武侠少女!絹之大陸交易路を往く!?

蟹江カニオ

がっかりだ、お姐さん本気でがっかりだ

 送別会は恙無く終わった。


 黒三を不可視状態で漂わせて、憑依している黒靈は全部吸収だ。思ったより少なかったな。


 今回世話になる周海運公司の船長と、顔合わせをした。日に焼けた、如何にも海の男だ。


 沙海までの付き合いだが、伝は大事だ。
 互いに挨拶を交わした。




 朱華娘々は愛らしい子だった。
 わたしに対して上位礼で挨拶をし、キッチリ受け答えする様は、まるで以前のわたしだ。


 気に入った。


 だが、推薦状は書き終えて周兄に渡してある。
 追加で、南遨老師に手紙を送ろう。


 いや、妙な所で角が立つのも煩わしい。
 いっそ首脳三名に手紙を書こうか、いや、邪推する戯けはどこにもいるな、どうするか。


(さらっと流したけど、まだ解決してないよ。誰が全の協力者なのか解らない。
 全の死後に大姐の情報が流れたのだから、協力者は必ずいる。
 ……でも全くの外部者なら、手の打ちようがないかな?)


 周兄に聞いたが、わたしの情報は最初から本名で情報屋から入手したそうだ。


 情報屋自体怪しいが、周家と付き合いが長いらしく、疑いようがないそうだ。


 まあ、思考誘導術があるので、何とも言えない。


 どの道、明日から海上だ。解らないなら放置でも問題なかろう。


 送別会が解散となる。
 小姐はこれから分霊の仕上げだ、最後にマルコ君の魂を少し混ぜるそうな。


「でも、魂を混ぜるとは、何とも大雑把で地味な感じだ。もっとこう重厚な儀式か何かで、派手にやらないのか?」


(やっても良いけど、あまり意味ないよ。私は黒靈を直接操作出来るから、いきなり魂に触れて地味に感じるけど、本当は黒靈を使役するだけで大事おおごと。基本、黒靈は散りやすいの)


 なんで、うちのは散らないんだ?


(そりゃ生霊で餌付けしてるからね。他人事みたいに言ってるけど、生霊の出所は大姐よ)


 餌付けって……そのうちわたし、死んじゃうんじゃないの?


(……かなり前に説明したけど、忘れたな。魂は、そうね、血液みたいな物だよ。多少目減りしても、生きてる限り元通り。
 面白いんだけどね、大姐と半同化しているからか、を削っても、が戻る)


 長い!簡潔に。


(どこがだよ!つまり魂使いたい放題)


 それだと、そのうちわたし、死んじゃうんじ……


(戯け!何を聞いていた!……仮説だけどね、普通に生きていても、魂は目減りすると思うのよ。
 かなりキツイ労働をしたり、深くおちこんだり、体調を崩して寝込んだ時とか、魂が目減りしていると思うな)


 うん、わかる。身近な例だと、南遨老師がそうだったね。
 生き甲斐を見つけたら、急に若返った。気脈が体を支配したとでも言うべきかな。それとも魂の質量が急増したのかな?


(元から経絡使いだから、体が即反応したのかな。絡ねえ、魂に直接関与してるのかな?
……ねえ、大姐。その気脈だけど、血脈は心臓から、経は活脈、丹から、なら気脈はどこからだと思う)


 心かな?


(心はどこにあるの?頭に?体に?魂に?)


 ムッ、昔そんな話をしたね、初めて対話した時か。


(懐かしいね。……私はね、心も魂の一部だと思うのよ、魂そのものではなくて)


 ?よく解らない、何故一部?


(黒靈よ、魂の集合体だけど、心が多すぎて虚無状態。いや、破綻状態かな。でも魂として存在している)


 ?つまり、心の入れ物が魂?魂は体が無ければ存続できない様に、心も魂という入れ物が無ければ存続できない?一魂一心?


(ほう、大姐やるね。一部としてでなく、心と魂を完全分割して考えるか、なるほどね。
 仮説としてはしっくりくるよ。
 ……だから、人は一つの体に、一つの魂が有り、一人の心が有る。成る程、凄いよ!大姐!)


 ……いや、昔も言ったけど、それ当たり前じゃ……


(その当たり前の事を、何故当たり前なのか検証したいの。
 でも有難う、私一人だと発想が片寄る。
 “大賢は愚に似る”と言うけど、大姐の場合、
 “大愚も万一に至言有り”と言った所ね)


「何だと‼」
「うわっ!驚いた!」


 マルコ君だ、何時の間に。さっきまで朱華娘々に捕まっていたのに、解放されたのか。


「済まないマルコ君、小姐と話し込んでいて気付かなかった。朱華娘々はどうだった」


「やっと解放されました、年齢が近いので声をかけやすかったみたいです。
 それより、小姐とは、師匠の事ですよね」


「ああ、可狐などと巫山戯た自己紹介だったけど……
 ……あん、気に入ったから可狐クゥフゥと号するだぁ?馬鹿馬鹿しい。
 …分かった替わる、そういう約束だしな」


 目を瞑り意識を心に沈める。




「こんばんは、マル吾子。これから吾子用の黒靈を創る所だから、ちょうど良いね」


「はい、師匠。……その吾子というのは変なので、呼び捨ててください」


  うっ、背伸びした感じが、何とも愛しげな


(やい狐、何か返事してやれ。子犬みたいな眼で見上げていて可哀想だ)


「分かった。それじゃマル、ここじゃ不味いから応接室の方に行くよ」


(マルって。小姐、犬猫じゃないんだしね、普通にマルコで良いじゃない)


  細かい事は良いんだよ!


 マルコ君が喜んで付いてきた。今分かったが、彼は犬系だ。




 応接室の座席にて対面する。他人事みたいに感じる視点というのも、もう馴れたものだ。


「基本体は既に作ってあるわ、あとはマルの魂を少し混ぜるだけ」


 マルコ君がぎょっとしている。まあ、当然か。


 わたしにした説明を、マルコ君にしているが彼に分かるだろうか。何分幼い。


  いや、大姐より理解が早いよ 


(あっそう)


「それから、名前は決めてくれたかな。こちらの言葉の名前で」


「はい、白太郎と決めました」


(んなっ!)


「良いじゃないの」


(馬鹿な、真面目に考えたのかよ、午朗も大概だったが、その上いくぞ)


「成る程、何も黒靈だからって黒を付ける意味ないしね、マルの初使魔だから太郎も有りか」


(がっかりだ、お姐さん本気でがっかりだ)


「よし、白太郎で決定♪お前の主人は今日からマルだ」


 ……今日は発見が多い。どうやら、わたしと小姐は、根っこの部分で合わない様だ。


 白太郎とやらがマルコ君の頸裏に乗った、そこから魂をもらうのだ。


 別に指先からでも良いらしいけど、末端からでは時間がかかるそうだ






 後日判明した事だが、この名付けは大変な意味を持った。本当、名は体を現すんだな。

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