ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~
209 ジズの少女化魔物(暴走)
「……落ち着け」
遠近感が完全に狂ってしまうような、常識外の巨体が迫り来る光景。
それを前に乱れた心を何とか鎮めようと己に言い聞かせ、頭の中で状況を整理する。
眼前には超音速で飛来する全長数キロの怪物。
だが、相手がどのような存在であれ、救世の転生者としてやるべきことは変わらない。
まずはマナプレーン目がけて一直線に突っ込んでくるジズの少女化魔物の矛先を俺へとずらし、人員及び乗組員の安全を確保しなければならない。
そのためにも――。
「フェリト!」
「分かってるわ!」
俺は影の中からの返事に先んじて飛行機もどきの上から離れ、ジズを迎え撃つために彼女へと真・複合発露〈裂雲雷鳥・不羈〉を以って翔けた。
それと同時に、フェリトとの真・複合発露〈共鳴調律・想歌〉を互いに使用し、循環共鳴状態を作る。
それによってサユキとの真・複合発露〈万有凍結・封緘〉を大幅に強化し――。
「我流・循環共鳴・巨氷流星!」
全力を込め、マナプレーンよりも遥かに巨大な五百メートル程の氷塊を作り出し、それを彼方から急速に接近してくるジズ目がけて対象と同等以上の速度で射出した。
まだ二次性徴を迎えていない子供の大きさの俺はともかく、俺が現段階で作り得る最大級の氷の塊ならば、さすがに彼女に認識されないということはあり得ない。
実際、その猛禽類の如く鋭い瞳は確かにそれを捉えていた。
しかしジズはその上で、まるで脅威にならないとでも告げるように、迫る氷塊を前に回避挙動を全く取らないまま突っ込んでくる。
そして、それだけで高層ビル程もある嘴からぶち当たり、容易く氷の流星を粉砕した。
粉々になった氷の破片が、その事実を誇張するかのように太陽の光を反射して煌く。
「こいつ――」
純粋に、圧倒的に大きいからこそ強い。
それを体現するかの如き光景に戦慄を覚える。
とは言え、怯んではいられない。
進路を変えずにいるジズへと、更に同型の氷塊を何発も撃ち込んでいく。
だが、結果は同じ。
容易く、呆気なく蹴散らされるのみだった。
俺の切り札たる循環共鳴。それは時間経過でバフ効果が増大していくもの。
その形態故に。
この僅かな時間で、何よりも体積を優先して生成した氷塊には、ジズを傷つけるに足る攻撃力を持たせることはできなかったようだ。
「ちっ」
思わず舌打ちするが、その僅かな間にもジズは刻一刻と迫ってくる。
猶予はそう残されていない。
規模の大きい攻撃で意識を逸らすことができないのなら、別の手段を取る以外にない。
「我流・循環共鳴・氷槍!」
だから俺は、貫通力に特化した数十メートルの槍をいくつか生成し、それを投擲した。
超音速で真っ直ぐに空間を翔けたそれらは、避ける素振りのないジズに命中し……。
直後、遠雷の轟くような音が空に鳴り響き、彼女の速度がほんの僅かながら鈍った。
一瞬遅れて、雷鳴の如きその音がジズの唸り声だと気づく。
鋭く鋭く作り上げた氷槍が、ジズを傷つけていたことは間違いない。
しかし、極々表面に突き刺さったのみで、三大特異思念集積体ならば複数の効果を持つ暴走・複合発露の力の一部たる再生能力によって即座に回復し、それに伴って氷の槍は押し出されて海に落ちてしまったようだった。
人間で言うなれば、飛んできた爪楊枝が薄皮一枚を破った程度か。
傷は傷だし、多少なり痛みもしただろうが、影響は微々たるものに過ぎない。
それでも。
ジズは、一先ずマナプレーンよりも俺の対処を優先すべきと感じたようだ。
矮小な人間の体などよりも遥かに巨大な双眸が、確かにこちらに向けられる。
それを受け、俺はマナプレーンから雷速を以って大きく距離を取った。
すると、どうやらジズは空の中にある存在、小さきこの身すら正確に位置を察知することができるらしく、彼女は進路を変更して俺を追ってきた。
「……一応、第一段階は成功だな。けど――」
予定通り、マナプレーンから矛先をずらせたことには安堵を抱く。
しかし、彼我の距離が縮まるにつれ、その気持ちは霧散してしまった。
遠距離からの視覚情報に基づいた半端な想像と、実際に近づいて受けた印象との間に余りにも大きな隔たりがある。
視界を埋め尽くすような巨躯から発せられる威圧感。半端なものではない。
その感覚を前にして、僅かな達成感のようなものなど抱いてはいられない。
「お、大きい……」
「これが……これが、ジズ」
思わず、という感じに影の中から漏れ出てくる呆然としたような声。
彼女達の気持ちは重々理解できる。
近づいてこそ叩きつけられる、この実感を伴った巨大さ。
もしも空を往くジズを地上から見上げたならば、それこそ空が天井で覆われてしまったかのような圧迫感に、か弱き人々は絶望の淵に突き落とされることになるだろう。
「小細工は、利きそうにないな」
たとえ異常な強さを誇る怪物であっても、相手が少女化魔物である限り、なるべくならば穏便に説得をしたい気持ちもなくはなかったが……。
ジズが近づくにつれ、祈念魔法による空力制御が働かなくなってきている。
〈裂雲雷鳥・不羈〉の力で無理矢理飛行を維持させているが、恐らく第六位階、暴走・複合発露の効果の一つによって周囲の大気は彼女の支配下にあると考えるのが妥当だろう。
となれば、比率的に米粒以下の俺が何かしら拡声の祈念魔法などを使用して叫んだところで彼女の耳には届かず、羽ばたき一つでかき消されてしまうに違いない。
全く以って遺憾ながら、力づく……肉体言語による説得をする以外になさそうだ。
「行くぞ、ジズ!」
だから俺は相手に聞こえずとも己を奮い立たせるために叫び、影の中から取り出した第六位階の祈望之器印刀ホウゲツの刀身に氷を纏わせて数十メートルの刃を作り出した。
そして、一足飛びでその巨体に取りつくことができるだけの距離にまで相手が近づいてきたところで、一気にジズに接近して氷の刀を淀みなく振るう。
大きさはそこそこに切れ味を優先するように設定したが故に、鋭利な刃はジズの羽毛を難なく断ち、確実に皮膚を裂いていった。
それにより、またも雷鳴のような呻き声が空に響く。
痛みは感じているのだろう。
……しかし、やはり傷つくのは表面も表面のみ。
より深い部分を傷つけるには至らない。
ダメージとしては紙で指先を切ったぐらいのものか。
ここまでスケールが異なると、世界有数であるはずの攻撃力も形なしだ。
それでも何度も何度も細かく斬りつけられれば、厭わしく感じるのは当然のこと。
故に、次の瞬間――。
「まずっ!」
突如としてジズは忌々しげに一つ甲高い叫びを上げると、十キロ以上ありそうな翼開長を利用して、周囲の全てを巻き込まんとするように胴体を軸に超高速で回転した。
咄嗟に雷の如き速度で離脱を試み、回転刃のように襲いかかってくる翼をギリギリのところで回避する。……が、空の王者に逆らう者を襲う攻撃は、それのみではなかった。
周囲に散布しているセンサー代わりの氷の粒が、微細ながら致死の威力を持った風の刃がランダムに撒き散らされていることを告げてくる。
まるで弾幕シューティングの後半面のような密度だ。
「くっ」
身体強化によって極限まで研ぎ澄まされた反射神経を活用して瞬時に回避ルートを算出し、それでも尚、飛び散る風の刃に何度も掠りつつ雷の軌道を描いて何とか距離を取る。
「ふううぅぅ……」
冷や汗をかきながら、祈念魔法で一先ず傷を塞いで止血しながら体勢を立て直す。
ジズの方は勢い余って更に数十回転し、それから通常飛行に戻ったようだった。
「こ、この子、いくら何でも強過ぎじゃないですか? です」
その様を前にして、影の中から聞こえてきた怯え気味のリクルの声に内心で同意する。
確かに相手は音に聞こえた三大特異思念集積体だが……。
こちらはこちらで伝説に謳われているはずの救世の転生者だ。
更には、まだまだ溜めが不十分とは言え循環共鳴という一種のバグ技まで使っているのに、こうも軽くあしらわれるのは納得がいかない。
何か絡繰りがあるような気がしてならない。
「……もしかすると、人形化魔物が強化された理由と同じかもしれません」
俺の疑問に答えるようなイリュファの呟きにハッとする。
一時的に人形化魔物が一般的な少女征服者の手に余るようになった理由は、ここ百年の急激な人口の増加。それに伴って思念の蓄積が増えたことによる。
三大特異思念集積体ともなれば、その影響はそこらの人形化魔物の比ではないはず。
しかし――。
「だったら、救世の転生者の力も強化してくれりゃいいのに」
「救世の転生者の力は契約した少女化魔物の力の大きさに依存しますからね。恐らくは補正のかかる部分が人形化魔物特効に集中しているのでしょう」
俺の愚痴に応じたイリュファの分析は、恐らく正しいのだろう。
勿論、基礎的な能力も上がっていない訳ではないのだろうが、純粋に複合発露を強化されたジズの方がその度合いは遥かに大きいに違いない。
対人形化魔物特化は確かに最凶の人形化魔物【ガラテア】を倒すという使命を果たす上では有用だが、今この瞬間は基礎能力を重点的に上げて欲しかったと言わざるを得ない。
が、ないものねだりをしても仕方がない。
そんなことよりも、如何にしてジズを補導するかを考えなければ。
「あっ! ジズが!」
次の一手を脳内で模索する中、リクルが焦ったように叫ぶ。
圧倒的強者から目を離す余裕などないため、当然その理由は俺も視界に捉えていた。
ジズは、興味が失せたかの如くマナプレーンの後を追うように方向転換し始めていた。
恐らくは生まれて初めて感じたであろう痛みに俺を脅威に思ったが、生命を脅かすようなものはないと見切り、空に存在する明確な異物の排除に戻ってしまったのだろう。
「この、待て!」
即座に追いかけ、射程に入ったところで氷の槍を撃つ。
それは確かにジズに突き刺さりはした。
だが、もはや彼女は完全に無視して速度を緩めることなくマナプレーンを目指す。
速度差からして、数分も経たずに追いついてしまうことだろう。
「そうはさせるかっ!!」
振り出しに戻ったような状況。
それでも、この予想よりも遥かに強大な存在を何とか食い止めるため。
俺は、まずジズの少女化魔物の前に立ち塞がろうと速度を上げて彼女を追いかけた。
遠近感が完全に狂ってしまうような、常識外の巨体が迫り来る光景。
それを前に乱れた心を何とか鎮めようと己に言い聞かせ、頭の中で状況を整理する。
眼前には超音速で飛来する全長数キロの怪物。
だが、相手がどのような存在であれ、救世の転生者としてやるべきことは変わらない。
まずはマナプレーン目がけて一直線に突っ込んでくるジズの少女化魔物の矛先を俺へとずらし、人員及び乗組員の安全を確保しなければならない。
そのためにも――。
「フェリト!」
「分かってるわ!」
俺は影の中からの返事に先んじて飛行機もどきの上から離れ、ジズを迎え撃つために彼女へと真・複合発露〈裂雲雷鳥・不羈〉を以って翔けた。
それと同時に、フェリトとの真・複合発露〈共鳴調律・想歌〉を互いに使用し、循環共鳴状態を作る。
それによってサユキとの真・複合発露〈万有凍結・封緘〉を大幅に強化し――。
「我流・循環共鳴・巨氷流星!」
全力を込め、マナプレーンよりも遥かに巨大な五百メートル程の氷塊を作り出し、それを彼方から急速に接近してくるジズ目がけて対象と同等以上の速度で射出した。
まだ二次性徴を迎えていない子供の大きさの俺はともかく、俺が現段階で作り得る最大級の氷の塊ならば、さすがに彼女に認識されないということはあり得ない。
実際、その猛禽類の如く鋭い瞳は確かにそれを捉えていた。
しかしジズはその上で、まるで脅威にならないとでも告げるように、迫る氷塊を前に回避挙動を全く取らないまま突っ込んでくる。
そして、それだけで高層ビル程もある嘴からぶち当たり、容易く氷の流星を粉砕した。
粉々になった氷の破片が、その事実を誇張するかのように太陽の光を反射して煌く。
「こいつ――」
純粋に、圧倒的に大きいからこそ強い。
それを体現するかの如き光景に戦慄を覚える。
とは言え、怯んではいられない。
進路を変えずにいるジズへと、更に同型の氷塊を何発も撃ち込んでいく。
だが、結果は同じ。
容易く、呆気なく蹴散らされるのみだった。
俺の切り札たる循環共鳴。それは時間経過でバフ効果が増大していくもの。
その形態故に。
この僅かな時間で、何よりも体積を優先して生成した氷塊には、ジズを傷つけるに足る攻撃力を持たせることはできなかったようだ。
「ちっ」
思わず舌打ちするが、その僅かな間にもジズは刻一刻と迫ってくる。
猶予はそう残されていない。
規模の大きい攻撃で意識を逸らすことができないのなら、別の手段を取る以外にない。
「我流・循環共鳴・氷槍!」
だから俺は、貫通力に特化した数十メートルの槍をいくつか生成し、それを投擲した。
超音速で真っ直ぐに空間を翔けたそれらは、避ける素振りのないジズに命中し……。
直後、遠雷の轟くような音が空に鳴り響き、彼女の速度がほんの僅かながら鈍った。
一瞬遅れて、雷鳴の如きその音がジズの唸り声だと気づく。
鋭く鋭く作り上げた氷槍が、ジズを傷つけていたことは間違いない。
しかし、極々表面に突き刺さったのみで、三大特異思念集積体ならば複数の効果を持つ暴走・複合発露の力の一部たる再生能力によって即座に回復し、それに伴って氷の槍は押し出されて海に落ちてしまったようだった。
人間で言うなれば、飛んできた爪楊枝が薄皮一枚を破った程度か。
傷は傷だし、多少なり痛みもしただろうが、影響は微々たるものに過ぎない。
それでも。
ジズは、一先ずマナプレーンよりも俺の対処を優先すべきと感じたようだ。
矮小な人間の体などよりも遥かに巨大な双眸が、確かにこちらに向けられる。
それを受け、俺はマナプレーンから雷速を以って大きく距離を取った。
すると、どうやらジズは空の中にある存在、小さきこの身すら正確に位置を察知することができるらしく、彼女は進路を変更して俺を追ってきた。
「……一応、第一段階は成功だな。けど――」
予定通り、マナプレーンから矛先をずらせたことには安堵を抱く。
しかし、彼我の距離が縮まるにつれ、その気持ちは霧散してしまった。
遠距離からの視覚情報に基づいた半端な想像と、実際に近づいて受けた印象との間に余りにも大きな隔たりがある。
視界を埋め尽くすような巨躯から発せられる威圧感。半端なものではない。
その感覚を前にして、僅かな達成感のようなものなど抱いてはいられない。
「お、大きい……」
「これが……これが、ジズ」
思わず、という感じに影の中から漏れ出てくる呆然としたような声。
彼女達の気持ちは重々理解できる。
近づいてこそ叩きつけられる、この実感を伴った巨大さ。
もしも空を往くジズを地上から見上げたならば、それこそ空が天井で覆われてしまったかのような圧迫感に、か弱き人々は絶望の淵に突き落とされることになるだろう。
「小細工は、利きそうにないな」
たとえ異常な強さを誇る怪物であっても、相手が少女化魔物である限り、なるべくならば穏便に説得をしたい気持ちもなくはなかったが……。
ジズが近づくにつれ、祈念魔法による空力制御が働かなくなってきている。
〈裂雲雷鳥・不羈〉の力で無理矢理飛行を維持させているが、恐らく第六位階、暴走・複合発露の効果の一つによって周囲の大気は彼女の支配下にあると考えるのが妥当だろう。
となれば、比率的に米粒以下の俺が何かしら拡声の祈念魔法などを使用して叫んだところで彼女の耳には届かず、羽ばたき一つでかき消されてしまうに違いない。
全く以って遺憾ながら、力づく……肉体言語による説得をする以外になさそうだ。
「行くぞ、ジズ!」
だから俺は相手に聞こえずとも己を奮い立たせるために叫び、影の中から取り出した第六位階の祈望之器印刀ホウゲツの刀身に氷を纏わせて数十メートルの刃を作り出した。
そして、一足飛びでその巨体に取りつくことができるだけの距離にまで相手が近づいてきたところで、一気にジズに接近して氷の刀を淀みなく振るう。
大きさはそこそこに切れ味を優先するように設定したが故に、鋭利な刃はジズの羽毛を難なく断ち、確実に皮膚を裂いていった。
それにより、またも雷鳴のような呻き声が空に響く。
痛みは感じているのだろう。
……しかし、やはり傷つくのは表面も表面のみ。
より深い部分を傷つけるには至らない。
ダメージとしては紙で指先を切ったぐらいのものか。
ここまでスケールが異なると、世界有数であるはずの攻撃力も形なしだ。
それでも何度も何度も細かく斬りつけられれば、厭わしく感じるのは当然のこと。
故に、次の瞬間――。
「まずっ!」
突如としてジズは忌々しげに一つ甲高い叫びを上げると、十キロ以上ありそうな翼開長を利用して、周囲の全てを巻き込まんとするように胴体を軸に超高速で回転した。
咄嗟に雷の如き速度で離脱を試み、回転刃のように襲いかかってくる翼をギリギリのところで回避する。……が、空の王者に逆らう者を襲う攻撃は、それのみではなかった。
周囲に散布しているセンサー代わりの氷の粒が、微細ながら致死の威力を持った風の刃がランダムに撒き散らされていることを告げてくる。
まるで弾幕シューティングの後半面のような密度だ。
「くっ」
身体強化によって極限まで研ぎ澄まされた反射神経を活用して瞬時に回避ルートを算出し、それでも尚、飛び散る風の刃に何度も掠りつつ雷の軌道を描いて何とか距離を取る。
「ふううぅぅ……」
冷や汗をかきながら、祈念魔法で一先ず傷を塞いで止血しながら体勢を立て直す。
ジズの方は勢い余って更に数十回転し、それから通常飛行に戻ったようだった。
「こ、この子、いくら何でも強過ぎじゃないですか? です」
その様を前にして、影の中から聞こえてきた怯え気味のリクルの声に内心で同意する。
確かに相手は音に聞こえた三大特異思念集積体だが……。
こちらはこちらで伝説に謳われているはずの救世の転生者だ。
更には、まだまだ溜めが不十分とは言え循環共鳴という一種のバグ技まで使っているのに、こうも軽くあしらわれるのは納得がいかない。
何か絡繰りがあるような気がしてならない。
「……もしかすると、人形化魔物が強化された理由と同じかもしれません」
俺の疑問に答えるようなイリュファの呟きにハッとする。
一時的に人形化魔物が一般的な少女征服者の手に余るようになった理由は、ここ百年の急激な人口の増加。それに伴って思念の蓄積が増えたことによる。
三大特異思念集積体ともなれば、その影響はそこらの人形化魔物の比ではないはず。
しかし――。
「だったら、救世の転生者の力も強化してくれりゃいいのに」
「救世の転生者の力は契約した少女化魔物の力の大きさに依存しますからね。恐らくは補正のかかる部分が人形化魔物特効に集中しているのでしょう」
俺の愚痴に応じたイリュファの分析は、恐らく正しいのだろう。
勿論、基礎的な能力も上がっていない訳ではないのだろうが、純粋に複合発露を強化されたジズの方がその度合いは遥かに大きいに違いない。
対人形化魔物特化は確かに最凶の人形化魔物【ガラテア】を倒すという使命を果たす上では有用だが、今この瞬間は基礎能力を重点的に上げて欲しかったと言わざるを得ない。
が、ないものねだりをしても仕方がない。
そんなことよりも、如何にしてジズを補導するかを考えなければ。
「あっ! ジズが!」
次の一手を脳内で模索する中、リクルが焦ったように叫ぶ。
圧倒的強者から目を離す余裕などないため、当然その理由は俺も視界に捉えていた。
ジズは、興味が失せたかの如くマナプレーンの後を追うように方向転換し始めていた。
恐らくは生まれて初めて感じたであろう痛みに俺を脅威に思ったが、生命を脅かすようなものはないと見切り、空に存在する明確な異物の排除に戻ってしまったのだろう。
「この、待て!」
即座に追いかけ、射程に入ったところで氷の槍を撃つ。
それは確かにジズに突き刺さりはした。
だが、もはや彼女は完全に無視して速度を緩めることなくマナプレーンを目指す。
速度差からして、数分も経たずに追いついてしまうことだろう。
「そうはさせるかっ!!」
振り出しに戻ったような状況。
それでも、この予想よりも遥かに強大な存在を何とか食い止めるため。
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