ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~

青空顎門

240 治癒の少女化魔物の代表

 ホウゲツ学園の学園長室を後にして数分後。
 俺は既に、森林都市モクハにある海水浴場の上空にいた。
 アーク複合発露エクスコンプレックス裂雲雷鳥イヴェイドソア不羈サンダーボルト〉使用中で雷光を発しているため、海辺で派手に遊んでいた弟達も俺が来たことに気づき、水かけ合戦を中断して手を振ってくる。
 対して俺は、トリリス様から受けた忠告に従い、彼らに心配をかけないように微笑みを浮かべながら手を上げて応じて、微妙に地形が変わった浜辺に降り立った。

「おかえりなさい、兄さん」
「ただいま、セト」
「仕事はもう終わったの?」
「ああ。もう済んだ。問題なくな」

 駆け寄りながら言うセトにそう返し、俺の目の前まで来た彼の頭を撫でる。
 少しラクラちゃんを意識してか恥ずかしそうではあるが、嫌がる素振りはない。
 そんな弟の反応に、心の内に溜まった苛立ちも幾分か和らぐ。
 家族との触れ合いは、何より効果のある心の清涼剤だ。

「ライムさん、どうですか? セト達の調子は」
「優秀だな。なるべく条件は合わせるようにしているとは言え、大分てこずるようになってきた。一回ごとに目に見えて成長がある」
「全く。若いというのはいいものだな」
「……ルシネも年齢的には同じぐらいのはずでは?」

 ライムさんの言葉を受け、しみじみと年寄りのようなことを口にしたルシネさんに、横にいたパレットさんが訝しげに問う。
 まあ、少女化魔物ロリータとしての年齢が同じぐらいでも、魔物として生きた時間もあるかもしれないし、最初から少女の形で生じるという違いもある。
 精神年齢について人間と同じように考えることはできないだろう。

「よし。じゃあ、次は俺も参加しようかな」
「やった! 負けないからね、あんちゃん!」

 俺の参戦に一番やる気を燃やすのはダン。
 向上心のある優秀な子供達がそれで萎えるようなことは決してない。
 勿論、セトもトバルもラクラちゃんも。
 こちらは既に頭の中で作戦を練っているかのように、真剣な表情で考え込んでいる。
 この子達が余計なしがらみに囚われることなく、自らの夢に向かって真っすぐに進んでいけるようにしなければならないと改めて思う。
 だからこそ、生温く手加減するような真似はせず――。

「俺も負けるつもりはないぞ」

 この学園都市トコハに来てから得た全ての真・複合発露を惜しげもなく使いながら、俺は大人げなく勝利をもぎ取っていった。
 ストレス発散の意図は全くない。子供達の成長第一だ。

 そうして今日もまた日が落ち、夕飯の時間となる。
 またもや沖で漁をしてきたラハさんのおかげで魚介系の食材が大量にある中、イリュファが選んだのは合宿の定番カレーライス。
 シーフードたっぷりの超豪華版だ。
 匂いも含め、色々あって腹が減っているところにこれは暴力的と言える。
 皆で「いただきます」を唱和した後すぐに、がっついてしまう。
 若干行儀が悪いが、遊びに遊んで腹を空かせた皆も同じようなもの。
 正に空腹は最高のスパイスだ。

「……ラクラちゃんは確か、聖女レスティアに憧れているんだったよな?」

 それからややしばらくして。
 カレーライスを口に運ぶペースが落ち着いてきたところを見計らって尋ねる。

「え? あ、はい。そのためにホウゲツ学園に来ましたけど……ええと……?」

 憧れは確かな事実として即座に肯定しながらも、こちらの質問の意図を掴みあぐねているようで、戸惑ったような声を出すラクラちゃん。

「いや、周期的にそろそろ次の聖女が現れてもおかしくはないって聞いたからさ」
「そうですね。前代の聖女リカ様が亡くなってから、もう五十年は経っていますから。あの少女化魔物が現れても不思議じゃないと思います」

 とりあえず聖女を目指している彼女にしても、同じ認識ではあるらしい。

「……あの少女化魔物、か」
「あんちゃん。そう言えば、聖女って何で男はなれないの?」

 俺の呟きに興味が引かれたのか、ダンが問う。
 授業ではまだやらずとも調べれば簡単に分かる話だが、少女化魔物の種類について調べるにしても戦闘系に偏りそうな彼は知らなかったらしい。
 ラクラちゃんも殊更話したりはしなかったようだ。
 ……まあ、内容が内容だしな。

「可能性としては、なれるかもしれないけどね。ボクは無理だと思うな……」

 なので、ラクラちゃんは言葉を濁しながら否定的な意見を言う。
 詳細を知っている者は、同意の雰囲気を出しているのが分かる。
 そんな周りの反応の理由が全く分からないようで、ダンは首を傾げる。
 彼はこういう場合に一番すんなりと説明してくれそうなイリュファへと視線を向け、果たしてと言うべきか彼女はそれを受けて口を開いた。

「聖女とは第六位階の治癒力を有するが故に贈られる称号ですが、当然ながら、その力は少女化魔物に依存します。要は真性少女契約ロリータコントラクトを結べるか否かです」

 そう一先ず前提を告げ、ダンが頷くのを確認してからイリュファは更に続ける。

「問題はその少女化魔物の特性にあります。治癒の少女化魔物は何体か存在しますが、他者を無条件に癒やせるもの、となるとほぼほぼ一体に限られます」
「どんな?」
「ユニコーンの少女化魔物です」
「ユニコーン?」
「頭に一本の角を持つ馬だな。その角に万病を癒やす力を宿すとか」

 イリュファの言葉を問い気味に繰り返しながらダンがこちらを見たので、彼女の代わりにユニコーンの簡単な説明をする。
 その問題点については除いて。

「しかし、ユニコーンには一つ厄介な特性があります。清らかな乙女でなければ傍に近寄ることすら許さないのです」
「え、何で?」

 正にその問題点の内容に驚き、純粋な疑問という感じに尋ねるダン。

「それは……人間がそういう風に定めたから、としか言いようがありません」

 その質問には、さすがのイリュファも少し困ったように曖昧に答える。
 伝説上の生物であることを考えると、あるいは何らかの深い教訓めいたものを内包した象徴的な意味も本当はあるのかもしれない。
 しかし、この世界に実在している魔物の特性としては、イリュファの言う通り人間がそう想像して思念が蓄積したから、という以上の理由はない。
 環境に適応するため、とかそういった生態的な意味合いもない。

「うーん……まあ、いいや。でも、それの何が厄介なの?」

 その辺り、釈然としないものを感じているようではありながらも、ダンは一先ず話を進めることにしたようで要点を問う。

「そうした特性のせいで往々にして少女化魔物となったユニコーンは、相手が女性でなければ真性少女契約はおろか少女契約すら結ぶことができないのです」

 それに対してイリュファから返ってきた答えに、ダンは理解が及ばなかったのかポカンとしたような顔でフリーズしてしまった。
 ザックリと言ってしまえば、ユニコーンが女体化した結果、男性不信なガチ百合女子になってしまった、ということだ。身も蓋もないが。
 しかし、男がそうしたある種の性癖を解きほぐして少女契約にまで至るのは、至難の業と言って過言ではない。

 ちなみに、同様の理由で女性としか少女契約しない魔物が他にもいたりする。
 神話や伝説に語られる逸話において、過度の女好きという属性が付加されている魔物などは、そうなり易いとのことだ。
 前世でも有名だったユニコーンは確実にそうなるそうだが。

「ま、そういう訳で歴代のユニコーンの少女化魔物のパートナーは全て女性で、その癒やしの力で多くの人を救ったから聖女と呼ばれるに至った訳だ」
「……そういう少女化魔物もいるんだね」
「そうだな。自分の常識で測れない人間がいるのと同じぐらい、自分の常識で測れない少女化魔物がいたっておかしくない。それこそ戦い方も千差万別だ。複合発露エクスコンプレックスをどういう風に使ってくるか、とかもな」

 そもそもにして観測者たる人間の思念に由来するものなのだから。

「補導員になりたければ、視野は広く持たないと駄目だぞ」
「うん。分かった!」

 ダンに合わせて話を纏めると、彼は元気よく返事をした。
 素直でいいことだ。

「けど、どうして急にそんな話を?」

 と、最初に話題を振られたラクラちゃんに横から尋ねられる。
 まあ、少し脈絡がなかったか。

「ああ、いや。人形化魔物ピグマリオンとかの出現頻度も多くなっているみたいだし、聖女がいてくれるだけで社会全体として安心感が違うだろうなって思ってね」

 ラクラちゃんの問いには、学園長室での話は隠して答える。
 とは言え、本音も多分に含まれているため、彼女は納得したように頷いた。

「ラクラちゃんが聖女になってくれると俺も助かるな」

 まあ、正直。
 過酷な運命に巻き込まれてしまいそうだから、弟達の友達である彼女にはなって欲しくない気持ちも少なからずあるけれども。
 夢を叶えて欲しいという気持ちと同じぐらいに。
 しかし――。

「そうなれるように、ボク、頑張ります!」

 救世にとって都合のいいことは、発生する確率が高くなる。
 そのことを忘れたまま軽く激励する気持ちで告げた俺の言葉に、ラクラちゃんはそう無邪気に応え、その日の夕飯の時間は過ぎていった。

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