武侠少女!絹之大陸交易路を往く!?

蟹江カニオ

遨家極拳、元次席師範、胡小馨。いざ尋常に、勝負 !

 わたしは、高師範と連れ立って極武館へと赴いた。


 南遨老師の高弟だろう、極武館を囲む様に配置されている。


 これでは、確かに門弟では近づく事も出来ないだろう。


 南遨老師、豪順様、高弟に従者、少し離れて医師と助手が極武館正面玄関に集まっていた。


 わたしは、扁額を見上げる。


 太老師の手跡による“極武館”の文字。


 知順様の想いが伝わる。


 わたしは、高師範を伴い南遨老師の元に赴く。
 拱手と共に言う。


「南遨老師、お願いが有ります。此度の仕合、高師範の立ち合いを許可して頂きたい」


「ムッ、高か。通常の仕合であれば許す所であるが……」


 此度は私闘だ。しかも分は悪い。


「南遨老師、たっての願いです。高師範はわたしの経を受けている、南遨家極拳の為になります」


 わたしは、真っ直ぐ南遨老師の目を見た。


「分かった、高の立ち合いを許可する」


 思う所もあるのだろう。決断は早かった。








 極武館の中は、洛都の武館を模して作られていた。
 外部から伺え無い様に、窓は簾が下ろされ通気は悪い。
 汗と香の混ざった、慣れた匂いがする。


 正面最奥上部に、聖王兎と書かれた額が祭られており、その下に遨蓮明様の名が、額に書かれ祭られていた。


 更にその下に太老師、知順様の名が祭られている。


 洛都の極武館との違いは、太老師が祭られている点だけだ。


 南遨老師に先導され、武館の最奥の神前へ赴いた。
 南遨老師が膝を着いたので、わたし達も倣おうとしたが、南遨老師に止められた。


「これは私闘であり、神前を汚したとお怒りを受けるやもしれん。全ての責任は儂にある」


 そう言うと、南遨老師は三叩頭をした。


「聖王よ、蓮明様、神前をお騒がせする無礼をお許しを。
 これより、私事において、極武を競います。
 洛都より流れて三十余年、ひたすら極拳に仕えし老僕が、
 聖王、蓮明様が産み出したる女人拳に、
挑む愚行をお許しいただく事を、
臥してお願い申し上げます」


 そう言うと、南遨老師は三叩頭をした。


「闘者は、私こと亮順の長子豪順。もう一人の闘者は遨家総帥、京馨の子、小馨。
 神太祖、始祖に置かれまして、御照覧いただきます事を」


 三叩頭、九叩頭だ。南遨老師の神前宣言も終わった。


 南遨老師は立ち上がり、そのまま神前に進み、こちらに体ごと向いた。


 聖王と蓮明様の依代としてだ。


 わたし達も神前に進み、差手にて依代たる南遨老師に礼を取る。


 そして、相対する。


 立ち合いたる高師範は、下座にて総覧した。


 わたしは挑まれる側だ、先礼はしない。


 豪順様が差手をする、わたしがそれに応じ差手で返す。


 互いに名乗る前に、神太祖、始祖、の依代たる南遨老師が宣言する。


「これより仕合を開始する、方式は三練経による相打ちとする。
 化経は禁じ、決着がつくまで三練相打を繰り返す事とする。
 決着は戦闘不能、もしくは敗北宣言をもって断ずる事とする。
 双方名乗りを」


「南遨家極拳、筆頭師範、南遨豪順」


「遨家極拳、元次席師範、胡小馨」


「いざ、尋常に!」
「勝負!」


 タッッ! タッ!


 同時に始動発経をする、豪順様の発経が強い。


 ダンッ! バンッ‼


 初練歩だ。反射経からして、本当にこの地の地祇とは相性が良い。


 バンッ! ガンッッ‼


 次練歩だ、お互いに間合いを詰める。打所は腰下人中丹田と云う決まりがある。
丹田とは丹周辺部位だ。


 打点は拳でも掌でも肘、肩、膝、腰、頭、何れでも良く、(ただ、相打ちの場合、拳か掌でないと双方打ちにくい)
 経を外攻の散打に置こうが、内攻の浸透に置こうが構わない。


 ガンッ‼ バガンッッ‼‼


 極拳の武館だ、床は当然石畳だが、砕けた。
 勿論わたしの足場だ。


「絶掌打!」
「遨家絶掌!」


 互いに絶掌を互いの丹田に打ち合った。








 ……結果は最初から分かっていた。


 わたしの内硬経は、豪順様の浸透経を、相殺どころか弾き返し、


 わたしの散打経は、豪順様の内硬経を軽く圧倒した。


 ボスッッ‼


 鈍い打音と共に、豪順様の体は一丈程飛んだ。


 無言だ。散打経だが、浸透したのだ。


 相殺の為に豪順様は集中しているのだが、


 ……既に勝敗は決した。


「ま、…まい、…まいった」


 豪順様が降参した。南遨老師も聞き届けた筈


「勝敗決着!勝者小馨!……」


 わたしは豪順様に終礼をすると、豪順様の元に寄った。
 経絡を軽く流せば、内絡が整うと聞いている。


 この地の地祇とは相性が良い、地祇に祈りと共に兎歩経絡を軽く踏み、絡を奉納した。


 反復した経絡を豪順様に流す。


 わたしが直接経絡を流すより、地祇を通した方がより良く感じたからだ。


 心なしか、豪順様の呼吸が静まった気がする。


「感謝する、小馨。呼吸が、楽になった、凄いな、何をした」


「兎歩経絡を祈りと共に地祇に奉納し、反復した経絡を豪順様に流しました。思いつきでしたが、上手くいった様です」


「流石だ、地祇に、奉納とは、考えた事も、無い。巫祝踊女ふしゅくおどりめの、女人拳、納得した」


豪順様は気脈が尽きた様だ、気を失った。


「高師範、医師を」


高師範が立合人とは、既に周知だ。
わたしが医師を呼びに出ては、豪順様の面子が潰れてしまう。


「承知」


短く返事をすると、高師範は医師を呼びに出た。


わたしの見立てでは、豪順様は外攻散打を殺す為、敢えて飛んだのだ、外傷は大事無いだろう。


浸透した経も、地祇の経絡により治まった様だ。


一先ずは大丈夫であろうと、南遨老師を伺うと。


南遨老師は、静かに涙していた。



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