ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~
259 楽園
「ここが、夢の世界か」
気づくと俺は、ホウゲツ学園の地下空間とは全く異なる世界の只中にいた。
記憶も感覚もハッキリしている。完全な明晰夢だ。
見た感じ、学園都市トコハの繁華街の中にいるようだが、ところどころに前世のような高層ビルが混じっている。
歩く人々の姿も、半々ぐらいで今世と前世の人間が入り混じっている感がある。
あるいは、生まれて間もない頃なら完全に前世の世界が再現されていたかもしれないが……この世界で生きてきた二十年弱の時間の影響により、このような無意識の世界が作り上げられたのだろう。
ヨスキ村要素が薄いのは、まだまだ前世の感覚が残っている証左か。
それか、学園都市トコハに来てからの経験が濃過ぎるせいもあるかもしれない。
「イサク、もっと夢の深いところに向かえ。まずはそこでレンリと合流しろ」
立ち止まって夢の世界を観察していると、脳裏にライムさんの声が響く。
俺はそれに「分かりました」と応じて移動を始めた。
どこをどう行けば、深い、に相当するのかは今一不明瞭だが、とりあえず下に向かおうと近くにあった地下鉄の入口の階段を慎重に下りていく。
果たして、俺の意思である程度この領域は変化するらしく、階段を進んでいっても地下鉄の駅には至らず、ひたすら階段が続く。
「ちっ、レンリのところに獏の少女化魔物が現れた! 急げ!」
と、焦燥の滲んだ声が発せられ、俺は慎重さを捨てて即座に駆け出した。
ほとんど転がり落ちるように延々と続く階段を下へ下へと進んでいく。
地下鉄の入口にしては異常な程に長い長い階段を一気に駆け下りていく。
すると、やがてトンネルから抜けるように別の空間へと出た。
「何だ、ここ」
そこは何やら不可思議な、酷く抽象的な世界だった。
俺達が普段言語化しようとする前の、感覚的、無意識的な漠然としたイメージだけがそこら中に存在しているかのようだ。
元来た道を振り返ると、遠ければ遠い程に具体的な形を取っている。
「イサク、急げ! 苦戦している!」
思わず戸惑って立ち止まってしまったが、ライムさんの声にハッとして再び駆け出す。駆け出しているのだが、地に足はついておらず、感覚がおかしい。
一応、前に進んでいるのは間違いないが、気持ちが悪い。
いっそ飛んでいった方がよさそうだと、真・複合発露〈支天神鳥・煌翼〉に〈裂雲雷鳥・不羈〉を重ねて空間の中を翔けていくと――。
「レンリッ!」
「旦那様っ!」
ライムさんが誘導してくれたのか、即座に彼女の姿が視界に入ってきた。
その近くには……。
「あれが、獏の少女化魔物か」
巨大な獏のような幻影と、その中心で胎児のように眠る少女の姿があった。
複合発露を使用した状態のはずだが、体そのものに獏の特徴は出ていない。
夢をコントロールして身体が変化しないようにしているのかもしれない。
「あなたも、幸せな夢を見よう?」
レンリへと向いていた巨大獏が俺の方をゆっくりと向き、それと共に幼く無邪気な女の子の声がどこからともなく響く。
しかし、その半透明の巨大獏の中にいる少女は口を閉ざしたまま。
声は世界全体から聞こえてくるかのようだ。
振り向いた巨大獏は動きをとめていて隙だらけに見えるが、レンリは相手を攻撃することなく俺の傍に来ることを優先する。
一人では手に余ると判断してのことか、それとも……。
ともあれ、俺は補導員としての自身の流儀に則り、まず説得を試みる。
「夢での幸せなんて俺達には必要ない。正直、今現在、現実に大きな不満はないからな。それよりも俺の家族を、夢に閉じ込められた人達を返してくれないか」
「……ダメ、だよ。現実はね。もうすぐ壊れちゃうんだ。夢の世界でしか誰も幸せになれないんだよ。だから――」
世界から聞こえてくる声は苦渋に満ちていて、声が幼いだけに胸をかきむしられるような思いを抱く。しかし、次の瞬間。
「旦那様っ!」
レンリの叫びにハッとして、俺は咄嗟に身を躱した。
直前まで俺がいた場所を、巨大獏の表面から発生した触手のような靄が通り抜けていく。その軌道を見るに、どうやら俺を捕獲しようとしていたようだ。
「あなたも夢に身を委ねれば、心の底にある本当の望みを知ることができる。それを知れば、夢の世界のすばらしさを理解して、心の底から喜んでくれる」
彼女は更に悲痛な声色で言いながら、その触手を無数に増やして再びそれらを振るってきた。俺達を囲み、逃げ場をなくすような形で。
「ごめんな。そういう訳にはいかないんだ」
対して俺は真・複合発露〈万有凍結・封緘〉で生成した氷の剣を構え、迫る触手を切り払おうとした。
「旦那様っ! それでは駄目ですっ!」
と、攻撃がぶつかり合う直前に氷の刃が突如として溶け去り、代わりにレンリが作り出した水の鞭が間に入って触手を払う。
しかし、触手は破壊されることなく、一度縮んで巨大獏の表面で蠢いた。
「〈制海神龍・轟渦〉でほぼ互角でした。特異思念集積体の真・複合発露以外は通用しないと考えた方がいいと思います」
恐らく先に彼女の勧誘を拒否して戦闘に入っていたのだろうレンリは、その過程でそのように結論していたようだ。しかし――。
「まさか、あのように無効化されるとは思いませんでしたが……」
まるで夢幻のようにかき消されるとまでは予想していなかったようだ。
形としては、ライムさんが起こした事件の中で彼の精神干渉を受けていた時に攻撃が全く通用しなかった時のことを思い起こさせる。
あるいは、この無秩序な夢の世界では、獏の少女化魔物の暴走・複合発露の力を完全に上回らなければ彼女の思うがままにされてしまうのかもしれない。
母さん達が身体強化を解除されてしまったのも、そのせいだろう。
循環共鳴が使えない状態であることも考えると、中々に厳しい状況だ。
〈支天神鳥・煌翼〉で風の刃でも撃てば通用しなくもないだろうが……。
「それと、先程あの巨大な幻影を一点集中した水で切り裂いて何とか中の少女を引きずり出したのですが、直後に霞のように消え去り、再びアレが現れました」
レンリはそう続けると「本体ではないのでしょう」とつけ加えて締め括った。
となると、この世界のどこかにいるであろう核となる存在を探し出す必要がある訳か。いや、あるいは既に彼女はこの世界全体と化しているのかもしれない。
いずれにしても、空や海に属していないものの探知は難しい。
夢の世界の不条理さの化身の如き相手とでも言うべきだろう。
「……ここはね。楽園なんだよ」
と、獏の少女化魔物は俺達を強制的に夢に捕らえることは難しそうだと判断してか、説得しようとでも言うように再び語りかけてきた。
「他の人達の幸せそうな姿を見れば、あなた達も理解してくれるかな?」
「何を――」
「あなた達と近しい人達のところに行ってみよう?」
彼女がそう告げた瞬間、急激に背景が動き、一定の形が整った世界に出る。
現実なら目が回りそうな変化だが、精神体とも言える今の俺達に影響はない。
ただ、変化した景色には見覚えがあり、その中に――。
「父さん、母さん?」
二人の姿があった。
場所はヨスキ村。生まれ育った実家の台所。
そこにもう一人。どこか俺や父さんに似た人物がいる。
「あれが、アロン兄さん、か?」
恐らく行方不明になっている兄であろう彼と談笑する両親の姿。
アロンは間違いなく二人が作り出した夢幻だ。
何故なら、彼の姿は掟によってヨスキ村を出る前の姿。
俺達と同じ二次性徴前の背格好だったからだ。
存在感からして、父さんと母さんに関しては恐らく本物だろうが……。
「そっか。早く弟達に会ってみたいな」
「セトは掟があるからすぐには無理じゃがな。イサクにはいつでも会えるぞ」
「うん。楽しみだ」
そんな矛盾を孕んだ存在を前にしながらも、父さんと母さんは気づかぬまま。
その表情の中に憂いは欠片もない。
普段は俺達の前では心配させないように平静を装いながらも笑顔の中には常に僅かばかりの陰りが見て取れるが、今はそれからも解放されているかのようだ。
いつか俺が取り戻してあげたい表情だが……。
「あなた達も、いつでもあそこに加われるんだよ。みんな笑顔で、みんな幸せ。とても素晴らしいことだと思わない?」
慈悲を感じさせるような声色と共に告げる獏の少女化魔物。
だが、これを是とするのなら、たとえ対話することが可能なように見えても確かに暴走しているとしか言いようがない。
「こんなまやかしは、俺には必要ない」
「……うーん。場面が悪かったのかな。でも、もっとたくさんの笑顔を見れば、あなた達もきっと分かるはずだよ」
獏の少女化魔物は不思議そうに、百パーセントの善意と共に告げる。
「ほら、あの子達も」
その言葉を合図に再び切り替わる視界。
すると今度は、俺達の眼前にセトとラクラちゃんの姿が現れた。
気づくと俺は、ホウゲツ学園の地下空間とは全く異なる世界の只中にいた。
記憶も感覚もハッキリしている。完全な明晰夢だ。
見た感じ、学園都市トコハの繁華街の中にいるようだが、ところどころに前世のような高層ビルが混じっている。
歩く人々の姿も、半々ぐらいで今世と前世の人間が入り混じっている感がある。
あるいは、生まれて間もない頃なら完全に前世の世界が再現されていたかもしれないが……この世界で生きてきた二十年弱の時間の影響により、このような無意識の世界が作り上げられたのだろう。
ヨスキ村要素が薄いのは、まだまだ前世の感覚が残っている証左か。
それか、学園都市トコハに来てからの経験が濃過ぎるせいもあるかもしれない。
「イサク、もっと夢の深いところに向かえ。まずはそこでレンリと合流しろ」
立ち止まって夢の世界を観察していると、脳裏にライムさんの声が響く。
俺はそれに「分かりました」と応じて移動を始めた。
どこをどう行けば、深い、に相当するのかは今一不明瞭だが、とりあえず下に向かおうと近くにあった地下鉄の入口の階段を慎重に下りていく。
果たして、俺の意思である程度この領域は変化するらしく、階段を進んでいっても地下鉄の駅には至らず、ひたすら階段が続く。
「ちっ、レンリのところに獏の少女化魔物が現れた! 急げ!」
と、焦燥の滲んだ声が発せられ、俺は慎重さを捨てて即座に駆け出した。
ほとんど転がり落ちるように延々と続く階段を下へ下へと進んでいく。
地下鉄の入口にしては異常な程に長い長い階段を一気に駆け下りていく。
すると、やがてトンネルから抜けるように別の空間へと出た。
「何だ、ここ」
そこは何やら不可思議な、酷く抽象的な世界だった。
俺達が普段言語化しようとする前の、感覚的、無意識的な漠然としたイメージだけがそこら中に存在しているかのようだ。
元来た道を振り返ると、遠ければ遠い程に具体的な形を取っている。
「イサク、急げ! 苦戦している!」
思わず戸惑って立ち止まってしまったが、ライムさんの声にハッとして再び駆け出す。駆け出しているのだが、地に足はついておらず、感覚がおかしい。
一応、前に進んでいるのは間違いないが、気持ちが悪い。
いっそ飛んでいった方がよさそうだと、真・複合発露〈支天神鳥・煌翼〉に〈裂雲雷鳥・不羈〉を重ねて空間の中を翔けていくと――。
「レンリッ!」
「旦那様っ!」
ライムさんが誘導してくれたのか、即座に彼女の姿が視界に入ってきた。
その近くには……。
「あれが、獏の少女化魔物か」
巨大な獏のような幻影と、その中心で胎児のように眠る少女の姿があった。
複合発露を使用した状態のはずだが、体そのものに獏の特徴は出ていない。
夢をコントロールして身体が変化しないようにしているのかもしれない。
「あなたも、幸せな夢を見よう?」
レンリへと向いていた巨大獏が俺の方をゆっくりと向き、それと共に幼く無邪気な女の子の声がどこからともなく響く。
しかし、その半透明の巨大獏の中にいる少女は口を閉ざしたまま。
声は世界全体から聞こえてくるかのようだ。
振り向いた巨大獏は動きをとめていて隙だらけに見えるが、レンリは相手を攻撃することなく俺の傍に来ることを優先する。
一人では手に余ると判断してのことか、それとも……。
ともあれ、俺は補導員としての自身の流儀に則り、まず説得を試みる。
「夢での幸せなんて俺達には必要ない。正直、今現在、現実に大きな不満はないからな。それよりも俺の家族を、夢に閉じ込められた人達を返してくれないか」
「……ダメ、だよ。現実はね。もうすぐ壊れちゃうんだ。夢の世界でしか誰も幸せになれないんだよ。だから――」
世界から聞こえてくる声は苦渋に満ちていて、声が幼いだけに胸をかきむしられるような思いを抱く。しかし、次の瞬間。
「旦那様っ!」
レンリの叫びにハッとして、俺は咄嗟に身を躱した。
直前まで俺がいた場所を、巨大獏の表面から発生した触手のような靄が通り抜けていく。その軌道を見るに、どうやら俺を捕獲しようとしていたようだ。
「あなたも夢に身を委ねれば、心の底にある本当の望みを知ることができる。それを知れば、夢の世界のすばらしさを理解して、心の底から喜んでくれる」
彼女は更に悲痛な声色で言いながら、その触手を無数に増やして再びそれらを振るってきた。俺達を囲み、逃げ場をなくすような形で。
「ごめんな。そういう訳にはいかないんだ」
対して俺は真・複合発露〈万有凍結・封緘〉で生成した氷の剣を構え、迫る触手を切り払おうとした。
「旦那様っ! それでは駄目ですっ!」
と、攻撃がぶつかり合う直前に氷の刃が突如として溶け去り、代わりにレンリが作り出した水の鞭が間に入って触手を払う。
しかし、触手は破壊されることなく、一度縮んで巨大獏の表面で蠢いた。
「〈制海神龍・轟渦〉でほぼ互角でした。特異思念集積体の真・複合発露以外は通用しないと考えた方がいいと思います」
恐らく先に彼女の勧誘を拒否して戦闘に入っていたのだろうレンリは、その過程でそのように結論していたようだ。しかし――。
「まさか、あのように無効化されるとは思いませんでしたが……」
まるで夢幻のようにかき消されるとまでは予想していなかったようだ。
形としては、ライムさんが起こした事件の中で彼の精神干渉を受けていた時に攻撃が全く通用しなかった時のことを思い起こさせる。
あるいは、この無秩序な夢の世界では、獏の少女化魔物の暴走・複合発露の力を完全に上回らなければ彼女の思うがままにされてしまうのかもしれない。
母さん達が身体強化を解除されてしまったのも、そのせいだろう。
循環共鳴が使えない状態であることも考えると、中々に厳しい状況だ。
〈支天神鳥・煌翼〉で風の刃でも撃てば通用しなくもないだろうが……。
「それと、先程あの巨大な幻影を一点集中した水で切り裂いて何とか中の少女を引きずり出したのですが、直後に霞のように消え去り、再びアレが現れました」
レンリはそう続けると「本体ではないのでしょう」とつけ加えて締め括った。
となると、この世界のどこかにいるであろう核となる存在を探し出す必要がある訳か。いや、あるいは既に彼女はこの世界全体と化しているのかもしれない。
いずれにしても、空や海に属していないものの探知は難しい。
夢の世界の不条理さの化身の如き相手とでも言うべきだろう。
「……ここはね。楽園なんだよ」
と、獏の少女化魔物は俺達を強制的に夢に捕らえることは難しそうだと判断してか、説得しようとでも言うように再び語りかけてきた。
「他の人達の幸せそうな姿を見れば、あなた達も理解してくれるかな?」
「何を――」
「あなた達と近しい人達のところに行ってみよう?」
彼女がそう告げた瞬間、急激に背景が動き、一定の形が整った世界に出る。
現実なら目が回りそうな変化だが、精神体とも言える今の俺達に影響はない。
ただ、変化した景色には見覚えがあり、その中に――。
「父さん、母さん?」
二人の姿があった。
場所はヨスキ村。生まれ育った実家の台所。
そこにもう一人。どこか俺や父さんに似た人物がいる。
「あれが、アロン兄さん、か?」
恐らく行方不明になっている兄であろう彼と談笑する両親の姿。
アロンは間違いなく二人が作り出した夢幻だ。
何故なら、彼の姿は掟によってヨスキ村を出る前の姿。
俺達と同じ二次性徴前の背格好だったからだ。
存在感からして、父さんと母さんに関しては恐らく本物だろうが……。
「そっか。早く弟達に会ってみたいな」
「セトは掟があるからすぐには無理じゃがな。イサクにはいつでも会えるぞ」
「うん。楽しみだ」
そんな矛盾を孕んだ存在を前にしながらも、父さんと母さんは気づかぬまま。
その表情の中に憂いは欠片もない。
普段は俺達の前では心配させないように平静を装いながらも笑顔の中には常に僅かばかりの陰りが見て取れるが、今はそれからも解放されているかのようだ。
いつか俺が取り戻してあげたい表情だが……。
「あなた達も、いつでもあそこに加われるんだよ。みんな笑顔で、みんな幸せ。とても素晴らしいことだと思わない?」
慈悲を感じさせるような声色と共に告げる獏の少女化魔物。
だが、これを是とするのなら、たとえ対話することが可能なように見えても確かに暴走しているとしか言いようがない。
「こんなまやかしは、俺には必要ない」
「……うーん。場面が悪かったのかな。でも、もっとたくさんの笑顔を見れば、あなた達もきっと分かるはずだよ」
獏の少女化魔物は不思議そうに、百パーセントの善意と共に告げる。
「ほら、あの子達も」
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