武侠少女!絹之大陸交易路を往く!?

蟹江カニオ

ヤクザは嫌いだから丁度良い。死ぬが良かろう

 剣術使いと思いきや、拳士。流派は解らないな、
 剣術の構えは取らない、剣は右手逆手に肘に沿わして、左手は牽制用に軽く突きだす。


 剣を鋼の籠手として使い、また、刺突武器としても使うのだろう、柄は打にも用いるか。


 左の牽制から、右をどのように変化させるか興味が尽きない。


 まだ辰の終刻、日を背にし、わたしの目を眩ます。この男、手練れだ。


「遨家極拳拳士、胡小馨。貴殿の名は何と!」


 無言か、


「名乗る程の名は無しか、では仕方ない。死合いは無しだ、名無しで死ね!」


 タンッ!


 わたしは始動発経と共に、首を振る。当たりは付けてある。


 簪の反射光が、名無しの目を穿つ。僅に視界を眩ますが、その隙は極拳使いには致命的だ。


「チッ」 舌打ちが遅い


 ダンッ


 初練歩からの縮地走。
 名無しはわたしの接近を悟り、逆手の刃を防に変化を……させない!
 バンッ!


 逆手の拳に次練経の掌打を打ち込んで、四指を砕く。
「ぐっ」
 名無しは短い悲鳴をあげる。


 剣柄に反射した経を拾い、丹へ送る。


 ダンッ
 経を練り込んで、
 そのまま懐に飛び込んで、


 バンッ!


 額頭突ひたいずとつを名無しの頭部人中、顎下がくかに叩き込む。絶頭顎打だ。


 カクンと名無しの顎骨が外れる、いや綺麗に割れる。


 次練歩は外攻散打に使った、手応えから浸透もしている。だが、手は止めない。


 反射経を拾い、経を練り込む。
 ダンッ バンッ!


 名無しとの半歩程の間合いを、二歩で詰める。
 距離的にでは無く、練歩的に必要だ。


「遨家絶掌相打!」


 わたしは丹位置を落として、零距離からの中段両掌底短打を、


 名無しの左右骨盤に同時に打ち込んだ。


 名無しは、顎打で意識を失っている。頭部浸透だ、当然だ。


 くの字に体を折り、名無しは吹き飛んだ。


 骨盤は粉砕した筈だ、拳士としてはたった今死んだ。


 残心の必要は無い。さて、誓いを果たさねば。


(マル吾子の所にいったやつらだけど)
 食い殺せ!
(了解♪)


 士!あそことあそこに潜んだ弓手。


「なっなんだと!夏先生がやられただと!」


「夏と云うのか、名乗らなかったからな。
 ひょっとして人見知りが激しい先生だったのか」


「舐めやがって小娘が!殺れ‼」
 ぎゃっ!  ぐわっ!


 士が弓手の腕を、弓さり食いちぎった。


「なんだ!」


 広場に対面している建物の屋根から、腕が二本と折れた弓が落ちてきた。


 状況が予想外すぎて、思考が硬直中だな。


 形としては、わたしと周兄は破落戸達に包囲されている格好だが、好都合だ。


 わたしはヤクザが嫌いだから、固まっているなら手間が省ける。


 タンッ


 縮地走、側体打。


 わたしは経打で体当たりをかます。破落戸達を正気に戻す気はない、


 “うわっ”と言う破落戸、吹き飛ばすと同時に、わたしは破落戸の群れに突入した。


 ダンッ!


 男の足甲を初練歩で踏み砕く。


 そのまま次練経を、腰下丹田に打ち込む。絶肘丹打だ、丹周辺への経打は反射経が拾いやすい。


 “あう”などと言う吐声は、いちいち聞かない。


 タンッ!
 隣の破落戸へは金的だ、下段絶拳甲を払い打ちする。


 破落戸は泡を吹いて悶絶した、次!


 タンッ!


 “野郎!”破落戸の一人が匕首を抜いた。


 ビシッ!


 “ぎゃ”直後指弾を破落戸の右目に弾いた、例の硝子屑だ、この距離なら外し様がない。


 破落戸は匕首の持ち手ごと、右目を覆う。


 馬鹿だな、わたしは、指弾の所作の流れのまま、匕首の刃棟を押してやった。


 “ぎゃ”再び悲鳴、刃先が左目に刺さる。
 危ないから、これは没取。


 匕首をもぎ取ると、破落戸の群れ頭上スレスレに投げた。


 陽光をキラキラと反射しながら、頭上に飛来する凶器に、注目しない馬鹿は居ない。


 視線が頭上に集まるならば、下はお留守だ。


 連経が途切れた、未熟! タンッ! 即座に始動発経だ。


 膝経打、破落戸の一人に打ち込む。何時まで上を見ている、戯け!


 近接戦だ。丹周辺に浸透打。


 タンッ!


 崩れる破落戸の反射経を拾い、隣のデブの膝を蹴り砕く。


 きび経打、外攻散打だ、悲鳴を上げるデブの頭髪を掴んでぶら下がる。


 膝が折れているのだ、堪らず体制を崩す。
 よいしょっ。
 タンッ!


 着地と共に拾った経を練り合わせ、デブの尾底骨を膝練経打で砕く、


 悲鳴を上げて転がるデブ。


 下はデブが悶えて注目の的だ、今度は上がお留守ですか。


 ビシッ! ビシッ! ビシッ!


 指弾三連、狙いは顔面。


 それぞれが命中!硝子屑は砕け散る!
 悲鳴と共に血煙が舞う。


「馬鹿野郎!囲め!女一人になにやってやがる!」


 良いぞ田とやら。わたしにとって囲まれた方がやり易い。


 タンッ!


 得物を振りかざす破落戸。簪の反射光で目を穿つ。視界を塞いだら、空かさず懐に飛び込む、


 胸部人中、心的。


 肩経打、心臓は効くだろう止まる程に。反射経を拾い、息の詰まった破落戸の脇を抜ける。


 トンッ!


 後ろ足で膝裏を撃ち抜いて、反動で更に奥に進む。




「胡嬢!」
 人波に飲まれた?不味い、袋に合う、糞!邪魔だぁ!
 目前の三下に経打をくれる、よろめいた、退け!


 ギャン!
 血飛沫が舞う。


 何だ?!三下が穴だらけになった!


 あの化物か! あ!


「おい、コラ!李の馬鹿兄弟の片割れ!」


 兄貴の方だな、狼狽えやがって、みっともねぇ


「テメエ等だけは生かし…」


 ギャン!
 兄貴の顔面から血飛沫だ、包帯は顔面ごとなます状態だ。


 李兄貴は顔を押さえて悶絶している。


「……胡穣、エグいよ。目の前は勘弁してくれ」


 残りは弟と田の糞だ、しかし、邪魔だ!






(わっわ、来た来たよヤクザが、逃げなき……)


『はいは~い、聴こえるマル、白太郎経由で思考を飛ばしているけど、通じる?』


(師匠?!大変、ヤクザがこっちに!)


『ごめんマル、よく聞こえない。多分マルの魂がまだ、白太郎…』


(師匠、それより逃げるよ、ヤクザが…)


 うおっ!ぐわっ! ギャン!………


「なんだ?ヤクザが?」
 うつ伏せに倒れたと思ったら、血塗れに。


『黒靈は何も考えられないから、術者が考えるの。白太郎以外は、私が使役するから、見てて』


(はい!可狐師匠!)


『ごめん、やっぱりよく聞こえないね、まあ、見てて、黒三!』


 ぼんやりと輪郭が見えてきた、黒三だ、大きい。他の人には見えていない。


 その黒三が、こちらへ駆けてきた顔面包帯のヤクザを、一呑みした。


 ギャン!


 血塗れのぼろ雑巾みたいになって、ヤクザは吐き出された。



コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品