ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~

青空顎門

257 眠り病の解決策とホウゲツ上層部(一部)の考え

「そんな、ラクラちゃんまで……」

 弟のセトがバク少女化魔物ロリータ暴走パラ複合発露エクスコンプレックスによって夢の世界に囚われ、目を覚まさなくなってしまった三日後。
 新聞に聖女候補にも仮称眠り病の罹患者が出たという記事が掲載され、俺はラクラちゃんのことが心配になってトリリス様のところに状況を確認しに行った。
 結果は薄々予想できていた通り。ただし……。

「ここ二日で人間の被害が急激に増えてナ。聖女候補だけでも何人も被害に遭っているのだゾ。とは言え、ラクラがそうなったのは今朝の話だがナ」

 どうやら新聞に載っていたのは別の聖女候補だったらしい。
 とは言え、どちらにしても状況の重さに大きな変化はない。
 彼女一人のことで心を痛めていても、事態が解決するようなことはない。
 今は気持ちを切り替えよう。それはそれとして、だ。

「……被害が、ですか?」

 殊更、そう限定したことに何となく引っかかって尋ねる。

「一昨日の内に少女化魔物には眠らないように通達して被害が減ったので、その分だけ人間の方にシワ寄せが行ったのかもしれないのです……」

 対して、トリリス様の隣でディームさんがどこか申し訳なさそうに答えた。
 当たり前のことと言うべきか、誰かが複合発露エクスコンプレックスの影響を防いだからと言って被害者の総数が減る訳ではないらしい。
 ただ単純に、別の誰かへと矛先が向く訳だ。
 それに加えて――。

「爆発的に被害が拡大しているからナ。尚のことだゾ」

 新聞にも載っていたが、当初は日に数百人程度だった感染力もとい伝達力が大幅に増しているらしく日に数千人となっているとのことだった。
 記事掲載のタイムラグ的に、今は数万人となっていてもおかしくはない。
 そのような状況において、世界で最も少女化魔物の多いホウゲツで彼女達に予防法が伝われば、人間の被害が一気に増えてしまうのも当然だ。
 が、看護体制ひいては社会を維持するため、と考えるとそれは致し方ない部分だろう。必ず一つ複合発露を持つ少女化魔物の方が、合理的に考えれば有用だし。

 もっとも、第六位階の身体強化で予防している俺も同罪だろう。
 その方が被害を抑制できて問題解決も早まると判断してのことでもある訳だけれども、であるならば一層早く解決策を見出さなければならない。
 半ば他者を身代わりにしている形を取っている俺達にはその責任がある。
 だから……。

「トリリス様、一つお聞きしたいことがあるのですが」

 俺はそう話を切り出し、トリリス様に目線で続きを促されて再び口を開いた。

「ここ数日、両親とイリュファ達、それとレンリにも協力して貰って図書館で過去の資料を片っ端から調べていたんですけど……」
「獏の少女化魔物の補導事例は相当少なかったはずだゾ」
「ええ。骨が折れました」

 元々が御利益のある架空の生物だったからかは分からないが、補導が必要になるような事件は他の多くの少女化魔物に比べて極めて少なかった。
 暴走した獏の少女化魔物による被害に至っては、前回聞いた一件のみだ。
 なので、比較的目立たない小規模な事件。暴走していない獏の少女化魔物が起こしたものにまで範囲を広げて調査していた訳だが……。
 蔵書の中身検索ができる訳でもなし、過去数十万件とある補導資料を一つ一つ確認していかなければならず、かなりの手間取った。
 しかし、昨日ようやく発見でき、そこには興味深い内容が記載されていた。

「精神干渉で眠りに落ちた人を覚醒させた事例があったそうですね」
「それカ……まあ、あるにはあるのだゾ」

 俺の確認に、どこか歯切れ悪く答えるトリリス様。
 その反応は当然と言えば当然だ。と言うのも――。

「だが、精神干渉では間違いなく数を処理し切れないのだゾ」

 この事例の概要は、言い寄った男にのらりくらりと返事をごまかされた獏の少女化魔物が相手を夢の世界に閉じ込めてしまった、というもの。
 被害者の数は一人だけ。
 それを当時精神干渉の複合発露を有していた補導員が、夢の中で半ば洗脳されていた男を救い出した、という話なのだが……。

「確かに目覚めさせることはできたが、随分と時間がかかったはずだからナ」

 トリリス様の言う通り、同じ位階だったからか、被害者を夢の奥底から引き上げるのに数時間もかかってしまったと記載されていた。
 一日に数万人の被害者が増えているであろう現状では、焼け石に水だ。

「ですが、精神干渉は夢にも干渉することができる訳ですよね」
「それは……そうだがナ」
「俺の前世の話ですが、夢の世界に囚われて目を覚まさなくなるってのは割と古くからあるネタなんですけど……目覚めさせる一つの方法として、何らかの手段で夢の中に入って覚醒を阻害する要因を排除するってのがあるんです」

 ある意味、定番中の定番だ。
 そこで相手の本心を知ったりして一悶着あるのもまた定番だが……。
 それは余談だ。

「まさか、誰かが夢の中に入って獏の少女化魔物を探す、と言いたいのです……?」

 ディームさんの確認するような問いかけに頷くと、彼女は難しい顔をする。

「無理、ですか?」
「……可能性は、あるのだゾ。しかし、夢の世界はこの現実よりも遥かに曖昧で、それこそ思念の坩堝のようなもの。どんな危険があるのか分からないのだゾ」
「ミイラ取りがミイラになる可能性もありますし、下手をすると獏の少女化魔物とは関係なしに二度と目を覚まさなくなるかもしれないのです……」
「ですけど、このままだと一部の人間と少女化魔物以外、全員が眠りに落ちてしまいますよ。それでもいいんですか?」

 危険性を懸念するのは理解できるが、被害者の増え方からして獏の少女化魔物は何らかの要因で力を増していることが容易に想像できる。
 あるいは、夢に捕らえた人数が多ければ多い程、暴走・複合発露が強固なものになっていくのかもしれない。
 己に紐づけされた思念の数が増えていくことによって。
 冗談ではなく、このままでは遠くない未来、自ら予防することができる一部の者以外全員目を覚まさなくなっても不思議ではない。
 そんな考えと共にトリリス様を見据える。
 すると、彼女は小さく息を吐いてから口を開く。

「…………正直に言うゾ。国は様子見も一つの選択肢と考えているのだゾ」
「ホウゲツは少女化魔物さえ残っていれば、眠った者の生命維持をしながらでも最低限、国を運営していくことは十分可能なのです……」
「そ、そんな。だからって何故……」
「一種の実験、なのだゾ」
「実験っ!?」

 予想の外にあった言葉に驚愕し、思わず声が大きくなる。
 一瞬の思考の空白の後、怒りが湧き上がって再び口を開くが――。

「救世に関連したナ」

 その前にトリリス様が口にした内容に口を噤む。
 救世の転生者たる己にも関係した話ならば、自分にも責があるかもしれない。
 憤るのは、まず詳細を聞いてからだ。

「どういう、ことですか?」
人形化魔物ピグマリオンが破滅欲求の蓄積から生じることは知っているナ?」
「……ええ」
「獏の少女化魔物が見せる夢は心地よいもの。観測者たる人間のほとんどがそこに囚われれば、破滅欲求は減衰されて人形化魔物の発生しにくくなる可能性が高い」
「急激な人口増加に伴い、今回の救世の後、次回以降は人形化魔物発生までのスパンが大幅に短くなる可能性があるのです……」
「しかし、救世の転生者が生まれる周期はほぼ百年。こちらは大きく変動することはないと予想されるのだゾ」

 人々の共通認識として、百年という区切りが存在しているからか。
 最凶の人形化魔物【ガラテア】はそれに合わせて復活するかもしれないが、一般的な人形化魔物は少女化魔物と同様思念の蓄積で発生するもの。
【ガラテア】とは関わりなく、早々に発生してしまう可能性がある、と。

 人形化魔物は人類殲滅を目的とした正に人類の天敵。
 しかも、日に日に強化されており、次代は今度こそ最初から救世の転生者でなければ対応が不可能となるかもしれない。
 だが、救世の転生者の誕生は百年前後の月日を待たなければならない。
【ガラテア】が復活するより早く、人類が滅びてしまうかもしれない。
 為政者側として切実な問題だ。
 だからと言って今この瞬間の被害を放置するような真似をされるのは、現在を生きる者達からすると理不尽に他ならないが。

「理解はしますけど……」

 俺自身も愛すべき大切な家族である弟が被害を受けた以上、納得し切れない。
 両親を想えば、尚のこと早くセトを目覚めさせたい。
 かと言って救世の転生者として次代の話を無視する訳にもいかない。
 板挟みになり、拳を固く握って俯く。

「…………まあ、とは言え、今現在の救世を疎かにしていい訳でもないからナ」
「イサクの精神状態に悪影響を与えるような真似はすべきではないのです……」
「獏の少女化魔物を補導できれば、実験など後からでもできるだゾ」

 葛藤する俺の様子を見てか、諦めたように告げる二人。
 そんな彼女達に顔を上げる。

「ただし、人選はこちらで行うのだゾ」
「前例のない真似をイサクにさせる訳にはいかないのです……」

 トリリス様とディームさんは、譲歩したと強調するように語気を強める。
 もしかすると二人は俺自身がそれを実行するリスクを懸念して、そのような話を持ち出してきて否定的な雰囲気を出したのかもしれない。
 人選についての決定を呑ませるために。
 いずれにせよ、俺は第六位階の精神干渉など使えない以上、かのアーク複合発露エクスコンプレックスを保有する彼らの力を借りる必要がある。
 そして、それも彼女達を通して乞わなければならないことである以上、たとえ誰かに先陣を任せなければならないとしても頷かざるを得ない。

「……分かりました」

 それでも。
 こうして一先ずの解決策が実行される運びとなったのだった。

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