ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~
333 【ガラテア】の哄笑
己が認識する視点が元に戻り、再び抽象的な世界が視界に映し出される。
当然のことだが、リクル達の苦境を見ていることしかできなかった。
手を差し伸べてやることすらできない歯痒さに打ちのめされた。
そこまでは、確かにアコさんの思惑通りだったと言えなくもないだろう。
しかし、彼女達の状況を目の当たりにした俺は、どうにかして全てを覆さなければという思いの方が強くなっていた。
幸いにして、氷漬けになりながらも俺はこの夢の世界の深層領域で意識をハッキリと保つことができている。
獏の少女化魔物たるリーメアの複合発露〈吉夢思侭〉によって。
そして、それを指示したアコさん。
意図したものであろうとなかろうと、この二人のおかげで猶予はまだある。
勿論、蜘蛛の糸の如きか細いものでしかないのは事実。
それでも最後まで足掻くことだけが、今も尚、俺を助けることを諦めずにいるリクル達に報いる唯一の方法だ。
彼女達が詰んでいるのなら、盤外にいる俺が何とかしなければならない。
「アコさん。今、俺の体はどこに?」
とにかく情報を少しでも得るために、対立する形となった相手へと尋ねる。
対して彼女は固く口を閉ざし、対話をしようという素振りすら見せなかった。
首都モトハのヒメ様の御所……と考えるのは、さすがに安易か。
俺達の知らない隔離場所があっても何ら不思議ではない。
どうにかアコさんの口を開かせ、手がかりを探らなければ。
そんな風に考えていると――。
「イサク……」
横からテアが不安そうに俺の名を呼び、縋るように体を寄せてきた。
その表情には絶望の色が見え隠れしている。
姉妹と慕う者達の現状を、俺と同じように見せつけられた彼女。
それによって危機的な状況にある自覚が進んだのだろう。
精神の幼い彼女には酷としか言いようがない。
だから俺はまず、そんなテアの気持ちを僅かでも和らげるために、その小さな肩に手を置いて少し強めに抱き寄せた。
すると、その様子を見ていた【ガラテア】が「ふん」と鼻を鳴らす。
「我が体に宿っていた割には軟弱だな。甘やかし過ぎなのではないか?」
「状況が状況だ。仕方がないだろう」
俺と出会って数ヶ月。その間にようやくここまで人格を育んできた。
にもかかわらず、そこへ突如として訪れた終焉。
自分の足で歩き出した途端、断崖に出くわしたようなものだ。
恐怖の一つや二つ抱いても何らおかしくはない。
まだまだ恐怖そのものへの耐性も乏しいはずだし、自分で処理するように強いるのは酷というものだ。
「お前は破滅を望んでいるから、何も感じてないのかもしれないけどな」
「それは違うぞ、イサク。私が望んでいたのは全ての破滅だ。このような局所的で地味な最期ではない。そして……私はここで終わるつもりはない」
どこか挑発的な【ガラテア】の言葉。
それを耳にし、沈黙を貫こうとしていた雰囲気のアコさんが不審そうに眉をひそめて口を開く。
「……どういう意味だい?」
「どういう意味? …………ふ、ふふふ、ふはははははははっ!!」
若干苛立ったような彼女の問いかけを受け、【ガラテア】は堪え切れないとばかりに顔をおぞましく歪ませて哄笑した。
「な、何がおかしい」
「他ならぬ貴様が、何がおかしいのか気づけぬ滑稽さが」
更に【ガラテア】は、一層嘲笑うような表情を浮かべながら返す。
対してアコさんは憎らしげに睨みつけるが……。
その顔を見るに、【ガラテア】の真意を理解することはできずにいるようだ。
しかし…………そうだ。それは明らかにおかしい。
彼女ならば、自身の複合発露〈命歌残響〉によって【ガラテア】の意図ぐらい容易く知ることができるはずだ。
実際、彼女に見せられたこれまでの出来事の中には【ガラテア】の視点も含まれていた。人形化魔物だからできないという訳ではない。
それはつまり――。
「イサク。聞かせろ」
その意味するところに俺が気づきかけたのを見計らったかのように、【ガラテア】は笑みを消して真剣な表情と共に振り返って続ける。
「君はどうやって運命を覆そうとしていた? どうも、そこの少女化魔物は意図的にその部分を隠そうとしていたようだが」
「……それは――」
「やめろ、イサク! ことここに至っては、もうそんなことに意味はない! 君の救世は、もう終わってしまったんだ!」
「黙れ。それを決めるのは貴様ではない」
必死の形相で俺をとめようとするアコさんに【ガラテア】が冷淡に告げる。
すると、アコさんは何故か己の手で自らの口を塞ぎ、声を出せなくなった。
どうやら【ガラテア】がドールの人形化魔物としての力を行使したようだ。
「さあ、イサク」
「……ああ――」
アコさんの言い分は理解できなくもないが、別に隠し立てするものでもない。
たとえ相手が【ガラテア】であっても。
だから俺は、いつかレンリとイリュファに告げた内容をそのまま繰り返した。
「――以上だ」
そうして俺が話し終えるまで。
【ガラテア】は腕を組んで目を瞑りながら、その全てに静かに耳を傾けていた。
それから彼女は、しばらく吟味するように沈黙する。
代わりに、手の自由を取り戻したらしいアコさんが焦燥と共に口を開いた。
「イサク。それは駄目だ。この社会が、これまで積み重ねてきたものが、何もかも壊れてしまう。イリュファが躊躇った理由は、君も理解しているはずだ!」
既に自身の力で内容を知っていたアコさんは、改めて俺を諫めるように言う。
国の中枢にあり、特に犯罪者の収容施設を管理している立場からすると、そういう保守的な反応になってしまうのも理解できなくはない。
だが、現行の救世も破綻しかけている以上、俺はそれ以外ないと思う。
立場の違いもあって摺り合わせは不可能。互いに平行線だ。
「ふ、ふふふ」
そんな中で夢の世界に再び【ガラテア】の笑い声が響き始める。
「ふはははははははっ!」
そこに滲む感情の色は、先程のような嘲りではないようだった。
ただただ純粋に、面白おかしくて笑っているかのような……。
「そんなに荒唐無稽か?」
「いや、そうではない。実に興味深い未来が訪れそうな話だったから、ついつい楽しくなってしまっただけだ」
これまであった不満や反感が消え失せたような、それどころか長年の友と相対しているかのような気安さのある笑顔と共に【ガラテア】は告げる。
それから彼女は、策謀家のような邪悪な笑みを浮かべながらアコさんを見る。
「所詮、貴様らも運命の奴隷でしかない。つまらない連中だ。しかし、そんな中で貴様は実にいい仕事をした。そこの少女化魔物もな」
そして告げられた言葉に、アコさんは焦燥感を滲ませた表情を見せる。
言っている意味は分からないが、何かよくないことが起こりそうな予感がある。
そんな雰囲気だ。
隣のリーメアまで巻き添えで怯えているのは、さすがに可哀想だが……。
「私達の勝ちだ」
【ガラテア】は意に介さず、俺の肩に手を置いてそう堂々と宣言した。
「イサク。私はお前の救世を全面的に支持する。思う存分にやれ。……そうだ。私達の力で、長く積み重ねられてきた既成概念を尽く破壊してやろうではないか」
その言い様に、アコさんは余裕のない様子で目を剥いて口を開く。
「妄言をっ!! 今更お前に何ができると言うんだっ!!」
「ふっ。ならば、共に見届けようじゃないか。この先の展開を。もはや万象は我らの手の中にある」
「…………ああ。いいさ。だったら、最期の瞬間まで見せてやろうじゃないか。悪くなるばかりの状況は変わらない。後悔しても、遅いからね」
挑発に応じるように言いながら、アコさんはこちらを見る。
俺はどうするのか問うているのだろう。
怒りに染まって尚、俺への配慮は忘れない彼女。
そんな少女であるだけに、俺は彼女をも苦しめる運命を覆したい。
そうした考えと共に頷くと、アコさんは相手を思っての言葉を理解されない苛立ちと悲しみを混ぜ合わせたように顔を歪め……。
そのまま瞑目すると、再び〈命歌残響〉を使用したのだった。
当然のことだが、リクル達の苦境を見ていることしかできなかった。
手を差し伸べてやることすらできない歯痒さに打ちのめされた。
そこまでは、確かにアコさんの思惑通りだったと言えなくもないだろう。
しかし、彼女達の状況を目の当たりにした俺は、どうにかして全てを覆さなければという思いの方が強くなっていた。
幸いにして、氷漬けになりながらも俺はこの夢の世界の深層領域で意識をハッキリと保つことができている。
獏の少女化魔物たるリーメアの複合発露〈吉夢思侭〉によって。
そして、それを指示したアコさん。
意図したものであろうとなかろうと、この二人のおかげで猶予はまだある。
勿論、蜘蛛の糸の如きか細いものでしかないのは事実。
それでも最後まで足掻くことだけが、今も尚、俺を助けることを諦めずにいるリクル達に報いる唯一の方法だ。
彼女達が詰んでいるのなら、盤外にいる俺が何とかしなければならない。
「アコさん。今、俺の体はどこに?」
とにかく情報を少しでも得るために、対立する形となった相手へと尋ねる。
対して彼女は固く口を閉ざし、対話をしようという素振りすら見せなかった。
首都モトハのヒメ様の御所……と考えるのは、さすがに安易か。
俺達の知らない隔離場所があっても何ら不思議ではない。
どうにかアコさんの口を開かせ、手がかりを探らなければ。
そんな風に考えていると――。
「イサク……」
横からテアが不安そうに俺の名を呼び、縋るように体を寄せてきた。
その表情には絶望の色が見え隠れしている。
姉妹と慕う者達の現状を、俺と同じように見せつけられた彼女。
それによって危機的な状況にある自覚が進んだのだろう。
精神の幼い彼女には酷としか言いようがない。
だから俺はまず、そんなテアの気持ちを僅かでも和らげるために、その小さな肩に手を置いて少し強めに抱き寄せた。
すると、その様子を見ていた【ガラテア】が「ふん」と鼻を鳴らす。
「我が体に宿っていた割には軟弱だな。甘やかし過ぎなのではないか?」
「状況が状況だ。仕方がないだろう」
俺と出会って数ヶ月。その間にようやくここまで人格を育んできた。
にもかかわらず、そこへ突如として訪れた終焉。
自分の足で歩き出した途端、断崖に出くわしたようなものだ。
恐怖の一つや二つ抱いても何らおかしくはない。
まだまだ恐怖そのものへの耐性も乏しいはずだし、自分で処理するように強いるのは酷というものだ。
「お前は破滅を望んでいるから、何も感じてないのかもしれないけどな」
「それは違うぞ、イサク。私が望んでいたのは全ての破滅だ。このような局所的で地味な最期ではない。そして……私はここで終わるつもりはない」
どこか挑発的な【ガラテア】の言葉。
それを耳にし、沈黙を貫こうとしていた雰囲気のアコさんが不審そうに眉をひそめて口を開く。
「……どういう意味だい?」
「どういう意味? …………ふ、ふふふ、ふはははははははっ!!」
若干苛立ったような彼女の問いかけを受け、【ガラテア】は堪え切れないとばかりに顔をおぞましく歪ませて哄笑した。
「な、何がおかしい」
「他ならぬ貴様が、何がおかしいのか気づけぬ滑稽さが」
更に【ガラテア】は、一層嘲笑うような表情を浮かべながら返す。
対してアコさんは憎らしげに睨みつけるが……。
その顔を見るに、【ガラテア】の真意を理解することはできずにいるようだ。
しかし…………そうだ。それは明らかにおかしい。
彼女ならば、自身の複合発露〈命歌残響〉によって【ガラテア】の意図ぐらい容易く知ることができるはずだ。
実際、彼女に見せられたこれまでの出来事の中には【ガラテア】の視点も含まれていた。人形化魔物だからできないという訳ではない。
それはつまり――。
「イサク。聞かせろ」
その意味するところに俺が気づきかけたのを見計らったかのように、【ガラテア】は笑みを消して真剣な表情と共に振り返って続ける。
「君はどうやって運命を覆そうとしていた? どうも、そこの少女化魔物は意図的にその部分を隠そうとしていたようだが」
「……それは――」
「やめろ、イサク! ことここに至っては、もうそんなことに意味はない! 君の救世は、もう終わってしまったんだ!」
「黙れ。それを決めるのは貴様ではない」
必死の形相で俺をとめようとするアコさんに【ガラテア】が冷淡に告げる。
すると、アコさんは何故か己の手で自らの口を塞ぎ、声を出せなくなった。
どうやら【ガラテア】がドールの人形化魔物としての力を行使したようだ。
「さあ、イサク」
「……ああ――」
アコさんの言い分は理解できなくもないが、別に隠し立てするものでもない。
たとえ相手が【ガラテア】であっても。
だから俺は、いつかレンリとイリュファに告げた内容をそのまま繰り返した。
「――以上だ」
そうして俺が話し終えるまで。
【ガラテア】は腕を組んで目を瞑りながら、その全てに静かに耳を傾けていた。
それから彼女は、しばらく吟味するように沈黙する。
代わりに、手の自由を取り戻したらしいアコさんが焦燥と共に口を開いた。
「イサク。それは駄目だ。この社会が、これまで積み重ねてきたものが、何もかも壊れてしまう。イリュファが躊躇った理由は、君も理解しているはずだ!」
既に自身の力で内容を知っていたアコさんは、改めて俺を諫めるように言う。
国の中枢にあり、特に犯罪者の収容施設を管理している立場からすると、そういう保守的な反応になってしまうのも理解できなくはない。
だが、現行の救世も破綻しかけている以上、俺はそれ以外ないと思う。
立場の違いもあって摺り合わせは不可能。互いに平行線だ。
「ふ、ふふふ」
そんな中で夢の世界に再び【ガラテア】の笑い声が響き始める。
「ふはははははははっ!」
そこに滲む感情の色は、先程のような嘲りではないようだった。
ただただ純粋に、面白おかしくて笑っているかのような……。
「そんなに荒唐無稽か?」
「いや、そうではない。実に興味深い未来が訪れそうな話だったから、ついつい楽しくなってしまっただけだ」
これまであった不満や反感が消え失せたような、それどころか長年の友と相対しているかのような気安さのある笑顔と共に【ガラテア】は告げる。
それから彼女は、策謀家のような邪悪な笑みを浮かべながらアコさんを見る。
「所詮、貴様らも運命の奴隷でしかない。つまらない連中だ。しかし、そんな中で貴様は実にいい仕事をした。そこの少女化魔物もな」
そして告げられた言葉に、アコさんは焦燥感を滲ませた表情を見せる。
言っている意味は分からないが、何かよくないことが起こりそうな予感がある。
そんな雰囲気だ。
隣のリーメアまで巻き添えで怯えているのは、さすがに可哀想だが……。
「私達の勝ちだ」
【ガラテア】は意に介さず、俺の肩に手を置いてそう堂々と宣言した。
「イサク。私はお前の救世を全面的に支持する。思う存分にやれ。……そうだ。私達の力で、長く積み重ねられてきた既成概念を尽く破壊してやろうではないか」
その言い様に、アコさんは余裕のない様子で目を剥いて口を開く。
「妄言をっ!! 今更お前に何ができると言うんだっ!!」
「ふっ。ならば、共に見届けようじゃないか。この先の展開を。もはや万象は我らの手の中にある」
「…………ああ。いいさ。だったら、最期の瞬間まで見せてやろうじゃないか。悪くなるばかりの状況は変わらない。後悔しても、遅いからね」
挑発に応じるように言いながら、アコさんはこちらを見る。
俺はどうするのか問うているのだろう。
怒りに染まって尚、俺への配慮は忘れない彼女。
そんな少女であるだけに、俺は彼女をも苦しめる運命を覆したい。
そうした考えと共に頷くと、アコさんは相手を思っての言葉を理解されない苛立ちと悲しみを混ぜ合わせたように顔を歪め……。
そのまま瞑目すると、再び〈命歌残響〉を使用したのだった。
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