武侠少女!絹之大陸交易路を往く!?

蟹江カニオ

わたしは小侠女?

「これは愛らしい、想像以上だ。御当主殿も満足されましたか?」


 何やら不穏当な言動だ。
 わたしは直感的に“こいつ嫌いだ”と感じた。


 しかし、祖廟の納骨堂から出てきたということは、
 一族、又は、導服からして関係者だと思った。


 わたしは、老師に目をやった。


「祖廟の裏で待てと伝えたが、耄碌し過ぎて忘れたか」


 あまり好意的ではない感じだ。


 言葉に違和感を感じる、この黒導師は、老師と同年代に見える。


 老人扱いはおかしく思えた。


 とは云え、老師が対等に口を利く相手だ、
 差手の礼を取る、目下のわたしから挨拶をした。


「導師様、初めまして。胡小馨です、お見知り置きください」


 老師ははっきり舌打ちした。


「小馨、こんな外道に挨拶など必用ない。犬猫畜生の方が余程上等だ」


「あはははは、これは愉快な紹介だ。10年以上も親交が有るのに、連れない事だ。小生は悲しい」


 そう言うと、陰気な黒導師はわたしを見た。
 蛇の目を連想させた。


「小馨と名付けたか、業の深い事だ。
 小生は見ての通りの道法ダオファで導師位に有る修行者だ。
 旱干ハァンガンと号する、そこな遨家当主の外道仲間だ」


 なんだと!頭に血が上がる、押さえようとして、無理だった。


「今なんとほざいた!この糞導師!母さまが外道だと!取り消せ!」


 一瞬、旱と号する導師は驚いたようだが、次の瞬間には、高笑いした。


「あはははは、これは良い。昨日の今日でどうやったらここまで手名付けられる。見事だ御当主殿。これなら


 おのれ!わたしは衝動的に飛びかかった。
 かかったが、何時の間にか老師に襟首を摘ままれていた。猫の子みたいだ。


「なんと勇ましいな小馨。
 まあ、落ち着け。
 あの糞導師の言うことは本当だ。確かに外道仲間ではある」


「そんな事はない!母さまが外道な訳ない!わたしを拾ってくれた、食わせてくれた、衣服をくれた、住ませてくれた、黄姐をつけてくれた、養女にしてくれた、情をかけてくれた、名前をくれた、だから違う!」


「それも、理由があっての事だ娘々。そうで無ければ、誰が汚い孤児など引き取るか。
 小生がえきを立て、星の巡りを読み娘々を選んだ。
 当主殿はそれを良しとして実行した。
 それだけだ」


 半分も聞いていない。


「すっこんでろ糞導師!
 母さま、可馨さま関係なんでしょ、教えて」


「……そうだ、そこの外道の反魂呪法に飛び付いた。可馨の魂を小馨に移そうと企んだ」


 老師は真っ直ぐわたしの目を見た。


「信じろとは言わない、だが、小馨が嫌だと言えばつもりだ。
 もちろん断っても養女として育てる、俺は小馨を気にいったのだから」


「いや、当主殿、魂の保管は三年が限度だ。
 それ以降は記憶に著しい欠損が生じる。獣と大差なくなるぞ。
 娘々以外に適合するとなると、を含め時間がかかる」


 半分も聞いていない。


「だからすっこんでろ糞導師!
 よく分からないけど、わたしの体を使って可馨様を生き返らせるって事?」


 老師は目を逸らさず“そうだ”と言った。


 わたしは、ストンと全てを納得した。


 世界が違うわたしを見いだし、情をかけてくれたのは、全て可馨様の為。


 当り前だ。わたし自身は、実母に捨てられる程に無価値なんだから。


 だけど、


 如何なる思惑が有ろうとも、


 これほどまでに、わたしに情をくれたのだ、


 返事は決まっている。


「母さま、嫌な訳がないです。
 ここまで大きな恩を受けていて、断るなんて筋が通らない、女が廃る。
 わたしは喜んで、その何だかって呪法をうけます」


「……筋か」老師はそう呟くと、視線をそらした。


「うむ、すばらしい。本人の意志が一番の障害になるからな、了承ならば、間違いなく成功する」


 わたしは導師に聞いてみた。


「導師様、可馨様の魂を移したら、わたしはどうなるの?」


「導師様に格上げか。もちろん体からお前の魂は出す。体一つに魂二つでは、何が起こるか分からないからな」


「わたしは死ぬって事?」


 ……その覚悟はある。


「そう言っている」


 ……即答なんだ、腹は決まった。


「分かった、いつやるの?」


 ……せめて黄姐に、お別れの挨拶する時間は欲しい。


「本人の了解が得られたのだ、いつでも良いさ」


 そう言って旱導師は懐から小瓶を出した、瓶自体に呪文字が書かれている。
 可馨様の魂だろうか?


「可馨殿いつがいいか?当主殿のつご……?」


 言葉が途切れた、わたしは不審に思い導師の視線の先を追い、振り返った。


 老師が両膝をつき差手の最上位礼をしていた、驚いた事ににだ。


 老師は口を開いた。


「有難う、小馨。俺には過ぎた娘だ。
 俺はまた道を外す所だった、一度道を外すと癖になるのだな。
 二度も外して臆面もなく、三度目も外れる所だった。
 我娘よ、小さな侠女よ、よくぞ俺を導いた」


 そう言うと、老師は深く頭を下げた。


「どういう意味だ、反故にするのか?馬鹿な、全て順調なのだぞ、後は術を施せば娘は甦るのだぞ」


「当り前の事だが、死んだ者は生き返らない。そんな当り前の事を忘れていた。
 思えば導師、貴様が俺に金丹の邪法を持ちかけてきた時から、すでに貴様の術中にあったと言うことか」


「愚弄するな!金丹術は道法の奥義、それを邪法などと……」
「戯け!命を弄ぶ正法などあるか!」


 老師はユラリとした足取りで立ち上がった。


「可馨、あの世で詫びる。
 それから導師よ、貴様は世の為にならん」




「だから、この場で殺す事にする」


 次の瞬間、老師の体が揺らいでみえた。

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