武侠少女!絹之大陸交易路を往く!?

蟹江カニオ

大したものだな某。認めてやろう

 先に革製品を扱う店に寄った。順序に意味はなく、ただ、こちらが近かっただけだ。


 革独特の匂いがする。


 そう言えばとマルコ君に聞いてみたら、やはり替えの沓が無いそうなので、店主に既成(商品見本)が無いか聞いてみた。


 既製品が有った。珍しいなと思ったら、徒弟の習作だそうだ。習作の為様々な大きさの革沓があり、少し大きめの物を購入した。


 わたしの革帯と、マルコ君の帯剣用の革帯もまとめて購入だ。


 他にも物色し、銭用の革紐を長短数本、蓋が開閉する革袋を二つ購入した。


 銀十二両を九両に負けてもらい店を後にした。


 いや、某、役に立つではないか。




  銭はかさばる。重い。邪魔。
 だが、支払いの大半は銭だ。


 だから旅人は、銭を千枚単位で紐に通しておく。
 それを胴に巻くのだ、革のが丈夫で一番だ。


 百枚単位で小分けした銭紐は、蓋付き革袋に入れる予定だ。まあゴツイ財布だな。


 取り合えず、革帯に蓋袋と革巾着を通して装着した。


 マルコ君用の革帯は、剣帯用なのだが、蓋革袋を通して装着してやった。


 マルコ君が無銭と云うのも何なので、後で通し銭を持たせる為だ。


 刃物店は周乾物卸に近かった。まあ、裏通の店には、何かしら難がある。硝子玉然りだ。


 一応表通りに店を構えている、洋刃物店だ。


 この国の刀剣類に、子供用は市販されていない。


 士大夫階級で儀礼的に帯剣する子供は、新規に誂えるからだ。


 調理用、各種作業用の刃物類では仕方ない。
 護身用の小刀が欲しいのだ。


 洋刃物は子供用では無いが、小刀がある。


 文化の違いか、肉食習慣か、はたまた狩猟民族の末なのか、西域の人間は、肉切に向いた、小型刃物を携帯する習慣が有るのだ。“ないふ”と言うらしい。


 それを護身用にしようと思う。


 ざっと店内を物色した、刃物の良し悪しはわからない。だから、某に丸投げした。


「マルコ君は、刀剣類を扱った事が無いんだね。
 なら、刺突型が良いかな。これなんてどう?」


 小型剣型だ、長柄につければ槍になりそうだな。
 予算については、マルコ君にも話してある。


 全の所持金だったのだから、迷惑を被った我々が慰謝料として貰う権利が有る。


 ……法的には知らない。


 だから遠慮は要らない、気に入った物を購入する様に伝えておいた。


 重量的にも長さ的にも、某お勧めの“ないふ”が丁度良いらしく、お買い上げだ。


 剣帯に通して装着すると、革鞘に納まった小剣と蓋革袋の色目が合い、中々無骨で勇ましい。


 そこはやはり男の子だ、喜んでいる。
 可愛いものだ。


 金二両だが、便利な某が交渉し、金一両銀八両に負けさせた。


 大したものだ、都合金一両近く浮いた事になる。


 食糧品の購入に、某の店を使う予定だったので、奮発しよう。


 その後、表通りの薬屋に案内してもらい、薬各種と包帯を購入した。


 流石に信頼出来ない裏通りの店舗で、薬は購入出来ない。


 この店の薬類は、周家でも使用しているとの事だから、大丈夫だろう。




 なんだかんだで未の刻だ。少し遅いが昼食にしよう。この間の粽屋が近い。


 その旨を伝えると、


「すごいな胡嬢は、兎歩経絡で大分楽になったけど、まだ胃が動かないよ。俺はお茶だけにしよう」


 そうか、それなら某に世話になった事だし、地絡(地脈)を流して、内絡を整えてやろう。


「周兄には世話になったからな、内絡を整えてやろう。胃の変調も治まる筈」


 了承を受けると、わたしは某の手を取った。


 トンッ!わたしは、足踏みをするように兎歩経絡を踏む、祝詞を心で唱えた。


 やはり妙な物だ、地脈か。


 道中至るところで地祇に挨拶してきたが、この地の反復が一番だ。


 某はまだ経の扱いが雑なので、経は地表に棄て地絡(地脈)だけを流してやった。


 二日酔いだから、消化器官を中心だ。


「うひゃ!なんじゃこりゃ!?」


 変な声出すな、馬鹿! 構わず流した。


 ……何だろう、何か異物感がする。
 まあ、後回しだ。


「どうだ?周兄。もう良いと思うが」


 何やら放心しているな、大丈夫かいな。


「胡嬢、何をしたんだ?体が、軽い?」


「そう言えば、豪順様も気脈、心脈、発経の通りが良くなったと言っていたよ。経歩を踏んでみて」


 そう言うと、わたしは外套の裾を広げ、人目に経歩が晒されない様にする。


 某はその場で、回る様に経歩を踏んだ。
 効果覿面だ、経の反復音が違う。


 この所、連経歩行を真面目に取り組んで、丹を鍛えていた事も要因だろう。


「胡嬢!いや、胡老師!感謝する。俺の礼を受けてくれ」


 往来で人目も憚らず、わたしに膝を付き差手で頭を下げる。最上位礼だ。


 流石に受けざるを得ない。ここで流したら、某の面子は丸潰れだ。人目が多過ぎる。


 わたしは差手の立礼で応じた。


「かつて、わたしの老師が言っていた。
 僅かな助言、助力で一気に開花するのは、修練が足りていたからだと。わたしもそう思う。
 今日、周勇殿の経出力が上がったのも、日頃の鍛練の賜物だよ。立ち会えてわたしも嬉しい」


「胡老師、是非やり方を教えてくれ、皆にも伝えたい」


 ほうやるな、侠だな、皆に伝えるか。


 中々言える事じゃない。武林は秘密主義で排他的だ。某…いや周勇は侠者だな。認めてやろう。


「それには及ばない、昨日、南遨老師、南遨師範、高師範に伝えてある。
 御三方が今後の方針に取り入れて行くだろうから、期をみて高師範から教わると良い」


 わたしが、高師範の頭越しに教える訳には行かない。


 かくも武林の面子は面倒なのだ。


 二日酔いを治してやるだけのつもりが、大事になってしまった。


(最近そんなのばっかりね)


 全くだ。それから小姐、周兄を頼む。



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