突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!

蟹江カニオ

キッツい仕事

「ああ、建築資材の運搬のやつな」


 店主は摘まんで受領書を受け取った、そりゃ、ねぇ。


「金受け取りにきて、殺されかけりゃ世話んねぇ」


 言い分はわからないでもないが、この男も大概だったから、あまり弁護できない。


 悪態はついているが、掃除の手は止めない。
 本当に変な所で素直だ。


 アルの就労状態は請け負いだ、正社員ではない。一件毎に賃金を貰うのだ。バイトというやつだ。


 というのも、なにもこの業界の形態が、バイトが一般的という事はなく、試用期間中だからだ。


 場合によっては高価な荷物も運搬するので、身元の確かな、信頼の置ける人間を社員雇用するのは当然だ。


 そこは、代金表の発行を許可された店だ、アルの就労態度の査定もかねて、建築資材の運搬というキッツい仕事を振っていたのだ。


 バックレるか、真面目にこなすか、人間性を見られていた。


 アルといえば、少なくも共犯で殺人教唆されるほどには店主の信頼?を得ていた。


「まあ、丁度良いよ。パルト様の仕事はお前向きだからな」


 つまりキッツいんだろう。アルは嫌そうな表情で抗議したが、繼歩で黙らされた。


「そんな悪い仕事じゃないよ、街道を半日くだって荷受けしたら、ナザレ市街の軍港城塞まで届けるだけだ。牽引馬はそのまま使えるそうだから、1㌧の荷でもお前の車両なら楽勝だろ、2日仕事で、なんとこんだけ」


 金額の提示だろう、独特な符丁でアルの取り分を教える。
 金額に納得したようでアルは頷いた。


 街道を一旦くだるので、往復になるが、(この国では、全ての街道は首都と繋がっている。ここから見てレントは下り、ナザレは上がり方向になる)


 初日はこの市街で休む事ができる。
 宿泊代や食事が節約できるので、金額的には悪くない。


 本来なら荷受けからが仕事になるのだが、それは街受け街渡しの場合。


 今回は出張荷受けなので、空荷でも車両代はかかる。牽引馬や馬子の、いわゆるアゴ足代がかかるからだ。


「初日の停泊はここ使っていいか?」


 街道が綺麗に整備されているような国だ。
 治安は悪くないので、街道脇に停泊しても問題はない。だが、わざわざ野宿する理由もない。


 大概の運送屋は荷受け、荷渡しのために倉庫を完備しているか、この店のように店舗部分が広く取ってあり、盗難防止に頑丈な石造りになっていた。


 そうでなければ、あれだけ派手に暴れられない。


「そりゃ勿論。軍の荷物だ、問題があってはいけないからね。と、そうだパルト様」


「なにか」


 若干声が震えた。無理もなかろう、すっかり苦手意識を抱いたようだ。


「部下の方の宿泊はどうされます?こちらで手配しますか?」


 今現在、壊れた車両の周辺で、部下が六人と、輜重科から運搬用に借りた兵卒三名、牽引馬一頭が待機していた。


 新型火砲は、というより火砲は全般的に高価だ。見張りもなく山中に放置などできない。


 この国の砲兵科ではスリーマンセルが基本だ。砲手、装填手、掃除手。砲手が班長だ。


 いずれ火砲の大型化がすすめば、この体制も変わるだろうが、火砲戦術の最初期はこの人員で対応していた。


 今回新型砲は二門山中にあるので、部下が六人も待機しているのだ。


 アルを合わせて、十一人プラス馬だ、荷の積み替えの手は足りるだろう。


「いや、部下達は野営させるつもりだ。そのつもりで準備してきた。ただ、荷物だけはこちらに預かってもらえるだろうか」


 本来なら、混成とはいえ分隊クラスの人員がいるのだ、荷物の盗難を恐れる必要はない。


 これはアルの考えを汲んでの事だ。
 積み荷を安置できれば、彼はこの市街の住人だ、自宅で休めてアゴ代も浮くだろう。


 それに天気は当分良さげだが、屋根下に高価な火砲を置けるのだ、わざわざ露天にさらす事もない。


「そうですか、出発はどうします?これからだと荷受けは深夜になってしまいますが」


 遠回しに明日の出発にしろと言っていた。
 何せ軍隊だ、夜間行軍だの軍事調練だのとほざいて無理をしかねない。


 請け負った以上、事故の可能性は極力排除したかった、別にアルの事を慮った訳ではない。


「明日の朝6時に、街道東口で」


 この市街はとくに城郭はない、一日の距離に軍港城塞都市があるのだ、要塞化は無意味だ。


 そもそも当初は名もない宿場町で、ナザレから最初の宿場でしかなかった。


それが石切場を開拓し、建築資材の供給地となり、国から執政官が送られる程に発展した。


 老婆がこの地に入植した頃の話だ。


 その後執政官は植林を推奨し、木材を産出させ、さらに石切場の程近くに石灰岩を見いだした。


 植林の間伐材から石灰を作らせ、建築資材の一大産出地に発展させた。


 名もない町は市街に成長し、その功績から市街には執政官の家名が冠せられ、パルト市街と呼ばれるようになった。


 レオンが名乗ると、老婆がすぐに執政官の身内と分かったゆえんだ。


 この市街は東口から西口へ街道が貫通していた、レント方向は東口だ。


「わかった」
これはアルが答えた。



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