突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!

蟹江カニオ

要らん豆知識

 開発部よりアルに呼び出しが掛かったのは、翌々日の事だ。


 例の食材の手配がつき、調合をするので、来て欲しいとの事だ。


 アルの方は、重火砲の設計を粗方終えていた。


 実際に湾外に向けて重火砲を撃ってみて、どれ程の強度が必要か三号と相談だ。


 いや、イエス、ノー式なので、端から見ればパントマイムだが、本人は真面目である。


 真面目に気が触れた様に見えた。


 ピエト一等卒だが、その場でダッド砲班に編入され、現在教育中だ。


 アルを一人で行動させると碌でもない事になるので、ピエトの教育は、ブブエロに任せ、二個イチの片割れが同行した。


 コロンボも、現在班長教育実施中で、昨日から第一砲台に出向いている。






「快速挺って言うほど快速じゃないね」


「海軍じゃないからな、帆走技量なんて持ってる砲兵がいると思うか?」


 快速挺は手漕だ。流線型の双胴タイプで、横転しにくい。


 どのみち帆走出来る兵科が使用する訳でないので、初めから帆柱は無く、オールが搭載されている。


「俺は家が漁師だから、湾内帆走くらいは出来るぜ、まあ、完全手漕ぎ船に文句言っても仕方ないけどな」


「こいつも開発部の工房製だから、上手い事言って改造してもらえ」


 とか何とか言っている内に、軍港内の小型船発着所に到着だ。移動用の快速挺はそこに預け、軍港内関を通過する。


 一応入港目的、所属、官姓名の申告があるが、湾外からの入港ではないので、審査もない。


 あとは工房まで直行だ、重火砲の打ち合わせもしたいし、何より今日は朝から一号から三号まで勢揃いで臭い。とっとと解放されたいのだ。


 勝手知ったる開発工房、既にベアリングの鋼球試作を始めているようだ、


 軍属の鍛冶職人が、研磨用の鋼板の作成をしていたり、


 こちらでは、鋼球用金型の調整をしていたり、(これは銃弾用の金型流用だ、小型砲弾用、中型砲弾用と、サイズ別に試してみるのだ)


 またこちらでは、鋼材の納品受領をしていたりと、活気がある。


 そんな中、ガリレイ技術少尉が出迎えた。


「こんちはガリ少尉。今日は活気があるね、もう、奴等ウジャウジャいるよ、鼻が曲りそう」


「はは、この間は免業日だったからね。
 僕らは慣れて分からないけど、そんなに臭いかい?」


「俺も慣れたいよ。それより少尉、重火砲用の架台が追加で増えたけど、簡単に図面を描いてきた」


「重火砲って、砲台据付けの大型砲だろ?アレ動かすの?」


「ガリレイ少尉殿、機密事項になりますので、打ち合わせは室内で願います」


 ダッドは、戦争が絡まなければ、割りと常識人だ。割りと。


「では、打合せ室で。調合の方は後にするか」


 三号達がざわつくが無視だ。奴等、俺に何を作らせたいんだよ。あと臭ぇ。




 車両の基本構造は同じだ。ただ、砲撃の反動は大きく、野戦砲の様に制動ブレーキ半効では、反動を殺しきれない。


 なので、車両上にも小架台を置き重火砲を据える。
 砲撃により小架台を反動後退させ、更に減衰した反動を、本車両の方でも反動後退させるという、二重反動減衰方を、三号と考案した。


 ……本当に疲れた。危うく三号と殴り合いになる所だった。できるかどうかは知らん。


 想像してみ、こっちの提案を、無視かゲラゲラだけで反応されて、向こうが納得するまで消えてくれないの。


 気に入ると数が増えてゲラゲラし、気に入らないと一斉に無表情。ムカつくよ本当。


 しかも、滅多矢鱈と臭い。


 まあその甲斐あって、制作可能の重火砲移動架台図が仕上がったと思う。


「へえ、面白いね、つまり車輪の付いた砲台だ、架台の範疇を越えるね。ここの減衰装置に例の食材を使うのか」


「うん、それとは別に、上の小架台の衝撃減衰にコイルを使う。長めに作り、調整は実射しながらだね」


 アーガイル社の重火砲が入荷するまでに、作れる部品など、細かい打ち合わせをこなした。






 馬鹿だ間抜けだキチがいと、罵られてばかりの馬鹿だけど、やれば出来る子ではありませんか。


 ダッドはそんな事を考えながら、出されたコーヒーを口にした。


 カップに容れてあるが、中身は軍携行糧食レーションの缶コーヒーだ。


 比較的マシなだけで、態々飲みたい代物ではない。


 お茶受けを口に放り込む。……あん?何だこりゃ?


「こりゃ懐かしい菓子だ、30年振りに食ったな」


「中々いけるでしょ曹長、これが緩衝材になるとは思えないでしょう。実は少し造ってみてね、今焼成中」


「ガリ少尉、何を作ったの?この間教えた配合だと、固くしかならないけど」


「靴底をね、アレで作ってみた。固さも丁度良い感じだしね」


「天才か!成る程!何でじいちゃん達や俺はそれに気がつかなかった。ガリ少尉、こっちにも融通して」


「……前に少し聞いた事が有ったが、これの事だったのか。と、言うかこの駄菓子、海草が原料だったのかよ、要らん豆知識が増えたな」


「それだけど、曹長、その要らん豆知識は口外法度で。特許申請するから。
 発明者のアル技官の名目で、開発部から特許申請するよ。
 アル技官は構わないかな?」


「構わないけど、何で?」


「開発部からだと、申請通りやすいからね、アル技官の懐も潤うし、開発部も実積が上げられるから、書類関係は任せてよ」


「ふーん、まあ良いよ。持ちつ持たれつで。まあ、これで借金もチャラになるかな」


 チャラ所か、この手の汎用物資は応用が効く。
 かなり特許料が入る事になるのだが、それは後の話である。

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