ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~

青空顎門

AR47 英雄の燔祭なき世界のために

「いつの間に、という話ならあの後すぐのことさ。皆、君の話を聞いて色々と思うところがあったんだろう。当たり前のことじゃないか。何故なら――」

***

 多くの人々は真実を知る術がない。
 だから、数日前の大事件が収束したことを以って、今回の救世は成し遂げられたと判断しても何ら不思議なことじゃないと思う。
 けれど、あの場にいた当事者の一人である僕は救世の真実と、世界の変革がなされた事実を知っていて、そのことでモヤモヤした気持ちを抱いていた。
 破滅欲求を逆流させた影響を見極めようと念のために行われた臨時休校が終わった今も、その感覚の正体は今一分からない。

「どう思う? ダン、トバル」

 その辺り、近い体験をして似た思いをしているだろう二人に尋ねる。
 場所はアマラさんの屋敷一階の最も広い客間。
 家主である彼女は首都モトハに行っているとかで不在だけど、トバルは変わらずここに通っていたのでダンと一緒に訪問したのだ。
 ヘスさんは一時的に仕事が保留になり、地下室の整理整頓をしているらしい。

「どう思うって言われてもね」
「まず、そのモヤモヤがどういうものなのか、ハッキリさせないと」
「まあ、そうなんだけどさ」

 多分、二人もまた同じように、この微妙な焦燥感というか、悔しさのような感覚がどうして湧き起こってきているのか理解できていないのだろう。
 今回はちゃんと兄さんの役に立つことができたと思うし、今までのような無力感ではないことは確かだと思うのだけど。
 そうやって三人で首を傾げながら悩んでいると――。

「あれ? 誰か来た?」

 青銅製の人形、祈望之器ディザイア―ドターロスの複製改良品が起動して屋敷の入口に向かう音が、常時使用している身体強化で鋭敏になった聴覚に届いた。
 しばらしくして複数の足音がこちらに近づいてくる。五人ぐらいだろうか。

「やはりここにおったか、セト」

 そして真っ先に部屋に入ってきた人物に、僕は驚いて目を見開いた。
 耳に届いたのは懐かしい呼びかけ。
 視界の中には、優しい笑みと共に僕を見詰めるお母さんの姿。
 ヨスキ村の掟のこともあって、頭が混乱して反応できない。
 鎮守の樹海で顔は見ていたし、イサク兄さんとの会話も聞こえてはいた。
 けれど、こうして実際に声をかけられたのは村を出発する時以来のことだ。

「ど、どうしてここに?」
「イサクから、よくここでトバルと一緒に勉強していると聞いていたからな」

 呆然としながら問いかけた僕に、お父さんが答える。
 つまり僕達に会いに来たということらしい。けど――。

「む、村の掟はいいの?」
「構わん。もはや掟なぞに縛られておるような状況でもあるまい」

 お母さんは全く大したことではないかのように言いながら近づいてきて、自然な動作で抱き締めてきた。無意識に僕の体も動いて抱き着いてしまう。
 ダンやトバル、何よりイサク兄さんがいてくれたから学園都市トコハに来ても寂しくはなかったけど、本当はずっと二人に会って話をしたかった。
 鎮守の樹海では掟のこともあって我慢していたけれども。

「元気にしておったか? セト」
「う、うん」

 久し振りの温かさとお母さんの匂いが懐かしくて涙が出そうになる。けれど、両親の他にも同行者がいることを思い出して、僕はグッと堪えて体を離した。
 そして改めて、残る三人を見る。
 そこにいたのはラクラちゃんと……行方不明になっていたアロン兄さん、それからレンリさんだった。分かるような、分からないような組み合わせだ。

「ラクラちゃん、こんなところにいていいの?」
「お休みを貰ったんだ。しばらく治療治療で忙しかったからね」
「妾達が護衛を請け負ってな。ちなみにスールとパロンは妾の影の中におるぞ」

 あの二人が……。経緯には紆余曲折ありそうだけど、まあ、お母さんが色々と強引なことをしたに違いない。とりあえず彼女については納得する。

「レンリさんはどうして? イサク兄さんは?」
「旦那様は首都モトハに行っています。私もついていくつもりだったのですが、御義母様に呼ばれましたので」

 苦渋の決断というような感じが表情から読み取れる。
 レンリさんのことだから大した用件じゃなければイサク兄さんを優先しただろうから、多分割と大事な話をしようとしているのかもしれない。
 少し背筋を伸ばす。

「それで、今日はどうしたの?」
「うむ。セトの顔を見に来たのもあるが、少しトバルに頼みがあってな」
「え? 俺に?」

 家族の話だろうと思っていたのか、トバルが驚きの声を上げつつ自分を指差す。

「そうじゃ。ある祈望之器を複製して欲しいのじゃ」
「今は暇だから大丈夫ですけど……」

 トバルは言いながら「一体どんな祈望之器を?」と問うように首を傾げた。

「お前達もイサクの選択は聞いておるじゃろう?」

 言外の問いは伝わっているだろうに、逆に少しずれた問いかけをしてくるお母さんに内心疑問を抱きながらも一先ず頷く。

「死と引き換えの救世。それを覆す約束をイサクは果たしてくれた。しかし――」
「どうにも、妾達には結局イサクが犠牲になっているように思えてならんのじゃ」
「永遠に、一つの役割を負い続けなければならない訳だからな」

 両親に続いてアロン兄さんが補足するように言う。
 足下の影からマニさんが顔を上半分だけ出しているのは気にしないでおこう。

「……それは結局のところ、使命の奴隷のようなものだ」

 そういう風に聞くと、そうかもしれないと思う。
 大きな重責を負わされ続ける様は、ある意味生贄に捧げられているかのようだ。
 きっと、イサク兄さんはそんなことはないと笑って否定するだろうけれど。

「イサクはそんなことを望んではおらんのかもしれん。じゃが、妾はイサクの重荷を少しでも共に背負ってやりたいのじゃ。母としてな」
「……ああ――」

 そんなお母さんの言葉を聞いて、何となく僕達が抱いていたモヤモヤの正体が分かったような気がした。
 僕達はまだ幼いから実感というか想像ができていなかったけれど、遠い未来、僕達が死んでしまった後もイサク兄さんは世界のためにあり続ける。
 その時に助けになることができないのは、寂しい。

「まあ、私は旦那様と永遠に共にあるつもりですが」

 と、レンリさんがポツリと告げる。
 そう言えば、彼女が持つ第六位階の祈望之器アガートラムは身体強化と強力な治癒効果を持ち、結果として所持者を完全な不老とすると聞く。
 確かにレンリさんはイサク兄さんの傍にずっといることができるだろう。

「そう。それじゃ。レンリばかりずるいではないか。妾とて愛する息子の行く末を見守り、苦難があれば手助けをしたい。それはどれ程の時を経ようとも変わらぬ」

 不満げな顔で言うお母さんに、隣にいるお父さんが苦笑する。
 とんでもない我が儘もいいところだけれど、正直気持ちは分かる。
 この世界から自分がいなくなった後でイサク兄さんが困難に直面して苦しむ状況を想像すると、悔しくてたまらない。
 僕だってイサク兄さんと同じ荷物を背負いたい。弟として。

「じゃからな。トバルよ。お前とヘスが力を合わせれば、祈望之器の完全複製が叶うのじゃろう? レンリのアガートラムを……まあ、さすがに四肢を切り落とす訳にはいかんから形は変えねばならんじゃろうが、複製して欲しいのじゃ」

 その言葉にハッとしてレンリさんを見る。
 彼女は困ったような、呆れたような表情で深く嘆息した。

「一応、これ。アクエリアル帝国の国宝なのですが」
「そこを押して何とか頼む」
「まあ、ここにいる皆さんや、事情を知る一部の人達にということであれば吝かではありませんし、旦那様にも万が一の備えとして後々お渡ししようとは思っていましたが……所詮は祈望之器です。余り妄信されても困りますよ?」

 常に身に着けていなければ効果がない点について言っているのだろう。
 加えて、別に不死になる訳でもない。
 それはイサク兄さんの不老も同じではあるけれども……。
 たとえ優れた治癒能力を持ち合わせていても、当人の身体強化の強度が低くて諸共に砕かれでもしたら、普通に命を失うだけだ。
 何より、恒久的な維持にはトバルとヘスさんありきの部分もある。
 だからこそイサク兄さんは考えもしていない方法に違いない。
 けれど、僕は少し気持ちが昂っていた。
 可能性も選択肢も、一つではないのだと気づいて。
 もしかしたら、この方法でなくとも、ずっとイサク兄さんの手助けをすることができる手段が世界のどこかには隠されているかもしれない。
 イサク兄さんを使命から完全に開放することができる何かもあるかもしれない。
 冒険家を目指す身として、そういったものを探してみたい。

「まあ、ともあれ。一先ず、お前達にもそういった道があるということを伝えておくだけ伝えておこうと思ったのじゃ」
「しかし、他言は無用だぞ? 完全複製技術も含め、世を乱す火種となりかねないものでもあるのだからな」

 お母さんとお父さんの言葉に、僕達は緊張感を抱きながら頷く。
 もはや世界は今までとは違う。
 小さな何かが世界を滅亡へと傾ける切っかけになるかもしれない。
 けれど、だからこそ。
 僕達はイサク兄さんのために、そして僕達が生きるこの世界の人々のために。
 できる限りのことをしていかなければならない。
 僕はそう、強く強く思った。

***

「彼らもまた一個の人格。そして心はままならないもの。君自身が納得し、世界に対する恩返しだと思ってくれていても。それを周りの者達がそのまま受け入れるとは限らない。繋がりが強ければ強い程に。それだけの積み重ねを、君はこの世界で築いてきたのだから」

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