神に気に入られて異世界転生した俺は、救世と終焉の神殺しとなる

あざらし

36話 増える厄介事


前日の会談から一夜明け、王妃様方の不機嫌はいくらかは収まった様である
だが、俺の顔を見るなり話があると言われ、他の者は立ち入らない様にと告げてメイド1人を部屋に伴ってリビングを占拠した
指名を受けたメイドは相当怯えていて半分拉致だろと思える位だった

朝食を取りつつ話をするそうでメイドが配膳を始める
いつもなら複数人のメイドが朝食の配膳をするのだが、現在はメイド1人で配膳をしなければならないので少し遅れが出ていた
だが、王妃は何も言わずに黙っているので、それがまた恐ろしいのだ
無言の王族程怖いものは無いと思う

メイドがいつもより少し時間がかかったことを謝罪するとジスレール第3王妃が気にする必要はないと告げ、何かあれば呼ぶので退席するよう指示を出す
一礼してメイドはリビングから出て行き何とも重苦しい朝食が始まる
リビングには王妃様方に王女様方とフェルと婚約者であるルラーナ姉と俺である
カチャカチャと静かな空間に食器だけの音が響く
飯の味がわからんのは初めてだなと余計な事を考える
朝食を食べ終わり、軽いのデザート果物に全員が手を付け始めそうなところで、リアフェル王妃が会談後に初めて口を開いた

「グラフィエル君。昨日の提案ですが何が不満なのですか?今!ここで!はっきりと!言いなさい!!」

こえー・・・・スゲーこえぇぇよぅ・・・・・・
だがここで答えないと昨日反発した意味がなくなるので答える事にする

「理由は色々ありますが。一つは学生のうちに結婚はありません。リリィにも一緒に卒業して欲しいですし、結婚すれば領地を治めなくてはならないのでは?それでは多分学院には行けないでしょうしリリィもついてくることになるでしょうから退学しなければならない懸念があるからです」

しっかりと反発した理由を告げると、リリィが顔を赤らめながら熱い眼差しを送り{ラフィ‥」と、小声を嬉しそうに漏らしていた

「一つと言うからには他にもあるのでしょう?」

王妃が他にはどんな理由があるのかと急かすので続ける

「二つ目は冒険者についてです。二人には我儘だと思われるかもしれませんが、自分としては冒険者の最高ランク迄上り詰めたいと思っています」

「他には?」

「三つ目は見識を広めたいので在学中もですが卒業後も他国を渡り歩いてみたく色んなものを見てみたいのです」

「その顔だとまだありそうですね」

「はい。四つ目はゼロに関してです。自分の直感でしか無いのですが、恐らく卒業後にゼロから場所を指定されて呼び出されると思います。冒険者としてランクを上げておけと言っていたので危険区域に呼び出される可能性が高いと思ってます。五つ目は力以外の解決方法の模索と冒険者を引退した後の資金調達の確立を結婚までに済ませたいからです。勿論、案は色々あるので並行してやっていきます。以上の理由から18になる春から夏にかけて式を挙げたいと考えています」

俺は全ての理由を上げてリアフェル王妃に納得してもらえるように話す
リアフェル王妃は少し驚いたような感じだったが少し考え込んだ後、一つ息を吐き俺に告げる

「今から4年後の収穫祭までに式を上げなさい。そこが妥協点です。但しゼロ殿絡みに関しては幾ばくか猶予を持ちましょう。それ以上はこちらとしても妥協できません。五つ目に関しては王家の協力が必要なら色々と手配しましょう」

それだけ告げるとリアフェル王妃は席を立ちリビングを後にする
これ以上は何を言っても無理だと思い俺も妥協する
しかし、4年後となると17歳か
1年はこっちに配慮しろって事だろうし仕方ないか
リリィは何か申し訳なさそうにしてたがフェルの反応は違っていた

「ラフィは凄いな。母上があそこまで追い詰められたのは初めて見た気がするよ」

「そんなに凄いのか?そうは見えないんだが」

「母上は最大限の妥協をしたと思うよ。ただ、妥協は既定路線だから最大限の譲歩を引き出したのが凄いんだよ。後は母上が勝ったと思えるかどうかかな?今の感じだと母上は期限だけしか強行しなかったから負けたと思ってる。現状では反論できる所がなかったんだと思うよ」

優雅な態度を崩さず出て行ったので怒らせたのかと思ったのだがそうではなかったようだ
将来リリィもあんなふうになるのかな?できれば今の可愛らしいリリィのままでいてくれ

その後、各々がリビングから出て動き始める
今日の公務は特に予定は無く思い思いに過ごすそうだ
リリィだけは母親であるリアフェル王妃に呼ばれたみたいだが
フェルとルラーナ姉は街に観光に行くそうだ
俺も誘われたのだがお邪魔だと思い辞退した

午前中は庭でルリとハクと遊ぼうと思っていたのでそのままゆっくり過ごす
途中からはリアフェル王妃の元から戻ってきたリリィと一緒だ
午後は冒険者ギルドに行き、適当に討伐依頼でも受けようと思っていたが
教会本部からお昼前にお迎えが来たので行かなければならなくなった
俺に休みは無いのかな?

教会本部に着くと案内のシスターが既に待機しており応接室へ通される
中にはメイドが待機しており、少ししたらミリアが来るとの事なので紅茶を飲みつつ待つ
5,6分位してミリアが一人のメイドを連れて部屋に入って来た
連れてきたメイドはカートを引いておりその上には食事らしきものが乗っている

「ラフィ様。お待たせして申し訳ありません。午後からラフィ様をお迎えに上がるとお聞きしたので一緒に昼食でもどうかと思いまして。お口に合えば良いのですけど」

そう言うとメイドがカートの上に乗った盆の蓋を開け配膳を始める
本来は配膳も盛り付けもしたかったそうなのだが止められてしまったそうだ
配膳されたのはスパゲティだった
この世界でもスパゲティは名前も見た目も変わらなかった
ただ、前世みたくナポリタンとかペペロンチーノとかの味による名称は無い
統一してスパゲティなのだが味もそこまで多彩にあるわけではないので問題はあまりなかったりする

「今日のはシンプルなんですけど自信作なんです!」

ミリアはとても嬉しそうに笑う
ちょっと見惚れてしまったのは言うまでもないことだ
フォークを差し出して来たので受け取り早速一口食べてみる
・・・・・美味い!
ミリアが言うように確かにシンプルだ
具は燻製肉と緑の野菜のみで、味付けは塩胡椒のみだが普通に美味い
シンプルな味付けなので少し塩っ気が強いが塩辛いという感じではなく胡椒が良いアクセントになっている

横にはパンとスープもあるのだがこれも美味い
パンは外はカリッと焼いてありバゲット的なものだ
上にスパゲティと具をのせ一緒に食べると塩気と胡椒のピリッとした感じが絶妙である
スープは塩気が抑えられているが野菜の旨みが十分溶けだしているので野菜の甘みのあるとても美味しいスープだった
これは前世でも中々お目にかかれないレベルだ
とそこでミリアがまだ手を付けてない事に気付き食べる手を一度止めて

「スゲー美味しいよ!ミリアも早く食べなよ!」

それだけ言って俺はまた食べるのを再開する
ミリアは凄く喜び隣に座って食べ始める
終始無言ではあるが俺の顏は間違いなく綻んでおり、それを見たミリアもまた笑顔になり、一緒に食事を食べ勧める

15分程で二人共食事を終わらせて今は紅茶を飲んでゆったりしている
3,40分後にはヴァルケノズさんが来るそうなのでそこまではのんびりしよう
と、思った矢先に勢いよく扉が開かれ一人の老人が入って来て

「貴様かぁー!!儂の孫娘を誑かしたクソ野郎はぁー!!!」

突然の事に二人揃って反応できなかったが直ぐにミリアが

「お、おじい様!?会談までまだ時間はある筈なのですが」

と、正体をサラッと言ってくれたので俺は立ち上がり一礼して

「初めまして。先日ミリアンヌさんと婚約させて頂いたグラフィエル・フィン・クロノアスと申します」

貴族らしく挨拶して相手の名前を聞ければなぁと思っていたのだが

「どこぞの馬の骨に名乗る名なぞないわぁ!!大人しく死ねぇぃ!!!」

そう言ってミリアがいるにも拘らず超級火属性魔法を放とうとしたのでとりあえず相殺した
この相殺に関してだが魔法には相関図があり属性に対しての有利不利がある
しかし、同属性魔法に寸分違わぬ威力と魔力でぶつければ相殺できるのだ
ただ、相殺するには魔力操作をして相手と全く同等の力でなければならない
少しでも強ければ相手の魔法を飲み込んで傷を負わせてしまうし、逆に弱ければ自分の魔法を飲み込まれて怪我を負ってしまう
更に放つ魔法の種類をも見極めなければならないため非常に高度な技なのだ
まぁ、他にも消失や消滅させる方法はいくらでもあるのだが

その話は機会があればするとして、このじぃさんは一体何を考えているんだか
下手すりゃミリア迄黒焦げだぞ
流石に看過できないのでとりあえず威圧して気絶させた
ミリアは慌てたが怪我無く落ち着かせるために威圧で気絶させたことを告げると申し訳なさそうに頭を下げてじぃさんを別室に運ぶように指示を出して一緒について行った

そこから暫くしてヴァルケノズさんと複数の人たちが応接室に来て、ミリアを呼んでくるようにとメイドに告げてミリアと共に爆裂じぃさん(名前知らんので)も一緒に来たのだが、またも暴走しそうになり周りが落ち着かせることになる

じぃさんが落ち着き一段落ついたところでヴァルケノズさんが一緒に来た者達の紹介を始めていく
紹介されたのはミリアの家族(じぃさん含む)と前教皇と御子の次に権力がある枢機卿だ
そしてこの枢機卿だが政敵の者も混じっていたが全員ゼロの正体を知っている者達だった
俺の家庭教師を終えた後、ゼロは1か月ほど滞在して誓約を受け入れた枢機卿にだけ正体を明かしたらしく、御子であるミリアの家族にも正体は誓約付きで明かしているそうだ
誓約の中には俺の事も含まれていて、この場にいる人間は問題ないのでステータスを見せて欲しいと言われる

本当に大丈夫かとも思ったが枢機卿全員が左腕に嵌められている腕輪を見せてきて鑑定すればわかるとの事なので鑑定してみる
結果はErrorなのだが、もしやと思い神眼で確認すると誓約内容が見えた
これもゼロの保険だな?わざと神眼でしか見えない様にし、更に俺にしか誓約内容が分からないようにしてやがる
手の込んだ念入り用だなこりゃ

俺は全員分を確認し了承した旨を伝えステータスを開示する
ミリアも全てのステータスを見るのはこれが初めてだったりする
いや、2人ゼロとヴァルケノズさん以外で本当のステータスを開示するのが初めてだ
そして、ステータスを見て全員が絶句する
当然の反応である
俺のステータスは人智を超え神の領域に至るものだ
はっきりと言おう
自重しなければ世界など簡単に滅ぼせると

数分の沈黙の後、枢機卿の1人が歓喜し始め言ってはならない言葉を口にし絶命した
その言葉は誓約に触れる言葉だった
その言葉とは〝現神として崇め奉り世界に知らせよう〟だ
誓約には本人が望まぬ事を口にした場合に発動する項目もあった
俺自身が望んでないので誓約が発動した形だ

絶命した者を見て他の枢機卿が一斉にこうべをたれて謝罪するので一つ質問をした
誓約をした者はその内容を知っているのかだ
答えは全員が知らなかった
これは教えとかないとヤバいなぁと思い全員にどのような事が刻まれているかを教える

誓約の内容は

1、ゼロの正体を口外しない事
2、俺の正体を口外しない事
3、上記二つの行為に該当する行動、発言をしない事
4、2に関しては本人が望めばその限りでは無い事
5、協力要請があった場合には出来うる限り応じる事
6、1及び2の者を利用してはならない事
7、上記に違反した者は絶命する事

以上である

後、この制約はかなり大雑把に設定されているので、訳し方によってはかなりの言葉に制限が入るから気を付けた方が良いと告げた
全員が顔を青褪めるが現在進行形で死んだ人をどうしようかが俺の悩みである
数分悩んでから結論を出した
今回に限り生き返らせよう
流石に寝ざめが悪いので仕方ない

ヴァルケノズさん含めた全員に

「今から見せる事は絶対にここだけの秘密にするように」

と告げ、申し訳ないが室内にいる2人のメイドにも同じ誓約をかけ俺との会談専用メイドにして貰う事を了承させた
誓約をするが死ぬまで何も言わなければ問題ないとメイドの2人にも告げ、了承を得て作業に入る

本来はあまり行使してはいけないのだが今回のみ特例である
使用する魔法は完全蘇生魔法だ
蘇生魔法は禁忌魔法として存在はするが使えば異端者になる
理由は使用する際のデメリットだ
蘇生対象は死んでから15分以内である事と蘇生する際に使用者の命を分けるからである
更に成功率が1割~2割なので使用する者は皆無である
仮に成功しても分け与えた命の分だけしか生きられないのでデメリットだらけの魔法なのだ
しかし、俺が使用する蘇生魔法はデメリット無しのものである
唯一のデメリットと言えば魔力が一気に消耗してしまうくらいだろうか?

俺は集中して全ての属性魔法を起動させる
次に光属性だけを単一にし固定の為に5属性を柱にし道筋を作る
そこに神力を混ぜ名前は同じだが用途が全く異なる魔法を一つ起動させる

『ヘブンズゲート』

次に間髪入れず時空間と闇を起動させ無属性の魔法を起動させる
冥府にいる魂をこちらに持ってくるので無属性を探査・捕獲・保護に使う
闇は冥府の門を開け時空間で固定する
時空間なのは余計な魂が出てこないためだ
並列起動で更に別の魔法を起動させる

『ガイデスゲート』

ここからは即座に済ませないといけない
時間がかかると世界に何が起こるかわからないからだ
二つの起動までに約30秒
持ってくるまでが1分以内にと思っていたが結構すぐに見つかった
見付けた魂を引き上げ現世で保護と固定をし魔法を消す
この間で約1分だ
後は光魔法の神話級の回復系使って終わりだ

『ゴッズヒーリング』

最後の仕上げをして絶命した枢機卿を確認すると目を開き頭を押さえ揺らしながら立ち上がる
反対に俺は相当量の魔力を一気に消耗したおかげで貧血に似た症状になり、立ち眩みを起こし倒れそうになるもミリアが支えてくれて地面との激突は避けられた
皆が驚愕している中で俺はヴァルケノズさんに誓約の内容の説明と何が起きたか説明するように頼む
俺はミリアに支えられながらソファに座るが気持ち悪さだが抜けず、礼儀に反するがソファで少し横になると告げてそのまま意識を落とした





頭の下に何か柔らかいものがあるなぁと感じて意識が覚醒する
目覚めた場所は応接室の中でソファの上であったが、目を開けるとそこには心配そうに頭を撫でながら見つめるミリアの顏があった
どれくらい意識を失っていたのか聞くと

「良かった・・・・。意識を失われてから小1時間ほどですよ」

と、泣きながらも答えてくれた
周りには先程の全員がおり蘇生した枢機卿は俺が目を覚ますと同時に土下座して謝罪してきた

俺はミリアの膝から起き上がり体調を確かめる
やはり急激に消耗したことによる反動だな
そこでヴァルケノズさんが険しい顔をして訪ねてくる
今のは禁忌魔法ではないか?と
俺は他言無用を条件に説明をする

今回行使した魔法は自らの命を分け与えるものではない
今回の絶命は誓約に基づき魂を強制的に冥府へと誘うものだった
その魂を探し出して戻し、魂の定着の為に神話級の回復魔法で定着させた
俺の寿命は減っておらず、蘇生された側も寿命が増えていない
倒れたのは急激な魔力の消耗による魔力欠乏症に似たものである

以上を伝えると魔法の系統は蘇生魔法なのかと聞かれる
これに関しては正直微妙である
そもそも蘇生魔法をどこで定義するかで答えは変わるからだ
今回の場合は蘇生はしたが禁忌とされる方法ではない
そもそも禁忌とされる蘇生方法は俺から見ればアンデット化に近いと思っている
今回はあるべき魂を戻しただけなのと、誓約に関してその詳細を誰も知らないから行使しただけ
誓約の詳細を知っていて触れたのならば自業自得として放置する

そもそもヴァルケノズさん自身も知らないとか怠慢すぎると逆に怒った
そこは痛感していたらしく今回の事はこの場にいた者だけの秘密になっている
神の御業を目の当たりにしたとして落としどころとした
流石に会談する雰囲気ではないので今日はお開きにとも思った様だが、俺はこのまま続けることを提案し会談は再開された


厄介事が舞い込むのは俺に課せられた宿命なのだろうか?
そんなことを思いつつ更に厄介事が増えるのを俺は何となく理解したのであった

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