武侠少女!絹之大陸交易路を往く!?

蟹江カニオ

何だかわたしの出番がない

「元々、私と胡姐…小馨と魂の相性が良かった事は、導師も承知でしょう?
 導師が自ら易を立て、浮身の呪法で確認しているのだから」


「可馨殿、何故に浮身法を存じている?かなり古い選別呪法だ、年齢的に知っている筈もない」


「導師、黒靈に包まれている間、私は意識不明でいた訳ではない。
 私は黒靈を通して周囲を見聞していた。導師の知識も吸収できた」


「馬鹿な、なぜそんな事が?上位靈の黒太郎ですら思考はできないのに?」


「多分上位だからよ導師。私にも黒靈が混ざったから理解できるけど、魂は混ざるほど


「そうか!道理だ!
余りに多い思考の合一に、逆に思考ができなくなっているのか。
 すると奴等の自我とは?」


「少なくとも、太郎のは自我じゃない。
 虫や魚みたいなものよ、存続するための条件反射の上位版?を自我と勘違いしていたみたい。
 だから、無条件に使役できる」


「……なるほど!つまり混ざって黒くなるほど、黒靈としては上位化するが、知性は劣化するのか、無垢な魂ほど自我が確立している。
 うむ、道理だ」


 旱導師は興奮の余り、秘法を垂れ流している事に気づいていない。


「これは、胡姐と会話して気がついた事だけど、導師も私も肝心な点を失念している。
 一度体から離魂したら、元には戻らない。
 当たり前だよね、だからね……私の今の状況が参考にならない?」






「……そうか
……そうだ
……儂は……馬鹿だ!
有難い!可馨殿!生霊せいりょうか!!出来る!ならば出来るぞ!」


「導師には頑張ってもらわないとね、私も協力するわ」


「可馨殿の協力が得られるなら、願ってもない事だが、何を見返りに求められるかな?」


「見返りは二点。
 一つは私の体、私は自分の体が欲しい。これは、導師の目的にも合致する。
 導師の知識と技術なら反魂用の身体を作れる筈」


「その通り。一点目は了承しましょう。では、もう一点とは?」


「導師との連絡用に、黒靈が欲しい。
 出来たら、黒太郎、黒次郎、黒三の三体」


「むっ、太郎と次郎をか、黒三はまあ良いとして、彼奴らはあそこまで育てるに、八十年かかった。
 それに黒太郎が抜けるのは、痛い。
 黒三には劣るが、士と牛では駄目だろうか」


「私では、そんなに下位黒靈は使役出来ないわ。なら黒三と黒士で良いから」


「契約成立。
連絡はこの都内なら黒士でも出来るから、研究成果が出しだい連絡しよう。
 小生は北洛外の仮生観けしょうかんに大体居住している」




「導師、かなり饒舌だったが良いのか。俺達にどうこう出来る話では無かったが、不穏当な内容に思える。」


 そう、ここには老師を含めて、国内でも有数の武力が揃っている。


 老師の“世の為にならない”の一言で、旱導師の寿命は尽きる。


 旱導師は、口が滑った事の迂闊さを呪った。
 しかし、援護は可馨からだった。


「ごめんなさい母上、旱導師を見逃して下さい。」


「むっ……」


「母上はあの時、“あの世で詫びる”と、仰り私ごと導師を打ちました。
 それは、良いのです。母上の葛藤と私に対する愛情は感じていましたから」


「………」


「ですが、母上。
 私は人の輪廻から外れました、私に来世は無いのです。
 あのままだと、魂の霧散を避けて、手近の黒靈と同化したでしょう。
 更に遠からず黒靈同士で同化して、延命を計り、やがて自我を無くしたでしょう」


「なんと!導師!聞いておらぬぞ」


「いや、当主殿。自我の件は小生も初めて聞いた。
 まさか、上位体になるほど自我が無くなるなど、考えた事も無かった。
 だから、可馨殿のような知性宿る反魂者の存在は、奇跡に近い」


「母上、だから旱導師に、手出無用に願いたいのです。
 新たに体を得れば、人の輪廻に戻れるかも知れない」


「………分かった。元を正せば、全て俺の勝手から始まった事だ。
 導師に責任を問うのは、。小馨に教えてもらった。
 分かった旱導師。貴様に手出しはしない。門弟にもそう通達しよう」


「そう願えれば小生としても重畳。
 小生は成すべき事があり、まだ死ねないのだから」


「導師よ、貴様は人倫を外す事に躊躇いは無いのだな、俺には三度目はできなかった。
 恐ろしい男だ。
 王、導師が帰られる。謝礼を」


 王家宰に促されて、旱導師は別室に通された。
 小馨の部屋には、老師と黄侍女、小馨と可馨が残った。


「可馨、済まなかった。まさかそんな事になっているとは、知らなかった」


「母上、良いのです。先程も言いましたが、母上の愛情は理解していますから。
 それに、ふふっ。
 姐が出来ましたから、結果には満足しています。
 面白いですね、小馨は」


「なんだ?姐とは、可馨の方が年上だろうが」


「それが、小馨はそれを条件に、私を受け入れたのですよ」


「なんだ?それは」


「母上、黄、この事は内密に。
黒靈も今は外していますので、旱導師には知られません。
生霊しょうりょうは自我が有るので、受け入れには、契約が必要みたいです。
魂と魂の約束事なので、結び付きが強く、そして安定すると考えられます」


「それでは?」


「はい、旱導師は失敗するでしょう。私が主導する為には、仕方ありません。
導師は簡単に人倫を破ります、約束を反古にされても困るのです」


「うむ、妥当であるな、具体的に奴が何をするのか見当もつかぬが、外道行為を働くだろう」


「はい、他にも伏せた情報も有ります。ですが情報共有はしません、私が誘導します」


「なんとも頼もしくなったな可馨。ん?それで姐というのは?」


「ふふっ、それなのです。
図らずも小馨が条件を出してくれたお陰で、魂の契約になりました。
私がこうしていられるのも、黄、貴女のお陰ですよ」


「私?ですか」


「小馨がすっかり貴女に懐いて、自分も貴女みたいに成りたかったのでしょう。
だから、私を妹とすることで、貴女の立場を真似したかった様です」


「え?それでは小馨様の条件とは」


「私を妹とすることです。ふふっ本当に愛らしい」


「か、呵呵呵呵呵、なんだそれは、俺の娘は本当に面白いな、呵呵呵呵呵か」


「小馨様。………何か創作意欲が湧いて来ました」


「それ!ねえ黄、あれから新作出してないの?私はそれで生き返ったんだから」


「ああ、二冊出版した、表で出すと発禁になるから、黄の実家の版元から千部のみの発行でな、後で俺の部屋から届けさせよう」


「有難う、母上」


……血は争えないようだ。

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