ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~

青空顎門

第6章 終末を告げる音と最後のピース 265 進む終末時計

 暴走したバク少女化魔物ロリータリーメアによって引き起こされた通称眠り病事件。
 その解決から十数日経ったある日の早朝のこと。
 一通り身嗜みを整えた後で、一息ついて新聞の朝刊を読んでいると――。

「申し訳ありません、旦那様。少しおいとまを頂きたく存じます」

 レンリが突然職員寮の部屋にやってきて、そう何やら深刻そうに言って頭を下げてきた。

「ええと…………三行半って奴か?」
「ち、違います違いますっ!! 私は旦那様を愛していますから、そのようなことは絶対にあり得ません!!」

 俺の問いかけに対し、レンリはそう必死な様相で否定しながらグイっと顔を近づけてくる。互いに吐息を感じ取れるような距離だ。

「ご、ごめんごめん、冗談だよ」

 真ん前にある美少女な彼女の顔は怖いぐらいに真剣で、俺は慌てて謝った。
 話の切り出し方が緊急の要件という感じではなかったため、ついつい茶化すような真似をしてしまった。反省する。
 そんな俺にレンリは安堵したようにホッと息を吐き、それから元々座っていた位置まで戻ってから改めて口を開いた。

「実はですね――」
「分かってる。これ、だろ?」

 暇乞いの理由を話そうとしたのだろう彼女に、丁度今正に読んでいた新聞紙を軽く持ち上げて一面を示す。
 そこにはアクエリアル帝国とフレギウス王国の国境で小競り合いが発生し、そのまま大規模な戦闘状態へと拡大してしまった旨が書かれている。
 アクエリアル帝国皇帝の娘にして現在皇帝の証たる国宝、第六位階の祈望之器ディザイア―ドアガートラムを有する彼女には、決して無関係ではいられない話だろう。

「はい、その通りです……けど、酷いです。分かっていて三行半だなんて」

 頷いて肯定し、かと思えば深く傷ついたような顔をするレンリ。
 実年齢は二十歳ながら、成長をとめる効果をも持つオリジナルのアガートラムによって二次性徴前後の少女の姿である彼女にそんな表情をされると胸が痛い。

「う……わ、悪かった」
「ふふ、冗談です」

 一転してレンリは楽しそうな笑みを見せた。泣き真似だったらしい。
 しかし、こちらは反応に困る。
 一応は故郷の国が戦争に突入しつつある、と言うか、戦争状態に入ったと言っても過言ではない状況にあるはずなのだが、彼女に悲壮感のようなものは皆無だ。
 不謹慎の線引きが分からなくて困る。
 最初に感じた深刻さにしても、どちらかと言うとホウゲツを、もとい俺の傍を離れることに対してという感じが強かった。
 つい茶化してしまったのも、新聞から得ていた前情報と彼女の雰囲気との差異のせいという部分もなくはない。
 そんなような思考が表情に出ていたのか、レンリは更に悪戯っぽく笑う。

「私にとって何より大事なのは御祖母様より受け継いだ目的だけですから。そもそも百年周期の、人形化魔物ピグマリオンによって仕組まれた戦争ですし。正直なところ、喜劇的な悲劇のような感覚すらあります」

 そう口にした彼女の声色には、仕組まれたという部分を差し引いても戦争への忌避感のようなものが然程感じられない。
 その辺りは恐らく、強さを第一とするアクエリアル帝国の思想的な部分によるところが大きいだろう。
 そもそも元の世界、日本とは感覚が大きく違うのだ。

「けど、仕組まれたと分かっていて、何で戦争を繰り返しているんだ? 何とか回避しようって努力はしないのか?」

 是非を論じても仕方がないので、根本的な疑問だけを問う。
 いくら歴史的に対立しているという事実が共通認識として二つの国にこびりついているにしても、もう少し何とかならないものかと思うのだが。

「互いが互いを敵視している土壌も一因でしょうが、人形化魔物【終末を告げる音】の滅尽ネガ複合発露エクスコンプレックスの力がそれだけ強く広範に及んでいるということでしょう」
「滅尽・複合発露、か」
「はい。さすがにそうでなくては毎度毎度馬鹿みたいですからね。それは互いの上層部も理解しているはずです。一種の天災と考えた方がいいかもしれませんね」

 両国共、戦争への忌避感はなくとも戦闘狂という訳ではないようだ。
 デメリットが多過ぎれば回避する、程度の判断をする頭は持っているのだろう。

「利権絡みやガス抜き目的で軽い戦闘をするならともかく、百年毎に国家単位で殲滅戦を強制される訳ですから本当に性質たちが悪いことです」

 レンリはそう続けると一つ大きく溜息をついた。
 喇叭ラッパの人形化魔物【終末を告げる音】か。

「レンリも、戦争に加わるのか?」
「基本的には父が指揮を執りますが、最悪の状況にまで転がり落ちる前に【終末を告げる音】を探し出して討ち滅ぼさなければなりません。私の役目はそこです」

 その返答に少しだけ安堵するが、彼女は「ただ」と前置いて更に続けた。

「罷り間違ってフレギウス王国の国王が戦場に出てきたりしたら、私が対処しなければならなくなるかもしれません。互いの最高戦力として」
「レンリはともかく、フレギウス王国の最高戦力は国王なのか?」
「はい。どのような方法によってかは知りませんが、かの国の王は歴史上尽く、傷によって命を落とすことなく必ず灰の中から甦る特殊な力を持っています」
「複合発露か?」
「あるいは、祈望之器か」

 いずれにしても、意外と厄介な相手のようだ。
 フレギウス王国にそれ程の存在がいるとは正直思っていなかった。
 国が滅びずに五百年存続しているのは伊達ではないというところか。

「そうは言っても戦争は個人の力で決まるものではありません。戦場で相まみえることなどないでしょう。互いに無敵という訳ではありませんからね」

 まあ、死なないというだけなら、ガチガチに拘束すれば無力化することも不可能ではないだろうしな。
 最高司令官を前線に出してくることはないか。

「ともあれ、そういう訳で少しアクエリアル帝国に戻らなければならなくなりました。セトさん達の護衛に関してはラハを残しておきますので」
「それは、大丈夫なのか?」

 いくら戦争に加わらないとは言っても、その元凶たる人形化魔物【終末を告げる音】を探すというのならば危険がない訳ではないだろう。
 そうした意味を込めて問いかける。

「旦那様以外が相手なら逃げることぐらい簡単にできます。それに、どちらかと言うと、不意にセトさん達が命に関わる状況に陥ることの方が危険ですから」

 対するレンリの答えに納得する。
 指切りの契約を破ることによる罰。
 確かにレンリの場合、下手な敵と戦って命を落とすことよりも、そちらの方が余程確率が高いかもしれない。
 ついこの間、セトが知らぬ間にリーメア暴走した少女化魔物の複合発露の影響を諸に受けてしまっていたことを考えると、ラハさんがいてくれるのは助かる。
 もっとも、あそこまで無差別的、突発的な事態には彼女が傍で見守っていてくれたとしても対処は難しいだろうけれども。
 少しでもリスクを減らすのは大切なことだ。

「……もう、すぐに行くのか?」
「はい。そうなります」

 そう言ってレンリは一瞬視線を外に向ける。
 が、彼女は立ち上がることなくテーブルの脇に座ったままで、何やら思案しているような、躊躇っているような表情を浮かべた。

「どうした?」
「はい。えっと、その……リクルさんのことなんですが……」
「私、ですか?」

 朝食の後片づけを終えてテアと一緒に花札で遊んでいたリクルが、名を呼ばれて驚いたような顔をしながら首を傾げる。
 そんな彼女を前に、レンリは何とも言いにくそうに逡巡しながら口を開いた。

「…………いえ。その、アクエリアル帝国の資料にリクルさんのような症状について詳しく書いてあったことを思い出しましたので、ついでに調べて参ります。それだけお伝えしておこうかと」

 そこまで告げたレンリは、何故か気まずそうに視線を逸らす。
 リクルが俺と真性少女契約ロリータコントラクトを結ぶことができない件に関する話のようだが……。

「ほ、本当ですか!? ありがとうございますです!」

 嬉しそうに感謝するリクルを前に一瞬だけ痛ましそうに表情を歪めたレンリが気になり、疑問を口にしようとする。
 だが、それより早くレンリは口を開き――。

「では、失礼します。旦那様、皆さん」

 素早い動きで立ち上がると、逃げるように職員寮の部屋を出て行ってしまった。

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