突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!

蟹江カニオ

転科転入の“ピ”一等卒

「重火砲用の機動架台だって?アレ動かすの、面白そうじゃないか」


 ゴーン大尉とほとんど入れ違いにアル技官達が戻ってきた。


 ニアミスを心配したが、そこは曹長が察してアル技官を誘導したそうだ。助かる。


「いや、機動力は期待していないから、運搬専用で」


「いや、アレで戦場を駆け抜けたいでしょ、どうよ軍曹」


「アレか、アレは良いなぁ、よし、造ろう!野戦仕様重火砲、良い響きだなぁ」


 変な所で二人は野合する。二個イチとは良い得て妙だ。


「アル技官、重火砲は一門で6㌧ある。新型を導入するが、それでも5㌧弱くらいだ、運搬メインで造ってくれ」


「そんなにあるのか、仕方ない。ならば、車両から下ろさないで、そのまま架台から撃てる方向で考えよう。つまりマークⅩだ」


「やだよ、機動重火砲造ろうぜ、押し手を増やせば良いんだからさ」


「曹長、重火砲の戦地投入は極秘となる。会戦、決戦時まで秘匿される。それまで人目に晒す訳にはいかない」


「うん?先生、何だか戦争が近いみたいな口ぶりだけど、どっかとやるの?」


「本当か!少尉!どうなんだ!」


 ……まあ、当事者の二人にならば、話をしても良いだろう。


「口外法度で頼むよ、この間の艦隊の国籍が四連合王国と知れてね。
 恐らくフランク王国に対する軍事行動の一環として、我が方にちょっかいを出してきたと推測される」


「つまり、どゆこと?」


「続報待ちだが、連合王国とフランク王国が軍事的に衝突したと推測される。
 その作戦行動の一環としての、ナザレ海上封鎖だ。二列強国の諍いだ、余波は大きい」


「うん、つまり、どゆこと?」


「ちっと黙ってろ馬鹿アル。少尉、余波はどこに波及すると推測されますか?」


「南方大陸の国家郡に、影響が出るだろう。最悪内乱に介入する事になる」


「なんで?そもそも連合王国とフランク王国が衝突したとして、何で南方大陸に余波なんぞ」


「極めてザックリ説明すると、交易ルートの確保の為、両国が長年に渡り資金援助なり軍事援助なりして、交易拠点を確保してきた。
 内海に突きだした形状で、内海中域に位置する我が国と違い、両国は内海を横断しなければならず。内海拠点確保は死活問題となる」


「先生!質問。内海を横断って何で?交易がって話だけど、東になんか有るのか?」


「……絹の交易路くらいは聞いたことが
 あるかな?
 大昔、それこそ我が国が大帝国だったころは、陸運交易しかなかったけど、今はエジットに運河を通したから、海運交易が出来るようになった。
 なあ、アル。パルト市街の学習所で習った事だぞ」


「そうだったのか、それで東に用が有る訳だ」


「少尉殿、何も列強は二国だけでない、南方大陸にテコ入れしている強国は、他にも有る。
 つまり乱世到来と、こう言うのですね!」


「こう言うのですね!じゃないよ軍曹、悪いこと言わないから、一度教会か病院に行って、メンテナンスしてもらえよ頭の中を」


「そんときゃお前も道連れだ、楽しみにしとけ。ウンコ関係を吹聴して、檻付の病院送りにしてやる」


「やかましい!三号けしかけんぞ!サイコ軍人!」


「はいそこまで、話が進まないから。
 南方大陸に支援出兵の場合、三砲研から機動砲架を3~4両、重火砲移動架台を1両。
 三砲台から通常砲兵を1分隊の派兵になる」


「なに?その三砲研って?」


 素で聞いている。この男、記憶障害が懸念される。


「第三砲台付火砲術研究室、長いから三砲研。詰めすぎたか?」


「それより少尉、砲兵を一小隊派兵となりますが、人員は補充されるのですか?
 現在も、三砲台は定員割れして居ります。
 三砲研と三砲台では、人員が被っているので、このままでは、出兵所では有りません」


 人員不足で出兵見送りなど、この男には耐えられない苦痛だ。


 ……やはり、メンテナンスは必要と思われる。


「何せ第二、第三砲台分だからね、士官の処分が多いから、上位指揮官が不足している。
 急場は第一から回してもらっているけど、出兵迄の借り受けは無理かな」


「出兵の場合、砲兵小隊の指揮官は少尉殿ですか?少尉殿が指揮官ならば、前回ので実積が有りますから、下士官砲班での編成で大丈夫かと思います」


 これは本当だ。レオンは新任准尉らしからぬ采配を振るうと、下士官砲班長に人気だ。


 またダッドが吹聴して歩いているので、アル、レオン、共に噂が絶えない。


 アルに関しては前述したが、レオンに関して特に記述しないのは、まあ、書き手からすると、オッサン下士官受け話など、地味だからだ。すまんレオン。


「それから、これは先程提案されたのですが、他兵科からも募集を掛けたら如何でしょう。
 時に輜重兵士を起用したように、押し手ならばいくら居ても構わないし、その気が有るなら、砲兵教育を施せばいい」


「そうだね、転科は別に本人が希望するなら問題無いし、何より軍所属だから扱いが楽だ」


 二人してアルを見やる。


 アルは軍属なのだから、軍所属なのだが、扱いとなると、もう、ね。


「それだけど、先生。前回の輜重科の、ほら丸顔の何だかってやつ。あいつ引っ張ってこれない?伍長さんが居なくなるから、人手が欲しい」


「……いや、さっきからその話をしていたんだが、聞いていなかったな」


「うん」


 シャアシャアと返事を返した所で、守備長室に入室許可のノックがした。


「失礼します。第三砲台臨時守備長、パルト少尉殿。
 本日付で第三砲台に移動します、ピエト一等卒であります。以前は大変御世話になりました。今後よろしくお願いいたします」


 輜重科所属だったピエトだ。転科転入が通ったのだ。


「おお!噂をすればピだ。軍曹、ピがきたよ」


 ……また、酷い呼称を付けられたものだ。
 一文字はないだろうに。

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