武侠少女!絹之大陸交易路を往く!?

蟹江カニオ

何故に皆、わたしと善順を付けたがる

 例の粽屋で昼食だ。実はこの間マルコ君が食していた麺料理を食べてみたかった。


 周兄のお勧めは蓮葉粽だが、洋風麺のが食べたいのだ。


 ただ、前回と同じでは芸が無い。新作が有るそうなので、マルコ君はそちらを注文した。


「本当に凄いな、胃腸の疲れが無い。
 ……胡老師、この地に残ってはくれないか。
 南遨老師の末息子が、俺と同じ高派で、胡老師と年回りが……」


「……皆、わたしと善順を付けたがるが、あれは駄目だ。馬鹿は嫌いだから、多分殺してしまう」


「……面識が有るのか。何をしたんだ、アイツは」


「わたしに絡んできて、死合いを申し込んで来た。
 殺されてもおかしくない無礼だったが、既の所で高師範の仲裁が入った。
 善順は名乗らなかったからな、従兄とは知らず、殺すばかりだった」


「済まない胡老師。善順は弟分みたいなもので、よく連れ歩いて遊んだものだ。
 単純な男だが、悪い奴じゃないんだ。俺からも叱っておくよ」


 まあそんな感じだ。あの時、警戒心が強い士が、特に関心無かった事からして、それは分かる。


「………多分アイツらだな、余計な事を吹き込んだのは」


 麺料理が来た。周兄が何か言っているが、どうせ大した事は言っていないだろう。


 そんな事より……


 そうそう、この黄牛油バターの香り。


 昨晩の、鮑の黄牛油炒めの時に付けた醤を、この麺に足せば面白い、ともすれば単調な味わいに変化がつく。 絶対に合う筈だ。


 鮑を食べながら思い付いた事だが、値段的にこちらのほうが……


(……単純同士だから、絶対に合わないね。多分殺し合いになる)


 マルコ君の方にも料理が来た。来たがこの匂いは?


「むっマルコ君、その麺のタレは一体?ほのかに黄牛油の香りがするが、全体的に白い。どこかで嗅いだ匂いだが、何だろう?」


(……本当に単純だから、合わないね。わたしが保証する)


「店員さんの話だと、牛の乳を煮た物だそうです。同じ様なソースを故郷で食べていました。とろみは小麦粉ですよ」


「そうか牛の乳か、黄牛油もそれから作ると聞いた。成る程な相性は良いだろう。周兄、ここの料理人は凄いな」


「あ、ああ。後でそう伝えておくよ」


「そこの店員さん、醤を数種類貰えるかな、あと小皿も数枚」


(ちょっと大姐、みっともない)


「済まない、マルコ君少し分けてくれないか。わたしの分を、その分お裾分けしよう。店員さん、まだか?」


(聞け!戯け!みっともないからやめろ!)


 何かうるさいな、いつものやつかな?困った事だ。 むっ!これは‼


「驚いた、この白い“そおす”とやらの味わい深い事、とろみが邪魔かと思いきや、麺に絡んでくる。
 具材はアサリの身だが、肉類でも合うだろう。いや、麺だけでなく、点心はどうだ、餃子なら出汁もとれるのでは……」


「お客さま!その案をいただきました」


 うん?醤を持ってきている所からして、店員だが、格好からして料理人だな。


「やあ、店主。胡老師が大層気に入った様だ、この店を紹介して俺も鼻が高い」


「おお、店主殿か、醤を持って来たなら丁度良い、思い付きだが、味見を頼む」


(好きにしろ!馬鹿者!)






 結局、醤については、好き嫌いがあるので、最初からの味付けは控えられた。


 賛成多数だったが、味付けの方向が決まってしまうのが、危惧する点だった。


 家庭料理なら兎も角、不特定多数の客を相手するとなると、味わいに幅を持たせたい。


 正論だ。だから、醤を少量添えて客に調整させる事で合意した。


 白い“そおす”とやらも、麺だけでなく、点心や、魚介類、肉類にも使えるとの情報を元に(マルコ情報)、更に試行錯誤する事になった。
 取り合えず、白“そおす”水餃子は採用の運びとなった。


 かなり白熱した討論となり、申の刻を回った。


 一刻も経ってしまったが、有意義な時間だったと思う。


 なあ、小姐。


(馬鹿野郎!)


 こんな感じで、さっきから話にならない。
 困った事だ。


 さて、買い物の続きだ。あとは周兄の店で保存食を買うだけだ。




「しまったな、両替商にいくのを忘れた」


 店を出て、日の傾きを目の当たりにして思い出した。


 そのために革銭紐、蓋革袋を購入したのに、飯屋で熱くなりすぎた。


「うん?胡老師、明日から船旅だから、態々かさばる銭を持ち歩く必要も無いよ」


「それもそうだが、革紐の銭は咄嗟に得物にもなるから、金一両分両替したかった。時間外だからもう無理だな、明日早朝にするか」


「成る程な、胡老師には色々と教わる。そういう事なら、家で両替しようか、まだ月替わりしたばかりだから、歩合は変わってないし」


「それは助かる、本当に周兄には世話になったな。妙な出会いだったが、この数日間付き合いが濃かった、感謝する」


 わたしは拱手で頭を下げた。


 周兄もそれに拱手で答礼する。


「胡老師、それは言いっこ無しだ。
 足抜きかと思いきや、老師は筋を通してくれて、更にこちらを立ててくれた。
 遺恨なんてとんでもない。
 俺個人としても、老師には大恩があり、更に妹妹を推薦してもらった。本当にありがとう」


 そう言うと、周勇は頭を下げた。良い男だ。


 あの時、うっかり殺さなくて良かった。


 人目も無かったし面倒臭くなって、殺して逃げようと思ったが、これも、情けは人の為ならずといった所か。よしよし。


(ねえ、最後に物騒過ぎて台無しなんだけど)


 おお、ようやく機嫌が治ったか。よしよし。



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