると・・・






考えて出した答えは






「条件付きで了承しましょう。条件は書類を勝手にクラン外へ持ち出し禁止。クラン及び冒険者ギルドに被害を出さない。出向組単独での仕事は認めない。精査した情報は、特定の人物のみで受け渡しする。以上の条件が破られた場合は、即時出向を破棄。他にも後から気付いて、付け加えるかもしれませんが、大まかにはこんなところですかね」






「あくまでそちらに不利益が起こらないようにか。わかった。出向組は仕事が出来て口が堅い者だな。昇進をちらつかせるとするか」






「あ、追加です。何かあったら味方してくださいね」






「・・・・・抜け目ないな。・・・これは、高くついたな」






そう言って財務卿も部屋を出ていく


俺も部屋を出て、王城を後にする


黒竜側も多分大丈夫だろう


最悪の場合、六竜とルリを交えて説得するか






「向こうはどうなってるかな?」






交渉を無事に終え、黒竜達の場所へゲートを開く










現地に戻って見たのは、酔っ払いと化した竜達であった

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