突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!

蟹江カニオ

マッハ土下座一回目

大姐ダージィエそういう事になった。俺は手を引く。もう落ち着いているのだろう)


小姐シャオジィェがそう言うなら、わたしもそうするよ、ただきつく脅しておくけれど)




 老婆は目を閉じて、を始める、字面だと電波っぽく感じる。


(それから客だが、大姐どうする。全く面目無いが、極拳の深奥を見られた、多分盗まれてはいないと思うが)


(小姐、わたしがパルト家にどれだけ世話になったと思う。移民のを受け入れてくれて、言葉を覚えるために、学習所の入学まで無償で面倒をみてくれた。仇では返せん)


(だがな、大姐、それはこの市街の執政官の業務の一環だぞ、当時移民の受け入れはこの国の国策だった。市民権を得る代わりに、この国の国教への入信、名前の廃棄、代償は払った)


(だからチャラだから殺しておけと)


(そこまでは言わん、だが税金を納めている大姐が、必要以上に恩義を感じているように見える)
(そうか?にとっての宗教は、遨家極拳だから、それさえ守られればどうでも良いし、名前だって強制ではなかったぞ、発音しにくいから、改名したらどうかと打診されただけだ)
(…我等は、故国に石もて追われたのだぞ、小姐。それをこの国が拾ってくれた)


 この台詞はいささか図々しい、老婆は清那では暗黒街の住人で大量殺人の凶悪犯だ、指名手配されて当然だ。


(わかった、大姐がそう言うなら従う)


(うん。それより小姐、あれは何だと思う?なんとも妙な手応えだったな)


 記憶や経験を共有しているとの時に楽そうだ


(小僧か、あれは何やらよからぬ物をおるな)


(よからぬ物か、けったいなガキだ)


 絶技を防いだあれ。おそらくアルがウンコ、ウンコとわめいていた事に、関係あるだろう。


 傍目には何もみえないが、直接殴打した老婆は感じるものも、あったのだろう。


(さて、俺は寝る。大姐、吾子をあまりいびるなよ)


 何だかんだで副人格は甘いのだ、ツンデレというには、ツンが物理的に即死クラスだが。


(またな。さて)


 老婆の雰囲気が変わった、主人格にもどったのだ。とはいえ、この場の支配者であることに代わりない。


「起きろケツの穴!」


 良い感じで、尻を上げた格好で気絶していた店主の尻に、蹴りをいれる。スパンと軽い音がした。


「うおっ朝か、痛ってぇ!ツラとケツが痛てぇ」


「うるせえ、てめえのツラもケツも似たようなものだ!それより、お客様をいつまで縛り上げてやがる、さっさと解いてやれ!」


(てめえでやったんじゃ…)
 店主は状況を即座に理解したが、恐いから言わない。


(ババアが縛り上げたんだろが…)
 アルは一部始終を見ていたが、恐いから言わない。


(誰でもいいから解いてくれ…)
 レオンは被害者だが、やはり恐いから文句を言わない。


「さっさとしねェか!ノロマ‼」


「はいぃぃ!」


 店主は結構重症だったが、きびきびと動いてレオンの拘束を解いてゆく。


「コラ!アル!てめえはそこら中のヘドかたずけろ、汚ねぇ」


(…それもママがやったんじゃ…)


(…ババア…おまえ…誰が…)


(…帰りたい…)


 三者三様だが、やはり恐いから文句を言わない。


「それからテメエ達!小姐シャオジィェとは話がついたみたいだが、あたしとはついていない、かたずけたら表に出ろ‼」


 ズドン!
 かなり強めに繼歩を踏む。


 二人はマッハで土下座した。


「本当にスミマセンでした!」
「心入れ替えます、スミマセンでした」




 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~






「ではこの契約書に、サインをお願いしますね」


 計算ずくの闘争だろう。驚いた事にあれほど大暴れしたのに、事務机は無傷だ。茶器すら破損する事なく健在だ。


 中身はアレだが…


 老婆は放り投げた契約書に自身のサインすると、私の前に様に書類を差し出してきた、内容におかしな所はない。


「そう言えばアル、なんでお前いるの?」


 老婆はサインを目で確認しながら言った。


「なんでって?………なんで俺殺されかけたあげくヘドなんぞ片付けなきゃならなねんだ?」


「さあ?馬鹿だからじゃね」
「きっと馬鹿だからだ」
 即答だった。


「オウオウ息がぴったりだねぇ、仲のよろしい親子だこと」


 そう言うと、アルは胸ポケットから、ヘドと鼻血が染み付いた紙を取り出した。


「配送先の受領書だ、さっさと金払え、俺は帰る。頼んます、本当」


 強気なんだか、弱気なんだか。

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