ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~
AR21 技術革新(技術開示)に向けて
「私達が何よりも優先すべきは、言うまでもなく救世の成就だ。けれど、救世の転生者がそこに至るまでの道行が、苦難にのみ彩られたものであっていいとは決して思わない。だからこそ私達は、可能な限り君がこの世界での日々を楽しめるように今日までサポートしてきたつもりだ。あの急な技術革新もまた、その一環と考えて貰っていい。けれど――」
***
「ワタシ達全員が顔を合わせるのは久し振りだナ」
ホウゲツ学園の地下深く。
トリリスの複合発露〈迷宮悪戯〉によって作られた、彼女が正にその力を用いて招くか正確な位置を知る者の転移の複合発露でしか入ることができない出入口のない部屋にて。
彼女は、自らの呼びかけに応じて集まった面々を見回しながら言った。
「用件は……救世の転生者でなければ……対処できない……人形化魔物の件……か?」
それに対して、何かしら挨拶を返すこともなく単刀直入に。
最初期からの仲間の中ではイサクとまだ顔を合わせたことがない少女化魔物が、久方振りに言葉を発したが如く途切れ途切れに問うた。
灰色の長く癖のない髪を持つ彼女は、簡素な麻の貫頭衣といくつもの勾玉を紐に通した首飾りのみを身に着けており、まるで古代の住人のようだ。
同じく灰色の瞳は瞑目しているが故に、瞼の下に隠れてしまっている。
本来なら、大きな目も含めて顔立ちはかなり整っているはずだが、常に眉間にしわを寄せているせいで美しさよりも厳しい印象が先立つ。
勿論、五百年来のつき合いである私達が、その印象に惑わされることはないが……そう言えば、ここ四百年余り彼女の笑顔を見た記憶がない。
「チサは相変わらずだナ。しかし、まあ、その通りだゾ」
ヤハタノカミの少女化魔物たる彼女、チサの性格を熟知しているトリリスは、手短に用件を済ませようとしている彼女に、特に気分を害した様子もなく肯定した。
とは言え、チサはなるべく外界の情報を入れないようにしており、どこまで状況を把握しているかは分からない。なので、私は補足を入れるためにトリリスに続く。
「さすがにイサク一人に負担が集中する状況は目に余るからね。外出するのに一々行き先を説明して、更に連絡係を残しておく必要があるとか不自由にも程がある。あれじゃ、私的に遠出したい、となっても無理だ。こんな段階から彼を縛りつけるのは本意じゃない」
これについて否定する者は、この場には存在しない。
「…………そうだな」
当然、彼女もまた例外ではない。
「だが……それで……どうするのだ?」
そのチサは、ほんの僅かに動いた瞼に複雑な感情の変化を一瞬だけ滲ませつつも、意識的に抑揚を抑えるように声を低くしながら尋ねてくる。
彼女がそう振る舞う理由は、私達の誰もが承知しているので今更指摘はしない。
ただ、その端的な問いに応じ、トリリスの隣にいるディームが口を開く。
「問題は、特定の人形化魔物を救世の転生者以外では倒せないことなのです。なら、救世の転生者以外の者でもそれらを倒すことができるようにすればいいのです……」
「言うは易い……己が聞きたいのは……具体的な方法だ」
「裁可を仰ぐのに、順を追った説明は不可欠なのです。チサ、少し落ち着くのです……」
注意の形ながらも酷く申し訳なさそうなディームの言葉に、大人しく口を閉ざすチサ。
だが、早く話を終わらせてここから去りたいという気持ちが端々から滲み出ている。
本音としては、私達と余り一緒にいたくないのだろう。
気持ちは分かるなどとは口が裂けても言えないが、理解はしている。
とは言え、これは私達にとっても非常に重要な話し合いなのだ。
巡り巡って世の安寧にも繋がる事柄であるが故に、我慢して貰わなければならない。
私もまた本心から申し訳なく思うが、形式的に進行することにも意味はあるのだから。
「人形化魔物はその性質上、滅尽・複合発露の発動に伴って形態が大きく変化し易く、だからこそ、その能力の中に身体強化的なバフ効果を持つ場合が多いのです……」
そしてディームは改めて周知の事実を口にし、そのまま更に続ける。
「その防御力を上回る攻撃力を有していないことが、救世の転生者以外の者がそれらを倒すことができない根本的な原因なのです……」
「そこで私達は、優秀な少女征服者達にアレを貸与することを求めたいのだゾ」
「アレ、か。成程。だからワシまで呼び出した訳じゃな」
ディームの説明をトリリスが引き継いで示された結論を受けて、ようやく納得したと言うようにアマラが大仰に一つ頷く。
もっとも、世界最高の複製師たる彼女ならば、その役割を持つ自分がこのようなタイミングで呼び出しを受けた時点で薄々感づいていただろうけれども。
「まあ、是非もあるまい。肝となる部分さえ隠しておけば、混乱は避けられよう。……最後の一矢についても、このことが悪影響を及ぼすことはあるまい」
チラリと痛ましげな視線をチサへとやりながら、そうアマラはつけ加えて締め括る。
「……そうだね。名目としては、新たに開発された技術の運用試験といったところかな」
本当のところは秘匿してきた技術の部分的な開示。それ以上でもそれ以下でもない。
だから、その名目は欺瞞にも程があるが……これもまた方便というものだ。
「と言う訳で、ヒメ。裁可を頼むゾ」
そして、一先ず私達が形式的に納得することができるだけの説明は並べ終わったと合図するように、トリリスが上座にいるヒメへと視線を向けながら許可を求める。
対して、象徴と謳われながらも多大な影響力を有している彼女は、公務モードとだらけモードのどちらとも異なる、私達の前でのみ見せるシリアスモードで口を開いた。
「奉献の巫女ヒメの名において、かの祈望之器の複製改良品を適切な少女征服者達に貸与することを認めます。アマラ、負担を強いますが――」
「気にするな。量産の手間なぞ、救世の転生者に比べれば負担の内には入らぬ」
「ええ。そう、その通りです。……では、よろしく頼みます」
同じ使命を背負い、同じ苦しみを抱いている私達の中から反対意見など出ようはずもなく、僅かな時間でスムーズに決定が下される。
救世の転生者に関する全てはヒメの判断が優先されるので、議会の承認も必要ない。
必要なのは私達の間での意思統一のみだ。
それにしたって法で定められている訳ではない。
私達自身が私達に課したルールだ。……各々の精神を保つための、浅ましい定めだ。
ともあれ、これでイサクの負担は大幅に軽減されることだろう。
それによって得られる時間がたとえ微々たるものであろうとも、救世の転生者としての使命以外にも目を向けて日々の中に喜びを見出して欲しいものだ。
そう私が心の底から願っていると――。
「これで……用件は済んだ……な」
無関心を装い続けるチサが言いながら私達に背を向け、後方に控えていた転移の複合発露を持つ専属の少女化魔物の方へと歩き出した。
「己は……帰らせて貰う」
「…………チサ。一度ぐらいは、イサクと会っておいた方がいいんじゃないかい?」
その背中に私は、残酷なことと知りながら尋ねる。
チサの答えは分かっている。けれど、問わずにいることもまた別の部分で罪深い。
もっとも、問うたところで罪が軽くなる訳でもないけれども。
「………………いや……会ってしまえば……情が……湧く」
「……うん」
一度立ち止まったチサから返ってきた答えに小さく頷き、今度こそ呼び止めず、転移の複合発露によって彼女の姿が消え去るまで見送る。
優しく心根の美しい少女だったチサ。
思念が形となった少女化魔物だけに、精神のありようは大きくは変わらない。
そんな彼女であるだけに、ああして己の心を守るための強固な殻を作らなければ、これ程の長い時を耐え続けることなどできはしなかったに違いない。
最後の一矢を放つ。その重荷を分かち合うことなど、私達でさえできないのだから。
「…………では、解散としましょう」
チサの手前、最後まで真面目な顔を崩さなかったヒメもテレサの力で去っていく。
「アコ、ワタシ達も帰るゾ」
「……分かった」
そうして私もまたトリリスに促され……。
チサの背丈に反して弱々しく小さく見える背中を思い出しながら、ディームやアマラと共に地上へと戻ったのだった。
***
「君も、君のことを大切に思う者達も、きっと偽善と謗るだろう。事実、その指摘は正しい。むしろ私達は自覚があるだけ、更にたちが悪いに違いない。でも、そうやって君達のために何かをしたつもりにならなければ、使命の重さに耐え切れずに命を落としてしまった過去の少女化魔物達のように、きっと私達は自らを保てなくなっていた。勿論、だから許してくれなんて言うつもりも、言う資格もないけれどね」
***
「ワタシ達全員が顔を合わせるのは久し振りだナ」
ホウゲツ学園の地下深く。
トリリスの複合発露〈迷宮悪戯〉によって作られた、彼女が正にその力を用いて招くか正確な位置を知る者の転移の複合発露でしか入ることができない出入口のない部屋にて。
彼女は、自らの呼びかけに応じて集まった面々を見回しながら言った。
「用件は……救世の転生者でなければ……対処できない……人形化魔物の件……か?」
それに対して、何かしら挨拶を返すこともなく単刀直入に。
最初期からの仲間の中ではイサクとまだ顔を合わせたことがない少女化魔物が、久方振りに言葉を発したが如く途切れ途切れに問うた。
灰色の長く癖のない髪を持つ彼女は、簡素な麻の貫頭衣といくつもの勾玉を紐に通した首飾りのみを身に着けており、まるで古代の住人のようだ。
同じく灰色の瞳は瞑目しているが故に、瞼の下に隠れてしまっている。
本来なら、大きな目も含めて顔立ちはかなり整っているはずだが、常に眉間にしわを寄せているせいで美しさよりも厳しい印象が先立つ。
勿論、五百年来のつき合いである私達が、その印象に惑わされることはないが……そう言えば、ここ四百年余り彼女の笑顔を見た記憶がない。
「チサは相変わらずだナ。しかし、まあ、その通りだゾ」
ヤハタノカミの少女化魔物たる彼女、チサの性格を熟知しているトリリスは、手短に用件を済ませようとしている彼女に、特に気分を害した様子もなく肯定した。
とは言え、チサはなるべく外界の情報を入れないようにしており、どこまで状況を把握しているかは分からない。なので、私は補足を入れるためにトリリスに続く。
「さすがにイサク一人に負担が集中する状況は目に余るからね。外出するのに一々行き先を説明して、更に連絡係を残しておく必要があるとか不自由にも程がある。あれじゃ、私的に遠出したい、となっても無理だ。こんな段階から彼を縛りつけるのは本意じゃない」
これについて否定する者は、この場には存在しない。
「…………そうだな」
当然、彼女もまた例外ではない。
「だが……それで……どうするのだ?」
そのチサは、ほんの僅かに動いた瞼に複雑な感情の変化を一瞬だけ滲ませつつも、意識的に抑揚を抑えるように声を低くしながら尋ねてくる。
彼女がそう振る舞う理由は、私達の誰もが承知しているので今更指摘はしない。
ただ、その端的な問いに応じ、トリリスの隣にいるディームが口を開く。
「問題は、特定の人形化魔物を救世の転生者以外では倒せないことなのです。なら、救世の転生者以外の者でもそれらを倒すことができるようにすればいいのです……」
「言うは易い……己が聞きたいのは……具体的な方法だ」
「裁可を仰ぐのに、順を追った説明は不可欠なのです。チサ、少し落ち着くのです……」
注意の形ながらも酷く申し訳なさそうなディームの言葉に、大人しく口を閉ざすチサ。
だが、早く話を終わらせてここから去りたいという気持ちが端々から滲み出ている。
本音としては、私達と余り一緒にいたくないのだろう。
気持ちは分かるなどとは口が裂けても言えないが、理解はしている。
とは言え、これは私達にとっても非常に重要な話し合いなのだ。
巡り巡って世の安寧にも繋がる事柄であるが故に、我慢して貰わなければならない。
私もまた本心から申し訳なく思うが、形式的に進行することにも意味はあるのだから。
「人形化魔物はその性質上、滅尽・複合発露の発動に伴って形態が大きく変化し易く、だからこそ、その能力の中に身体強化的なバフ効果を持つ場合が多いのです……」
そしてディームは改めて周知の事実を口にし、そのまま更に続ける。
「その防御力を上回る攻撃力を有していないことが、救世の転生者以外の者がそれらを倒すことができない根本的な原因なのです……」
「そこで私達は、優秀な少女征服者達にアレを貸与することを求めたいのだゾ」
「アレ、か。成程。だからワシまで呼び出した訳じゃな」
ディームの説明をトリリスが引き継いで示された結論を受けて、ようやく納得したと言うようにアマラが大仰に一つ頷く。
もっとも、世界最高の複製師たる彼女ならば、その役割を持つ自分がこのようなタイミングで呼び出しを受けた時点で薄々感づいていただろうけれども。
「まあ、是非もあるまい。肝となる部分さえ隠しておけば、混乱は避けられよう。……最後の一矢についても、このことが悪影響を及ぼすことはあるまい」
チラリと痛ましげな視線をチサへとやりながら、そうアマラはつけ加えて締め括る。
「……そうだね。名目としては、新たに開発された技術の運用試験といったところかな」
本当のところは秘匿してきた技術の部分的な開示。それ以上でもそれ以下でもない。
だから、その名目は欺瞞にも程があるが……これもまた方便というものだ。
「と言う訳で、ヒメ。裁可を頼むゾ」
そして、一先ず私達が形式的に納得することができるだけの説明は並べ終わったと合図するように、トリリスが上座にいるヒメへと視線を向けながら許可を求める。
対して、象徴と謳われながらも多大な影響力を有している彼女は、公務モードとだらけモードのどちらとも異なる、私達の前でのみ見せるシリアスモードで口を開いた。
「奉献の巫女ヒメの名において、かの祈望之器の複製改良品を適切な少女征服者達に貸与することを認めます。アマラ、負担を強いますが――」
「気にするな。量産の手間なぞ、救世の転生者に比べれば負担の内には入らぬ」
「ええ。そう、その通りです。……では、よろしく頼みます」
同じ使命を背負い、同じ苦しみを抱いている私達の中から反対意見など出ようはずもなく、僅かな時間でスムーズに決定が下される。
救世の転生者に関する全てはヒメの判断が優先されるので、議会の承認も必要ない。
必要なのは私達の間での意思統一のみだ。
それにしたって法で定められている訳ではない。
私達自身が私達に課したルールだ。……各々の精神を保つための、浅ましい定めだ。
ともあれ、これでイサクの負担は大幅に軽減されることだろう。
それによって得られる時間がたとえ微々たるものであろうとも、救世の転生者としての使命以外にも目を向けて日々の中に喜びを見出して欲しいものだ。
そう私が心の底から願っていると――。
「これで……用件は済んだ……な」
無関心を装い続けるチサが言いながら私達に背を向け、後方に控えていた転移の複合発露を持つ専属の少女化魔物の方へと歩き出した。
「己は……帰らせて貰う」
「…………チサ。一度ぐらいは、イサクと会っておいた方がいいんじゃないかい?」
その背中に私は、残酷なことと知りながら尋ねる。
チサの答えは分かっている。けれど、問わずにいることもまた別の部分で罪深い。
もっとも、問うたところで罪が軽くなる訳でもないけれども。
「………………いや……会ってしまえば……情が……湧く」
「……うん」
一度立ち止まったチサから返ってきた答えに小さく頷き、今度こそ呼び止めず、転移の複合発露によって彼女の姿が消え去るまで見送る。
優しく心根の美しい少女だったチサ。
思念が形となった少女化魔物だけに、精神のありようは大きくは変わらない。
そんな彼女であるだけに、ああして己の心を守るための強固な殻を作らなければ、これ程の長い時を耐え続けることなどできはしなかったに違いない。
最後の一矢を放つ。その重荷を分かち合うことなど、私達でさえできないのだから。
「…………では、解散としましょう」
チサの手前、最後まで真面目な顔を崩さなかったヒメもテレサの力で去っていく。
「アコ、ワタシ達も帰るゾ」
「……分かった」
そうして私もまたトリリスに促され……。
チサの背丈に反して弱々しく小さく見える背中を思い出しながら、ディームやアマラと共に地上へと戻ったのだった。
***
「君も、君のことを大切に思う者達も、きっと偽善と謗るだろう。事実、その指摘は正しい。むしろ私達は自覚があるだけ、更にたちが悪いに違いない。でも、そうやって君達のために何かをしたつもりにならなければ、使命の重さに耐え切れずに命を落としてしまった過去の少女化魔物達のように、きっと私達は自らを保てなくなっていた。勿論、だから許してくれなんて言うつもりも、言う資格もないけれどね」
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