突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!

蟹江カニオ

欠落天才で、馬鹿で、キチがいで、お調子者の変人

「小官が不在にしたのは、実家の支援で作成していた新型車両の受け取りのためでした。
 車軸の折れた車両の替わりに借り受けるためでした」


 レオンは、言い訳を混えた砲台攻略作戦を立案する。


「貴官の実家?・・・ああ、カルロ殿な、その車両とやらは、市街所有なのか?それが何か?」


 ブロス中佐も、隣の市街のトップの名は知っていた。


「いえ、性能面で問題が無ければ市街で採用の運びでしたが、試験中の物を、実地試験ということで借り受けたのです。道中感じましたが、この車両は大変素晴らしい!」


「感傷的で結構だが、それが何だ。話を進めたまえ」


「失礼。この地点に工兵に土嚢を積ませ、新型砲を設置し、砲台を仮設するのです」


 岬のほぼ先端に第三砲台は設置されていた。


 こちらから見ると、小山程高低差のある登り勾配だ。
 同射程距離の火砲が撃ち合えば、当然高い位置から撃ち出した砲弾の方が飛ぶ。


 低所から高所に砲撃するためには、砲門の距離を近付けなければならない。


 高所からはすれば、どちらも射程距離内なので、圧倒的に有利だ。


 つまり、高所砲台は最初から攻撃し続ける事が出来るのだ。


「却下だ、損害が大きすぎる」
「築塁はともかく、砲門の設置をビンゴが許さないだろうよ、実際今日それでやられた」


 橋頭堡を築こうとしたようだ、ただ、砲弾の雨に失敗した。


「そこで新型の車両です、一両で2砲門の運搬が可能なので、砲弾防ぎに何重にも土嚢を積み重ねてから火砲を移動させれば、こちらも攻撃手段を得られる。
 火砲援護の元、順次火砲を運んで援護を増せば、歩兵も第三砲台に張り付ける筈です」


「作戦の前提が車両にあるようだが、いかに牽引馬が軍用馬とはいえ、砲弾の雨の中では、すくんでしまい動けまいよ」


「だから新型です、火砲二門なら、一人で動かせる。事実ここに来る途中まで、交代で押してきました」


「ん?なにやら引っ掛かる物言いだな、何故途中までなのだ?」


「即時の帰還命令を受けましたので、それ以後は牽引馬に引かせました。
 それより車両なのですが、充分本作戦行動に耐えられると愚考いたします」


「ふむ……作戦自体は本日とほぼ同じだが、勝算はありそうだ」


「同感です。ただ、支援が開始される前は、本日同様被害が出るでしょう」


「貴官らはこの作戦をどう思う?」


 中佐は各中隊長に意見を促す


「火砲の支援があれば、順次橋頭堡を築く事が可能です。本作戦を支持します」


「准尉、質問だが、その地点に砲台を築く理由はなんだ?本日築塁に失敗した地点より手前のようだが、こちらからの砲撃は届くのか?」


「受領した新型砲を、強装薬すれば砲撃可能です。
 場所の選定は、やや窪地の為築塁しやすい事、砲台設置に充分場所が取れる事、味方被弾率を下げる事などです」


「なるほど。小官も本作戦を支持します」


「小官も支持します。なるほど、大砲屋でなけば射程距離延長法など、わからないからな」


「准尉、私からも質問だ、その強装薬だが、砲は大丈夫か?火砲が破損しては作戦自体が成立しない」


「レントで実射済みです、最大で一割増の装薬なら、連射しなければ大丈夫でした。砲の冷却が必要となりますが」


「なるほど、冷却にはどれ程かかる」


「濡れた布を砲身に巻いて、送風冷却すれば3分程で次弾装填可能です」


「なるほど、新型砲は10門だったな、三交代にすれば、砲弾3発ずつの支援が間断なく受けられる訳だな」


「攻撃目標の設定や、冷却状態にもよりますが可能です」


「わかった、小官も支持する」


 全員一致でレオンの攻略作戦は採用された。
 この後工兵の運用や、歩兵特攻隊が小隊単位で編成された。


「パルト准尉、この作戦は砲門の速やかな設置が鍵となる、特に初運搬が肝だ。任務完遂できる人員を選定しろ、以上だ」


「はっ」とレオンは短く答える。


「明朝6時をもって、作戦を開始する。貴官達の奮戦を期待する、解散」


 取り敢えず、レオンは失態をうやむやにする事に成功した。明日の成果次第では分からないが。




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「先生遅いな、死んだかな」


「何でそう思った、あまり不敬な事を口にするな」


 これは軍曹ではない、ダーレン曹長だ。新型砲の運搬のため小隊の指揮をレオンから引き継いだ人物だ。
 そろそろマトモな人物が欲しい。


「けど、もう日付もかわったぜ、いくらなんでも眠い」


 アルは懐中時計をしまいながら言った。これは祖父の遺品で、船乗りの必需品だった物だ。


「まあ曹長、あまりうるさくしても意味ないぞ。こいつは面倒臭くなると、全く耳が聞こえなくなる特技がある」


 軍曹が言ってる傍からアルは寝た。即寝だ。特技の応用技だ、少し羨ましい特技だ。


「なんとも……こいつは馬鹿なのか?割りと本気で聞いている」


「准尉殿は天才と称したが、俺にはわからん。欠落した天才とも言えるし、馬鹿ともキチがいとも。お調子者ではあるな」


「それでは、さっぱり分からんな、まあ軍曹と気が合う段階で変人か」


「欠落天才に、馬鹿に、キチがいに、お調子者に、変人か。盛りだくさんだが、どれも言葉が足りないな、強いて言えば全てだな」


 酷い人物評だが仕方ない。
 なにせ、後に佞人ねいじんと呼ばれるような人間なのだから。

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